花と蝶 番外
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《楮 ─コウゾ─:2020まこたん⑥》
大学生活も終わる頃。
衣替えをしていたら、懐かしいものが出てきた。
黄土色のブレザーに緑色のネクタイ、中学生の時の制服だ。
もしや、と近くを探れば。
紺のブレザーに赤いネクタイ、高校生の時の制服もある。
『あ、懐かしい』
それを見た雨月が声をあげる。
彼女も後ろで同じく衣替えをしていた。
「とっておいたんだな、捨てたと思ってた」
『私も。ちゃんと持ってきてたんだね』
高校を卒業するとき、それぞれが住んでいた家を引っ越して同棲を始めた俺達は。大した荷物を持って来なかった。
思い出を楽しむとは思っていなかったから。
だから、
(懐かしい、って思えるんだな)
なんだか感慨深い。
特に雨月。
彼女は、家庭の環境もあって、高校はともかく中学の記憶なんて捨てたいと思ってもいいくらいだ。
『私ね、中学の制服、背が伸びるのを見越して大きめのを買ったの。でも、卒業するまで袖が余ったままだったんだ』
「そうか。そういえば小学生の頃は背が高い方だったよな。段々平均になっていったが」
『成長期早かったんだよね、きっと。真君は…サイズ全然違うよね』
「高校になっても伸びてたからな、これは絶対着れないぞ」
けれど彼女は、制服を手にして笑っている。
それならそれでいい。
笑い話とまでならなくても、上塗り出来るような記憶があるなら。
…いや、上塗りしてるのが自分だという自覚はあるんだが。
『高校の時のは着れるかな?』
「お前は着れるんじゃないか?俺は…どうだろうな、高校卒業してからは多分伸びてないが」
『"多分"なんだね』
「測ってないからな。まあ…延びたとして数センチにもならないんじゃないか」
『………ねぇねぇ』
「………俺に着させるならお前も着ろよ」
『ふふ、やったぁ』
なんだか面白がってる彼女と、再び背中合わせ。
紺色のブレザーを手に取って着替えを始める。
…シャツは、今使ってるのでもいいか。
『真君、できた?』
「…ああ」
『じゃあ、』
ネクタイを絞めて振り向いたら、
「…そっち着たのか」
黄土色のブレザー。緑のリボン。グレーのスカート。
…中学生の時の雨月。
『えへへ、着れちゃった』
少し恥ずかしそうに笑う顔。
本当に中学生の時は、こんな表情、見られなかった。
『こうして見ると、真君って、高校生の時よりずっと大人っぽくなったんだね』
「…まあ、4年経つからな」
相変わらず、恥ずかしそうに口元を押さえて笑う彼女は。
ふと思いついたように
『…はなみや先輩、第二ボタン、ください』
そう言って手を差し出した。
「…っ、お前なぁ…」
『まこと先輩の方が良かった?』
「そこじゃない」
そうか、彼女が後輩だったら。
こうして、彼女を残したまま卒業しなければならなかったんだ。
(いやまあ、家は隣だし)
(そんなに惜しむことではないだろうけど)
「…雨月に渡すなら、第二ボタンと第四ボタンもだな。まあ、ブレザーに4まで無ぇけど」
『よん?』
「諸説あるが…第二ボタンには恋人、第四ボタンには家族の意味があるらしい。第二ボタンは心臓に一番近いから、だったと思うが…」
そこまで言って、ふと思う。
「…つーか、指輪渡してるんだぞ。今更ボタン欲しがるな」
彼女の左手薬指。
心臓と繋がると言われるそこには、俺とお揃いのリング。
『そうなんだけど。真君のものは全部欲しいんだもの』
「誰にもやらねぇから安心しとけ」
『ふふ、はなみや先輩カッコいい』
「おちょくるな馬鹿」
楽しそうな雨月は悪くない。
でも。
左手を掴んでグッと抱き寄せれば、彼女は一瞬で沈黙する。
「生まれ順で行けばお前のが年上なんだがなぁ?…雨月センパイ?」
『…っ!!』
「第二ボタン、くださいよ」
それから、みるみる顔を赤くした。
『…ぅ、ぁ』
「それとも、奪った方がいいですか?」
口をパクパクさせる彼女が可愛くて、ついからかえば。
『…全部、真君のだから、ぜんぶ、持ってって』
沈黙するのは俺の番だった。
~過去の思い出~
「やめだ、やめ」
『終わり?先輩後輩ごっこ』
「ああ。中高生ごっこも卒業式ごっこも終いだ」
衣替えが一向に進まない。
着替えて制服を再び仕舞えば。
『…ねぇねぇ』
「なんだよ、もう着ないぞ」
『今日じゃなくていいから』
「…」
『霧崎のユニフォーム、見たくなっちゃった』
「……」
『なんだか、』
初恋を思い出しちゃった
((彼女は、初恋がすべてだから))
fin