2018(02)
■キツネかトンビか
++++
「神様、仏様、高崎さま~!」
「テストはもう終わったはずだ」
近場の“髭”に呼び出され、アイスカフェオーレをどうぞと差し出される。飯野の奢りで話が始まるからには、何かを頼み込まれるのだろう。と言うか、飯野は大祭実行委員の活動でバタバタしてるはずだがどうした。
「テストは確かに終わったんだけどさ、夏の課題のレポートがまだ残ってまして~」
「断る」
「そこを何とかあああっ!」
「お前のゴミクズみてえなレポートをどうしろっつーんだ。つーか、それで俺に何のメリットがあるんだ。アイスカフェオーレだけでやらせようって魂胆だったら残念だったな。てめェのクソレポートをまともなモンにすんのに420円ぽっちで足りるかよ」
俺が出席が足りないタイプの問題児だとすれば、飯野は勉強が出来ないタイプの問題児として安部ちゃんは頭を抱えている。2人して研究室に呼び出されては君たちは出席が、レポートの文字数が足りないねえと小言を言われること数知れず。
去年は賄賂だの出席率だので誤魔化してきた俺たちに、安部ちゃんは学年が上がる前に「今年は去年より厳しくするからね」と釘を刺してきた。さすがに今年はちゃんとやらないとマズいという危機感が俺と飯野の間にはある。
俺はちょっと頑張って早起きすればいいだけの話だが、問題は飯野だ。文字数を書かせることに定評のある安部ゼミで、致命的なまでにレポートが書けないのだ。こればっかりはちょっと頑張るだけでは如何ともしがたい。
「話だけでも聞けよ!」
「じゃあこのカフェオーレで話だけは聞いてやる」
「ちきしょ~…!」
「あ? さっさと本題に入れよ」
「レポートの資料を撮りに行こうと思ってんだよ!」
「まあ、本が読めないなら足で稼ぐしかないよな。で、どこに撮りに行く気だ」
「向舞祭に特攻する。付き合ってくれ」
「正気の沙汰じゃねえな」
安部ゼミは現代コミュニケーションをテーマにしたゼミだ。俺のテーマは(ちょっとメディア文化学科寄りではあるが)「コミュニティラジオと双方向コミュニケーション」、飯野の研究テーマは祭りについてだ。
飯野自身が大学祭実行委員であるということもあるし、根っからのイベント好きだ。祭りというテーマは実に飯野らしい。フィールドワークで資料を撮って来るのは非常に有効な手段だとは思う。だけど、それに俺を巻き込むかと。
「いや、でもさ、向舞祭くらいデカい祭りってそうそうないじゃんか!」
「まあな」
「あと、これを逃すと割と真面目に学祭の準備で日がない」
「その事情の方がデカそうだな。で、俺を付き合わすからには、わかってんだろうな」
「わかってんよ、お前がタダで動かない奴だってことくらい。逆に言えば、それなりの対価をやればきっちり動いてくれる奴だってこともわかってんだよ」
「で、お前の資料集めに付き合ったら何があるんだ」
「えー、まず、安部ちゃんと話を付けた! お前が俺のレポートを読めるレベルにまで引き上げたら出席0.5~1回保証!」
「お、マジか。他には」
「大祭実行のマル秘情報だ。お前には美味い話じゃないかって思うけど、話の価値はお前が決めてくれ」
俺にとってオイシイかもしれない大祭実行のマル秘情報というのは確かに気になる。ただ、確かに実際に聞くまではその話の価値はわからない。毎年の約束事に関する話であれば別に美味くも何ともない。てめェそんなモンでレポート手伝わせようなんざ舐めんなという話だ。
ただ、飯野がここまで自信満々であるからには、それなりにいい話なんだろうと思う。それを生かすも殺すも俺次第。まずは大祭実行ナンバーツーだからこそ知るマル秘情報とやらを聞いてみることに。向舞祭特攻に付き合うかは実質その話の出来不出来に左右されていた。
「今年の学祭の目玉イベントが女装ミスコンで、俺がその責任者なんだけどもー」
「それの何が美味いんだ」
「いーから最後まで聞け! その優勝賞品だよ」
「何だよ。言っとくが、商品にありがちな「某有名テーマパークペアチケット券」なんざ全然美味くねえからな」
「ちげーっての! 聞いて驚け、「某有名オーディオメーカーのカタログの中から好きな物を1点」だ!」
「マジか」
「マジです。あ、これまだ表に出てない情報なんで黙っといてくれ」
「ちなみに、ミキサーとかアンプ、あとデッキみたいなモンってそのカタログには」
「佐藤ゼミの奴に見せても興奮してたし、MBCCなら余裕じゃね?」
ただ、問題は女装ミスコンで優勝しないといけないというところだ。当然俺がそんなことを出来るはずはない。
……いや、待てよ? 良さそうなのが1人いるな。あと、こういう話が大好きな奴にも心当たりがある。思い出すのは、俺が高校で生徒会長だったときの学園祭だ。奴なら泣いて喜んで協力してくれるだろう。女装ミスコン、イケるか?
「よし、わかった。でも、休みは基本バイト入れてるし、その、向舞祭特攻? 1日だけ付き合ってやる」
「よっしゃ! 氷も付けるぜ高崎さま~!」
出席1回と機材類、どっちも掻っ攫ってやらァ。
end.
++++
毎年お馴染み向舞祭のあれこれ。飯野はレポート課題がいっぱいいっぱいなので例によって高崎にお願いをします。
そしてここから大学祭に向けた動きも少しずつ始まってきます。ナノスパでの本格始動は夏合宿後だけど、大祭実行的にはもうバリバリ動いてるよ!
高崎が強欲さを発揮するぞ~~欲しい物は何もかもを掻っ攫って行くぞ~~~
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「神様、仏様、高崎さま~!」
「テストはもう終わったはずだ」
近場の“髭”に呼び出され、アイスカフェオーレをどうぞと差し出される。飯野の奢りで話が始まるからには、何かを頼み込まれるのだろう。と言うか、飯野は大祭実行委員の活動でバタバタしてるはずだがどうした。
「テストは確かに終わったんだけどさ、夏の課題のレポートがまだ残ってまして~」
「断る」
「そこを何とかあああっ!」
「お前のゴミクズみてえなレポートをどうしろっつーんだ。つーか、それで俺に何のメリットがあるんだ。アイスカフェオーレだけでやらせようって魂胆だったら残念だったな。てめェのクソレポートをまともなモンにすんのに420円ぽっちで足りるかよ」
俺が出席が足りないタイプの問題児だとすれば、飯野は勉強が出来ないタイプの問題児として安部ちゃんは頭を抱えている。2人して研究室に呼び出されては君たちは出席が、レポートの文字数が足りないねえと小言を言われること数知れず。
去年は賄賂だの出席率だので誤魔化してきた俺たちに、安部ちゃんは学年が上がる前に「今年は去年より厳しくするからね」と釘を刺してきた。さすがに今年はちゃんとやらないとマズいという危機感が俺と飯野の間にはある。
俺はちょっと頑張って早起きすればいいだけの話だが、問題は飯野だ。文字数を書かせることに定評のある安部ゼミで、致命的なまでにレポートが書けないのだ。こればっかりはちょっと頑張るだけでは如何ともしがたい。
「話だけでも聞けよ!」
「じゃあこのカフェオーレで話だけは聞いてやる」
「ちきしょ~…!」
「あ? さっさと本題に入れよ」
「レポートの資料を撮りに行こうと思ってんだよ!」
「まあ、本が読めないなら足で稼ぐしかないよな。で、どこに撮りに行く気だ」
「向舞祭に特攻する。付き合ってくれ」
「正気の沙汰じゃねえな」
安部ゼミは現代コミュニケーションをテーマにしたゼミだ。俺のテーマは(ちょっとメディア文化学科寄りではあるが)「コミュニティラジオと双方向コミュニケーション」、飯野の研究テーマは祭りについてだ。
飯野自身が大学祭実行委員であるということもあるし、根っからのイベント好きだ。祭りというテーマは実に飯野らしい。フィールドワークで資料を撮って来るのは非常に有効な手段だとは思う。だけど、それに俺を巻き込むかと。
「いや、でもさ、向舞祭くらいデカい祭りってそうそうないじゃんか!」
「まあな」
「あと、これを逃すと割と真面目に学祭の準備で日がない」
「その事情の方がデカそうだな。で、俺を付き合わすからには、わかってんだろうな」
「わかってんよ、お前がタダで動かない奴だってことくらい。逆に言えば、それなりの対価をやればきっちり動いてくれる奴だってこともわかってんだよ」
「で、お前の資料集めに付き合ったら何があるんだ」
「えー、まず、安部ちゃんと話を付けた! お前が俺のレポートを読めるレベルにまで引き上げたら出席0.5~1回保証!」
「お、マジか。他には」
「大祭実行のマル秘情報だ。お前には美味い話じゃないかって思うけど、話の価値はお前が決めてくれ」
俺にとってオイシイかもしれない大祭実行のマル秘情報というのは確かに気になる。ただ、確かに実際に聞くまではその話の価値はわからない。毎年の約束事に関する話であれば別に美味くも何ともない。てめェそんなモンでレポート手伝わせようなんざ舐めんなという話だ。
ただ、飯野がここまで自信満々であるからには、それなりにいい話なんだろうと思う。それを生かすも殺すも俺次第。まずは大祭実行ナンバーツーだからこそ知るマル秘情報とやらを聞いてみることに。向舞祭特攻に付き合うかは実質その話の出来不出来に左右されていた。
「今年の学祭の目玉イベントが女装ミスコンで、俺がその責任者なんだけどもー」
「それの何が美味いんだ」
「いーから最後まで聞け! その優勝賞品だよ」
「何だよ。言っとくが、商品にありがちな「某有名テーマパークペアチケット券」なんざ全然美味くねえからな」
「ちげーっての! 聞いて驚け、「某有名オーディオメーカーのカタログの中から好きな物を1点」だ!」
「マジか」
「マジです。あ、これまだ表に出てない情報なんで黙っといてくれ」
「ちなみに、ミキサーとかアンプ、あとデッキみたいなモンってそのカタログには」
「佐藤ゼミの奴に見せても興奮してたし、MBCCなら余裕じゃね?」
ただ、問題は女装ミスコンで優勝しないといけないというところだ。当然俺がそんなことを出来るはずはない。
……いや、待てよ? 良さそうなのが1人いるな。あと、こういう話が大好きな奴にも心当たりがある。思い出すのは、俺が高校で生徒会長だったときの学園祭だ。奴なら泣いて喜んで協力してくれるだろう。女装ミスコン、イケるか?
「よし、わかった。でも、休みは基本バイト入れてるし、その、向舞祭特攻? 1日だけ付き合ってやる」
「よっしゃ! 氷も付けるぜ高崎さま~!」
出席1回と機材類、どっちも掻っ攫ってやらァ。
end.
++++
毎年お馴染み向舞祭のあれこれ。飯野はレポート課題がいっぱいいっぱいなので例によって高崎にお願いをします。
そしてここから大学祭に向けた動きも少しずつ始まってきます。ナノスパでの本格始動は夏合宿後だけど、大祭実行的にはもうバリバリ動いてるよ!
高崎が強欲さを発揮するぞ~~欲しい物は何もかもを掻っ攫って行くぞ~~~
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