メモと小ネタ帳

その背中(クライヴとジル)

2024/07/24 21:15
FF16
ジルは桶に入れた少し熱めのお湯と洗濯したばかりのダルメキアで購入した綿花の布をそれで濡らし半裸のクライヴの大きな背中をインビンシブル内船底にて拭いていた。

「わざわざ…」
「こうしたいの」

動物の脂で作った石鹸は洗濯用に。
オリーブ油があり、ヨ―テの依頼からジョシュアの薬の素を探しにいくこともなった植物系の魔物が多いロザリアでは灰汁から石鹸を作りそれで身体を洗う。
水だけでは疲れが取れにくいからと彼女は白いふんわりとした布でクライヴの大きな背中を優しく拭っているのだ。

「今の私に出来ること、たくさんしたい…」
「正直…嬉しいよ」
「トルガルもこれくらい大人しくしていてくれたら良いのにね」
「小さい頃から水浴びさせようとする度に、逃げ出していたな」

トルガルと再会して。笑みを浮かべる、という感覚はまだあったのだと思い出せた。幼体の頃からよくクライヴの後に付いて来たこの狼は撫でてやると嬉しいと全身で喜びを表わしてくれた。良かった、とそう思った。
今の自分が目を覚ましたばかりの君に会う資格があるのだろうか。戸惑っているとオットーたちが会いに行ってやれよ、とそう後押しをしてくれて。
再会の喜びの笑顔を見せてくれた途端、想いが溢れて強く抱きしめた。
もう会えないのだろうか…。ああ本当に会いたかったんだと。
ジルがクライヴの背中を拭きながら傷跡にそっと優しく触れた。
戦いに赴く度に彼が背負っていくものを。

「…痛みを知れて良かったと思う」
「…クライヴ」
「厳密には君の涙を見て…君だと分かって心が痛んだ。思い出せたんだ。失いたくない、と」
力尽きていくフェニックス。意識の中では抵抗しているのに、それが出来なかったあの時と同じ―…。

「命令には逆らえないと言い聞かせられながら、心のどこかでこれだけはと反発して。
でもあの時は心からそう思った。その直後にシドと出会った」

真実と現実を知って。受け入れると決めた。もう逃げ出さない。前に進むと。上手くいかなくても、出来ることに限りがあり、誰かが傷ついたり何かを失うことがまた続いたとしても。
それすら受け入れてそうして誰かを愛し、誰かの為に優しく出来るのだとそう生きてきた。
彼の傷ついた背中は痛みも受け入れて来た証でもある。
心を凍らせていた自分とは異なるー…。
「クライヴ、あなたが生きていて…そうしてここに居る皆が…ううん、ヴァリスゼアの人々も少しずつでも、気づいている。人が人として生きることの意味を」

私はーあなたと出会う為に生まれた。あなたと生きていく為に生きているの。
凍り付いていた心が踏み込んでくれた彼によって溶かされて。
彼女はそれを心から確信したのだ。

「…この戦いで全てが変わる訳じゃない。ひとつ確実に言えるのはー」

俺は最後まで人として生きていく。君といっしょに。

「…うん」
とんとんと布で叩いてジルがこれで終わりねと背中を拭き終えた。
ありがとうジルとクライヴが立ち上がり。
ノースリーチ付近でアカシア討伐に向かいその後イサベラの所に寄ると予定を伝えると。
ちょっとむっとした雰囲気を彼女は醸し出して。
「あら、どうしてかしら」
彼にそう詰め寄った。
「おうクライヴ、ここにいたのか…あ。」
タイミングが良いのか悪いのか探しに来たガブがばったりとこの場面に出くわす。
「…‥‥いや、俺が悪かった。すまん、続きを終えてから来てくれ」
来たかと思えば慌てて戻っていったガブとは対照的に特に慌てることもなくクライヴはジルに向き合い。
「依頼の礼に没薬と乳香を受け取る運びになっているんだ。君と拠点の女性たちへ普段からの礼として」
普段の彼と何ら変わらない調子で答えた。
「成程、ね。私も付いていくわ。しっかりと目利きをさせてもらうから」
気取らない少し挑戦的な彼女に対し。
「お手柔らかに頼むよ」
彼は笑みを浮かべてそう応じる。




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