旧:短編まとめ
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《始まらない》
※タイトル通りの何も始まらないオチのない話です
甘さも苦さもない、無味無臭
了解いただける方は↓へ
私は組織の中で、仲間意識が高い方。
どうせ一緒に仕事をするなら、失敗したらカバーしあって成功したら讃え合う関係でいたいと思う。
いや、讃えるまでしなくても、ちょっと一緒に喜んだりしたい。
その方が気持ちいいし、モチベーションも上がる。
『キャンティ!今日もナイスヒット!』
「アリガト。けどアンタが標的を誘導してくれて助かったよ。あれはイレギュラーだった」
『どういたしまして、じゃ、乾杯』
キャンティはよく、こうやって二人で飲んだりご飯に行ったりしてくれる。
たまにコルンも混ざって、3人でショットガンの話をしたりもする。
あとは、ウォッカとか。
「………はぁ」
『お疲れウォッカ。そんなに落ち込まないで、結果オーライだったじゃん』
「いや………でも兄貴が目も合わせてくれなかった。絶対怒ってる」
『でもジンはウォッカに運転任せたりして信用してるじゃん。今日だって、明日の任務、車回せって言われてるんだもん、怒ってないよ』
「………」
『ほら、兄貴素直じゃないから』
「はは、それは言えてる。ありがとな、付き合ってくれて。一杯奢るわ」
『いーの?じゃあお言葉に甘えて』
ウォッカとは基本二人で。
大体はウォッカの兄貴談義を聞いている。
ベルモットとキールとバーボンは、頑なに誘いに乗ってくれない。
お酒もご飯もお茶もダメ。
………まあ、一緒に仕事をすることもあんまりないのだけど。
仕事上関わるのに、そういうお付き合いがないのは、先に出てきた兄貴ことジンだ。
誘っても誘っても断られる。
けど、それは「今は忙しい」という言い回し。
バーボンなんて「僕、貴女に興味ないので」とか言うし、ベルモットに至っては「それ、なんのメリットがあるの?」とか言うけどね。
………どうせ私は下っ端の補助役ですよ。
射撃、変装、研究、情報収集、どれもこれも中途半端だから、それぞれの下位互換を担う遊撃員をしている。そりゃ、メリットなんてないですよ。
とにかく、時間さえあればジンとは近づけるかもしれない。
だって、ウォッカは二人でクラブとか行ったことあるって言ってたし。
…その時ベルモットも同席したって言ってたから、ちょっとモヤモヤしてるけど。
モヤモヤしてる、のは。
ジンに対して抱いている感情が、少なからず恋心に近いものだから。
だって、仕事できてかっこよくて高身長なんて…ときめいてしまった。
確かに冷酷な面もあるけど、ウォッカから兄貴自慢を聞いてると、それも魅力に思えてくる。
『ジンと、もっと話してみたいなぁ…』
思わず呟けば、同席していたウォッカが笑う。
「お前は兄貴のこと好きだな」
『うん。ウォッカほどじゃないけど、大分ジンの兄貴に毒されてる。あの人かっこいい』
「だよな、兄貴カッコいいよな」
ウォッカとの飲みは、ウォッカの兄貴談義と私の細やかな恋バナが肴。
ジンに断られるのは常なので、最近は専らウォッカとサシだ。
今日も今日とて、それぞれのグラスを片手に、バーのカウンターに座っていたところ。
『あー…今日の任務ほんと良かった』
「俺は車待機だったから知らないんだが」
『いや…標的にお金を持ち逃げされそうになって。追いかけようと思ったら、違う通路で待ち合わせる予定のジンが、標的の逃走方向と対面でベレッタ構えて立ってた』
「流石兄貴」
『さすあに』
今でも脳裏に焼き付いている、片手で拳銃を構えて銀髪を靡かせる姿。
一瞬任務だってことが頭から飛ぶくらい綺麗だった。
「…なんで断るんだろうな」
『忙しいって言ってたけど』
「いや、兄貴の予定はこれで暫く入ってないんだ。今日明日なんて問題ないはずなんだが」
『………女がいるとか?』
「兄貴は女に約束取り付けたりしねぇよ」
『じゃあ単純に私が避けられてるじゃん!女がいても駄目だけど!』
これもお決まりの流れだ。
毎回これで
『…懲りずに誘ってみる』
「おう、頑張れよ」
って終わっていく。
のだけど。
「…避けてねぇし女でもねぇよ」
『…っ!?』
「あ、兄貴!?」
後ろから、不意に低い声。
振り返るまでもない、その人物。
『………今日、忙しいって』
「ああ。さっきまでな。用事が終わってたまたま入った店に、今日誘って来た奴が居ただけだ。邪魔したな」
恐る恐る振り返れば、既に踵を返そうとしている。
『ちょ、ストップ!』
「命令かよ、ふざけんな」
『え、じゃ、プリーズ!今から暇なら隣座って!一杯でもいいから!』
その腕をむんずと掴んで、ウォッカとは反対側に座らせようと引っ張る。
「マスター、兄貴に一杯。イェネーバをロックで」
「ウォッカお前勝手に…」
「コイツ兄貴兄貴ってうるさいんです。後生ですから一杯付き合ってやってください」
ウォッカナイス!!と心の中で親指を立てる。
『私もお代わりしようかな。マスター、さっきと同じの』
自分も飲み物を頼んで、隣に座る銀髪を盗み見た。
やっぱり格好いい。
あ、煙草吸うんだ、火ださなきゃ…って間に合わなかった。マッチで点けるの、お洒落だなぁ…
「あ、スイマセン兄貴。車のメンテ忘れてやした!今日はこれで失礼いたしやす」
そんな、ちょっと見惚れてる間に。
ウォッカは席を立って、「上手くやれよ!」とでも言いたげなウィンクをサングラス越しに寄越して去っていった。
「………で。そんなに誘って何を話したかったんだ?」
『え…あ…』
マスターが差し出すイェネーバを片手に、ジンは視線をこちらへ向ける。
いざ、二人きりとなると、言葉が出ない。
キャンティや、コルン、ウォッカとは、どうやって話を始めてたっけ。
「お待たせしました」
そこへ、私のドリンクが提供される。
「…お前、人を飲みに誘っておいて自分はジュースかよ」
『……ゲコなの』
「はっ。どうだか」
彼は、グラスを揺らすだけで口を付けない。
(確かに、ジンはそういう人)
(仲間。と断定できなければ)
(疑わしければ、それだけで殺せる人だ)
(……私は…信用に足りない)
『なら、ジンが選んで。私のドリンク』
ゲコなのは本当だ。
吐いたり、暴れたりする訳じゃない。
ただ、とても眠くなって、思考を放棄してしまう。
「…ロングアイランドアイスティー」
『紅茶のカクテル?』
「飲めばわかる」
差し出されるロングカクテルは、紅茶の香り、紅茶の色。…味も紅茶。
『…美味しい』
「そうかよ」
『ジンも入ってる?』
「ああ」
それだけで、ちょっと嬉しくなった。
初めてお酒を飲んだとき、缶酎ハイ一つで寝落ちてしまった私は。それ以来アルコールを口にしていない。
だから、ジン、というお酒の味を知らなかった。
「まさか本当に飲めば満足じゃねぇだろうな」
『まさかだよ。私は、その日、一緒に仕事した人と労いあいたいの』
「…」
『私は補佐に入ることが多いから、主軸になる人達の考え方とか人と為りを知っていたい。その方が、その人にとっていい補佐であれる』
「他の奴と飲み歩いた結果は出たのか」
『……多分。キャンティやコルンは、狙撃の話をしてくれるから、誘導しやすくなった。ウォッカはジンのこと話してくれるから、貴方の指示なら確かだと思うようになった』
このカクテル、美味しくて飲みやすい。
でも、もう眠くなってきたから、度数高いんだろうな。
まだ半分も飲めてないのに。
「それで、俺と話して何を得たいんだ」
『…ん。ジンとは、本当に話したかっただけ』
「あ?」
『ウォッカの話聞いてても、一緒に仕事してても。知れば知るほど素敵なんだもの。仕事以外で、話してみたかったの。…なのに、いざ目の前にしたら、かっこよくて、話したいこと、とんじゃった』
残りのカクテルを一気にあおる。
残したくないもの、せっかくジンが頼んでくれたのに。
「…雑なハニートラップだ」
『ふふ、ジンて、目の色、きれい。グリーンなんだ』
「話きけよ」
『うん。聞きたい、ジンの話、おはなし、して?』
「……本当ゲコだったんだな。酔っぱらいが」
この辺りで、雨月の意識は酩酊状態だった。
何を聞いても要領を得なくて。
『…ジン、すき』
それ以外は明瞭に聞き取ることすら出来なかった。
「………そうだな。俺もお前は嫌いじゃねえ」
精々裏切ってくれるなよ。
fin