旧:短編まとめ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《blood birthday》
※原作程度に流血沙汰
「……別にもう祝われたい年でもねぇだろ」
『そうだけど、そうじゃない!』
誕生日当日、ジンは私の誕生日なんてこれっぽっちも覚えてなかった。
毎年任務だの会議だのと時間を取れなかったから、完全フリーの今年は大いに楽しみにしていたというのに。
デートのお誘いに来たら
"今日はポルシェ洗車するからパス"
パスってなによ!
待ってろ。とか、せめて、今度な。
でしょ。
パスってなによ!
挙げ句、誕生日くらい我が儘言わせて。
と言ったら、そうだったか?の後に冒頭の台詞。
忘れてただけでなく祝う気もないと。
本当に私、普段我が儘言わないのに!
全然会えなくても、『寂しい』こそ言うけど『会いたい』とは一回も言ったことない。のに!
『………わかった。今日はデート、パスなのね』
一人胸中怒り続ければ、一周回って冷めた。
確かにもう誕生日がめでたい年でもないし。
なんなら、ジンが恋人らしいことしてくれる人じゃないことくらい知ってたのに、いい年して浮かれてた私が馬鹿だったのだ。
『また暇な時は誘ってね。じゃ』
するりと彼の部屋を抜け出して、そのまま街へ出掛けた。
今日は、一年に一回、私を誉める日。
『よく一年生き延びたね、来年は無いかもしれないから、したいことをしよう』
毎日命がけの仕事して、お金は入ってくるのに使う暇も趣味もなくて。
明日を生きてる保証もないのに貯金ばかり増えるから。
衝動買いもなんら問題ない。
(ほんとはさ、したいことなんて)
(明日、いないかもしれないジンと)
(一緒に過ごせれば何でもよかったんだ)
(……年取ると、やっぱりワガママになるなぁ)
最近できて気になっていた雑貨屋で、銀食器を見ながら想う。
私が彼の誕生日を祝いたいと言ったら、そんなものはない…と随分つれなくて。
勝手に私と彼が付き合い始めた日を彼の誕生日にした。
私の誕生日から丁度ひと月先のそれを、毎年勝手に祝った。
おめでとうに対する返事も無ければ、プレゼントに対する感想もない。
ただ、引き出しやクローゼットに仕舞われていくばかり。
それでも、彼が生まれてきたことが、今を生きてるのが嬉しくて。懲りずにケーキを焼いたりしていたけど…
(…今年は…もういいか)
(誕生日…ってのがそもそも)
(特別じゃないみたいだし)
彼にとっては、過ぎていく一日の一つに他ならない。
ならば、私の誕生日も、毎年期待しては落ち込んで、我が儘を言ってまた落ち込んで…なんてするより。一人で過ごす自由な日…の方がずっと楽だ。
(来年は、最初から一人で遊ぼう)
(来年があれば…だけど)
銀色のコーヒーカップとティースプーン、ソーサーとフォークとナイフのセット。しかもペア。
それを眺めながら、頭の中はジンでいっぱいだった。
ここにブラックコーヒー入れたら、ジンそのものだな…なんて、本当、どうしようもなく彼が好きなのだ。
(…ジンの誕生日は、やっぱり祝おう)
(このセット買って)
(一緒にケーキとコーヒーを……)
店員を呼んで、全てまとめ買いした。
全額キャッシュで払った私に目を丸くしていたけど、そんなのどうでもいい。
これらを、あと1ヶ月先のジンの誕生日まで仕舞っておかなければ。
(…あと…したいこと)
私が明日、生きてるかわからないなら、ジンにあげたいものも全部買っておこう。
私がしたいことをする日なら、彼を喜ばせる何かを探そう。
来月一緒に飲むコーヒー、ケーキ…は無理。
彼に似合いそうな、クロムハーツのペンダント。
いい匂いのするシャンプーとコンディショナー。
髪を纏めるテールクリップ、バレッタ、マジェステ、コンコルド、バンスクリップ、シュシュ。
ヘアアクセサリーを買いすぎたことで、自分が彼の髪が好きすぎると気づいて笑った。
(こんなとこかな)
(隠しとく場所作らないと…)
(見つかっちゃいけないけど)
(私が死んだら、ジンが気づいてくれる場所)
とりあえず、Dear GINと書いた付箋を貼り付けて車のトランクへ詰め込んだ。
それから、お気に入りの廃墟ビルへ向かう。
そのビルの屋上で考えごとをするのが好きで、そこで愛の手紙でもしたためようと思ったのだ。
思った、けど。
『…っ!』
いつから、狙われていたんだろう。
人気の無い道になるや、車の後輪がパンクした。
続いてサイドミラーが割れる。
随分と腕のいいスナイパーがいるらしい。
制御の出来ない車から飛び降りてビルの影に隠れたつもりだったけど、そこに先客がいた。
「一人か。ジンは?」
『残念、今日は一緒じゃないの』
「なら、用は無い」
そいつとの、短いやり取りの後、構えられる拳銃。
撃たれる
この距離、確実に撃たれる、でも
(勝てないなら、せめて…負けない)
瞬時に体を捻って急所をはずさせて、自分のナイフで首を突く。
「…っ!」
『は…あ…ジンの女…舐めないで』
こいつが誰かは知らないけど、ジンの敵なら始末しなきゃ。
ああ、お腹撃たれた、焼けるみたいに痛い。
(ここで死んじゃ…駄目)
もう、限界だけど、動かなきゃ。
(私の死体は、見つかっちゃ駄目)
あの車には、きっと私の髪もある、指紋もある、顔もお店で解る。
ここには私の血痕も残ってる。
せめて"私"が残らないことが、組織の為。
ジンの…為。
ビルの向こうは海。
そこならきっと、見つからない。
(あのプレゼント)
(ジンに届くといいな…)
(……無理、かな)
(…………ジン)
あと一歩で海。
そこで視界は暗転した。
……………
最初は、ただ白い視界が天井だとわからなかった。
瞬きをして、首を左右に動かして初めて、自分が仰向けでベッドに寝ていると気づく。
(ベッド?)
確か、自分の誕生日に、狙撃されて。
きっと一生分のジンへのプレゼントを買ったから、天命が尽きたのだと思っていたけど。
(警察のベッドだったらどうしよう)
生きてるなら考えねば。
と、ゆっくり視界を広げて唖然とする。
『…ジン?』
足元、ベッドに伏せるように銀色の髪がこぼれている。
私の声に反応するように、その銀色は動いた。
「……!」
顔を上げた彼の口が、小さく私の名前の形に動いて。
次の瞬間には抱き締められていた。
『…え』
「……目、覚ますの遅ぇよ、馬鹿」
私が撃たれて、1ヶ月経っていた。
あの後、偶々通り掛かったバーボンが私と車を回収してくれたらしい。
偶々…が奇跡的過ぎて怖いけど、今度お礼しなきゃ。
『…あ……なら、車のトランク…』
「中身は回収した。……中身も今朝見た」
『今朝?』
「…今日なんだろ?俺の誕生日」
目をやる日めくりカレンダーは、確かにその日付で。
『おめでとう、ジン。今日、貴方に会えて嬉しい』
「ありがとう………、今日一番のプレゼントは、お前が目覚めたことだな」
『…!!』
「ペアの銀食器、一人で使って何が楽しいんだよ」
一層強く抱き締められて、彼の声が少し震えていることに気づいた。
「誕生日、一緒に居てやらなくて、悪かった」
それから、その震えを隠すように口づけられる。
「……お前が"在る"儚さを、痛感する日だった」
『私は、自分がどれだけジンを好きか再認識する日だったよ』
応えて口づけ返せば、彼は珍しく微笑んだ。
「…来年は、一緒にいる。祝ってやるから、生きてろよ」
『うん』
「…それに、来年も祝え、死ぬなよ」
『…、わかった』
私も、微笑み返しながら抱きつけば、
耳元で綺麗な発音が聞こえてきた。
Happy birthday to my Juliet
(1ヶ月遅れで悪いな)
(という詫びつきで)
fin.