2018(02)

■影も形も見せぬまま

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「坂戸さん、これ、どうしましょう」
「いや待て所沢、そんな物を俺に向けるな」

 先日、ミーティングルームがちょうどみんな出払っていた時を見計らって須賀班のブースから適当な物を盗って来ました。水色の巾着袋です。財布やスマートフォンのような貴重品であるとは考えにくかったのでちょうどいいなと思い。
 退屈している部長を楽しませるためのショー、その小道具を用意したまでは良かったんです。あとはこれを朝霞班のブースに放り込んで、盗みが起こったと騒ぎ立てれば。でも、魔が差したんですね。人のことには基本興味はないですが、中身を見ようと。

「坂戸さん、これがなくなってることは絶対菅野さんに伝わってますよね」
「いや、だから所沢、それは何なんだ」
「中身、すごいですよ」
「金か」
「いえ、違います」
「金目の物じゃないのか」
「ちょっと、見てもらっていいですか。それでこの袋をどうするか決めます」

 巾着袋の中には大量の薬が入っていたんですね。種類も豊富で。須賀さんは確か薬学部だったと思うので授業で使った物であるという線も考えたのですが、そんなものを持ち歩きはしないだろうと。
 2~3日分としてはあまりにも量が多いんですね。おそらく1回に飲む種類が多いのでしょう。ここから考えるに、須賀さんは何か体に不具合があって、薬を飲みながら生活しているのだろうと。それをあまり人に言うこともしていないのでしょうね。

「何だこの薬。麻薬か、脱法か」
「どれも違うと思います」
「なんだ、面白くない」
「何の薬かはわからないのですが、少なくとも須賀さんがこれらを日常的に服用しているということでしょう」
「バカの塊みたいな須賀がか」
「人は見た目に寄らないと言いますし。あと、薬学部ということは少なくとも本当の馬鹿ではないでしょう。お薬手帳も使い込まれているようなので、これは非常に不味いですね。もしこれがないことで倒れられても」
「部長は喜びそうだけど、確かに不味いな」

 見た目ではわからない疾病というのも確かにありますし、病気になって塞ぐか開き直るかというのは本人の性格や考え方にもよる部分だと思います。そんなことは割とどうでもよくて、問題はこの巾着袋の始末です。
 中身が中身だけに捨てるワケには行きません。やっぱり最初に坂戸さんが言われたように朝霞班のブースに放り込むのがいいんでしょうが、他の班より朝霞班は何気にハードルが高いんですよね。

「いや、いいからさっさと朝霞班のブースに放り込んで来いよ」
「朝霞班のブースは人の目につきやすい場所ですし、朝霞さんは誰より早く来て誰より遅く帰るので隙があまりないです」
「ミーティングルームの合鍵を使えよ。さすがに戸締まり後なら誰もいないだろ」

 ……とまあ、大学のサークル棟自体が施錠された後の活動を強いられるというのも日常茶飯事ですね。確かに朝霞班のブースに忍び込むにはこの方法が最善とは言え、ですね。まあ、元々別の指令もあったのでついでにそれもこなしておきましょう。

「お前がこれを盗ってきて何日だ?」
「2~3日です」
「その割に須賀は騒いでないけど、なくなってるのに気付いてないんじゃないのか? 騒いでもらわないと部長がまた暴れるだろ、何とかしろ」
「いえ、最初は探していたようでしたけど「探すのをやめたらひょっこり出てくるかもしれない」とさほど気にしていないようでした」
「お前が盗った物が悪かったんだな」

 盗った物というより相手が悪かったんだと思いますね。ただ、坂戸さんも案外自分本位と言うか、自分が良ければあとは誰がどうなろうと知ったことではないというスタンスの人なので、成功や失敗も割と何でも良かったりします。部長の機嫌さえ取れれば、の話ですが。

「問題はやっぱり須賀さん本人より菅野さんだと思いますね、俺は」
「知るかよ、ったくどいつもこいつも浮かれてんじゃねーよ」
「はい。俺の知ったことでもありません。とりあえず、今日の深夜にこれを朝霞班のブースに放り込みます」
「勝手にどうぞ」

 ほら出ました。坂戸さん特有の「自分は悪くない」っていうヤツです。十分教唆しているポジションなんですがね。言わないでおきましょう。保身の為に売られても面倒ですからね。

「この中に何か部長の機嫌を取るのに使えそうなネタ無いかな」
「さすがに薬の中にはないと思いますが」


end.


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巾着泥棒の裏側の件です。星羅本人はああなので気にしないようにしているようですが、やっぱスガPのが怖いね! 幹部寄りだし
坂戸は自分が火の粉をかぶりたくないがために部長の機嫌を取ってるような感じだね。何がしたいんや
レオが本格的な工作員になってきている件。さすがに宇部Pなんかは存在も知ってるだろうけど、いることを悟られないようにしてる分、認知度は本当に低そうだね

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