2018(02)
■脇道の狙撃手
公式学年+1年
++++
緑ヶ丘大学では無事にテストが終わったけれど、それで終わりにならないのが2年生という感じだ。佐藤ゼミでは1年をかけて班ごとに1本の社会学的なラジオ作品を作ることになっている。「夏休みで稼いどかなきゃいけないよ、君たち」と先生も言っていた。
というワケで、佐竹さん以外の3人が盆頃に帰省するのでその前に集合。今日はフィールドワークで音声素材を集めるインタビューがメイン。花栄から程近い世音坂商店街へ。歩行者天国じゃないけどそんな雰囲気で、ファッションからサブカルまで何でも来いの濃ゆい町だ。
「はい」
「どうした安曇野。暑いとか歩きたくないとかなら却下すんぞ」
「は? 聞く前から牽制すんなし」
「で、どうした」
「せっかく世音坂に来たからには射撃がしたいです」
「いや待て、お前それはフィールドワークが終わってからでもいいじゃん?」
「でも店が目の前だし」
安曇野さんが指さした方には、薄暗くて、寂れたような雰囲気の小屋がある。赤文字で“射撃場”と書かれてるんだけど、それがまるで血文字なんじゃないかってくらいに滲んでる。一言で言えば怖い。
ただ、ここが何気にSNSなんかでも少し話題になったお店らしく、安曇野さんも例に漏れずネットでこのお店のことを見てから少し気になっていたそうだ。で、フィールドワークとは言え目の前にお目当ての店があるとなれば。
「まあまあ鵠沼くん、少しくらいなら大丈夫じゃない? インタビューしようにもあんまり暑くて人が歩いてないし」
「しょうがねーな、佐竹がそう言うなら」
「よーし、やりっ!」
店の中に入ると台の上に2本の銃があって、何メートルか先の方には灰皿やこけし、ボウリングのピンといった的が立ち並んでいて、なかなか本格的な感じ。お祭りの射的みたく景品はないけど、1ゲーム12発で500円。
さっそく安曇野さんが揚々と店の人にお金を支払ってやり方を教えてもらっている。安曇野さんと佐竹さんの後でやることにした俺と鵠さんも後ろの方でその話を聞いている。レバーを引いたりスライドしたり、やることが案外多いみたいだ。
「狙って~……よっ」
「唯香さん上手!」
「つか安曇野がマジで殺し屋じゃん?」
「ああ……服が結構ハードだもんね」
「誰が殺し屋って?」
「何でもないよ」
でもこの暑いのにレザーのジャケットを羽織ってるしサングラスしてるし、完全に殺し屋スタイルのそれなんだよなあ……。これ以上何か言って殺されても嫌だから黙っておこう。
安曇野さんがよーく狙ってーとやっているその横で、淡々と難しいところにある灰皿を倒し続けているのが佐竹さんだ。と言うか上手すぎる。実は経験者なんじゃないかっていうくらいに。でも最初の説明一緒に聞いてたよね。
「鵠さん、佐竹さんが上手すぎるんだけど」
「アーチェリー部だから的なことじゃん?」
「でも、さすがに射撃とアーチェリーは同じ要領ではいかなくない?」
「まあそうか。じゃあ本人の素質じゃん?」
「あっ、終わった。あっという間だなー、楽しい!」
「おっ、佐竹終わったか」
「鵠沼くん、いいよこれ!」
「じゃ、次俺やろっかな」
鵠さんが銃を構えてるのも様になってるんだよなあ。安曇野さんが殺し屋だとしたら鵠さんは軍人みたいな。あっ、これ言ったら怒られるヤツかも。黙っとこう。でもよく似合ってるしとてもカッコいいと思う。
「高木、終わったし!」
「ありがとう。次1ゲームお願いします。あ、メガネしてて大丈夫ですか」
メガネ大丈夫よ、と言いながらお店のおじさんが次のゲームの準備をしてくれる。最初の1発はやり方の説明。レバーを引いたりスライドしたり。スコープを覗いてよーく狙って、撃つという一連の流れを。
「あれ、狙えない。みんなどうやって狙ってた?」
「スコープ覗いてパン」
「えっ、雑」
「高木くん利き目逆なんじゃない? 逆の目で見てみたら?」
「あ、そっか。ありがとう佐竹さん」
説明じゃみんな右目で覗いてたから俺もそうしてたけど、それって利き目で見るって意味だったんだね。あ、狙えた。とりあえずおっきいのから狙ってみようかな。まっすぐ行ったところにあるあの灰皿にしよう。照準を合わせて、引き金を引く。すると、「カン!」と跳ねるような高い金属音。顔を上げると灰皿が倒れている。
「あっ、楽しい」
「高木が暗殺の楽しさに目覚めたか」
「でも高木くんみたいなタイプのさ、普段はほわっとしてるけど暗殺になると凄腕っていうのはテッパンだよね」
「って言うか暗殺者は暗殺者と悟られたら終わりだからね」
「イコール死だよね」
えっ、なんか後ろの方で女子が物騒な話してるけど…? まあいいや。次はもう少し難しそうなのにしてみよう。あの台の角っこにあるピンにしてみよう。狙って狙って~……それっ。フィールドワーク? なにそれ知りませんね。
end.
++++
フィールドワークはどうしたー! というワケでヒゲゼミ3班の射撃体験です。
あずみんは殺し屋だし由香里さんはアーチェリー部だし鵠さんは軍人だしで隙がなかった。そして暗殺者TKGwww
でもねえ確かにここの面々こういうの好きそうなのよね。そら暑いしフィールドワークもそっちのけになりますわ。ところで雨神様の力でどうにかならんかね
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公式学年+1年
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緑ヶ丘大学では無事にテストが終わったけれど、それで終わりにならないのが2年生という感じだ。佐藤ゼミでは1年をかけて班ごとに1本の社会学的なラジオ作品を作ることになっている。「夏休みで稼いどかなきゃいけないよ、君たち」と先生も言っていた。
というワケで、佐竹さん以外の3人が盆頃に帰省するのでその前に集合。今日はフィールドワークで音声素材を集めるインタビューがメイン。花栄から程近い世音坂商店街へ。歩行者天国じゃないけどそんな雰囲気で、ファッションからサブカルまで何でも来いの濃ゆい町だ。
「はい」
「どうした安曇野。暑いとか歩きたくないとかなら却下すんぞ」
「は? 聞く前から牽制すんなし」
「で、どうした」
「せっかく世音坂に来たからには射撃がしたいです」
「いや待て、お前それはフィールドワークが終わってからでもいいじゃん?」
「でも店が目の前だし」
安曇野さんが指さした方には、薄暗くて、寂れたような雰囲気の小屋がある。赤文字で“射撃場”と書かれてるんだけど、それがまるで血文字なんじゃないかってくらいに滲んでる。一言で言えば怖い。
ただ、ここが何気にSNSなんかでも少し話題になったお店らしく、安曇野さんも例に漏れずネットでこのお店のことを見てから少し気になっていたそうだ。で、フィールドワークとは言え目の前にお目当ての店があるとなれば。
「まあまあ鵠沼くん、少しくらいなら大丈夫じゃない? インタビューしようにもあんまり暑くて人が歩いてないし」
「しょうがねーな、佐竹がそう言うなら」
「よーし、やりっ!」
店の中に入ると台の上に2本の銃があって、何メートルか先の方には灰皿やこけし、ボウリングのピンといった的が立ち並んでいて、なかなか本格的な感じ。お祭りの射的みたく景品はないけど、1ゲーム12発で500円。
さっそく安曇野さんが揚々と店の人にお金を支払ってやり方を教えてもらっている。安曇野さんと佐竹さんの後でやることにした俺と鵠さんも後ろの方でその話を聞いている。レバーを引いたりスライドしたり、やることが案外多いみたいだ。
「狙って~……よっ」
「唯香さん上手!」
「つか安曇野がマジで殺し屋じゃん?」
「ああ……服が結構ハードだもんね」
「誰が殺し屋って?」
「何でもないよ」
でもこの暑いのにレザーのジャケットを羽織ってるしサングラスしてるし、完全に殺し屋スタイルのそれなんだよなあ……。これ以上何か言って殺されても嫌だから黙っておこう。
安曇野さんがよーく狙ってーとやっているその横で、淡々と難しいところにある灰皿を倒し続けているのが佐竹さんだ。と言うか上手すぎる。実は経験者なんじゃないかっていうくらいに。でも最初の説明一緒に聞いてたよね。
「鵠さん、佐竹さんが上手すぎるんだけど」
「アーチェリー部だから的なことじゃん?」
「でも、さすがに射撃とアーチェリーは同じ要領ではいかなくない?」
「まあそうか。じゃあ本人の素質じゃん?」
「あっ、終わった。あっという間だなー、楽しい!」
「おっ、佐竹終わったか」
「鵠沼くん、いいよこれ!」
「じゃ、次俺やろっかな」
鵠さんが銃を構えてるのも様になってるんだよなあ。安曇野さんが殺し屋だとしたら鵠さんは軍人みたいな。あっ、これ言ったら怒られるヤツかも。黙っとこう。でもよく似合ってるしとてもカッコいいと思う。
「高木、終わったし!」
「ありがとう。次1ゲームお願いします。あ、メガネしてて大丈夫ですか」
メガネ大丈夫よ、と言いながらお店のおじさんが次のゲームの準備をしてくれる。最初の1発はやり方の説明。レバーを引いたりスライドしたり。スコープを覗いてよーく狙って、撃つという一連の流れを。
「あれ、狙えない。みんなどうやって狙ってた?」
「スコープ覗いてパン」
「えっ、雑」
「高木くん利き目逆なんじゃない? 逆の目で見てみたら?」
「あ、そっか。ありがとう佐竹さん」
説明じゃみんな右目で覗いてたから俺もそうしてたけど、それって利き目で見るって意味だったんだね。あ、狙えた。とりあえずおっきいのから狙ってみようかな。まっすぐ行ったところにあるあの灰皿にしよう。照準を合わせて、引き金を引く。すると、「カン!」と跳ねるような高い金属音。顔を上げると灰皿が倒れている。
「あっ、楽しい」
「高木が暗殺の楽しさに目覚めたか」
「でも高木くんみたいなタイプのさ、普段はほわっとしてるけど暗殺になると凄腕っていうのはテッパンだよね」
「って言うか暗殺者は暗殺者と悟られたら終わりだからね」
「イコール死だよね」
えっ、なんか後ろの方で女子が物騒な話してるけど…? まあいいや。次はもう少し難しそうなのにしてみよう。あの台の角っこにあるピンにしてみよう。狙って狙って~……それっ。フィールドワーク? なにそれ知りませんね。
end.
++++
フィールドワークはどうしたー! というワケでヒゲゼミ3班の射撃体験です。
あずみんは殺し屋だし由香里さんはアーチェリー部だし鵠さんは軍人だしで隙がなかった。そして暗殺者TKGwww
でもねえ確かにここの面々こういうの好きそうなのよね。そら暑いしフィールドワークもそっちのけになりますわ。ところで雨神様の力でどうにかならんかね
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