短編
貴方の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
1118のデータファイル
本日は水曜日、週も半ばというところ。
ここ数日暖かいと思ってコートを持って行かなかったら寒くなりますし、母が作ってくれたお弁当は昨日の残り物だけですし、友人も部活に行ってしまいましたし、なんというか週の中弛みとでも言いますか、特に大きな出来事もないのが憂鬱な訳です。
いや、別に一人で帰るのは嫌いじゃないですよ。
…ほんとは今言ったことは割とどうでもいいことなのです。
自分は今日が何の日か分かってて、それを意識してしまうのが嫌だったのです。
時田くん達には言われました。
しかし、僕が望む人には…
だからこそ今日1日会わなかったことに落胆しているのです。
家について鞄を置いて、暫し窓を眺める。
感傷に浸りたい気分なのでしょう。
ため息が自然と出てくる。
でも、このため息は僕が期待していたからこそ出てきたものですから自分のせいなのです。
だからこそ行き場のない気持ちが僕から離れていかないのでしょう。
その時、珍しく携帯から聞き慣れない着信音が聞こえました。
珍しく思い、確認するとメールが一件。
普段はアプリを使ってやり取りをしますから、可笑しいなと思いつつ、なんとなく見てみます。
宛名は僕が登録していない人で件名はなし。
本文もなく、そこにあるのはただ1つ。
「1118」と書かれた動画ファイルだけ。
正直、そんなに怪しく思うものを見なくても良かったのですが、今日の僕は投げやりです。
開いてみることにしました。
初めは教室が見えました。
よく見慣れた僕の教室です。
『写ってるかな?』
僕の待ち焦がれた声が画面から聞こえる。
食い入る様に凝視する。
『写ってると思うよ、入って入って。』
横から聞こえるのは時田くんでしょうか?
でも、今は関係のないことです。
画面の端から恐る恐る写る菅原さん。
『えっと…荒井くん。』
『今年は特別なことしたいなって思って。』
『で、皆からビデオメッセージもらうの!そのあと編集もするけど…初めてだから下手でごめんね。』
はにかみながら言葉を続ける菅原さん。
僕の表情から筋肉がなくなったかの様に緩くなってしまいます。
『荒井くん。誕生日おめでとう!これからもよろしくね。』
そのあとは軽快な音楽と共に知り合いが誕生日のメッセージを喋る。
でも、そんなことより、これを頑張って編集した菅原さんを考えると顔に熱がこもって、そうなると僕は今、何考えてるかよく分からなくなって。
嬉しい、です。
本当に。
明日はお礼を言いましょう。
ちゃんと、直接会って。
恥ずかしくて上手く言えないかもしれませんが。
菅原さん、ありがとうございます。
そう僕は心の中で何度も練習するのでした。
3/3ページ