職権乱用⁉︎
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私が通う氷帝学園中等部は個性的な人で多く溢れている。その中でも群を抜いているのが男子テニス部レギュラー陣だ。部長の跡部君は生徒会長も務めているし、たくさんのメス猫……コホン、もといファンクラブが結成されているくらいの人気振り。容姿端麗な上に文武両道。そこに加えてお金持ちときたらモテない方がおかしい。まぁ、氷帝の生徒はお金持ちな人が多いけど中には一般人も居るわ、け
「長ーい説明文は一気に読む気が失せてまうもんや。あっ、俺の実体験に基づいとるから信憑性は高いで」
「わっ!?お、忍足君ってば神出鬼没過ぎるよ。それに耳元で囁くのは禁止だって言ってるのに!」
熱くなった耳元を手で押さえながら忍足君に抗議しても笑って誤魔化されてしまう。
「ハハッ、堪忍な。葉月ちゃんの反応が可愛過ぎるからつい止められんくて」
「だ、だからそう言う軽口を叩くの、も」
「忍足君、また君ですか!!青空君が困っているでしょう」
何処から駆け付けたのか分からない氷上君が私と忍足君の間に割って入る。よく通る声だな、なんて呑気な事を考えていたら先程までの火照りもいつしか消えていた。
「いやいや、これも一種のコミュニケーションの取り方やで。今度自分も試して、み」
「僕は所構わずそんな真似をするつもりはないよ。それに君の場合は不特定多数の女性に誤解を招、く」
「そんなアテにならん話を出さんといてくれるか。俺は自分の興味ある子、好意を寄せとる子にしか茶々入れへんわ」
いつにも増してヒートアップしていた二人。その口論の最中で発せられた忍足君の言葉に再び私の心臓が跳ね上がってしまう。氷上君の言う通り、忍足君は無意識の内に女の子の心を鷲掴んでいる気がするよ。こう言うのを天然のたらし、プレイボーイって呼ぶんだろうな。
「だから君のその軽はずみな言動のせいで現に青空君が被害を受けているじゃないか!ほらっ、こんなに顔を真っ赤に染めているぞ」
「えっ、いや、その、これは!?」
氷上君に悪気がないって言うのは十々承知しているけど、こう言う時は敢えて気付かないフリをして貰いたい。更に体温が上がってしまった私は俯いて顔を隠す。まともに返事もできないし。
「……ハァー、自分はホンマに女の子の扱いが分かってへんな。文句があるんは俺に対してだけやろ?葉月ちゃんはこの場から解放したっても問題ないと」
「た、確かに青空君がこの場に留まる理由はないね」
「ほしたら葉月ちゃんは自分のクラスにでも戻ったらえぇ。氷上の相手は俺がしとくから気にせんといてな」
「えっと、じゃあ……お言葉に甘えて」
二人にペコリと頭を下げてからその場を後にしていく。少しでも早くトイレに逃げ込みたくて駆け足になってしまったら背中に氷上君の小言を受ける。
「青空君、廊下を走ってはいけないよ!」
「その原因を作ったんは自分やろ。葉月ちゃんの分も俺が纏めて聞いたるわ」
「事の発端は忍足君な気もするけど」と心の中でツッコミながら今度こそその場を後にした。
放課後になり、宿題をする為に図書室へと足を向ける。家に帰ってからだと誘惑が多過ぎて無事に宿題を終わらせる自信がないから。ただ、図書室って忍足君と氷上君との遭遇率も高いんだよね。今日の今日で顔を合わせるのは気まずいし……よしっ、今日は図書室じゃなくて、都立図書館まで足を伸ばすことにしよう。そう思って向きを変えた瞬間に飛び込んできたのは忍足君の姿。
「1日にこうして何度も会えるやなんて運命を感じへん?」
「同じ学校に通ってたら珍しい事じゃないでしょう……そう言うところが氷上君の反感を買うんだよ」
「葉月ちゃんも俺の事を氷上みたいに思とるん?不特定多数の女子に誤解を招かせとるとか」
いつもの飄々とした忍足君と違って寂しそうな目をしている。何て言うんだろう、捨てられた子犬みたいって表現をしたらいいのかな。
「いや、そこまでは思ってないよ!?でも、私と会う度にナンパな台詞ばかり言ってくるのは事実じゃない。私だっていい加減心臓が持たないって言うか、……ゴニョゴニョ」
最後の方は上手く言葉にできなかった。その瞬間に忍足君の目の奥が怪しく光ったのを眼鏡越しでも確認する。それと同時に私の頬へと伸ばされた忍足君の大きな掌。
「それってつまり、葉月ちゃんが俺の事を意識してくれとる証拠やんな。ほしたら……もっと俺の事を考えてドキドキして貰いたいわ」
いや、だから、その低音ボイスとか独特な間合いとか全てが計算し尽くされているよね。恐らくはさっきの寂しそうな表情も作戦だったんだ。忍足君ってば私をからかって何がそんなに楽しいんだろう。
「お、忍足君、わた」
「き、君達は一体何をしているんだい!?……いや、青空君は被害者なんだろうね」
どうしていつもこうタイミング良く氷上君が助けに現れるのか。上擦った声と共にズレた眼鏡を指で押し上げながら私達の間に割って入って来る氷上君にデジャヴを覚える。……そりゃそうだよね、本日2度目だもの。ただ、この時の氷上君はいつもより険しい顔をしていて、すぐに私の頬から忍足君の手を払い除けていた。
「ヘェー、自分でもそない怖い顔をする事があんねや。意外やったわ」
「君には日本語が通じないのかな。いや、記憶力の問題かもしれないね」
氷上君がこんな意地悪を言うなんて珍しい。いくら鈍感な私だって二人の間に見えない火花が散っている事くらいは分かる。昼間みたいに逃げ出すなんてできない状況だ。
「あ、あのさ……これから三人で勉強会しない!!」
このままではマズイと思っていたのは本当。だからって口をついて出たのが勉強会って言うのは如何なものだろうか。あの二人が言葉を失っているくらいだしね。あー、この沈黙が一番辛い!!そう思っていたら忍足君が私の頭にポンッと手を乗せてくる。
「ホンマ葉月ちゃんと居ったら退屈せんわ。えぇよ、この面子で勉強会しよか」
この時に見せてくれた忍足君の笑顔は作りものじゃない、心からのものだったと思ってもいいのかな。どうしよう、またドキドキしてきちゃったんですけど。私ってばすっかり忍足君に振り回されちゃってる。そんな私の頭に乗せられた忍足君の手首を掴む氷上君も今度は怖い顔をしていなかった。
「ハァー、君のこの手の早さはどうしようもないみたいだね」
隠そうともしない大きな溜め息からは氷上君の諦めにも近いものが感じ取れる。こんな氷上君の姿を見るのは珍しいな。
「葉月ちゃん限定ってとこは強調しておくわ」
「も、もうっ!?さ、先に図書室に行ってるからね!!」
器用に片目を閉じる忍足君から顔を背けると結局は元来た道へと足を踏み出していく。私ってば本当に何をしているんだろう。こんな気持ちのままで宿題に身なんて入るわけがないよ。頭の中がごちゃごちゃしたまま図書室へ着くと私を真ん中にして左右に二人が席を取る。いやいや、余計に集中できないから!!
「あ、あの、私が向かい側の席に移動し」
「そんな事はしなくて良いよ。それよりも早いところ勉強会とやらを始めようじゃないか」
浮かびかけた腰を強引に戻されて机の上には筆記用具にノート、教科書が広げられていく。私も観念して元々やるつもりだった数学のプリントを鞄から取り出す。
「成る程な、葉月ちゃんのクラスは俺等より少し遅れとるみたいやね」
「2次方程式か……これなら簡単にできるよ」
両サイドから顔を覗き込ませてくる二人には数学のプリントしか目に入っていない様子。でもね、私には四方八方から羨望の眼差しが突き刺さっているんだよ。勉強会をしようって言い出したのも、図書室にこの二人と来たのも私の失敗だったかもしれない。
「や、やっぱり家に帰って一人で頑張っ」
「周囲なんて気にせんとき」
再び上がりかけた私の腰を沈ませていたのは忍足君。私の肩にそっと手を掛けて耳元で囁いてくる。氷上君はすっかりプリントの問題に夢中になっていて気が付いていないし。
「……うん、ここをこうしてこうすれば分かりやすくなるね。青空君、この問題だけど」
「えっ、うん……あれっ、分かりやすい!?こんな解き方があったんだ!!」
思わず大きな声を出してしまえば先程とはまた違う冷たい視線が突き刺さってきた。すぐに頭を何度も下げて謝ると笑いを堪えている忍足君が次の問題を指で叩く。
「ほしたらこの調子で進めてみよか」
「分からない時は遠慮なく聞いてくれて構わないからね」
氷上君も優しく笑いかけてきてくれたし……よーしっ、今は宿題を解く事だけに集中しよう!!気持ちを切り替えてからは分からない問題が出てくると素直に氷上君や忍足君に教えて貰いながら進めていった。そのお陰で無事に宿題も全部解き終える事ができて。
「……あれっ、まだこんな時間?いつもならもっと時間が掛かるし、何問かは解けないままだったりするんだよね」
掛け時計に目をやると思っていたよりも時間が進んでいなかった事に驚きを覚える。
「その浮いた時間でこれから俺とデートで」
「時間はもっと大切に使った方が良いよ、青空君」
忍足君の言葉を遮る氷上君にはまたしても刺々しさが滲み出ている。せっかく鎮火したと思った火花がまた再燃しかけちゃってるよ。
「そ、それじゃあ今日のところはこれにて解散って事でどうかな」
今日はいつにも増して濃い1日だったし少し疲れちゃったからね。家に帰ってのんびりとココアでも飲んで一息つきたいのが本音だし。そんな気持ちも込めて提案してみると。
「せやな……じゃあ今日は大人しく帰るとするわ。氷上、葉月ちゃんの事は俺が送っていくからお疲れさん」
「えっと、忍足君???」
あれっ、私何かおかしな事を言ったかな。今日はこのまま解散って、各々で帰路に着きましょうって意味だったんだけど。それに肩に回されている忍足君の腕がもの凄く気になるんですけど。氷上君じゃないけど、忍足君の手の早さを改めて感じちゃう。
「忍足君っ!!まずはその腕を青空君から離して貰うよ。第二に、君の家は青空君と反対方向だった筈だね。そんな非効率的な行為を推奨できないな」
待って待って待って!?忍足君の腕が外されたと思ったら今度は氷上君の手が肩に掛かってきたんですけど。これってどう言う状況なのか頭が追い付いていかないよ。
「ほしたら俺からも二つ。まず、その手は目障りやから退けさせて貰うわ。次に、葉月ちゃん家に行くんが非効率って決め付けんでくれるか。俺にとっては少し遠回りになるだけの散歩、体力作りになるって言い方もできるやろ」
忍足君が本気で怒っている姿を間近で見るのは初めてかもしれない。氷上君の手首を掴む手に力が込められているのが分かるし、目付きがいつもとまるで違う。氷みたいに冷たい視線が氷上君へと向けられている。
「ね、ねぇ、二人とも止めてよ。どうしていつもすぐにケンカしちゃうの」
気が付いたら勝手に涙が溢れてしまっていた。本当は二人とも優しい人だって知っているから余計に悲しくなる。
「い、いや、青空君、僕達は別にケンカなんてしていないよ!?」
「そ、そうやで、葉月ちゃん!?怖い思いさせてもうたみたいで堪忍な」
忍足君はすぐに氷上君の手首を離して私へと向き直り両手を上げて見せた。氷上君は氷上君で慌ててポケットからハンカチを取り出して私へと差し出してくる。こんなに狼狽えている二人を見たのは初めてかもしれない。
「グスッ……じゃあ、もうケンカをしないって約束してくれる?」
氷上君から受け取ったハンカチで目元を拭いながら二人をジーッと見つめて問いただす。
「青空君、だから僕達は元々ケンカなんてしてい」
「葉月ちゃんを泣かせるような言い合いにまではならんように努力する。これじゃあまだアカン?」
私の言い分を否定するでもなく、適当に安請け合いをするでもない忍足君の返事に誠意を覚える。それに、忍足君のゆっくりとした優しい声も私の心を大分落ち着かせてくれたから。
「……うん、分かった。それじゃあ今日は途中までは三人で帰ろう。忍足君に遠回りさせちゃうのは私も申し訳ないからさ」
今度は忍足君も氷上君も私の提案に黙って頷いてくれた。
「調べものをしたい時は専門書を豊富に揃えてある✕✕✕書店、小説を目的とするなら△△書店がオススメだよ」
「成る程な、△△書店は行った事がなかったら今度寄ってみるわ。けど、書店だけなやくて図書館を利用するんもえぇもんやで。〇〇図書館なんかは……」
三人でこうして他愛もない話をしながら歩いて帰るなんて今までなら想像すらできなかったな。この二人も仲良くなれる要素はたくさんありそうだし。あんな風に言い合いをするよりもこうやって笑い合ってて貰いたい。
「二人とも読書家って言う共通点にもっと早く気が付いてたら仲良くなれていたのにね」
今からでもまだ遅くないよって意味も込めて発した言葉だったんだけど二人とも顔を見合わせて苦笑いを浮かべている。一体どうしてだろう、さっきまであんなにいい雰囲気だったのに。私がまた余計な事を言っちゃったのかな。
「……アカン、タイムオーバーや。俺ん家はこっちやから後は氷上に頼むわ。送り狼にだけはならんといてな」
「そんな訳ないだろう!!全く、君は最後まで失礼な人だな」
最後まで忍足君は忍足君らしく氷上君をからかって遊んでいた。氷上君も受け流すって事を知らないからな。でも、さっき浮かべていた苦笑が二人から消えていたので安心できる。これがいつも通り、ある意味仲良しなのかもしれないよね。そうやって自分に都合の良いように考えてしまう。
「ほしたら葉月ちゃん、明日また学校でな」
手をヒラヒラと振る忍足君と別れて氷上君と二人で歩き出す。時折振り返って確認すると忍足君はまだその場に居て私達を見送っている。
「ね、ねぇ、氷上君、やっぱり忍足君も一緒に」
「そうやって甘やかすのは君の悪い癖だよ」
その場に立ち止まってしまった私とは裏腹に歩みを止めようとしない氷上君。私がすぐにその後を追えずにいると氷上君が振り返ってきて。
「……僕だって君を一人占めしたいんだ」
まただ。時折見せる、寂しそうでいて辛そうな表情の氷上君。ただ、いつもと違うのは氷上君の発した言葉の衝撃の大きさだ。
「ひ、氷上君ってば何言ってるの!?それじゃあまるでいつもの忍足君みた」
「彼と一緒にしないでくれ!!……いや、忍足君の青空君に対する気持ちも本当だって知っているよ。今までは認めたくなかっただけなんだ」
自分の掌を強く握り締めて黙り込んでしまった氷上君に掛ける言葉が見つからない。でも、このままここに留まっていたら忍足君に変に思われちゃうよね。さっき氷上君に言われた言葉が胸に突き刺さる。
『……僕だって君を一人占めしたいんだ』
今は氷上君のその気持ちを尊重してあげたいと思ったから歩き出す。あっという間に氷上君を追い越せばさっきと立場が逆転する。
「このままここに立ち止まっていたら忍足君が追いかけてきちゃうかもしれないよ」
「そ、それは困るよ!?青空君、少しスピードを上げよう」
振り返ってそう脅すと氷上君はすぐに慌てて動き出したものの、私の手を掴んでくる事までは想定外だった。それに早足で歩かれると歩幅の違いから足がもつれてしまいそうになる。
「ひ、氷上君、そこまで慌てる必要はないって!?だからもう少しスピードを落としてくれない。このままだと躓いちゃうよ」
「あっ、す、すまない!!君への配慮が欠けていたね」
私が懇願するとすぐに足を止めて頭を垂れる氷上君。勢い余った私はそのまま氷上君の背中へと顔を埋めてしまった。
「ブッ!?」
「青空君っ!?大丈夫かい、ケガをしてい」
「フフッ……アハハッ、もう、氷上君ってばおっかしー!!」
手を離したかと思えばすぐに私の両肩に手を置いて顔を覗き込んできた氷上君。その顔はこの世の終わりとでも言うように顔面蒼白だった。それだけ私の心配をしてくれたと言う事だろう。でも、私はそんな氷上君を見て笑うのを堪える事ができなかった。だって、こんなに自分に正直な人ってそうそう居ないと思うから。
「青空君、一体どうしたんだい?まさか頭の打ちどころが悪かっ」
「違う違う、私なら大丈夫だよ。どこもケガなんてしてないしね」
余計に不安そうな表情を浮かべる氷上君に両手を振って否定して見せる。それでもまだ疑わしそうにジーッと私を見つめてくるものだから「ほらほら」と言って肩を回すと、氷上君も呆れたように溜め息を一つ零してようやく納得してくれた。
「フゥー……君は本当に変わっているね」
「そうかな?私は新しい氷上君を知れて良かったよ」
「新しい僕?」
氷上君の問いかけを背中に受けながら再び歩き出すと氷上君もすぐに隣へと並ぶ。
「そう。今までは氷上君って真面目で気難しい人だなって思っていたから」
「それはまだ答えになっていないよ」
「短気は損気だよ。氷上君は……とても素直で不器用な人なんだって事がよく分かった」
「それは本人を目の前にして言うべき台詞とは思え」
「前よりも氷上君と近付けた気がする。親しみやすく感じられたって言えばいいのかな?」
氷上君の言葉を遮ってそう伝えると薄闇の中でも分かるくらいに頬を赤く染めていた。
「青空君、そ、そのような発言はご、誤解を招き兼ねないよ!?これも忍足君の悪い影響かもしれないな」
「そう言えば前からずっと気になっていたんだけど、氷上君は忍足君に対して当たりが強いのは何で?」
「そんな事はないだろう。僕は風紀委員として当然の」
「風紀委員として取り締まるなら忍足君よりも他の人に目がいくべきだと思うけど。特にテニス部の他の人達なんかは……」
次々に事例を上げていけば氷上君も降参したと言うように眉尻を下げてくる。
「……僕の完敗だ。君の言う通りだよ。僕は忍足君に対して私情を挟んでいた。嫉妬、していたんだろうね」
「氷上君が忍足君に嫉妬していたなんてどう言う意味?氷上君だって十分に魅力的で」
「青空君、上を見てご覧。東京ではあまり星が綺麗に見えないだろう」
急に話をすり替えるなんて氷上君らしくない。でも、今は黙って言われた通りに夜空を見上げていよう。
「ただ、毎年クリスマスパーティーが開かれる別荘地では星空が綺麗に見えるんだよ。冬の冷たい空気も相まってね」
「そうだったんだ。今まで意識した事なかったからな。勿体無い事をしてたかもしれないね」
「それじゃあ今年のクリスマスパーティーでは僕から青空君に一つのプレゼントを贈ると約束するよ」
「クリスマスのプレゼントだなんて気がはや」
「僕の青空君へ対する気持ちさ。もうこれ以上忍足君にリードされるわけにはいかないからね……冬のダイヤモンドを君に贈るよ」
ちょ、ちょっと待って。そ、それって一体どんな意味があるのよ。忍足君が言うならいつもの冗談だと思って聞き流す事もできたかもしれないのに。それに氷上君って意外とロマンチストだったんだ。こんなギャップは心臓に悪いって。タイミングを逃して空を見上げたままの姿勢で首が痛くなってきたし。でも、今顔を戻したら真っ赤に染まっているのがバレちゃうしな。
「フッ、どうやらやっと僕の事も意識してくれたみたいだね。まずは一歩前進ってところかな」
あちゃー、既に顔が赤いのはバレバレだったって事か。それならこれ以上我慢している必要はないし顔を戻そう。視線に入った先の氷上君は今までに見た事のない優しい笑顔を浮かべていた。思わず胸が弾んでしまう。
「さぁ、それじゃあ帰ろうか。あまり遅くなるとご両親が心配されるよ」
そう言うとごく自然の事のように私の手を掴んで歩き出す。お願いだからもうこれ以上心臓を刺激しないでよ。この鼓動が氷上君に聞こえてるんじゃないかって気が気じゃなくなる。
「ねぇ、氷上君、こ、この手は」
「僕も少しだけ忍足君を見習う事にしただけさ。自分の気持ちに素直になろうってね。今までの忍足君の行動を省みればこの位しても許される筈だよ」
「そうじゃなくて、私が言いたいのは……こんな事をされたら私だって流石に勘違いしちゃ」
「僕は好きでもない女性にこんな真似をしないよ。それが青空君への答えだ」
そんな清々しい顔をして言われてもこっちは頭がパニックだって。忍足君以上に私の平穏を奪う伏兵の登場にこれからも振り回されていくに違いない。でも、繋がれた手を強引に解く気にはなれなかった。
→御礼