2017

■風向きと瞬間最大風速

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 まるで、嵐のようだ。気紛れでふらりと現れる天才ミキサーがいるという話は聞いていたし、その人が本来MBCCの会計であるということも、サークルの財布を握る伊東先輩がうな垂れながら言っていた。
 どんな人だろうとは思っていたけど、いざその人を目の当たりにすると圧倒される。俺は自分から名乗ることもその人と物理的な距離を詰めることも出来ずにただただ放心するだけなのだ。

「おはよー! カズ、変わってない?」
「育ちゃんがいないから俺は変わらずMBCCの会計代行業が忙しいよ」
「あっ、そんなコト言えるようになってんだな。ねえ、1年は入った?」
「ああうん、入ってるよ。ほらタカシ、こっち来い」

 呼ばれてしまえば仕方ない。恐る恐るその女の人に一歩近付いて。俺と同じくらいの背丈で眼光鋭い猫目、それからサイドでひとつに束ねた長い髪。ボロボロのミリタリーコートに荷物でパンパンになったデイパックもかなり使い込まれているだろう。

「この子がミキサーのタカシで、DJネームはタカティ。なかなか筋がいいんだよ」
「あっ、高木です」
「へー、タカティ。アタシは国際3年の武藤育美。会計業はカズに投げてるし、たまにこうやって旅の土産をばらまきに来るだけの存在だね」
「育ちゃんはホント天才肌のミキサーでさ、センスがすげーんだよ。口で説明するより聞いてもらった方が早いけど、育ちゃんミキ触ってく?」
「アタシ今日そういう気分じゃないんだよね」

 伊東先輩がそう言うからには本当にすごいセンスをしているのだろう。そういう気分じゃないということで実際にミキサーを触っているところが見れないのはとても残念ではあるけれど。

「今いる3年が俺だから平和だけど、次来るのがどっちかで空気めっちゃ変わるから。何が起きても動じるなよ」
「えっ、何が起こるんですか」

 不穏な発言に怯えながら、武藤先輩と他の3年生の関係を邪推する。伊東先輩は同じミキサーとして会計業を投げたり出来る程度には仲がいいということは見ていてわかるけれど。

「おはよう」
「ユノ!」
「イク。帰って来てたの。おかえり」
「ただいま」

 ここは海外だろうか。いや、確かに国内のはずで、挨拶代わりにハグや頬を寄せることはそうそう見られないはずだ。でも、それが実際に行われているし、何かもうそこだけ別世界。当然、理解が及ばなくて呆然としますよね。

「あータカシ、ヨシと育ちゃんはこれがデフォ」
「えっと、2人は付き合って…?」
「ないね。恋愛対象でもない。本当に挨拶」
「ええー……」

 そういう文化もあるし、武藤先輩は海外を旅することも多いから慣れているのだろうと納得することにした。と言うかむしろ岡崎先輩がそういうのを受け入れるんだと思ったですよね。落ち着いてるし、クールなのに。
 ただ、挨拶という以上にスキンシップが恋人同士のそれに見えるし、見ていてとても照れてしまう。武藤先輩はこれこれと納得しながら岡崎先輩の耳を食んでいるし、岡崎先輩も武藤先輩の首筋を撫でている。

「えーと、デフォだから。ちょっとヨシも育ちゃんも! タカシ引いてるから!」
「引くようなこと?」
「タカシは免疫ないんだよこういうのに。純な1年生だし少しはね」
「タカティ、免疫をつければいいんじゃないかな。果林にやってみたら?」
「岡崎先輩それはさすがに」
「あっ、俺もそれには賛成」
「伊東先輩まで何を言ってるんですか」

 さすがに挨拶レベルでそれは無理がある。伊東先輩も彼女さんと外でそういうことをするのはさすがに恥ずかしいということで、岡崎先輩と武藤先輩のそれは特殊例であるということを改めて確認する。

「あの、伊東先輩。高崎先輩ともこういう感じ、ですか?」
「天地がひっくり返ってもない。すっげー仲悪いから」
「酒があれば休戦するんだけどね」
「あっ、酒があれば」
「まあ、MBCCだしね」
「イクの血はワインで出来てるよ」

 高崎先輩が現れたら何が起こるんだろうと恐ろしくもあり楽しみでもある。本当は6人いるらしい3年生の先輩だけど、全員が揃うことはないから。

「まあ、本当にヤバイのはヨシとナルミーだとは言っとく。高ピーと育ちゃんの喧嘩が可愛く見えるから」


end.


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そろそろ6月だし、ミキサー飲みがあるだろう時期に向けて育ちゃんをそろそろ登場させないとなーとこんなことに。ユノ先輩とは安定のヤツ。
最後にいち氏が本当にヤバいヤツを教えてるけど、多分この時点でナルミーの存在を始めて聞いてるんじゃないだろうかタカちゃんは
ちなみにナルミーは果林の天敵だったりするのでいつかナルミーにドン引きしてるタカちゃんの話などもやってみたい

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