四季折々
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《梅雨① しとしと》
春が終わって夏が来るこの時期、窓の外は水のカーテンで遮られている。
外の世界と完全に隔たれ気になるくらいの雨音と、風景が霞むくらいの雨量。
まあ、いわゆる、梅雨だ。
『暑い』
「寒い」
梅雨の湿気を『蒸し暑さ』と感じている私と、「肌寒い」と感じている真。
真逆な意見ではあるが、不快度はお互い同じくらいで。お互いに「嫌な季節だ」『嫌な季節だね』と微笑めるとこだけ、少し好きな季節。
この時期は纏わりつく湿気とベタつきが嫌で、暑さはあるが素肌でいるよりは何か着ていた方が過ごしやすい。
私は麻でできたワンピースを着ていることが多かった。
本当は、接触冷感仕様のシャツとかレギンスを着たい。サラサラな肌触りのやつ。
でも、以前それを着ているとき、不意に触れた真がパッと手を引っ込めたことがある。寒がりな彼だから、突然触れた冷たさに驚いて手を引っ込めたんだろうけど…あの拒絶するような表情と仕草が頭から離れなくて。
私自身に向けた表情じゃないんだろうけど、今でも胸の底に棘みたいに刺さってて、ふと思い出しては苦しくなる。
あれは二度と着ないって誓った。
真の方は外気が肌寒いと感じてるから、綿の長袖シャツに、上から薄いストールを羽織っていることが多かった。
そんな彼は、今、ストールを羽織ってソファに凭れながら小説を読んでいる。
私は、窓際に座り込んで窓の外を見るふりをしながら、あと数ページがいつ読み終わるのかとソワソワしていた。
本を読む彼の横顔が好きだ。
艶やかな黒髪が横に垂れるのも、そこから覗く真剣な瞳も、長い睫毛も。
だから、読書を邪魔する気はない。
ただ、読書だけ、だとちょっと寂しい。
『…まこと』
「ん?」
返事はしてくれるけど、顔は上げてくれない。
やっぱりちょっと寂しくて、声をかける。
『なんか飲む?』
「ああ」
『コーヒー?紅茶?』
「紅茶」
紅茶か、珍しい。
いつもコーヒーの方が多いけど、今読んでる本は紅茶の気分なのかも知れない。
そんなことを考えながらキッチンに向かおうとすれば、
「…お前は?」
彼が不意に顔をあげた。
それだけで嬉しくなって口角が緩む。
『私はアイスコーヒーにしようかな』
「なら、俺もコーヒー"が"いい」
そしたら、彼も一緒になって口元を緩めた。
『…そ、う?』
「ああ」
コーヒーで、じゃなくて。
コーヒーが、って。
そういうとこ。
そういうとこだよ、ほんと。
***
『ねえ、まこと』
「あと3ページ」
コーヒー携えて、彼の横に座り込んで。
彼のマグカップの湯気は薄まってきたし、私のグラスはそろそろ氷も溶け切りそう。
まだかな。
まだかな。
邪魔したくないけど。
そろそろこっち見ないかな。
『…せっかく二人っきりなのに』
全然こっちを見ない彼に背を向けて、再び窓の外へ視線をむける。
相変わらず煙るような雨だ。
まるで、雨のこっち側は私と彼だけの世界みたいなのに。
小さな声だったはずだけど、二人きりの世界では聞こえてしまったらしい。
ふはっ、と。吐息みたいな笑い声と、パタンと本を閉じる音。
期待いっぱいに振り向いたら、腕を引かれてそのまま彼の胸へ倒れ込んだ。
「待たせたな。で?二人っきりで何したいって?」
頭上から降ってくる声は優しい。
背中を伝う指先も優しい。
『なんにも』
「…」
『ただ、こうしたかっただけ』
じっとりと張り付くような暑さは嫌いだけど、彼の体温には触れていたい。
彼には、声にも眼差しにも温もりがあって。
暑がりな私でも、その温もりは享受していたいし、独り占めしていたい。
『飲み物いれ直してくるから、二人きりでデートして?今度は、紅茶にするから』
「…紅茶でいいのか?」
『紅茶が、いいの』
飲み物入れ直す、って言ってるのに。
彼の腕は麻のワンピースがくしゃくしゃになるくらい抱き寄せてきて。
私も強く抱き締め返していた。
→梅雨②
春が終わって夏が来るこの時期、窓の外は水のカーテンで遮られている。
外の世界と完全に隔たれ気になるくらいの雨音と、風景が霞むくらいの雨量。
まあ、いわゆる、梅雨だ。
『暑い』
「寒い」
梅雨の湿気を『蒸し暑さ』と感じている私と、「肌寒い」と感じている真。
真逆な意見ではあるが、不快度はお互い同じくらいで。お互いに「嫌な季節だ」『嫌な季節だね』と微笑めるとこだけ、少し好きな季節。
この時期は纏わりつく湿気とベタつきが嫌で、暑さはあるが素肌でいるよりは何か着ていた方が過ごしやすい。
私は麻でできたワンピースを着ていることが多かった。
本当は、接触冷感仕様のシャツとかレギンスを着たい。サラサラな肌触りのやつ。
でも、以前それを着ているとき、不意に触れた真がパッと手を引っ込めたことがある。寒がりな彼だから、突然触れた冷たさに驚いて手を引っ込めたんだろうけど…あの拒絶するような表情と仕草が頭から離れなくて。
私自身に向けた表情じゃないんだろうけど、今でも胸の底に棘みたいに刺さってて、ふと思い出しては苦しくなる。
あれは二度と着ないって誓った。
真の方は外気が肌寒いと感じてるから、綿の長袖シャツに、上から薄いストールを羽織っていることが多かった。
そんな彼は、今、ストールを羽織ってソファに凭れながら小説を読んでいる。
私は、窓際に座り込んで窓の外を見るふりをしながら、あと数ページがいつ読み終わるのかとソワソワしていた。
本を読む彼の横顔が好きだ。
艶やかな黒髪が横に垂れるのも、そこから覗く真剣な瞳も、長い睫毛も。
だから、読書を邪魔する気はない。
ただ、読書だけ、だとちょっと寂しい。
『…まこと』
「ん?」
返事はしてくれるけど、顔は上げてくれない。
やっぱりちょっと寂しくて、声をかける。
『なんか飲む?』
「ああ」
『コーヒー?紅茶?』
「紅茶」
紅茶か、珍しい。
いつもコーヒーの方が多いけど、今読んでる本は紅茶の気分なのかも知れない。
そんなことを考えながらキッチンに向かおうとすれば、
「…お前は?」
彼が不意に顔をあげた。
それだけで嬉しくなって口角が緩む。
『私はアイスコーヒーにしようかな』
「なら、俺もコーヒー"が"いい」
そしたら、彼も一緒になって口元を緩めた。
『…そ、う?』
「ああ」
コーヒーで、じゃなくて。
コーヒーが、って。
そういうとこ。
そういうとこだよ、ほんと。
***
『ねえ、まこと』
「あと3ページ」
コーヒー携えて、彼の横に座り込んで。
彼のマグカップの湯気は薄まってきたし、私のグラスはそろそろ氷も溶け切りそう。
まだかな。
まだかな。
邪魔したくないけど。
そろそろこっち見ないかな。
『…せっかく二人っきりなのに』
全然こっちを見ない彼に背を向けて、再び窓の外へ視線をむける。
相変わらず煙るような雨だ。
まるで、雨のこっち側は私と彼だけの世界みたいなのに。
小さな声だったはずだけど、二人きりの世界では聞こえてしまったらしい。
ふはっ、と。吐息みたいな笑い声と、パタンと本を閉じる音。
期待いっぱいに振り向いたら、腕を引かれてそのまま彼の胸へ倒れ込んだ。
「待たせたな。で?二人っきりで何したいって?」
頭上から降ってくる声は優しい。
背中を伝う指先も優しい。
『なんにも』
「…」
『ただ、こうしたかっただけ』
じっとりと張り付くような暑さは嫌いだけど、彼の体温には触れていたい。
彼には、声にも眼差しにも温もりがあって。
暑がりな私でも、その温もりは享受していたいし、独り占めしていたい。
『飲み物いれ直してくるから、二人きりでデートして?今度は、紅茶にするから』
「…紅茶でいいのか?」
『紅茶が、いいの』
飲み物入れ直す、って言ってるのに。
彼の腕は麻のワンピースがくしゃくしゃになるくらい抱き寄せてきて。
私も強く抱き締め返していた。
→梅雨②