2017

■直球勝負で邪気を払おう

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「あー、雨だ。かんな、あやめ、乗ってくか?」

 バイトが終わった時点で雨が降っていると、俺の車に諏訪姉妹が乗り込んでくるのが通例と化していた。最初の大荒れだったときにそうしたから、傘を差せば支障のない程度の雨の時でもそうするのが普通になってしまって。

「私はこの後出かける用事があるので」
「そうか。あやめも一緒なのか」
「違います」
「あやめ、乗ってくか」
「お願いします」

 出かけるというかんなと別れ、あやめだけを乗せて走る。車内では沈黙を覚悟していた。基本的に、あやめはかんなの後について喋ることが多いからだ。だけど、そんなあやめがぽつりぽつりと喋り出す。

「かんなは今日、萩さんとデートなんです」
「はあ!? えっ、裕貴のことだよな。いや、つかファンフェスで知り合ったばっかだろ。話が急すぎないか」
「まだ付き合ってないですけど、時間の問題だと思います。こないだ、2人で会議をしました。部屋に男の人を連れ込むときのルールについて」
「運転しながら聞く話じゃねーな。あやめ、ちょっとそこのバッセン寄ってくか」

 あやめの話がまだ続くなら、このまま運転していると事故る。そう判断して車を止めた。ちょうどいいところにバッティングセンターがあったし、雨の日に通る度気になっていた。
 一通りの手続きをして、構える。とりあえず左打席110km/hのコーナーへ。あやめはそんな俺の様子を網の向こう側から眺めている。退屈させるかもしれないけどと言ったら、初めてだから興味深いと言ってくれたのが救いだ。

「裕貴とかんながいい感じになってるって?」
「今はお友達として親交を深めてます」
「いつの間に」
「かんなは、私が越谷さんのことを好きだと勘違いしてたんですよ。それで、水鈴さんとの関係を聞き出そうと2人になって」
「意気投合したってか」

 あやめと話をしながらバットを振るけれど、やっぱり話の内容が個人的に衝撃的過ぎてなかなか芯で捉えられない。一発それらしいのが出れば気も紛れるのに。でもあやめの話も気になるし。同時にやろうとしたのが失敗だったな。

「あの、越谷さん」
「ん?」
「かんなの話は後でしましょう。バッティングを見せてください」

 上着を脱いで、打席に集中する。2、3球ヒット性の当たりが続いてくると、波に乗ってくる。バッセンの球は実戦とはまた違う。ボールゾーンに散らばることもそうないし、一定の間で淡々と構えればいい。

「ふー、こんなモンか」
「お疲れさまです」
「あ、悪いあやめ。退屈だっただろ」
「いえ、忙しかったです」

 そう言ってあやめは、カメラに収めた映像を見せてくれた。スローで再生される俺のバッティングは凄く新鮮に映る。部活で野球をやっていた時も、スローで自分のスイングを見たことはなかったから。
 さすが、映像のことを専門に勉強しているだけあってプライベートでもカメラを持ち歩いているのかと思ったし、そのカメラがまた高そうだ。聞けば、かんなも同じ物を持っているらしい。

「つか撮ってたのか」
「撮って思ったのは、越谷さんはフォトジェニックですね。あの、体を見せてもらうことって出来ますか。人体の仕組みと言うか、筋肉に興味が」
「それくらいなら良いけど、さすがにここじゃ」
「かんなはまだ帰ってこないですし、ルールも制定したのでうちにどうぞ」
「お前、そんなにがっつく奴だったか」
「作品に対しては貪欲です」

 作品に対して貪欲な奴を適当にあしらうと、後々痛い目に遭うのは嫌になるほど思い知らされてきた。ここは黙ってあやめに従うことに。あやめなら仮に俺が脱いだところで飛びついてきたりはしないだろうし。水鈴とか水鈴とか、それから水鈴みたいにな!

「越谷さんを被写体にした作品群……楽しみ……構想が膨らんで、どうしよう……創作意欲が膨らみすぎて、涙が……」
「おーいあやめー? 帰るぞー、戻ってこーい」

 裕貴とかんなの話の続きもしなきゃいけなかったんだけどな。何か、あやめはそれどころじゃなくなってそうだな。うーん、まあいいか。いざとなったら裕貴本人を叩けば。


end.


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萩さんとかんなが何か出掛けてる裏で、こっしーさんとあやめはバッセンか。萩さんとかんなは何やってんだろうね。
ナノスパの連中も体を動かすことくらいはしてそうだなって。特にこっしーさんクラスになるとジムとかに通っててもおかしくなさそうだし。というワケでバッセン。
あやめは作品に貪欲なのね。こっしーさんが適当にあしらって痛い目に遭わされたのは誰だろうね! 背中でカーディガンが揺れてるぜ!

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