2018(02)

■試されるリゾラバ

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「いやあ、芹ちゃん偶然!」
「偶然? よく言うぜ」

 日頃からきゃっきゃと話している北辰の夏フェス会場に私がいないワケがないんだよなあ。和泉だったらタイムテーブルを見て私がどういう風に移動するかも余裕でわかってるはずなんだよなあ。で、フェスが終わってからの行動もこれまでに喋り尽くしてきてたから、それを覚えてたら待ち伏せするなんて朝飯前なんだよなあ。
 行きつけの喫茶店でほくほくしていたら、突然相席をされたからどこのどいつだと思ったら、見慣れた変態黒縁眼鏡じゃねーかと。まあ、和泉がフェスに来てる可能性はなくはない、むしろ高いと思ってたからこっちにいるだろうとは思ってたけど、フェスの会場外で会うとは思わなかったワケで。

「俺さー、あと1日こっちにいる予定なんだよねー」
「で?」
「遊ぼうよ。観光もしたいしー、買い物したいし」
「勝手にしてくれよ」
「芹ちゃんと一緒がいいなー」
「お前人をリゾラバ扱いすんじゃねーぞ」
「えっじゃあリゾートじゃないラバーに戻る?」
「舌噛み切って死ぬ」
「その前に芹ちゃんに似た可愛い娘を遺してね!」

 確かに和泉にしてみればまあまあ大きい旅行の機会ではあるんだろうけど、私は2日きゃっきゃしたから家に帰って寝たい。和泉の観光に付き合ってやるほど親切じゃないし、お前は私に何を期待してるんだと。まあ、普通に考えれば観光案内か。
 この分だとどこに逃げても追いかけて来やがるし、わざわざ実家の場所を教えに逃げ込むこともない。とりあえずはタバコに火をつけて、話だけは聞いてやることに。あと、ストーカーじみた行動が気持ち悪かったからコーヒーは奢らせる。

「ねえねえ芹ちゃん芹ちゃん」
「うるっせえな、今何時だと思ってやがるんだ」
「朝の8時」
「よくそんなテンション高くいれるな、お前人間じゃないだろ」
「ちゃんと人間ですぅ~、ちょっとノリが軽くて性欲が強いだけのただの人間ですぅ~、むしろ音楽には誠実ですぅ~」
「音楽にしか誠実じゃないっつーのが正解じゃねーか」
「否定はしません」

 青山和泉とかいう変態は、性的にも変態だけどその他諸々にも変態的だ。言語でちゃんと説明しようとすると難しいけど、突き詰めれば変態に着地する。これに気に入られたが最後、人生くらい軽く狂いそうだ。
 私はこの和泉から執着されていて、事あるごとに芹ちゃん芹ちゃんと粘着されている。音楽がきっかけで気が合ったから昔ちょっと付き合ってみたけど、何が変わったワケじゃないから恋人関係は解消した。でも、何ら変わらない付き合い方をしている。
 今もこうして私の行きつけである喫茶店にまで現れてるし、あと私の行動範囲でバレてないのは実家の場所くらいじゃねーかと。割とマジでそれも時間の問題のような気がするけど。あーこわい。適当に満足させて帰らせる方が早い気もしてきた。

「芹ちゃん、話変わるけどこっちは過ごしやすいね」
「ええ…? 十分暑いだろトチ狂ってんのか。あっ、知ってたけど」
「星港ホントにヤバいからね。40度だよ40度!」
「えっ、死ぬ」
「でしょ? だから、北辰的には暑くても、27度は星港民的には十分涼しいよ」
「知らね、今北辰だから星港のことなんざ知らね」

 帰りたくないよ~と和泉が駄々をこね始めた。知ったこっちゃない。私はまだしばらくはこっちで悠々自適に過ごすし、お前は勝手に星港に帰って茹だって死んでろと思う。そのまま二度と湧いてくるな、枯れてしまえ。

「というワケで遊ぼう」
「どんなワケだよ」
「芹ちゃんが眠いならホテルでもいいよ」
「そんなモン身ぐるみ剥がされるのがわかっててホイホイついてく奴がどこにいるんだ、バカじゃねーのか」
「せっかくだしリゾラバ的な?」
「お前もう帰れよ……泳いで帰れ。そんで途中で台風にぶつかれ」
「じゃあ観光か買い物しようよ」
「やだ。このクソ暑いのに外なんか出たくない」
「フェスで出てたじゃん」
「日常とフェスを一緒にすんじゃねー!」

 あーもうやっぱマジでないわコイツ。とっとと簀巻きにして海に沈めた方が世の中の為だ。早くフライト時刻にならないかなー、さっさと帰れよマジで。眠いし。コーヒー一杯じゃ迷惑料には足りねーな。


end.


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フェス後の春山さんと青山さんです。北の大地は向島に比べると若干涼しい模様。
春山さんがきゃっきゃと地元でのことをお喋りするのでそれをすっかり覚えてしまっている青山さんである。
春山さんはもうしばらく地元でのんびりするようです。さすがにお盆は情報センターも開放してないからね!

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