旧:短編まとめ
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《果実の様に赤く熟れた君を》
そんなに警戒しなくたっていいじゃないか、恋人なんだから。
最初は、そう思った。
「おはよう、雨月」
何せ名前を呼んで挨拶しただけで
『お、おは、おはようごじゃいます!あか、赤井ひゃん!』
酷い慌てっぷりで。
名前を呼ばれるのに慣れて無いのだと聞き出すのに1週間かかった。
なんで付き合えてるのか不思議だろ?
俺は口頭で告白する主義なんだが、彼女がどうしても二人っきりになってくれなくてな。
さすがにメールじゃ味気ないと思って手紙を書いたんだ。
そしたら3日くらい経ってから、彼女が手紙と缶コーヒーをデスクに置いて走り去っていって。
『貴方に好きになってもらえるなんて、夢みたいです』
そんな返事が書かれていて、奥ゆかしくて可愛いと思った。
「おはよう、雨月」
『おはようございます、赤井さん』
朝の挨拶を噛まなくなるのに一月かかった。
けれど、3ヶ月経った今も目を合わせれば頬を紅潮させて俯いてしまうとなれば、純情過ぎて目が眩む。
…いや、勿論、かわいらしいという意味で。
「今日は早く帰れるだろう、一緒に夕飯食べないか」
『はい、ぜひ!』
パアッと顔を綻ばせる雨月を抱き締めたい衝動に駈られながら。
それを隠すように
「じゃあ、帰りにまたロビーで」
そう、頭を撫でた。
『……っ!!』
たったそれだけで、彼女は再び顔を真っ赤にして。
撫でられた場所を押さえながら2、3度頷くと、脱兎の如く走り去っていった。
会社のロビー、FBIという多国籍な仕事において。挨拶で握手やハグ、親しければキスだってあり得る職場だというのに。
(免疫なさすぎないか…)
(ああでも、かわいらしいな)
(顔、緩みそうだ)
ウブすぎる反応がこの上なく好きだった。
『お待たせしました』
「俺も今終わったところだ。お疲れ様」
『お疲れ様です』
「さて、どこへ行こうか」
『えっと…どこでも』
「ククッ、どこでも。は、一番困るだろ?」
『あ…じゃあ、赤井さんの行きたいとこへ』
「俺は君の行きたいところだ」
『うう…』
終業後のロビー。
彼女と夕飯の行き先を考えているのだが、毎回彼女は希望を言わない。
どこへ行っても美味しそうには食べてくれるのだけど、たまには…と思う。
『…あったかいものが、いいです』
「おいおい、除外されたのは寿司屋くらいじゃないか?」
『んん、あと、あとは………』
「…そうだな、選択肢を出そう。洋食…オムライスとかハンバーグだな。中華…ラーメンや炒飯。イタリアン…スパゲッティ、ピザ、グラタンもここか。あとは…和食全般、鍋とかうどんもあるな」
余りにざっくりした要望と、それ以外に浮かばない条件に。助け船をだす。
これだけ名称が出れば、何か引っ掛かるだろ。
『…鍋、久しく食べてないですね』
「じゃあ、鍋にしようか」
やっと彼女の希望が聞けたところで。
手でも繋いでみようかと思った。
(…しかし、頭を撫でただけで逃げられたしな。逃げられても困る、帰りにするか)
触れかけた手を、そっとポケットへ突っ込んで。
個室の鍋屋があったな、と、そちらへ案内した。
「何か気になるメニューはあるか?」
『どれも美味しそうです…』
「そうだな」
『…期間限定の鶏生姜はどうですか?』
「いいんじゃないか?それにするか」
俺が意見を出さないと察したのだろう、申し訳無さそうに指されるメニューに頷けば、ほっとしたように頷いた。
届いた鍋を卓上でグツグツと沸かし、煮えれば、彼女が取り分けてくれた。
『はい、赤井さん』
「ありがとう」
受け取ったとんすい。
指先が僅かに触れれば、指の先、肩がビクンと大きく跳ねた。
幸い、皿は俺が支えていたから、ひっくり返らず済む。
『あ、ご、ごめんなさい』
「構わないさ」
彼女は、触れた指先を強く握りしめて頬を染める。
堪えるように寄せられる眉とは逆に、唇が はにかんでいた。
…ものすごく、照れてるんだろう。
(中身はまるでティーンズだな)
俺の器も気にかけて、取り分けたり飲み物を注文してくれる大人びた配慮とのギャップ。
この感情をなんて言えばいいのか解らない。
正確には、「かわいい」以外に言葉が見つからなくて困っている。
この、純情を、ずっと眺めていたい。
けれど、先へ進みたいから、慣れて欲しいとも思う。
『ごちそうさまでした』
「いい店だったな。また来よう」
『はい』
生姜鍋のおかげか、体がポカポカと温かい。
夜風が心地よく感じられた。
「雨月、」
『?』
少し涼しい気温、恋人と手を繋ぎたいと願っても、バチは当たらないだろう。
むしろ、彼女もそう思ってくれていればいい。
そう、彼女に手を差し出せば。
一拍間をおいて理解したのだろう、顔を真っ赤にして、彼女は自らの手を握りしめる。
(…羞恥が勝ってしまうのだな)
その動作が可愛らしくて、つい、苛めたくなってしまった。
「…嫌ならいいんだ、すまないな」
差し出した手を引っ込めれば、慌てたように『あ、あのっ』と声を漏らす。
けれど、困ったように眉を寄せるだけで言葉の続きは紡がれない。
わかっている、嫌な訳じゃないこと。
恥ずかしくて、照れてしまうだけだということ。
けれど、その、いじらしさが可愛くて。
わざと手を引っ込めた。
慣れるのなんて、ちょっとずつでいい。
『あ、赤井さん…』
「言っておくが、怒ってない」
『…!』
「君の心の準備ができるまで、楽しみを先伸ばしにしただけだ」
それでも、"触れたい"という気持ちは消えないわけで。
困ったように下がる彼女の目元に指先を寄せ、サラリと撫でる。
「…ただ、まあ…余り長くは待てないかもしれんがな」
『…っ』
それだけでもう、真っ赤。
(イチゴ、リンゴ、サクランボ)
赤くて可愛らしいものが次々と頭に浮かんだ。
総じて食べ物の辺り、食べてしまいたい程可愛い…というのはあながち間違いではないかもしれん。
『あの、本当に…嫌なんじゃないんです』
「ほう?」
『は、恥ずかしくて…慣れてないものですから…』
俺が胸中そんなことを考えてるとは知らず、彼女は必死に弁明する。
目尻をじんわり潤ませ、手をぐっと握り込みながら。
「……」
『あの、あの…っ』
「だから、怒ってないと言っているだろ?焦ることはない」
『う…』
俺も少なからず自覚しているポーカーフェイス。
そう言えば格好つくものの、ただの仏頂面だからな。そんな顔で見られれば、触れる度に過剰反応するのを疎まれてるのではないか…ぐらいの推測はするだろう。
杞憂だが。
そもそも、普段無表情の俺が破顔して「可愛い」とでれでれしていたら気持ち悪いだろう?
妙齢…とは言わないが、成人した女性に可愛いを連呼するのも失礼だと思うし。
……こんなに初々しい反応をする彼女でも、俺はレディだと思っている。
だから、そんな不安な顔をさせたくもないし、叱ったり嗤ったりもしない。
「そうだな……君が、本当に嫌でないならば、是非手を取ってくれないか」
『!』
「慣れていないのだろう?なら、慣れればいい」
『…っ』
「お手をどうぞ。夜の公園でも散歩しないか?」
店の前からだいぶ歩いて、今は人気も疎らな道。
周りの人間は、街灯の下でなければ認識できず、お互いの顔も月明かりが淡く照らす程度。
差し出した手は、おずおずと握り返された。
「真っ赤で…可愛いな」
『!』
「…!」
月明かり程度でも、上気したのがわかる頬と、緊張で冷えた指先に。
つい、ぽろりと。言葉にしてしまったのだ。
今しがた、口にするのが憚られる理由を考えていたというのに。
慌てて口元を覆ったところで、零れた言葉は帰ってこない。
「……」
『…』
ぽかんとする彼女から視線を外して、紡ぐべき言葉を考える。
けれど。
『可愛いって、思ってくれてたんですか…?』
「それは、どう意趣の質問だ」
『……怒ってないと、言っていても、呆れてはいるのだろうと、思っていたので…』
先に言葉を発したのは彼女。
「呆れる?」
『…もう少女なんて歳ではないですから。年相応のお付き合いもまともに出来なくて、申し訳なかったんです』
「…ああ、なるほどな」
『……』
雨月も、気にしていたらしい。
ウブすぎる反応を嫌われてはいないかと思ってたのなら、「可愛い」は嬉しい言葉になるだろう。
「確かに俺は、君と年相応のお付き合いをしたい。手を繋ぐことがゴールだなんて思ってないさ。キスもしたいし添い寝もしたい」
『添い…っ』
「だが。言ったろ?焦ることはない。その可愛らしい反応を見るのも楽しみだ、雨月が気を病むことは何も無い」
繋いだ手を、そっと握りしめて。
公園をゆっくり歩く。
『…ありがとう、ございます』
「でもまあ、余り長くは待てない…というのも事実なんでな」
その歩みを、街灯から少し外れた場所で止め。同時に立ち止まった雨月を引き寄せた。
『…っ!な、あ、あかい…さ、』
「矛盾してるのは承知だが、これでも結構我慢してるんだ。少しくらい、いいだろう?」
腕の中に閉じ込めた、俺より一回りも二回りも小さい体。
必死に俺の名を呼び掛けようとして、とうとう言葉らしい言葉は紡げないくらいに動揺している。
脈は早鐘を打っているし、シャツ越しでも解るほど頬が熱い。
『…っ』
「これで少しは慣れるか?」
腕を緩めて雨月の顔を覗けば、真っ赤なままで首を横に振った。
(そうでなければな)
自分の中の矛盾は解決しそうにない。
大切にしたい彼女の初さと、早く深く触れたい欲求。
もういっそ、彼女を待たずに、押し倒してみようか。
それならきっと、真っ赤なんてもんじゃない反応が見られるだろう。
(それも、いいかもしれない)
「…かわいい」
fin
(赤井、さん、もう、胸が…張り裂けそう…っ)
(本当に免疫ないな…嬉しいかぎりだが)
(…だって、こんなに人を好きになったの、初めてなんです)
(………っ)
(…!赤井さんも、赤面するんですね)
(…君の前では、特別な)
(……っ!!)
End