花と蝶 番外
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《弐:2018まこたん②》
『真君、ここ座って』
風呂上がりの俺を、彼女は随分楽しそうに待っていた。
「…こうか?」
『うん。じゃあ、先にもう少しタオルで拭くね』
カーペットに胡座をかいた俺の後ろで膝立ちをする彼女は、持っていたドライヤーとブラシを1度置いた。
彼女、俺の髪を乾かしたいらしい。
(楽しいか?これ)
首にかけて出てきたタオルケットで丁寧に吸いとられる水分。
時折首を流れる水滴を拭うような動きがあって、今度は乾いたタオルが首にかけられる。
新しいものも用意しておいたらしい。
『熱かったら言ってね、風あてるよ』
言うや、ブオーッと、温かい風が頭にあたる。
「大丈夫」
『そう?じゃあこのまま』
彼女の指先が、俺の後ろ髪を掬うように持ち上げる。
そこから温風が地肌を撫でていった。
(……案外、気持ちいいな)
人に髪や頭を弄られると気持ちがいい、と原あたりから聞いた気がするが、俺は美容室だとか髪を他人に触られるのは苦手だった。
だった、んだ。
(……違ぇな、他人は今でも苦手だろ)
(こいつは、他人であって他人じゃない)
自分以外、という意味では他人だけど。
彼女程自分の一部と言える人間はもう現れない。
サラサラと耳にかかる髪を手櫛で整えながら、また風が撫でていく。
たまにひっぱられたり、優しく添うよう指が這ったり。
耳元で唸るドライヤーの音すら心地よい気がしてきた。
『…、……♪』
「…?」
その轟音の合間、微かに彼女のハミングが聞こえてくる。
聞き覚えがあるメロディーだ、彼女が最近聞いている曲か?
『消えない悲しみも綻びも貴方といれば、それでよかったねと、笑えるのが、どんなに嬉しいか』
ああ、CMで流れて、それからずっと聞いているやつだ。
ドライヤーの音で聞こえないと思って油断したんだろう、俺は彼女の声であればどんな雑踏の中でも聞き取る自信があるというのに。
彼女のハミングは歌詞を紡ぐようになって、俺は彼女の声を追って詩を紡ぐ。
『お願いいつまでも、いつまでも、越えられない夜を越えようと手を繋ぐ、「この日々が続きますように」……!』
突然重なった声に、前髪をとかしていた手がびっくりしたように止まる。
「…途中だろ」
それが、歌を指したのかブローを指したのか一瞬思案した彼女は。
大体乾いた俺の髪を鋤いて、ドライヤーを傍らに置いた。
それから、細いヘアブラシで髪全体をとかしながら小さく歌う。
『生まれてきた、その瞬間に私…消えてしまいたいって泣き喚いたんだ。それからずっと、探していたんだ、何時か出逢える貴方のことを』
そこまで歌って、後ろからぎゅっと抱き締められた。
『…真君の名前を呼べるの、幸せなんだよ。こんな日が、ずっと続くといい』
「続くだろ。お前が俺を呼ぶ限り、俺が雨月を呼ぶ限り」
肩越しに唇を寄せあって、これが依存から始まったなんて、嘘みたいな温もりを享受した。
弐 日前のできごと
(あいね、くらいね)
(愛廻喰寝)
(愛根、暗音)
歌詞 米津玄師様 アイネクライネ引用
Fin