花と蝶 番外
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《栃 ─トチノキ─:2020まこたん⑦》
発熱38.9℃ 関節の痛み 悪寒
これは…と仕事帰りに病院に行けば、見事に陽性だった。
インフルエンザA型
薬と診断書を手に家に戻る頃には、咳と喉の痛み、鼻づまりといった症状まで出る始末。
『真君っ!』
先に連絡しておいた雨月が、心配そうに玄関まで出てきた。
「うつる、だろ、馬鹿」
ゲホゲホと咳ごみながら、彼女が近づくのを制する。
『真君がかかるなら、もう私だって潜伏菌いるよ。大丈夫だから、気にしないで』
そう言いながら彼女は結局近づいてきて、額や頬に手をやって熱を計る。
『解熱剤はこれから?寝る?ご飯?』
ひんやりした彼女の指先は、びっくりしたように離れていった。
相当熱かったらしい。
「くす、り ねる」
『うん。お水持っていくから、ベッド行ってて』
「……」
『、そうだね。インフルエンザじゃ、動くのしんどいよね。薬効くまでソファー使おうか』
咳でぶつ切りの言葉と、視線の動きだけで察してくれるのは助かる。
頷く俺に、彼女も頷き返して。
ソファーに座り込めば、毛布と湯タンポを渡される。
それから、栄養ゼリーと薬と水。
『少し休んでからご飯食べようね。真君が寝てる間に、お粥煮るから』
「…」
『卵と葱と生姜ね。寒くない?』
「…」
『うん、首温めて。足もね。………おやすみ』
子供みたいに世話を焼かれて。
薬を飲んで、毛布にくるまって、ソファーに埋まる。
『おやすみ』と、髪を撫でる手が心地よかった。
「…っ」
ゲホ、ゴホ、と。
痛む喉と鼻づまりによる息苦しさで、長くは休めない。
そう経たないうちに、目が覚める。
『ミントティーと蜂蜜用意したけど…少し楽になるかな?』
見計らったように、彼女はティーカップとティースプーンを持ってきた。
「…」
『熱いから気をつけてね。少し蒸気と匂いで、鼻腔暖めてから飲んで』
蜂蜜を溶かしたカップを、そっと手渡しながら彼女は隣に座る。
「あー…」
『寝てるより、上半身は起こしてた方が息しやすいよね』
「うー…」
『のど飴もあるよ。これもミント入ってて鼻通りよくなる』
「ん、」
あれもこれもと世話を焼かれて、思わず、彼女の肩に凭れて目を閉じた。
本当は、インフルエンザなんて移しちゃいけない。近づくなって、言わなきゃいけないのに。
甘えてしまいたくなったのだ。
『寒くない?』
「へいき」
そんな俺を、さらに甘やかして。
彼女は毛布をかけ直してくれる。
『…あと、なにしてあげられるかなぁ』
「…」
ミントティーを飲み終わって、のど飴を口に含んだ俺は。
彼女に凭れたて目を閉じたまま、彼女の手をそっと握る。
咳は変わらず出るし、喉も痛い。
少しだけ、鼻は通るようになったけれど。
頭は痛いまま。寒くないけどゾワゾワする。
彼女はどれにも対処してくれているし、薬だってそのうち効いてくるはず。
(だから、このまま、もう少し)
『…ゆっくりしてよっか』
声にはしなかったけれど、彼女は解ってくれたらしい。
握り返される手がひどく優しかった。
~健康~
でない瞬間すらも 幸せをくれる人
***********
「…んん」
夕食に、宣言通り卵粥が並ぶ。
土鍋のそれを、彼女はとんすいに装って。
れんげで掬っては口に入れた。
あっつい。
でも、おいしい。
「…ん」
『はい』
関節の痛みが煩わしくていれば、彼女はれんげを取り上げて、俺の口へ運ぶ。
雛か。介護か。
そう思っても、大人く口を開けて頬張ってしまう。
ぼうっとする頭は、あまり深いことを考えていない。
甘えさせてくれるなら、甘えていたい。
優しくしてくれるなら、享受していたい。
『お粗末さま。お薬のんでね』
平らげた土鍋を下げながら、彼女は薬と水を用意してくれた。
空になった鍋を見て、どこか嬉しそうな彼女。
「…なあ」
『なぁに?』
些か楽になった喉。
声をかけて彼女を呼べば、それだけでもう察したらしい。
『…今度こそベッドで寝ようね。湯タンポももう布団に入れてあるから、着替えて休もう』
眠いわけじゃない。
ただ、起きているのが辛い。
それに、休んでいた方が早く治るのを知っている。
「…ん」
『今日は私が腕枕しよっか。首まで布団掛けたいもんね』
まだ、彼女は彼女のしたいことがあるだろうに。
俺に付き合って一緒に布団に潜る。
それどころか、腕をこちらに差し出した。
「…」
遠慮なくその二の腕へ頭を乗せて、彼女に抱き付くようにすがれば。
俺がいつも彼女にしているように、彼女も俺の背中を抱き寄せる。
『ふふ、これで1週間は真君独り占めだね』
「…ばぁか」
『私も1週間休みなんだよ?同棲してる近親者にインフル出たら出勤停止だからさ』
「……」
『お休みくれてありがと、心置きなく真君を甘やかせて嬉しい。…わがまま、いっぱい言ってね』
~贅沢~
(我が儘を赦してくれる人がいる)
fin
お誕生日おめでとう花宮