September
貴方の名前
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俺は歌いながら違う景色を思い出す。
ーーあれは忘れもしない、9月の夜のこと。
瑞希が彼女になった日。
正直テンパってて、恥ずかしいから俺が言ったことは思い出さないようにしている。
それに…瑞希から笑顔で『私も好きです。』って言われたらそれだけで充分だった。
今は全然会えない日が続くけどよ。
そん時は瑞希と過ごした日々を思い出す。
確かにあの時はあったんだと。
だから今も瑞希は俺の側にいるんだよなってーー
歌詞に合わせて思い出すとまるで詩みたいになっちまうから恥ずかしい。
そんなことを考えながらサビを歌ってたら、いつの間にか隣に瑞希が居た。
振り向いて顔を見たら、はにかみながら笑う瑞希。
俺も同じように笑いかけると、マイクを持っていない俺の左手に控えめに手を握ってくる。
なあ、直視できなくなるじゃねぇか。
結局歌い終わるまで手は握られたままだった。
「瑞希、どうした?」
曲が終わり、画面がアーティストとか新曲の紹介に変わっても動かない瑞希。
俺から質問すると、我に返ったように手を離して何もないと言いたげに手を振るが、そのまま見ていると小さな声で答える。
「…なんだか亮さんとお付き合いした日を思い出して。今も隣に居るのが嬉しいなって。」
やっぱり、瑞希も覚えてたんだな。
けど、それを素直に言うのは照れくせぇ。
どう返したもんだと悩んでると瑞希は笑って次の曲を選んでいる。
そして曲を入れたらしい。カラオケの画面に曲名が出る。
この時期には早いバレンタインの曲だった。
なんで今?と思いつつ、楽しそうにマイクを握る瑞希を見ると、まぁいいかという気持ちにもなる。
曲が始まり、明るいテンポについていこうと頑張って歌う瑞希が可愛い。
それに加えて歌詞の内容がやたらキスがどうとか、瑞希の目線も向けられてて、俺のことを考えて歌っているんじゃねぇかと意識するほど、心拍数が上がっていくのを感じる。
最後まで何とか表情は耐えていた。
が、歌い終わったあと、瑞希が突然抱きついて来るもんだから咄嗟に受け止めたら表情は崩れた。
いよいよ顔が一気に熱くなって絶対変な顔をしてる。
見られてないから良いけどよ…激ダサだな。
「い、いきなりだな、どうした?」
「バレンタインの予約です!」
「予約?」
何が予約なんだ?意味が分からず反射で訊くと思っていたより口籠る瑞希。
「…だ、だから、バレンタインも…これからも亮さんの隣は私ってことで予約しました!」
腕の中では、顔を真っ赤にして見上げる瑞希。
会えない日もテニスを頑張りたい俺の気持ちを優先して応援してくれる、でもちゃんと好きでいることを証明するかのように寂しがる瑞希。
悪いなと思いつつ、どっちの気持ちも嬉しかった。
そんな瑞希が、目の前で真っ直ぐ俺を求めてくる。
いつもはこんなこと言わねぇが、今だけは俺も瑞希の気持ちに甘えてみる。
「予約じゃなくて、今もらえねぇのか?」
「今?チョコをですか?」
「いいや。…瞳をつぶってあげちゃうんだろ?」
「え?え?」
「さっき歌ってたじゃねぇか。」
「……あ!いや、ちがっ」
あんだけ歌っといて歌詞の方は意識してなかったのか、腕から抜け出そうとする瑞希。
でも今度は俺が離さない。
そしたら逃げるのは諦めた様だが、顔は隠そうとしている。
あまりにも可愛くて、からかいたい気持ちにもなってくる。
「くれるんじゃねぇのか?」
「だ、だから…予約なんですってば。」
「もちろん、バレンタインも予約したぜ。………で?今は?」
そんな心配しなくても、これからも隣に居るのは瑞希だからよ。
「…瑞希。」
「………覚えててくださいね?」
「忘れねぇって。だから、ほら。」
俺の言葉を聞いた瑞希はこちらを暫く見つめてから、わざとらしく瞳を閉じた。
→後書き