Viola mandshurica
貴方の名前
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放課後、雨は既に止んでいて、いつも通り友達と帰ろうと誘ってみたけど、二人とも部活らしくて、やんわりと断られた。
そういえば…と、玲子ちゃんの方を見ると数人の女の子と楽しそうに談笑をしていたから誘えそうもなく、玲子ちゃんにバイバイと手を振って教室を出ることにした。
何気ない帰り道、でも今日から帰るのは寮なんだよね。
そう思うと、不安はあるけど楽しみでもある。
……あれ?駅までは行けるけど、どうやって帰るんだろう。
…なんて、電車に乗りながら考えていた。
「何をしているんだい?こんな所で。」
「か、風間さん…」
案の定、改札を出ると右も左も分からなく、チラシも寮に置いてきて立ち往生していると風間さんに出会った。
「えっと…寮の場所が分からなくて…」
そう言うと、風間さんはキョトンとして私をまじまじと見つめた。
「本気で言ってるのかい?」
「え、えぇ…まぁ…」
「あっはっは…なら、僕が一緒に帰ってあげるよ。」
風間さんはニタニタと笑いながら…こんなに笑われるなら他の人に出会いたかったけど、此処に居るのは風間さんだけだから、お願いします。って小声で答えた。
自身の顔がカァッと赤くなっているのが分かって余計に恥ずかしくなったけど、その後の風間さんは別段バカにしたような笑みではなかったから、もしかして優しい人なのかな、なんて思ったり、思わなかったり。
――…
「じゃあ、瑞希ちゃんは三階に住んでいるんだね。」
「はい、まぁ成り行きですけど…」
「ふぅん…綾小路と同じ階か…」
「?綾小路さんがどうかしましたか?」
「ん?何も言ってないよ。」
風間さんが何もなかった様に間の抜けた声で答える。
そんな状態でとぼけている風間さんに聞いても無駄だと何となく察して、無かったことにしておいた。
「因みに僕は203号室だから、瑞希ちゃんならいつでも来ていいんだよ?」
「は、はは…有難うございます。」
その後も他愛もない話をしながら並んで歩いて、寮が見えてくると風間さんは突然立ち止まり、手を差し出した。
「五百円。」
「?」
「何で目を丸くしてるんだい?」
「え、えっ?」
「ほら、早く。」
半ば強引に促されて、私は財布から偶然あった五百円玉を風間さんに渡した。
「ふんふん、素直な子は好きだよ、瑞希ちゃん。」
「…は、はぁ……もしかして案内料ってことですか?」
「そうだよ、君は物分りがいいね。」
風間さんは嬉しそうにポケットに五百円を入れる。
…やっぱり、風間さんはよく分からない。