2018(02)

■空と僕らを遮るものは

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「おーい、戸田ー、そろそろ星羅来るぞー」
「待ってうお姐!」

 とうとうやってきた丸の池ステージ当日。午前7時、その設営を行うために朝霞班、魚里班、それから須賀班が集合している。機材は星羅ちゃんの車(Jeepのすっごいカッコいい黄色いの)で運んで来てくれたのを、各班のミキサーとディレクターが組み立ててくれる。
 アナウンサーとプロデューサーの担当は機材周り以外の会場設営。ベンチを掃除したり、星ヶ丘大学放送部っていう幟を立てたりね。あと、今年はバカみたいに暑いから観客席にテントを立てたり。俺と朝霞クンは力と身長を生かしてこのテント立てで大活躍。

「ふー、粗方設営は終わったかね」
「大体出来たんだ! 朝霞と洋平にはテントをたくさん立ててもらったんだ! ありがとうなんだ!」
「どういたしまして~。星羅ちゃんも車出してくれてありがと~」
「現在時刻が7時45分か。開始が9時半で全体の集合時間が8時45分だから、仮に宇部が8時半に来るとしてもまだ余裕があるな」
「どーせアタシらは何だかんだ理不尽に雑用させられるんだ。今のうちに休んどこうぜ。星羅、もう暑いし日陰にいな。体に堪えるよ」
「魚ちゃんありがとうなんだ」

 早朝から集められているのは“反体制派”とか“流刑地”と呼ばれる班だ。これからも理不尽に仕事をさせられるという由宇ちゃんの懸念は多分当たるだろうネ。中立や幹部系の班が来る前に休んどけとみんな日陰に散っていく。
 そして朝霞班も小さなテントの下に4人集合。特に俺たちは会場警備の仕事を言い渡されていて、ステージが始まると散り散りになってしまう。大事な話は今のうちにやっておかなきゃいけない。

「朝霞サン、さすがにもう台本変えないよね?」
「仮に変えても影響するのは山口だけだ」
「はーよかった。ねえゲンゴロー」
「あっでもこれまでの変更でも俺には影響を少なくしてもらってたみたいなので」
「あっそうだ朝霞サン、小道具無事?」
「ああ、無事だ」
「よかった、またぶっ壊されでもしたらアタシブチギレてたよ。って言うか朝霞サン、本番前の割によく喋るしクマもちょっと薄いね」
「張り込み後に仮眠を取らされたからな」
「だって~、不審者を追い返したらすることないでしょ~?」

 実は深夜のミーティングルームに俺と朝霞クンが残って朝霞班の小道具たちに異変がないか見張ってたんだよね~。だって、こないだ小道具の剣が壊されちゃってたし。そしたら案の定部屋の合鍵を使って覆面男がやって来るし! 追い返したけどさ~。
 その時間が結構浅かったし、5時間は寝れるねってことで2人で仮眠を取ってさ。そして朝6時半、部室に来てくれたメグちゃんに事情を報告して現在に至っている。俺たちはそのまま部室から星羅ちゃんの車に荷物を積んだりもしてたんだ~。

「あっ、そうだ忘れるところだった」
「ん?」
「幹部系の子たちが来たらこんなこと絶対やれないから」

 持って来ていた例のものをいそいそと組み立て始める。トレーと、透明なグラス5個。それを積み重ねていく。まあ、2段にしかならないから低いしグラスも百均だからしょぼいけど、景気づけにやりたかったと言うか。

「洋平、お前何のつもりだ?」
「朝霞班の景気づけと言えばこれ~」
「レッドブルだな」
「そう! 朝霞クンご名答! レッドブルは楽しいことをやるときに飲むのがベスト! だったら、俺たちが飲むのは今ジャない?」
「俺は日常的に飲んで」
「い~から! ギラつく太陽とレッドブルタワー! 翼を授けられる儀式だから!」

 自前で持ち込んでいたレッドブルを、ゆっくりゆっくり頂点のグラスに注いでいく。シャンパンタワーなんてやったことないからね、ちょっと緊張するけど。だけど、これが上手くいけば班の空気もグッと良くなると思うんだ。

「出来たー!」
「案外いーじゃん。撮っとこー」
「俺も撮影したいです。でも本当は太陽の光を受けてる方がレッドブルの色も映えていいんでしょうけど」
「あっじゃあ外に出す~?」
「いいんですか?」
「いいよ~」

 一通りの撮影を終えれば、今度はそのまま太陽の下でそれを飲む番。やっぱ、翼を授けられるからには空との間に障壁があっちゃいけない。

「朝霞クン、頂点の取って~」
「え、俺かよ」
「頂点のは朝霞サンっしょ」
「そうですね」
「それじゃあ」
「はい、みんなも取って~。はい、取ったね~。朝霞クン、音頭取って~」
「いや、お前がやれよ」
「ここは朝霞クンでしょ~」
「だね、朝霞サンっしょ」
「そうですね」
「それじゃあ、僭越ながら」

 いよいよステージ本番だ。レッドブルのグラスを手にして輪になるこの4人はホント最高のメンバーで。限界ギリギリまでとことんやるし、出たとこ勝負で楽しまなきゃ損でしょ。俺たちが楽しくないと見てる人も楽しくないから。

「今までやって来たこと全部置いて来るぞ。あと警備中も水分塩分取って、隙を見て陰で休めよ。それじゃあ、乾杯!」
「かんぱ~い!」
「それで洋平、グラス1個余ってんのとトレーにこぼれた分のレッドブルは?」
「えっと~……朝霞ク~ン」


end.


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レッドブルタワーを作りたかったというだけのお話。ステージ前の準備段階の時間です。
反体制派とか流刑地の面々で準備をすることになっているようなのだけど、これでも一応15人以上はいるのかな?
そして星羅の車である。めっちゃいい車に乗ってるみたいですね。でも誠司さんだったらそれくらいポンと出せるからなあ

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