旧:短編まとめ
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《海底の光の話》
真っ暗な世界で、それは閃光のようだった。
靡いていったその銀糸を追えば、持ち主は真っ暗な世界で真っ黒な人間で。
『…』
「なんだ」
『髪の毛、綺麗ね』
「それだけか」
『うん』
それだけ受け答えると、歩みを止めることもせずに立ち去る後ろ姿。
眺めていてやはり思う。
あの色はきっと光だ。
だって、こんなに眩しいんだから。
「…え、あの子に話しかけられたの?」
「ああ、髪が綺麗だって。そんだけだ」
「………あの子、視力がとても弱いのよ。レンズじゃ矯正できないくらいで、ほとんど何も識別できてないはずなのに…」
そいつは、まだガキのころから薬品の研究に携わっていて。なんかの実験に巻き込まれ視力が著しく低下したらしい。
「面白いこともあるもんだな」
「そうね」
まあもう関わることもないだろう、と思った矢先。
「あら?雨月?」
『その声はベルモットね?ちょうどよかった、急ぎじゃないけど、人を探しているの』
「そうなの?立ち話もなんだから座ったら?右に2歩、そこから4歩くらいのとこにソファーがあるわ」
噂をしていた本人が現れた。
壁を伝っていた手を離し、ソファに座る。
「で、どんな人?」
『綺麗な髪の毛の、男の人』
口を開きかけた俺に、ベルモットは目配せをして人指し指を口の前で立てた。
「珍しいわね、名前も知らない人を探してるなんて」
『名前が知りたくて探してるの。さっき見たとき聞きそびれちゃった』
「ふぅん?思い当たる人はいるけど、もう少し情報をくれない?」
『えっと…多分長い髪。キラキラしてたから、きっと銀色?本当に、光みたいだった、キラキラで綺麗で…』
「銀色の長い髪っていったら、ジンね」
『ジン?確か幹部の人ね?』
「ええ、とても危ない人だけど、探してどうするの?」
『髪の毛触らせて貰えないかなって。触れなくてもいいから、もっと近くで見せて貰えたらと思ったの』
「ですって。どう、ジン?」
突然俺の存在を知らされた雨月はキョロキョロと見渡している。
「彼は私の右隣…あなたから見て左に座ってるわ。本当に見えてないのね?」
『ええ…誰かいる気はしていたけれど…ジン?さっき話しかけた雨月っていいます』
「ああ。ベルモットから聞いた」
ああその声、と、合わない視線をこちらに向けながら彼女は微笑んだ。
「あら、ボスからメール…ジン、話がすんだら彼女を部屋まで送って頂戴。一応一人でも帰れるけど、念のため」
『ベルモット、お仕事?』
「そうよ。またね」
寂しそうに手を振る雨月の手に軽く触れながら、ベルモットも手を振った。
見えないから、行動を知らせる手段なんだろう。
『…ジン、急に変なことを言ってごめんなさいね。不快だった?』
「不快というより不思議だな。お前の視力はこの距離で俺の顔を認識できないし、カーペットと違う色のソファーの識別すら危ういのに、なんで"綺麗な髪"だなんて言えたのか」
『この組織の廊下で動くものは人間だけなの。その後ろにあったから長い髪だと思ったのよ。久し振りに"見えた"って思ったわ、とても眩しかった』
うっとり、と言える表情を浮かべる雨月に興味が沸いた。
「いいぜ?」
『え?』
「触るなり見るなり好きにしろ」
彼女の隣まで歩き、肘掛けに寄りかかった。
気配を感じたのだろう、こちらに首をひねる。
『ありがとう…綺麗…』
触れ方が、壊れ物にでも触れるかのようだった。
ゆっくりと、撫でるように手櫛をいれられるのは存外くすぐったく。
「おい…、っ!?」
顔だけ振り返って驚いた。
彼女の目から、涙が溢れていたから。
『ごめんなさい、痛かったかしら?』
「いや…お前、何泣いてんだ」
『ああ…眩しいの。この世界はいつも真っ暗だから…こんな風に光を感じるの、嬉しい』
儚げに笑う彼女は、この薄暗い組織に咲く花のようで。
零れる涙は星のようだった。
「…そんなに気に入ったなら、暇がある時は研究室行ってやる」
『本当?楽しみにしているわ』
彼女にとっては、ジンが、海底に届く唯一の光で。
湖底に訪れる数少ない音になった。
Fin
水底の花から星の輝く海の底へ