花と蝶 番外
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《マリーゴールド:2019まこたん⑤》
自分が嫉妬深い自覚はあった。
「…委員会の連絡をしてただけだ。まったく、花宮は視線で俺を殺すつもりか」
古橋が呆れるくらいだ、相当だと思う。
別に、男と話すなとか、連絡先を一切交換するなとか、そんなことを言うつもりはない。
彼女の人生経験として色々な奴との交流は必要だ。会話するななんて論外。
行動を制限したり、束縛するつもりは全くなかった。
ただ、俺の知らない奴、知らない所、知らない内容…ってのが嫌なのはどうしようもなくて。
「…水戸部、何だって?」
『ん?お似合いの夫婦だねって。…ふふ、嬉しいけど恥ずかしいね』
大学に入ってから彼女の交友関係が不鮮明になったのは余り好ましくない。
しかも、生徒の9割は女の学校だからと高をくくっていたら、元ライバル校の男は出てくるし、ソイツの声は聞き取れないし。
…モヤモヤする俺を余所に、雨月も水戸部も能天気な会話をしていたけれど。
それから、俺しか知らない雨月を知られるのも嫌で。
メガネやエプロンなんかを着てる姿も、寝顔も、泣き顔も見せたくなかった。
俺以外が名前を呼ぶのも嫌だし、雨月の料理が他人の口に入るのも嫌だった。
最後のに、霧崎の奴らと母さんは入ってない。……本当は、余り良いとも思ってないけれど……
『真君を大切にしてくれる人だもの、私にできることで…もてなしたい』
そう言われてしまえば、駄目とは言えない。
どんだけイイコチャンなんだよ、馬鹿か。いっそ惚れ直したわ。
(嫉妬深いっつーか、独占欲が強いんだろうな)
そんな自己分析に至ったのは、雨月のキャンパスの前で彼女と待ち合わせをしたからだ。
校門の前で立っている俺は、校舎から出てきた彼女……に話しかける知らない男を睨み付けている。
距離的に、表情は見えるのだが声は聞こえない。
男は気さくに笑っていて、容姿がいいのも相まってか、世間一般では好青年と言えそうな雰囲気だ。
……俺が、嫌いな類いの人間。
雨月は待ち合わせの時間を気にしてか時計を見る。
あと10分あるからな、校門までは今の位置から1分もかからないだろうし、言い出せずにいるらしい。
(……情けねーの。雨月が靡かないのは解ってんのに)
見ているとイライラする。
彼女が俺から離れることはありえない、絶対にない。
自信を持って言えるのに、胸の中はギリギリと痛む。
かといって、目を離すこともできない。
彼女が靡かないとして、男が何をするかわからないじゃないか。
肩を抱こうものなら、校門の看守を無視して駆け寄る。んで殴る。
(あー…クソ、駄目だ……)
初めて、俺が知らない奴と雨月が談笑するところを見てしまった。
話してる内容はわからないし、向こうは俺に気付いていない。
(……こんなに、苦しいもんか…)
胸を、首を、締め上げられるような。 淀んだ水で溺れるような。窒息じみた苦しさ。
それに耐えかねて、電話で雨月を呼び出そうと携帯を繋ぐ。
「…」
『真君!もう着いた?』
「ああ。……早く来い、雨月」
通話になると、辺りを伺うように彼女はこちらを向いて。
俺の姿を見留めると、目を見開いた。
それから、男には適当な挨拶でもしたのか、一目散に駆け寄ってくると
『…待たせてごめんね』
そう言って、手を力強く繋がれる。
「ああ。待った」
その指を絡めれば、伝わるものがあったのだろうか
『ごめんなさい。サークルの勧誘しつこくて…断るのに手間取っちゃった』
その男が違う学部の2年生だということ、茶道部の勧誘だったこと、お互い名前も知らないことを教えてくれた。
「……そうか」
『うん。茶道部で抹茶を使ったレシピの考案もするらしくて、調理部に声かけてるんだって』
「いいのか?入らなくて」
『うん。私は真君といる時間、減らしたくないから』
心なしか足早に、帰路を辿る。
早く、早く二人だけになりたかった。
抱き締めたくて、たまらなかった。
『ただいま……っぅわ!?』
「…」
『……真君。待ち合わせた時、凄い顔してたよ』
「…酷い顔だった自覚はある」
玄関先、鍵をかけた雨月を後ろから抱き締めて、俺は呻く。
『酷い…というか。切羽詰まって、泣きそうだった』
「…余裕なかったんだよ」
『うん。私が同じ立場でも、余裕なかったよ。ごめんね、気が利かなくて』
「…いい。これは、俺のエゴだ。お前に対する独占欲だ、お前が悪い訳じゃない」
このまま腕の中に居てくれればいいのに。
玄関が開かなければいい、朝が来なければいい。
出来ないことばかりが頭を過る。
『でもね、嬉しかったの』
「…」
『好きじゃなきゃ、嫉妬なんかしない。好きじゃなきゃ、独占しようとも思わない。そうでしょ?』
「……」
『私は、嫉妬するに、独占するに値する存在であれたんだって、嬉しかったの』
腕の中で体を反転させた雨月はそのまま俺の背中に腕を回す。
『その顔、見せてくれてありがとう』
「……お前にしか見せない顔だ。お前だけが、させられる顔だ」
一層抱き締めて、心の中で嘲笑した。
~嫉妬~
(たかが知らない奴と話してた程度で、この様か)
(…雨月が赦してくれるなら)
(別に、隠さなくてもいいんだな)
(誰にも渡したくない、触れさせたくない)
(声も、匂いも、触れられないものだって)
(全部全部、俺のものなんだから)
fin
花:マリーゴールド
~嫉妬~
食:抹茶