花と蝶 番外
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《two:2018はなたん②》
『長崎?』
「ああ」
早朝の空港。
長崎行きの便を待ってロビーの椅子に座っている。
『九州初めてだね』
「……寧ろどこ行ったことあるんだよ」
『えっと…修学旅行の沖縄、奈良、京都、広島…あと長野のおばあちゃん家』
「行ったことないとこのが多いだろうが」
『そうだった』
キャリーバックを預け、ショルダーバッグを持つ私とウエストポーチを着けた真君は。
各地の天気予報と発着場の飛行機をみていた。
「…期待と違ったか?」
『ううん、そんなことない。言ったでしょ?真君が居ればそれでいいの、初めての長崎が真君と一緒なんて嬉しい』
「………そ」
飛行機を見てテンションの上がった私は
真君の手をぎゅっと繋いで笑いかける。
が、彼は素っ気なくそっぽを向いてしまった。
『…あ、照れた?』
「解ってんならもう少し小さい声で言えよな…」
飛行機に乗ってますます私のテンションは上がる。
私はずっと窓の外を眺めてはしゃいでいて、サービスドリンクの種類の豊富さに驚いてまたはしゃいだ。
「そんなんで着いた時に疲れたじゃ困るんだがな」
『だ、大丈夫だよ』
「言ったな?夜まで遊ぶんだから、覚悟しとけよ」
『うん!』
遊ぶ?とは?
飛行機が長崎に着いて、荷物を持って空港を歩きながら思う。
長崎にテーマパークあったっけ?
『…あ!オランダ村!!』
「あー…外れじゃねぇが古いな。聞いたことあるだろ?」
ハウステンボス
『…!』
空港のすぐ脇にある、ハウステンボス行きのフェリー乗り場で私はまたはしゃぐ。
『ハウステンボス!光とかお花がキラキラって!ふわーって!』
「落ち着け。それ、それだから。夜の光のショーまで体力残しとけよ?」
『うん!うん!』
本当はフェリーのエンジン音が凄くうるさいとか、かなり揺れるとか、思うことはあったけど。
広い海と快晴の空と、真君の呆れたような笑顔でどうでもよくなった。
『すごい!街並み綺麗…』
「荷物だけホテルに預けて…どうする?朝飯食ってないから軽く食べるか?」
『あ…そうだね、お腹空いちゃった』
いざ入場したら、シーズンオフとはいえ土曜、賑わっていて。それでも時間帯がお昼よりは早いせいか、飲食店は空いていた。
「長崎名物か…ちゃんぽんとか佐世保バーガーだが…」
『させぼバーガー?』
「総称だな。この辺りで、手作りの拘りあるバーガーは全部佐世保バーガーだ」
『それ食べたいな、さっき看板あって気になったんだ』
「じゃあそれ」
少し戻って、気になったブラックボードを眺めて悩む。
「…決まったか?」
『うーん…オススメ佐世保バーガーかバンズポットシチューで悩んでる』
「両方頼んで、半分食べたら交代するか?」
『いいの?』
返事をする前に、真君はオーダーを始めて。同時にコーヒーとレモンティーを注文した。
「園内でも気になるもんはあるだろうから、食べるのも程々だな」
『わかってるけど…目移りするね。和牛バーガー美味しそう…』
「頼むか?」
『いい、大丈夫、今頼んだので十分』
そんなやり取りの中、バーガーは運ばれてきて。
大きなバンズをくり貫いてシチューをいれたもの、拘りのハンバーグを挟んだレタス多めのバーガー。
どちらもとても美味しそうだった。
記念に…と手早く写真を撮ってバーガーを噛る。
『…!おいしい!』
「そりゃ良かった」
『真君は…聞くまでもないね』
「まあ、普通だな」
シチューを啜る真君は、相変わらず私が作ったもの以外の味は一様に感じるらしく。可もなく不可もない、らしい。
「でも不味いものはわかるからな。うまいんじゃねぇの」
『ああ、桃井ちゃんのキャラメル』
「あれは兵器だろ。何かを亡ぼす力を持ってる」
その味を思い出したように、顔をしかめた真君が面白くてつい笑った。
「…いつまで笑ってんだよ。ほら、交換」
『ごめんごめん。はい、美味しかったよ』
「ん」
食べ終わってお店を出ると、またその街並みに感嘆のため息がでる。
ほんと、この溢れ出る異国情緒、素敵。
「さて…とにかく広いんだが、観覧車とバラ園行くか」
マップを手に行き先を決めた真君は私の手を繋いだ。
それから、目を細めて笑う。
「エスコートしますよ、お姫様」
ああダメだ、これは、酔う。
ここの雰囲気にも、彼の優しさにも。
『…お願いします、王子様』
引かれる手が、幸せで仕方ない。
…………
…………
『うわぁ…バラ、凄い数、凄い種類、凄い綺麗…』
「おい、語彙力死んでるぞ」
『人はね、凄すぎると言葉を飾れなくなるんだよ』
「へー」
とにかく、そこらじゅうがバラに溢れていて、異国どころかファンタジーに迷い込んだみたいな感じ。
そこを大切な人と手を繋いで歩いてるんだよ?
夢みたいだよね。
「…写真撮るか」
観覧車の前で一枚、撮影スポットで何枚か。
歩きやすいとはいえ、スニーカーじゃなくて履き慣れたパンプスをチョイスした私正解。合わせてシンプルなワンピースとストールにして本当によかった。
『観覧車、順番きたよ』
写真をとってる間に順番が来て、観覧車の籠にのる。
上からみると敷地の広大さと、咲き乱れたバラ、レンガの街並みが一望できて絶景だった。
『…綺麗』
「そうだな」
隣に座る真君は私の肩を抱いて一緒に眺めている。
横目に入る彼の横顔も綺麗でなんかもう、なんかもう!
『はあ…幸せ過ぎる』
「まだ半日だぜ?」
『どうしよ、明日とか明後日なんて幸せが致死量に達するかも』
「おいおい」
馬鹿言うなよ。と、彼は軽く唇を頬に寄せて。
そろそろ地上だぞ、と手を繋ぎ直した。
だから、なんでこうカッコいいかな!
『上から見てて、綺麗な道あったよね』
「道…?ここのフラワーロード以外か?」
『うん。カラフルな…』
「ああ、傘のアーケード」
観覧車を離れるや、スタスタと手を引く彼の手に地図はない。
嘘、脳内マッピング終了なの?
相変わらずの記憶力だね。
連れられるまま数分歩くと、上から見た景色が現れた。
『これ!カラフル、可愛い!』
「土産とか、専門店が多いな」
『ガラスにワインにチーズ…カステラにミッフィーに駄菓子』
「もうちょっとまとめてから口に出せ…」
でも、結局端から全部回ってくれるのが真君。
駄菓子屋で見つけたキャンディの花束
チーズ屋のチーズアソート
カステラも老舗のとお洒落なの
ガラス屋でブローチとペアグラス
それから
「これ、絶対買おうと思ってた」
私と同い年のワイン。
全部、彼が買ってくれたもの。
『…もらって、いいの?』
「当然だろ。お前の為のものだ、ここにあるものも、俺も、全部」
夕方には、もう抱える程のプレゼントをもらっていて。
園内のホテルにチェックインして荷物をおろす。
その、ホテルの部屋がまた綺麗で。
花柄の壁紙、赤い絨毯、赤いソファー、花柄シーツのダブルベッド。
そんな部屋で、さっきの台詞。
伏し目の微笑つき。
『…っ』
「おっと、」
我慢できなくて彼に抱きついた。
嬉しくて、胸がいっぱいで、苦しい。
『ありがとう…』
「どういたしまして」
抱き締め返されて余計苦しい。
これは、幸せな苦しさだけれども。
「…夕飯の場所考えながら少し休むか。結構歩いたろ、足痛まないか?」
『うん、大丈夫。真君は?』
「余裕」
『だよね』
ふかふかのソファーに寄り添って座り込み、ガラステーブルにパンフレットを並べる。
長崎名物も捨てがたいけど、どうせならこの街の雰囲気に酔ったまま洋食もいいな。
なんて、写真を見比べながら思う。
『…真君、行きたいとこある?』
「んー…トルコライス以外。これは見れば雨月が作れる」
『あー…そうだね』
「魚はハウステンボスで無くてもいいな、…いっそホテルレストランでもいいぞ」
『いや…私マナーとか自信ないから、格式あるとこは…』
「まあ堅苦しいか。…イタリアンは?博多明太と呼子の烏賊パスタ」
『え、美味しそう!』
「じゃあそこで」
決まったのは、展望台の下にあるピザとパスタのレストラン。
内装もお洒落で素敵。
私はさっきの烏賊と明太子のスパゲッティー、真君はトマトのリングイネ。それからピザのマリナーラ。
『美味しい!はい、一口あげる』
「ん…」
『明太子の辛さがいいよね。敢えてクリームじゃないのもいい』
あーん、と。彼の口に運べば、咀嚼しながら頷いている。
「……ほら、お前も」
『ありがと。…ん!おいし!』
私の口に運ばれたリングイネも美味しい。
シェアしたマリナーラも勿論美味しい。
「…そろそろプロジェクションマッピング始まるな」
『もう?』
プロジェクションマッピングという光のイベントはメインとも言えるもので。
見ている間はただ息を飲むばかりの素晴らしさ。
あまりの迫力と鳥肌が立つ美しさで、思わず真君の手を強く握った。
彼も同じように握り返してくれたので、映像が終わるまでの30分、ずっとそのまま。
『……あっという間だね』
「これは魅入るな、ストーリーもデザインもよく考えられてる」
言葉にならない高揚感が、まだ胸に焼き付いている。
「…戻るぞ。名残惜しいのも解るが、あの部屋だって満喫したいだろ?」
『うん』
それを記憶に留めるよう、隣にいる彼にしがみついた。
before two days
バラと光に囲まれた日
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