September
貴方の名前
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遠くに聞こえる電話の呼び出し音。
布団から手を出すと寒さを実感し一瞬で引っ込める。
しかし電話の呼び出し音は続いている。
少しずつ手を出して音を頼りに携帯を手繰り寄せ、よく見ずに青いボタンを押す。
「ふぁい…」
『遅くなって悪ぃ。』
「亮…さん?」
『…眠そうだな。もしかして、起こしちまったか?』
夢かと思ったけど、本物の亮さんの声が聞こえてくる。
すぐにベッドから飛び起きて姿勢を正す。
「え!あ、いえ!もうすぐ寝ようかなって思ってた所ですけど起きてましたよ。」
『あー…そうか、もう寝るなら今度にす「全然、起きてますってばー!」…ハハ、そうみたいだな。』
練習して疲れているはずなのに、それでも電話をかけてもらえたのだから少しでも長く話したい。
飛び出して捲れた布団を羽織りながら、亮さんの声を聞き漏らさまいと耳元にしっかりと携帯をくっつける。
亮さんは笑っているようで、ほっと胸を撫で下ろす。
『今度の休み遊びに行かないか?』
「行きます!」
『即答だな。』
「だって会いたいですから。」
『………それは、俺もだぜ。』
勢いで言ってしまったけど、やや間が空いてから答えてくれる亮さん。
すごく嬉しいのになんだか恥ずかしくなって、つい余計なことまで言ってしまう。
「わ、私の方がもっと会いたいんです!」
『ハハハ、なんで張り合うんだ。比べなくて良いだろ?』
「だって伝わってなさそうですもん!本当はもっと一緒に居たいですよ。」
『そう、だな…もっと時間作るようにするから。』
「あ、ごめんなさい!そういう気持ちってだけで…」
亮さんはいつも優しい。寂しくないようにメッセージをしてくれたり、今日だって電話をくれたり。
私だって好きって気持ちはあるけど、迷惑をかけたい訳じゃないから向こうの時間が読めない電話はしない。
それを冷めてるって思われたくなくて段々と言葉が強くなってしまった。
『謝らないでくれ、瑞希。……そんなに思ってくれてありがとよ。』
「亮さん…。」
少し声が沈んだ後に優しく宥めてくれるような返事。
寂しいことをこんな形で言うつもりなんてなかったのに。
寧ろ頑張ってる亮さんを支えるのが彼女のはずなのに。
「でも、だから、その分楽しみですよ!」
咄嗟にフォロー出来なくて、変な空元気で喋り出してしまう私の口。
『…ああ、そうだな。ところで、瑞希の行きたいところはあるか?』
相槌の後は明るく聞いてくれる。
気遣ってくれる亮さんに自分も合わせなきゃと、いつも通りを意識する。
「うーん…ビリヤード、とか?」
『いいぜ。』
「あ、やっぱり…カラオケ!」
『構わねぇけど、なんか俺が好きなトコばっかだな。』
「だって、好きなことしてる亮さんカッコ良くて大好きです。」
なんだかすごく積極的だ。
きっと、亮さんを落ち込ませたことを少しでも取り返したいのかも。
それが言葉だけで解決するなら、このモヤモヤも無くなるのにな。
亮さんの方はといえば、返事が無いまま少し顔を離したのか遠くで息を吐く音が聞こえる。
そして少し間が空いてから息を吸う音が聞こえた。
もしかしてまた困らせてしまったかな?
『まあ瑞希が行きたいなら、俺はいいけどよ。』
「はい!」
困らせた訳ではなさそうで安心する。
その後は待ち合わせも決めて、少しだけお喋りをする。
楽しい時間は本当に無情で一瞬で時を動かす。
夢中になっている途中で亮さんが時計を見たのか『おっと、』と会話が途切れる。
『…そろそろ寝ないとな。また連絡する。』
「はい、また楽しみにしてます!じゃあ…おやすみなさい。」
『ああ、おやすみ。』
そのまま全身の力が抜けてベットに倒れ込む。
「おやすみ」の挨拶は寂しいけど、いつもすごく優しく言ってくれるから好きな言葉だったのに、今日は気持ちが晴れなかった。
今度会った時はちゃんと亮さんを支えれる彼女でいよう。
そう思って布団を深く被りなおした。
デート当日。
カラオケの受付を済ませて、飲み物も入れてから部屋に入り、向かい合わせで座る。
本当は少しでも近い隣に座ろうかなって思ったけど、歌っている姿も見たかったし、曲を選ぶ時に私が見てても気付かれないからこっちで良かった、なんて思っちゃう。
最初の方はお互いが知ってそうな曲を選んでたけど、亮さんは洋楽を聞いてることが多かったし好きな曲を歌ってほしいってお願いしてみる。
亮さんは「わかんねぇだろ?」って笑いつつ、私のリクエスト通り曲を探してくれているみたいだった。
実際、曲名も分からなければ曲自体も初めて聴いて、歌詞を読もうとしても和訳するまでに流れてしまう。
でも…生き生きと歌う姿に爽やかな声がとてもカッコいい。
そんなこと出会った時から分かってるけど、改めて見惚れてしまう。
このままずっと聴いていたい。
見つめていると、亮さんがこちらを向いてくる。
いつの間にか曲が終わっていたらしい。
何か考える前に拍手が勝手に出てくる。
そうしたら亮さんは耳の裏を掻きながら
「やめろよ、照れるじゃねぇか。」
って言うけど、本当に拍手したいぐらいカッコよかったのだから仕方ない。
「次も洋楽がいいです!」
「ハハ、気に入ったみてぇだな。けど次は瑞希の番だぜ。」
「もう一回だけ!お願いします!」
「……ったく。そのあとは交代だからな。」
「はーい!」
また聴けることで上機嫌になる私。
わがまま言ったかなって一瞬考えたけど、亮さんも笑顔で曲を選んでるからホッとする。
亮さんが操作していると画面に曲名の表示が出てきた。
意味は「9月」だけど、曲名だけでは分からない。
でも、私のお願いを叶えてくれたことだけは亮さんの顔を見たら分かる。
「やった!ありがとうございます!」
「あんま期待すんなよ。」
亮さんが優しい表情で答えてくれる。
そして次の曲が流れ出す。
さっきよりもテンポはゆっくりに感じる…と思ったら段々盛り上がってくるので私も少しリズムに乗る。
歌詞も読みやすい文章で前の曲より分かりそうだった。
出だしは「覚えているか?」から。
そのあとは「9月の夜のこと」かな?
ーー9月の夜っていったら、亮さんと…恋人になった日を思い出す。
あの日はお互い凄く緊張してた。
両想いだったって今なら分かるけど、亮さんに告白されるまで分からなかったし、聞いたって現実感なくて、とてもフワフワしていた。
『頑張ってるお前を見ると、俺はもっと頑張れる。』
『付き合ってくれねぇか。』
『当たり前だろ……好きなんだからよ。』
亮さんの言葉がアルバムのように思い出してくるーー
あの日みたいに近くに居たくて、向かい合わせから隣に移動する。
すぐには気付かれなかったけど、サビで気づいたらしい亮さんが笑いかけてくれる。
嬉しくなって、離したくなくて、手を繋ぐ。
そうすると歌いながらそっぽを向く亮さんは耳がどんどん赤くなって。
会えない日はあるけど、私たちはちゃんと今まで過ごした日も大事に抱えている。
これから増えていく思い出も亮さんが隣に居てくださいね。
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