2018(02)
■チーム温玉のキーマカレー
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各大学のテストや星ヶ丘のステージが無事に終わり、ここから本格的に夏合宿に向けて動き出すことになる。とは言え、果林率いる4班はうちと高木がお盆の週に帰省する予定になっていて、実質的な準備期間は3週間もない。
ただ、焦りはなかった。向島に残る面々と帰省組、うちと高木の違いはバイトをしているか否か。無職のうちと高木は向島組と比較すると時間に余裕があるし、ペア練習の予定も組みやすい。というワケで、今日は帰る前の打ち合わせだ。
うちが花栄に出かけた帰りに、高木の家近くにある地下鉄の駅で降車。と言うか、ここ最近の星港はバカみたいに暑い。何なんだ、40度超えって。馬鹿なんじゃないのか、意味がわからない。日傘は持ってたから良かったけど。
「あ、奥村先輩お疲れ様です」
「お疲れ。悪いな、うちの都合で時間決めて」
「いえ、むしろ家の近くに来てもらってすみません。ええと、どこで打ち合わせましょうか」
「そうだなー……あっ、そろそろ11時半だけど、ご飯って食べたか?」
「起きたばかりなのでまだ何も食べてないです」
「じゃあ何か食べてからにしないか」
「そうですね」
高木との打ち合わせの何が楽って、どうも食の好みが似てるらしくって、うちが「これが食べたい!」と言った物は大体高木も好きだからメニューに困らない。と言うかそれがきっかけで少し意気投合した感がある。ファミレスではカルボナーラ。
「ええと、何を食べましょうか」
「と言うか早くどこか涼しいところに入りたい」
「ですよね」
――などと話しながら歩いていると、チリンチリンと鳴る自転車のベル。何だこの野郎と思って顔を確認すれば星ヶ丘の朝霞だ。この辺は星ヶ丘大学のお膝下。むしろ緑ヶ丘の高木が住んでいるのがおかしくて、星ヶ丘の人間と会うのは全然不思議じゃなかった。
「なっちがこんなところに用事って珍しい」
「夏合宿の打ち合わせだ。高木がこの辺に住んでるから。で、これからご飯食べようって言って店を探してるんだ」
「そうなんだ。あっ、だったらいい店知ってるよ。カレーなんだけど。俺もこれから行くところだし、2人もどう?」
“鬼のプロデューサー”もステージが終われば鬼どころかすっかり人当たりのいいコミュ強だ。ついこないだまでご飯を食べる時間も勿体ないとか言っていた奴と同一人物とはとても思えないぞ。
とりあえず、ここは朝霞の言葉に甘えてみることにした。カレーだったら食べられない物が出てくることも……あっ、夏野菜カレーとかはちょっと怪しいけど、まあ食べられるだろうから。
あれよあれよと店に着き、席でメニューを見ればなかなか本格的なカレーの店だとわかる。だけど、一際目を引くメニューが。これは間違いなく美味しいヤツだしうちは絶対に好きだ。決めた、これにしよう!
「なっち、決まった?」
「ああ。うちはこのキーマ風ドライカリーっていうのにするぞ。温玉トッピングで」
「あ、俺もそれにしようと思ってました」
「うそ、2人も? でも、そうだよなー、カレーと温玉って相性バツグンだし」
「それな。温玉最高」
「ですね。温玉最高です」
メニューを見ると辛さが調整できるようなのでうちは辛め、高木は普通、朝霞は弱めと三者三様の辛さのキーマ風ドライカリーを注文してしばし。目の前には米とルーと温玉で三重丸を描いたかのような見事なカレー。これは期待が高まる。
いただきますと手を合わせ、まずは温玉を割らずに一口。うん、うまー。そして二口目は温玉を割って。んー…! う、うまー! これだこれ! 最高か!? 最高だ! んまっ。うちのカレーにも何か参考にできないかな。
気が付くと、誰も喋らずに黙々と、淡々とカレーを食べ続けていた。うちと朝霞は食事中に喋る方じゃないし、高木も静かな方だから特に喋らないことが苦ではないらしい。皿とスプーンがぶつかる音や、氷水のグラスを動かす音などが場を支配する。
「ごちそうさまでした。実にうまーでした」
「はい、美味しかったです」
うちと高木が食べ終わった頃、朝霞はまだ半分くらいを残してもぐもぐと食べ続けていた。前になりゆきでラーメンを食べたときにも思ったけどやっぱ食べるのが遅いな。うちと高木が特別早い方でもないのに。
「よし高木、美味しいカレーを教えてもらったお礼に何か喋るぞ」
「えっ、お喋りがお礼ですか?」
「朝霞、どの話がいい。1、日常の話、2、うちらのペア打ち合わせ、3、班でのゲンゴローの話」
咀嚼しながら朝霞はスプーンを持たない右手で1、2、3と数字を作った。つまり全部聞かせろということだろう。山口の言っていた通りだ。朝霞は人が好きで、人の話を聞くのが好きで、何にでも好奇心を示すって。
「じゃあ、まずは班でのゲンゴローの話から。高木、同じ1年のミキサーとして何かあるか?」
「えっと、実は緑ヶ丘の機材を使って一緒に練習してました。それから――」
うちは喋り出したら止まらないし、暑いから外にも出たくない。頃合いを見計らってデザートでも頼めば店にいられる時間も延長できるだろう。まずは美味しいカレーを、ごちそうさまでした。
end.
++++
チーム温玉がみんなで美味しいカレーをうまうましてるだけのお話でした。TKG宅近くだとこういうことがあるんだよなあ
夏合宿4班はどうやらまあまあ順調なようですね。多分TKG家での打ち合わせは明日辺り行われるんですね
そして朝霞Pへのお礼がお喋りとはなかなか菜月さん、わかってますね。全部聞きたいと返す朝霞Pの強欲さよ
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各大学のテストや星ヶ丘のステージが無事に終わり、ここから本格的に夏合宿に向けて動き出すことになる。とは言え、果林率いる4班はうちと高木がお盆の週に帰省する予定になっていて、実質的な準備期間は3週間もない。
ただ、焦りはなかった。向島に残る面々と帰省組、うちと高木の違いはバイトをしているか否か。無職のうちと高木は向島組と比較すると時間に余裕があるし、ペア練習の予定も組みやすい。というワケで、今日は帰る前の打ち合わせだ。
うちが花栄に出かけた帰りに、高木の家近くにある地下鉄の駅で降車。と言うか、ここ最近の星港はバカみたいに暑い。何なんだ、40度超えって。馬鹿なんじゃないのか、意味がわからない。日傘は持ってたから良かったけど。
「あ、奥村先輩お疲れ様です」
「お疲れ。悪いな、うちの都合で時間決めて」
「いえ、むしろ家の近くに来てもらってすみません。ええと、どこで打ち合わせましょうか」
「そうだなー……あっ、そろそろ11時半だけど、ご飯って食べたか?」
「起きたばかりなのでまだ何も食べてないです」
「じゃあ何か食べてからにしないか」
「そうですね」
高木との打ち合わせの何が楽って、どうも食の好みが似てるらしくって、うちが「これが食べたい!」と言った物は大体高木も好きだからメニューに困らない。と言うかそれがきっかけで少し意気投合した感がある。ファミレスではカルボナーラ。
「ええと、何を食べましょうか」
「と言うか早くどこか涼しいところに入りたい」
「ですよね」
――などと話しながら歩いていると、チリンチリンと鳴る自転車のベル。何だこの野郎と思って顔を確認すれば星ヶ丘の朝霞だ。この辺は星ヶ丘大学のお膝下。むしろ緑ヶ丘の高木が住んでいるのがおかしくて、星ヶ丘の人間と会うのは全然不思議じゃなかった。
「なっちがこんなところに用事って珍しい」
「夏合宿の打ち合わせだ。高木がこの辺に住んでるから。で、これからご飯食べようって言って店を探してるんだ」
「そうなんだ。あっ、だったらいい店知ってるよ。カレーなんだけど。俺もこれから行くところだし、2人もどう?」
“鬼のプロデューサー”もステージが終われば鬼どころかすっかり人当たりのいいコミュ強だ。ついこないだまでご飯を食べる時間も勿体ないとか言っていた奴と同一人物とはとても思えないぞ。
とりあえず、ここは朝霞の言葉に甘えてみることにした。カレーだったら食べられない物が出てくることも……あっ、夏野菜カレーとかはちょっと怪しいけど、まあ食べられるだろうから。
あれよあれよと店に着き、席でメニューを見ればなかなか本格的なカレーの店だとわかる。だけど、一際目を引くメニューが。これは間違いなく美味しいヤツだしうちは絶対に好きだ。決めた、これにしよう!
「なっち、決まった?」
「ああ。うちはこのキーマ風ドライカリーっていうのにするぞ。温玉トッピングで」
「あ、俺もそれにしようと思ってました」
「うそ、2人も? でも、そうだよなー、カレーと温玉って相性バツグンだし」
「それな。温玉最高」
「ですね。温玉最高です」
メニューを見ると辛さが調整できるようなのでうちは辛め、高木は普通、朝霞は弱めと三者三様の辛さのキーマ風ドライカリーを注文してしばし。目の前には米とルーと温玉で三重丸を描いたかのような見事なカレー。これは期待が高まる。
いただきますと手を合わせ、まずは温玉を割らずに一口。うん、うまー。そして二口目は温玉を割って。んー…! う、うまー! これだこれ! 最高か!? 最高だ! んまっ。うちのカレーにも何か参考にできないかな。
気が付くと、誰も喋らずに黙々と、淡々とカレーを食べ続けていた。うちと朝霞は食事中に喋る方じゃないし、高木も静かな方だから特に喋らないことが苦ではないらしい。皿とスプーンがぶつかる音や、氷水のグラスを動かす音などが場を支配する。
「ごちそうさまでした。実にうまーでした」
「はい、美味しかったです」
うちと高木が食べ終わった頃、朝霞はまだ半分くらいを残してもぐもぐと食べ続けていた。前になりゆきでラーメンを食べたときにも思ったけどやっぱ食べるのが遅いな。うちと高木が特別早い方でもないのに。
「よし高木、美味しいカレーを教えてもらったお礼に何か喋るぞ」
「えっ、お喋りがお礼ですか?」
「朝霞、どの話がいい。1、日常の話、2、うちらのペア打ち合わせ、3、班でのゲンゴローの話」
咀嚼しながら朝霞はスプーンを持たない右手で1、2、3と数字を作った。つまり全部聞かせろということだろう。山口の言っていた通りだ。朝霞は人が好きで、人の話を聞くのが好きで、何にでも好奇心を示すって。
「じゃあ、まずは班でのゲンゴローの話から。高木、同じ1年のミキサーとして何かあるか?」
「えっと、実は緑ヶ丘の機材を使って一緒に練習してました。それから――」
うちは喋り出したら止まらないし、暑いから外にも出たくない。頃合いを見計らってデザートでも頼めば店にいられる時間も延長できるだろう。まずは美味しいカレーを、ごちそうさまでした。
end.
++++
チーム温玉がみんなで美味しいカレーをうまうましてるだけのお話でした。TKG宅近くだとこういうことがあるんだよなあ
夏合宿4班はどうやらまあまあ順調なようですね。多分TKG家での打ち合わせは明日辺り行われるんですね
そして朝霞Pへのお礼がお喋りとはなかなか菜月さん、わかってますね。全部聞きたいと返す朝霞Pの強欲さよ
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