旧:短編まとめ
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《エイプリルフール》
2018 拍手
『もう知らない、ジンなんて大嫌い!』
盛大に吐き捨てて電話を切ったのは小一時間前。時計の針がまだ午前中だった頃。
明日のデートをドタキャンされた。
かれこれ5回目。しかも連続。
解ってる、時間に融通の利かない仕事なのも。恋人なんて関係が甘ったるく過ごせる程穏やかな組織じゃないことも。
でも。
(楽しみに、してたのになぁ…)
クリスマスのイルミネーションも見れず、年末年始も会えず、バレンタインチョコも渡せなければ花見にも行けなかった。
それを乗り越えての明日のデート。
(ただ、ゆっくり会えればそれでよかったのに)
狙撃されただの取引先が裏切っただの、嫌なイレギュラーは報告として知っているから。
無事に帰ってきた彼を抱きしめて、抱きしめられて。
ただただ、二人きりでコーヒーでも飲みたかっただけなのに。
「明日、急な仕事が入った」
『…え…』
「長期になる。こっちから連絡するから、電話かけるなよ。とれないからな」
『明日…楽しみにしてたのに…』
「仕方ないだろ。都合よく会える男がいいなら鞍替えするんだな」
早口で話す彼は、任務の間に連絡してくれたに違いない。
何も言わずに待ち惚けよりは遥かに良いけど、そうじゃなくて。
謝罪とか、俺も楽しみにしてたとか、他に言うことあったんじゃないの。
都合よく会える男が欲しいんじゃなくて、ジンに会いたかったから…思わず本音を溢してしまったというのに。
伝わらない歯痒さと、苛立ちと、同じ気持ちじゃない哀しさが、冒頭の言葉を叫ばせた。
あんなのは、全然本心じゃない。
(ジンが大好きだから、こんなに会いたくて、哀しくて、寂しいんじゃん…)
考えるのが嫌になってベッドに身を投げれば、体の下で明日着る予定だったお気に入りのワンピースがクシャクシャになる。
虚しくなって、ワンピースを丸めて床に投げた。
代わりに、彼が忘れていった煙草の箱と着替えのタートルネックをサイドチェストから出して抱き締める。
この匂いに、包まれる筈だった。
この肩幅に、抱き締められる筈だった。
(会いたい…触れたい…声、直接聞きたい)
どんどん湧き出る欲望は、涙になって溢れていく。
それとほぼ同時、玄関が開く音がした。
とっさに窓とベッドの隙間に隠した銃に手を伸ばそうとすれば。廊下を歩く足音は聞き慣れた音。
『ジン…なんで…』
「お前に大嫌いなんて言われて大人しくしてられるかよ」
『…』
部屋のドアを開けて立っているのは、待ち焦がれた、長い銀、鋭い緑。
それが、私に向かって歩いてきて、その腕を私の背中に回す。
「今なら、エイプリルフールで許してやる。さっきの言葉…撤回しろ」
『…っ、』
「俺も撤回する。俺は都合の付かない男だが、鞍替えなんかしたらぶっ殺すからな」
『あはは、なにそれ物騒』
私も彼の背中に腕を回して、見慣れたコートに涙を染み込ませた。
そうか、デートの約束は4月2日。
ならば、今日はエイプリルフール、嘘になる日だ。
『ジン…大好き、鞍替えなんて、ジンの代わりなんていないのよ』
「……そうか」
『うん。…会いに来てくれて、ありがとう』
きっと、すぐにまた任務に行ってしまう彼を1度力強く抱きしめて。
名残惜しく体を離せば、彼は思い出したように言葉を紡ぐ。
「はっ…まだお別れじゃねぇぜ?」
『…でも、明日から』
「ククッ、エイプリルフールとは凄いな、午前中のことは全て嘘になった。明日からの任務、バーボンが代わることになったんだ。借りのある標的なんだと」
『!じゃあ、』
「今から暫く休暇だ。お前の好きなイベントは何もしてやれなかったからな…さあ、何がしたい?」
優しく目を細めた彼に、色々思いを巡らせる。一緒に過ごせれば、どこかに行きたいなんて我が儘は言わない。
ただ、空いた隙間を埋めたい。離れたくない。
私が出した答えは。
『キスしたい』
彼の背中にもう一度腕を回すことだっ
た。
.
Fin