Viola mandshurica
貴方の名前
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「…あ、瑞希ちゃん。」
「恵美ちゃん、どうしたの?」
寮暮らしを始めてまだ数日の、ある放課後。
私が廊下を歩いていたら、そわそわと扉の前を行ったり来たりしている恵美ちゃんに出会った。
「えっと…まぁ…いろいろ忘れてたのよね…」
恵美ちゃんが居るのは新聞部と書かれた部屋の前、そういえば恵美ちゃんは新聞部に入ってるんだっけ。
「…?色々?」
「…今日渡す筈の記事、とか…先輩に頼まれてたお汁粉…とかね。というか、この時期にお汁粉ってドコに売ってるのよ。」
「先輩…ってあの、寮に居た人?」
「そう!あの如何にも鬼畜眼鏡な…」
「倉田、それは誰の事だ?」
恵美ちゃんはギギギと音が出そうな程、ぎこちなく振り向いた。
その時の恵美ちゃんの顔は一瞬で血の気が引き、私に向ける視線が助けを求めていた。
「えーっと、決して日野先輩の事じゃないですよ??
「倉田。」
「ヒィィ!」
日野先輩という人は最初、ニコニコ笑っていたけど、恵美ちゃんの名前を呼んだ時の顔は明らかに怒っていた。
凍てつくって言っても良いくらい、冷めた目で見ていた。
「記事の提出日は?」
「今日です…」
日野先輩はそこまで訊くと怒った顔を止めて、溜め息を一つ吐いた。
「…明日まで待つから、必ず持ってくるように。」
「…はい。」
返事をして、ぐったりと項垂れた恵美ちゃんは、先輩に背を向け、とぼとぼと廊下を歩いていった。
「…あ、あの…先輩。」
「ん?あぁ、寮に居た…」
「はい、菅原瑞希です。」
さっきまで怒っていたから恐る恐る会釈すると、先輩は微笑んでいた。
不思議に思って首を傾げると先輩は笑いだした。
「いいよ、別に、菅原は何も悪くないだろ?」
「そ、そうですけど……」
「あ、そうだ。俺は日野貞夫。宜しく。」
「よ、宜しくお願いします…」
「じゃあ、今から部活だから。」
日野先輩は後ろ姿で手をヒラヒラと振って、新聞部室へと入っていった。
頼もしくて何でも知ってそうな…本当に『先輩』という文字が相応しい日野先輩。
そう思いながら寮に帰って、恵美ちゃんに日野先輩のことを尋ねると
「うーん、確かに見た目は良いけど…怒ると恐いのよね。」
と、苦笑いしていたから、怒らせないようにしようと思った。