2018(02)

■飛び出せ! マジラジ7

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 合宿直前、最後の班打ち合わせの日がやって来た。ドタバタと駆けこんで来たヒロは、シゲトラ先輩の顔を見るなり「シゲトラ先輩やよ!」と興奮した様子。何があったんだろう。いつもはのらりくらりしているヒロが、明らかに高揚している。

「シゲトラ先輩星ヶ丘で一番ミキサー上手いゆーて聞ーたんですけど!」
「おっ、誰が言ってた? 世界のシゲトラとは俺のことよ!」
「つばちゃんがゆーてました、星ヶ丘で機材のことならシゲトラ先輩に聞くんが一番確実やーゆーて」
「戸田に認められてんのか。いや? 悪い気はしないね。で、どうした?」
「対策委員で機材とかの荷物まとめとって思いついたんですけど、番組の構成変えようと思うんですよ」
「ヒロマジパねえ!」

 合宿直前にヒロは突然何を言い出すのかと、ボクを含めた班員はみんな驚きを隠せない。特にこの7班はラジオをあまりやらない子が多い班だからこそしっかり計画を練って本番を迎えようという方針だったのに。
 だけど、シゲトラ先輩だけはヒロの突然の発言にも驚く様子は見せず、何をどうしたいんだと次を促している。シゲトラ先輩の落ち着きっぷりが凄い。でも確かにそうだ、話を聞かないと始まらない。

「で、何をどう変えたい?」
「インターフェイスの機材の中にワイヤレスマイクがあってんですよ」
「へー、そんなんまであんのな」
「せっかくボクらこーゆー班なんで、ワイヤレス使って中継飛ばしたら面白いやろなーと思ったんですよ。シゲトラ先輩ワイヤレスの機材って使えます?」
「インターフェイスの機材は触ったことないけど、見りゃわかると思う」
「シゲトラ先輩マジパないよ!」

 これは面白いのかもしれないとみんな少しずつ乗り気になっている。特にこの話を持ってきた班長のヒロとハマちゃん、そしてシゲトラ先輩。7班の番組も基本この3人のノリと勢いで形作られている。
 だけど、さすがにワイヤレスマイクを使って中継を飛ばすというのは合宿のモニター会で作る番組の趣旨としてはいかがなものか。そんな風にボクは少し思ってしまうワケで。少し不安にもなる。

「ねえ、ヒロ」
「どしたん直クン」
「ワイヤレスマイクを使う案は面白いと思うけど、他の対策委員の子たちに確認してみた?」
「しとらん」
「さすがに誰かに聞いてみた方がいいんじゃないかな」
「でもやよ直クン、荷物まとめとった時に、ワイヤレスの機材がワイヤレスの機材やーゆーてわかっとったんつばちゃんだけやってんよ。ノサカもゴティも知らんかってん」
「そうだったの?」
「しやよ。しやからこそボクはやりたいん。だって、緑ヶ丘とか向島に籠っとったら絶対出来んのやよ。シゲトラ先輩おるからボクら知らん機材使える、ハマちゃんおるからボクらずっと座っとる席から飛び出せるんやよ。ただのラジオやったらハンパなくならんのやよ直クン」
「うーん……」
「責任ならボクが取るよ! ノサカなんか絶対怒るやろうけど誰も禁止しとらんしって押し切るよ! 直クンはボクのこと止めたけどそれをボクが押し切ったんやよ!」

 よほどワイヤレスマイクを使った番組をやりたいのか、ヒロはボクのことを必死になって説得している。確かに案自体は面白いと思う。だけど合宿直前だし「今から番組構成を変えるの?」という不安は少しある。1年生だっているし。
 でも、みんなの顔を見ていると、面白そうな方に付きたいという風に見えてもきていて。「7班のマジハンパないラジオ」と言うからには、確かに少しくらいはインパクトを残さないと、とも思う。もしかすると、このハンパないメンバーに感化されたのかもしれない。

「直クンお願いやよ」
「わかりました。今後禁止される前にやっとこう。ボクも腹を括ったよ。ヒロだけが責任を被ることはないよ。これはみんなで決めたことだからね」
「やったー! ありがとう直クン!」
「直クンの腹の括り方マジパねえ!」

 こうして、対策委員の他の子たちには内緒のままで「7班のマジハンパないラジオ」ではワイヤレスマイクを使った中継という手法を採ることに決まった。当日シゲトラ先輩が機材を繋いでくれるそうだ。
 でも、確かにこういう案を出そうとすると真面目を絵に描いたような議長のマーシーや啓子は絶対にいい顔はしなさそうなんだよなあ。内緒のままで突っ切ろう。ヒロの暴走を止めてくれとも言われていたけど。うん、ゴメン!

「参考までに聞くけどどこのペアで中継を入れるつもりなのかな」
「え、ハマちゃんと直クンのトコ」
「ちょっと、一番影響あるのボクじゃない!」
「だってボクとシゲトラ先輩の相方1年生やし、2年生同士のペアの方がいーかなーて」
「まあ、7班のマジハンパないラジオだし…? 頑張りますよ」
「いよっ! 直クンマジよろしく!」
「シゲトラ先輩……現地でご指導お願いします」
「まあ、ドンマイ。この世界のシゲトラに任せとけ!」


end.


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夏合宿7班、7班のマジハンパないラジオはどうやらギリギリまでその構成を話し合っていたようです
それが合宿の最後を飾るのだから、インターフェイスに与えた衝撃としてはハンパないラジオやったんやろなあ……
そして男3人を束ねる保護者の直クンである。まあ、ノサカと啓子さんは不安になる班やろしなあ


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