旧:短編まとめ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《飼い殺し≠保護活動》‐4周年記念‐2016/07/15
「君も家庭に入ったんだし、少しは腰を落ち着けたらどうだね」
この上司の言葉には少なからずカチンと来た。
モラハラでもセクハラでも、何か言ってやりたかったけど、軽くあしらうに留める。
(ムカつく。僻みじゃないの?)
国際組織や、密売人なんかの、危ない奴等を相手にする仕事をしている私は警察関係者。
相手が大きくなればヘリだって使うし、民間人に被害が出そうとなれば自衛隊にだって協力を仰いだ。
勿論成果はあげている。
首謀者を生け捕りにしたり、無差別テロを未然に防いだり。
ただ、やり方がオーバーだとかパフォーマンスに見えるとか、そこかしこで反感を買っているのも事実。
(結婚したら家に入って大人しくとか、いつの時代よ!)
だから、警察上層部との結婚が決まった途端、皆口々にそういうようになったのだ。さっきの上司みたいに。
好きな人との結婚ならいざ知らず、政略結婚というか、社会的体制の為結婚なのだ。
相手はいい人だけど、好きな人ではない。
私は何より、スリルと達成感を愛しているのだから。
…というのは、数日前の話。
今回が警察官としての最後の仕事になる。
結局、辞職まで追い込まれてしまったのは腹立たしいが、だったらいっそ。
(華々しく咲いて散ってやるわよ)
ずっと追ってきた、黒ずくめの謎の組織。
今回はそいつらの取引を押さえようというもの。
日本警察ではまだ極秘扱いで、本来準備したい程の援護もいないけど。
やるしかない。
と、まあ。
意気込みは十分だったし、出来ることはした。
前線に立って最善の指揮をとっていた。
なのに。
今目の前にあるのは、結婚した人の亡骸。
頭から血がダラダラと流れている。
銃弾が貫通したんだ。
これは、即死だったろうな。
『…誰が』
「自分が追ってるヤツの名前すら知らねぇのか」
『っ!?』
「まさかコイツが庇って死にに来るとは思わなかったぜ」
まあ、コイツも殺す気だったがな。
物陰から、サラリと銀髪を揺らして現れた、そいつは。
『ジン…』
「光栄だな。知ってたか」
『動かないで。援軍は近くにいるの、逃がす気はないわ』
「はっ、援軍と呼ぶには今までに比べて随分規模が小せぇな。コイツとの結婚はそんなに肩身が狭くなるのか。なぁ?」
『……』
ジンは、愉しそうにクツクツと笑っている。
コイツを捕まえれば、旦那も死んだ今、警察に復職できるかもしれない。
「野暮なこと考えんなよ?どう考えてもお前が不利だ。まあ、夫が殺されても冷静なその強かさには惚れ惚れするが…」
そう思ったのも束の間。
そんな考えはお見通しとでもいうかのように、彼はまた笑ったのだった。
『…殺さないの?』
「逃がす気はねぇんだろ?殺されたいのか?」
『…』
さっきから、愉しそうに笑っては話をふってくるばかり。
意図が解らず、撤退にも捕獲にも動けない。
少なからず、いくつかのライフルが私を狙っているのは確認できているから。
「意味が解らねぇって顔だな。別にすぐ殺しても良かったんだが…お前は既に死んでるからな」
『…は?』
「警察じゃなく、一般人のお前は脅威じゃない。どんな切れ者も、力を持たなければ只の人だ」
『っ!』
「特に意味もなく殺されて、二階級特進するか?お前の好きな警察では華々しいだろ、殉職。ああ…それとも、警察としてのお前を殺されて…俺に飼われるか?丁度未亡人になったところだしな」
愉しそうな理由。
私が今日を持って辞職することを知って、殺す手間が省けたから。
究極の選択肢しか与えず、私を泳がして遊んでいるから。
最後の台詞なんて、きっと盛大な嫌味だ。
でも、なんだろう。
楽しいと思っている私がいる。
『飼われても良いわよ?愛のある結婚じゃなかったし、二階級特進以上のメリットがあるんでしょ?』
「はっ、本当に強かだな。―そうだな、まず退屈しねぇ。覚えたきゃヘリの操縦もライフル射撃もやらせてやる。あとは、仕事か。善人ぶった悪人の始末は回してやれるぜ?」
彼、ジンは。
一瞬驚いたように目を見開いた癖に、次の瞬間には可笑しそうに目を細めた。
そして、左手に構えられていたベレッタの銃口は地面を向き、右手はこちらに向かって伸ばされる。
不謹慎かもしれない。
けど。
胸が高なって仕方ない。
だって、その未来はスリルと達成感に満ちてるに決まってる。
「来るか?」
『…行く!』
どうせ死ぬなら、今この瞬間のスリルに賭けたっていい。
その手を拒む理由はない。
伸ばされた手に自分の手を重ねれば、グッと引き寄せられる。
『わっ!』
「――じゃあ、気が変わらねぇうちに撤収するぞ」
あっというまに車に積まれて、張った筈の包囲網を掻い潜って走られる。
『だから裏道も張れって言ったのに…』
「くくっ、今から殉職するか?」
『あら、気が変わるのはジンの方だったの?』
「それはねぇな」
『?』
「さっきのメリットの話、もう一つあるから教えてやるが」
あそこで転がってる男より、俺の方がお前に惚れてる。
『な…』
「安心しろ、飼い殺す気はねぇ。日本の警察にしちゃお前は上出来だ。敵にしとくには惜しいくらいだった」
(だから)
(仕事のスリルと達成感で輝くその目に)
(どれだけ惚れ込んでいたことか)
(その目を腐らせた奴は殺したかったし)
(腐らせる前に殺してしまおうとさえ思う程)
生き生きしている姿が、何より輝いて見えて、眩しくて、焦がれた。
―飼い殺すというより
これは新手の保護活動―
「いっそ飼うんじゃなくて結婚するか。これからの仕事は辞めなくてもいいぜ?」
『……考えとく』
(ああ、これもスリルなんだろうか)
(ドキドキする)
それは、そう遠くない未来
Fin.