雨に溶ける呼吸
貴方の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はぁ…部活終わっても雨降ってんじゃん。
分厚い雲とおんなじくらい重い溜め息が出る。
置き傘もこの前使っちまったし、今日は濡れて帰るしかねーか。
って諦めて靴を履き替えていたら、前の方に傘をさして帰ろうとしている柳先輩。
そして俺が声をかけようとするタイミングで振り返る先輩。
咄嗟に手を振って居る場所をアピールする。
「柳センパーイ!入れてくださいよー!」
先輩がコッチに戻ってきてラッキーって思ってたら段々遅くなって上を見てる。
つられて空を見てみても晴れる感じはしないし、何見てんだろ。
「上見てどうしたんすか?」
「ああ、悪い。…赤也、これは貸そう」
「へっ?」
入れてもらえたら〜なんて思ってたけど傘を借りるのは……柳先輩の方を見るとお見通しらしく少し笑う。
「忘れ物をしてな。もう一つあるから気にしなくていい」
「そうっスか…?じゃ、ありがとうございます!」
柳先輩が忘れ物…?めずらしーって思いながら受け取ると、早足で立ち去る先輩。
でも忘れ物を取りに行くにしては、機嫌がいいように見える…よな?
「あーかーや!」
「おわっ!」
肩を突然叩かれて思わず大きな声が出る。
振り返ると笑顔の瑞希。
「傘に入れて?」
「いきなりそれかよ」
確かに瑞希は幼なじみだし家は近いけど、だからって遠慮なさすぎじゃね?
「このとおーり!お願い!」
瑞希は両手を勢いよく合わせて少し上目遣いで頼んでくる。
いや、身長差があるからそうなるって分かってるけど……いつもこっちばっかりドキッとするからずりぃよな。
「っていうか、俺も柳先輩から借りて…」
「えっ!柳先輩に?じゃ、今度お礼言いに行かないと!」
そういうと目を輝かす瑞希にモヤっとする。
「言っとくけど、入れてやるのは俺だからな!」
先に傘を広げて外に出ようとすると、慌ててついてくる瑞希。
勢いよく入ってきたからかなり近くて、当たった腕が熱く感じる。
「分かってるって、ありがと!」
この笑顔で許そうって思っちまうんだから、ホントにずりぃ。
「…ていうか、こんな時間まで何してんの?」
部活って言ってもテニス部より遅いことねぇし。
そう思って瑞希を見たらキョトンとした顔から少し慌てて、
「あー………雨、降ってるなーって」
変な瑞希。
それって止むまで待ってる気?
「じゃあ、一生帰れねぇじゃん」
「でも…赤也居たし」
なんだよそれ、なんか嬉しいって思うの悔しいじゃん。
「まぁ俺って優しいし?」
「自分で言わなかったらかっこいいのにね」
「え、いつもはカッコいいって?」
って、冗談を言うと、
「それ、は、まあ…かっこいいよ」
いつもは適当に返事して笑い話にする瑞希が真面目そうに返事をするとホント調子狂う。
俺は、つい目を逸らして傘の持ち手を掴み直す。
その後は、ずーっと無言
顔さえ合わせれば憎まれ口を叩くような仲なのに、今日の瑞希は変、つーか俺も変。
いや、俺は好きだって気づいてからずっと変だから今に始まったことじゃねえけど。
折角の相合い傘もほとんど無言で、もう家についちまう。
なんか話題を振らねぇと、少しでも長く。
「…そーいや、貸した漫画どこまでいった?」
「あ、そうだった!返すからちょっと待って!」
立ち止まってカバンを開けだす瑞希に、俺も立ち止まって傘を傾けてカバンが濡れないようにする。
いや、成功したけどムードも何もなさすぎ…
ドサッ
濡れた地面に瑞希のカバンから何かが落ちる。
慌てる瑞希の顔的に濡らしたらヤバいのかと、傘を持った手を頑張って維持しながら屈んで手を伸ばす。
とりあえず拾いあげてみると折り畳み傘だったから、そんな慌てなくていいじゃんって思ったけど…
「え?」
傘持ってんじゃん。
ワケ分かんなくて瑞希の方を見ると、明らか視線を逸らしている。
え、何この反応。
「あれだ、俺と相合い傘したかったとか?」
「………」
「え、図星?」
「………」
なんかマジっぽくて言い出した俺が気まずくなる。
「あー…わかった、俺のこと好きとか?」
明らか冗談っぽく言っても否定せずに顔を手で覆って、見たことないぐらい恥ずかしがってる瑞希。
…いや、マジじゃん。それって俺たち両想いってことでいいよな?
「……あ、赤也は…?」
か細い瑞希の声。
改めて聞かれると俺も照れくさくなってくる。
そりゃ…もちろん、
「好き、だけど」
今、絶対俺の顔赤い。
だって顔が熱すぎて雨に濡れたい、冷やしたいくらい。
俺の返事を聞いて、顔を覆っていた手をゆっくり外す瑞希。
そのまま見つめあっていると、瑞希が俺の腕をそっと掴む。
驚いて固まっていると顔を近づけてくる。
「なっ!?」
いやいや、流石に早いって!
思わず目を閉じると、頬に感触が伝わってくる。
咄嗟の出来事に息もできず、雨音だけが周りに響く。
そして掴まれていた腕が解放される。
頬を触って瑞希を見ると、今までの幼なじみからはちょっと違う顔…と、思ったらいつものイタズラっぽい笑みに変わる。
「私も好き」
ストレートな言葉が一番ドキッとする。
それにしても…さっき顔を覆っててわからなかったけど、もう平気そうな瑞希。
「なんか、俺ばっかやられっぱなしな感じ…」
「え?どういうこと?」
「お前…ホントに俺のこと好きなワケ?」
「ホントだけど…?」
「何そのヨユーそうな返事!」
その言葉に瑞希は、あははと笑い声をあげる。
「だって、赤也わかりやすいもん。」
「なんだよ、俺が好きだったってバレてたってこと!?」
また瑞希は声を出して笑う。
てか、そうやってすぐバカにするトコ!
こういうトコ見ると、ぜってぇ仕返ししてやりたくなる。
「瑞希」
真面目な顔で声をかけると今まで笑っていた瑞希が、不思議そうに俺を見る。
そして腕を掴むと、今度は瑞希の顔がみるみる赤くなっていくのがちゃんと分かる。
俺がやられっぱなしじゃないとこ、見せねえとな。
傘を深く下げて俺達だけがお互いの顔を見れるようにする。
そして、今度は俺から。
また雨の中に呼吸の音が溶けていく。
→後書き