幼なじみの恋に/5題
貴方の名前
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無意識じゃいられない
たるんどる。
小さい頃から彼に会えばことごとく言われる一言。
でも、別にたるんでない。
遅刻しないし、宿題はちゃんとするし、勉強中も真面目だし。
「宿題を忘れるとはたるんどる!!」
まぁ、たまに持ってくるのを忘れちゃうけど。
「どうして持ってくるのを忘れてしまうんだ。」
「うーん、机で勉強するからかな。」
「答えになっていない!」
「宿題終わったーって達成感からかも。」
「まったく、どうしてお前はいつも抜けているのだ。」
弦一郎が呆れてらっしゃる。
でも、そんな弦一郎の弱点を知っている。
「………ごめんね。」
そう、ポイントは少し俯くこと。
「…そこまで怒っていないだろう。」
そうすると弦一郎は、困ってしまい態度が柔らかくなる。
「次から気を付けるね…?」
そして俯きからの見上げる。
「……今回のことはもういい、俺も…」
「弦一郎。瑞希、反省していないよ。」
ただ、欠点がある。
精市には誤魔化してるのがバレてしまう。
そうすると顔が一変、まるで鬼の様に恐い弦一郎に小一時間怒られる。
因みに後輩の赤也君にも教えてあげたけど、全然効かなかったらしい。
一緒に怒られた。
放課後、花壇近くのベンチ。
精市が隣にいるのもお構い無しに私はため息をこぼす。
精市は少しだけ私に顔を向ける。
「弦一郎が最近厳しすぎるんだと思うんだけど。」
弦一郎と精市とは幼なじみで自然に仲良くなった。
なので、必然的に弦一郎に叱られるのを精市が見る所までがセットになっている。
最初は自分も忘れっぽいのを直そうと努力してみたけど、一生懸命書いたメモを忘れちゃうとか、手に書こうとか思った時に限って黒ペン忘れたり…一向に直らなくて怒られる度に自分という人を否定されてるようで悲しくて今では反射的に反抗してしまう。
自然と心が重くなって、俯く。
「弦一郎も不器用だよね。」
精市は苦笑いを浮かべる。
「不器用って?」
「瑞希のこと気になって仕方ないってこと。」
「そんなに目立つ?」
「んー、そういうことじゃないけど。」
「ふーん?」
精市の言いたいことが分からず、曖昧に言葉を返す。
少しの無言が続く。
「でもさ、最近、弦一郎笑ってくれないし……私って一緒に居ない方が良いのかな…」
つい、真面目な悩みを言ってしまって慌てて口を閉ざす。
精市は苦笑いを続ける。
「お互い、上手くいかないものだね。」
「お互い?」
「弦一郎が何思っているのか分からないのだろう?瑞希も、弦一郎のことどう思ってるか言ってあげるべきだと思うよ。」
「…たしかに。」
「じゃ、俺は戻るよ。」
「うん、ありがと。」
思いがけず相談に乗ってもらった形になったのでお礼を告げる。
精市は私の後ろを見てから、いつも通りの笑顔で去っていった。
どこ見てるんだろうって思いながら手を振る私。
「…瑞希。」
背後から聞こえた小さな声に驚いて、一瞬固まる。
ゆっくり振り向くと、今までに見たことないような悲しい表情を見せる弦一郎が居た。
「弦一郎?」
「あ、あぁ、なんだ?」
「なんだ?って弦一郎、顔色悪いよ。」
「…すまない。」
怒る弦一郎より、悲しそうな弦一郎を見る方が何故か胸が苦しくなる。
「なんで、そんな顔するの。」
「…俺は、良かれと思って言っていたが…お前を傷つけてしまった。」
一瞬何のことか分からず、無言になる。
もしかしたら、さっきの会話を聞いてた…?
しかし、口に出さない間に弦一郎の眉間のシワが更に深くなる。
でも、怖くない。
寧ろ今にも泣きそうな弦一郎を見て、私から涙が溢れてくる。
弦一郎は驚いた顔を見せるが、私には何の涙か分からないから止めようがない。
「すまん、俺が悪かった!だから、頼むから、泣かないでくれ…」
必死な弦一郎。
いつの間にか弦一郎の優しさを素直に受け止められなくなったのは私のせい。
なのに、私のせいで弦一郎が悲しんでる。
それが悲しい。
「私も…ごめんね。」
頑張って笑顔を作る。
どうやって笑えば良いのか、頭がクラクラしてて全然分からないけど、とにかく笑う。
すると突然目の前が真っ暗になる。
遅れて、私が弦一郎に抱きしめられたことを認識する。
「弦、一郎…?」
声をかけると弦一郎は腕に力を込める。
不思議と涙が止まる。
「…苦しい。」
「す、すまん!」
慌てて離れる弦一郎。
いつもの弦一郎に私は勝手に笑顔になる。
「やはり、瑞希には笑ってほしい。」
安心したように呟く弦一郎。
どうしたのかと私が見上げると、顔を背けてしまう。
でも、なんとなく照れてるんだなって分かる。
「私も、弦一郎には笑っててほしいよ。」
そう言うと顔を真っ赤にした弦一郎がこちらを見たまま固まる。
からかうだけのつもりがこちらが少し恥ずかしくなる。
「じゃあ…帰ろ?」
「あ、あぁ…」
その日初めて、弦一郎が隣に居るのがなんだかそわそわした。
無意識じゃいられない
弦一郎は今、どんな気持ちなんだろう
後日談
あの日から弦一郎が人が変わったかのように優しくなった。
勿論、時々は注意されるけど…どうすれば改善出来るのかって一緒に考えてくれるようになった。
精市が言うには、
「あの弦一郎も好きな人の前だと、こんなに変われるんだな。」
とか、言ってのけるけど、それだと弦一郎はまるで私が好きかの様な言い草だ。
でも、真に受けてしまう私も居る。
そうだったら良いのに、なんて思ってしまう。
「瑞希。すまない、待たせたな。」
「ううん、大丈夫。」
今も二人で居るとそわそわする。
でも、この時間が一番、
好き。
後書き
真田の幼なじみは幸村も含めて仲良くしてると微笑ましいなって思います。