子守唄から鎮魂曲まで
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《狭間》:花宮
※花宮視点
まさか、本当にくれると思わなかった。
いや、彼女ならくれるだろうとも思っていた。そのうえで断られたらどうしようと、冒頭の言葉で予防線を張っていたのだ。
6つ年上の幼馴染みが一人暮らしを始めた。
その部屋の合鍵が、俺の手のひらの上で鈍く輝いている。
彼女が一人暮らしをするって言った日に、俺の誕生日プレゼントに何がほしいかなんて聞くから。今まで通りを望むにはどうしたらいいか考えて考えて、やっと「合鍵」と言ったのに。二つ返事でいいよ、と答えやがった。…けど、それを信じてもいたんだ、柄にもなく。
『一応くるときは連絡してね』
とは言われたけれど。「明日」とだけメールしても『いつでもいいよ』と返ってくるし、「今日」と送っても『待ってるね』と返ってくる。しまいに「今」と送ったら『まだ仕事中だから勝手に入ってて』と返ってきた。連絡する意味あるのか分からないくらい、断られたことがない。
いつ行っても彼女の部屋は片付いていて、お世辞にも広くない1DKにスーツをかけるハンガーと専門書の入った小さな本棚が目についた。彼女は大人で、自分は学生で。それを頼ってもいい関係として甘んじてもいたが、歯痒くも感じていた。
『部活お疲れ様、これで引退だね』
『卒業おめでとう、もう大学生か』
彼女は変わらず頭を軽く撫でてくる。振り払いさえしなければ、離れていかない温かい手。伺うように見つめていれば、仕方ないなって顔で静かに微笑んで抱き締めてくれるとこも変わらない。
部活が思い通りにならなかった、バイト先の社員が気に入らない、大学の講座がつまらない、実家で親と喧嘩した、彼女の部屋で話す内容なんてそんなものなのに。
『そっか、花宮はいつも頑張ってるね』
そういって、やっぱり変わらずに微笑んでくれていた。毎日会えたらいいのに、そうもいかなかったけど。だただそれがほしくて、彼女の休みや帰りを待って部屋を訪れた。
そして、合鍵を貰って6年。やっと、彼女と同じ社会人になった。『就職おめでとう』と彼女は頭を撫でてくれて。これからも、この手のひらを享受することができるんだと思った。
けど、就職して暫くは研修やレポートで忙殺されて、自分も一人暮らしを始めたから生活リズムを作るのにいっぱいいっぱいで、彼女にずっと会いにいけなかった。
やっと落ち着いた、就職して半年後。金曜日の夜、遅い時間だったけど「今」と連絡する。こんなに会わなかったことないから緊張するしソワソワして柄にもなく楽しみにしてる。もう向かってるしなんなら直ぐ着きそうだ。というか、返事がくる前に着いてしまった。
一応チャイムを鳴らして、合鍵を取り出す。
不思議だよな、合鍵を持ってて勝手に出入りしていいのに、俺はあいつの「幼馴染み」のままだ。弟だとすら思われてるかもしれない。…それでもいいと思ってここまできたけれど。
鍵を開けて入れば、スーツのままテーブルでうたた寝をしている彼女がいた。そんな姿を見るのは初めてで、寝かせておいて帰った方がいいか…と逡巡しているうちに彼女の目蓋が開く。
『…真?』
「珍しいな、具合悪いのか?」
『大丈夫。花宮は?どうしたの?』
どうしたの?と言われると、会いたかっただけかもしれない。そんなこと、言える質でもないが。
「チームでリーダーを任された。新卒では異例だとよ」
これは事実。こういう内容なら、彼女はいつものように声をかけて頭を撫でてくる、そう思ってたのに。
『…そっか。やっぱり真は違うなぁ』
彼女はそういって、自分の頭をガシガシと掻いた。ボサボサになった彼女の髪を呆然と眺めて、そのまま床に落ちる彼女の手を目で追う。
『私にはできないもん。ほんと、なんでできないんだろ、なんでこんなに違うんだろね』
彼女の口から重い溜め息が漏れて、次いで乾いた笑いを浮かべている。
『わたしはね、今日、リーダー下ろされたよ。理由は教えてくれなかった。人事の決定だからってだけ』
今気づいた。彼女は仕事の話はするけれど、仕事の愚痴を俺に聞かせたことがなかった。
『いいな、まこと。任せて貰えたんだ、ほんとに、わたしとは違うんだね』
今日は、ずっと知らない彼女を見ているみたいだ。
彼女は、こんなふうに言わない。
俺のことを、こんなふうに見ない。
「……帰る」
幼馴染み、でもなかったんだろうか。
あんなに彼女に会いたくて温かだった気持ちは、急にジクジク痛み出して。
居たたまれなくなって部屋を飛び出した。
************
※ヒロイン視点※
夢でも見ているのかと思った。目の前に、半年ぶりに見る真の顔があって。
新入の時は私だって忙しくて、彼は来てくれたから会えたけど、会いに行くだったら会えなかったな。と、遠く思っていたけれど。
彼の顔がサッと曇って、消え入りそうな声で「帰る」と言った。
ガチャン、と音を立てる玄関と、靴箱から滑り落ちる鍵がたてたチャリンという高い音が頭に響いて我に返った。
私、彼になんて言った?
血の気が引いていくのが分かる。
「おめでとう」「応援してる」って、なんで言ってあげられなかった?
私だって、そう言われたかったはずなのに。
『まこと…っ!?』
慌てて玄関に向かって、気づく。靴箱から落ちた鍵は、真に渡した合鍵の方。
置いて行ったのだ、ここに。
(あ…)
子供だった彼が、望んだ鍵。一緒にいたいと、甘えたいと願ってくれた。…その相手に、私を選んでくれたのに。
いや、彼はもう、子供じゃない。
いつか出ていく檻の鍵が、今日開いただけじゃないか。
大人になる彼を楽しみにしてたのは、私だろ。
なら、全うに送り出せ。
あんな、迷子の子供みたいな顔をさせて。
あんな、恨みがましい言葉で突き放して。
それで良いわけない。
『…まこと』
できることなら、これからも傍にいたい。近くにいたいのは私の方だ。
彼に少しでも良い大人である、良き姉である私を見せたいから頑張ってこれた。
…いずれ、彼の方が仕事もできるようになって、私なんか要らなくなるだろうけど。わかっていたはずだけど、こんな終わりかた、したくない。
携帯を取り出して、彼に電話しようとして、最新の「今」という未読メッセージが目に入る。今まで、こんな時間に花宮が来たことはない。遅い時間でも会いたいほど切羽詰まっていた彼を、突き放してしまったなんて。
追いかけたい。
でも、合わせる顔もない。
すくむ足を玄関から動かせず、靴もはかないまま立ち尽くしていれば。ふと、携帯画面の「今」が一つ増える。
『え』
フリーズした私の前で、ガチャリと玄関のドアノブが回る。
そうだ、鍵が中にあるんだから施錠してな……
開いた玄関に思わず顔を上げれば、息を切らせた真が立っていて。
思わず1歩下がれば、彼は中へ入って後ろ手に玄関の鍵を閉める。
そして、私が何か言う前に、徐に手を上げたかと思えば。それは、私の頭に置かれた。
ぎこちなく、けれど優しさのある速度で動く手のひらに。
撫でられているのだ、と、3拍くらい遅れて気づく。
「…十分頑張ってる…てか、頑張りすぎなんだよ」
続く言葉に再びフリーズすれば、やっぱりぎこちない動きで、でもたしかな強さで抱き締められた。
「……逃げて悪かった。いつも、お前がしてくれてたのにな」
耳元で、震える声を絞り出すように彼は囁いた。
『…違うよ、逃げたのは私。大人に成った君と比べられるのが、追い越されるのが、怖くてたまらなかった。ごめんね、真。君に謝らせちゃった』
私も負けず劣らず震えた声を絞り出す。
ああ、この腕を解くのは名残惜しい。
さっきまで全うに彼を送り出すことを考えていたのに。
『真の力だよ、リーダーおめでとう。頑張って、でも、無理しちゃ駄目よ』
これだけ伝えたら、笑顔で見送れって、思ってたのに。
『…っ』
顔を上げたら、泣いてしまう。
彼の背を抱き締め返せたら、どんなに
いいかと思ってしまう。
「…お前、俺のことなんだと思ってんの」
『なに、急に』
「合鍵まで渡した男に無抵抗で抱き締められて、なんでサヨナラみたいな空気してんだって言ってんだよ」
抱き締められる腕の力が強くなる。
私だって応えたい。
『…だって、鍵、置いてったから。もう、これっきりなんだと、思って』
「なら、今こうはならねぇだろ」
『じゃあ、なんで置いてったの』
泣きそうなのを必死に耐えて、彼の言葉を待てば、バツの悪そうな声がした。
「…動揺して忘れた。いつもみたいに、お前が撫でてくれると思ったから。なんか、知らない奴みたいで。でも、仕事の愚痴を一つも漏らさなかったお前が、俺に話してくれたんだと思ったら…初めて大人になれた気がした。お前も、こうされたかったんじゃないかって」
背中にまわる彼の手の片方が、私の頭を優しく撫でる。
「これっきりで終われねぇから戻ってきたんだろうが。なあ、」
柔らかい声に切実さが滲んで。
私は堪らず彼の背を抱き締め返した。
『…私もね、あのまま終われないと思って。帰ってきてくれてありがとう。さっきのやり直し、させて』
背伸びをして、彼の頭を撫でようと腕を伸ばせば。彼は察して屈んでくれる。
私は泣き顔を晒すことになったが、彼は嬉しそうに眼を細めるばかりで言及してこない。
と思ったら
「…言っとくけど、俺は“合鍵を渡されてる幼馴染み”で終わるつもりはないからな」
いつもみたいに笑って、目尻の涙に口付けらた。
→その6年後
※花宮視点
まさか、本当にくれると思わなかった。
いや、彼女ならくれるだろうとも思っていた。そのうえで断られたらどうしようと、冒頭の言葉で予防線を張っていたのだ。
6つ年上の幼馴染みが一人暮らしを始めた。
その部屋の合鍵が、俺の手のひらの上で鈍く輝いている。
彼女が一人暮らしをするって言った日に、俺の誕生日プレゼントに何がほしいかなんて聞くから。今まで通りを望むにはどうしたらいいか考えて考えて、やっと「合鍵」と言ったのに。二つ返事でいいよ、と答えやがった。…けど、それを信じてもいたんだ、柄にもなく。
『一応くるときは連絡してね』
とは言われたけれど。「明日」とだけメールしても『いつでもいいよ』と返ってくるし、「今日」と送っても『待ってるね』と返ってくる。しまいに「今」と送ったら『まだ仕事中だから勝手に入ってて』と返ってきた。連絡する意味あるのか分からないくらい、断られたことがない。
いつ行っても彼女の部屋は片付いていて、お世辞にも広くない1DKにスーツをかけるハンガーと専門書の入った小さな本棚が目についた。彼女は大人で、自分は学生で。それを頼ってもいい関係として甘んじてもいたが、歯痒くも感じていた。
『部活お疲れ様、これで引退だね』
『卒業おめでとう、もう大学生か』
彼女は変わらず頭を軽く撫でてくる。振り払いさえしなければ、離れていかない温かい手。伺うように見つめていれば、仕方ないなって顔で静かに微笑んで抱き締めてくれるとこも変わらない。
部活が思い通りにならなかった、バイト先の社員が気に入らない、大学の講座がつまらない、実家で親と喧嘩した、彼女の部屋で話す内容なんてそんなものなのに。
『そっか、花宮はいつも頑張ってるね』
そういって、やっぱり変わらずに微笑んでくれていた。毎日会えたらいいのに、そうもいかなかったけど。だただそれがほしくて、彼女の休みや帰りを待って部屋を訪れた。
そして、合鍵を貰って6年。やっと、彼女と同じ社会人になった。『就職おめでとう』と彼女は頭を撫でてくれて。これからも、この手のひらを享受することができるんだと思った。
けど、就職して暫くは研修やレポートで忙殺されて、自分も一人暮らしを始めたから生活リズムを作るのにいっぱいいっぱいで、彼女にずっと会いにいけなかった。
やっと落ち着いた、就職して半年後。金曜日の夜、遅い時間だったけど「今」と連絡する。こんなに会わなかったことないから緊張するしソワソワして柄にもなく楽しみにしてる。もう向かってるしなんなら直ぐ着きそうだ。というか、返事がくる前に着いてしまった。
一応チャイムを鳴らして、合鍵を取り出す。
不思議だよな、合鍵を持ってて勝手に出入りしていいのに、俺はあいつの「幼馴染み」のままだ。弟だとすら思われてるかもしれない。…それでもいいと思ってここまできたけれど。
鍵を開けて入れば、スーツのままテーブルでうたた寝をしている彼女がいた。そんな姿を見るのは初めてで、寝かせておいて帰った方がいいか…と逡巡しているうちに彼女の目蓋が開く。
『…真?』
「珍しいな、具合悪いのか?」
『大丈夫。花宮は?どうしたの?』
どうしたの?と言われると、会いたかっただけかもしれない。そんなこと、言える質でもないが。
「チームでリーダーを任された。新卒では異例だとよ」
これは事実。こういう内容なら、彼女はいつものように声をかけて頭を撫でてくる、そう思ってたのに。
『…そっか。やっぱり真は違うなぁ』
彼女はそういって、自分の頭をガシガシと掻いた。ボサボサになった彼女の髪を呆然と眺めて、そのまま床に落ちる彼女の手を目で追う。
『私にはできないもん。ほんと、なんでできないんだろ、なんでこんなに違うんだろね』
彼女の口から重い溜め息が漏れて、次いで乾いた笑いを浮かべている。
『わたしはね、今日、リーダー下ろされたよ。理由は教えてくれなかった。人事の決定だからってだけ』
今気づいた。彼女は仕事の話はするけれど、仕事の愚痴を俺に聞かせたことがなかった。
『いいな、まこと。任せて貰えたんだ、ほんとに、わたしとは違うんだね』
今日は、ずっと知らない彼女を見ているみたいだ。
彼女は、こんなふうに言わない。
俺のことを、こんなふうに見ない。
「……帰る」
幼馴染み、でもなかったんだろうか。
あんなに彼女に会いたくて温かだった気持ちは、急にジクジク痛み出して。
居たたまれなくなって部屋を飛び出した。
************
※ヒロイン視点※
夢でも見ているのかと思った。目の前に、半年ぶりに見る真の顔があって。
新入の時は私だって忙しくて、彼は来てくれたから会えたけど、会いに行くだったら会えなかったな。と、遠く思っていたけれど。
彼の顔がサッと曇って、消え入りそうな声で「帰る」と言った。
ガチャン、と音を立てる玄関と、靴箱から滑り落ちる鍵がたてたチャリンという高い音が頭に響いて我に返った。
私、彼になんて言った?
血の気が引いていくのが分かる。
「おめでとう」「応援してる」って、なんで言ってあげられなかった?
私だって、そう言われたかったはずなのに。
『まこと…っ!?』
慌てて玄関に向かって、気づく。靴箱から落ちた鍵は、真に渡した合鍵の方。
置いて行ったのだ、ここに。
(あ…)
子供だった彼が、望んだ鍵。一緒にいたいと、甘えたいと願ってくれた。…その相手に、私を選んでくれたのに。
いや、彼はもう、子供じゃない。
いつか出ていく檻の鍵が、今日開いただけじゃないか。
大人になる彼を楽しみにしてたのは、私だろ。
なら、全うに送り出せ。
あんな、迷子の子供みたいな顔をさせて。
あんな、恨みがましい言葉で突き放して。
それで良いわけない。
『…まこと』
できることなら、これからも傍にいたい。近くにいたいのは私の方だ。
彼に少しでも良い大人である、良き姉である私を見せたいから頑張ってこれた。
…いずれ、彼の方が仕事もできるようになって、私なんか要らなくなるだろうけど。わかっていたはずだけど、こんな終わりかた、したくない。
携帯を取り出して、彼に電話しようとして、最新の「今」という未読メッセージが目に入る。今まで、こんな時間に花宮が来たことはない。遅い時間でも会いたいほど切羽詰まっていた彼を、突き放してしまったなんて。
追いかけたい。
でも、合わせる顔もない。
すくむ足を玄関から動かせず、靴もはかないまま立ち尽くしていれば。ふと、携帯画面の「今」が一つ増える。
『え』
フリーズした私の前で、ガチャリと玄関のドアノブが回る。
そうだ、鍵が中にあるんだから施錠してな……
開いた玄関に思わず顔を上げれば、息を切らせた真が立っていて。
思わず1歩下がれば、彼は中へ入って後ろ手に玄関の鍵を閉める。
そして、私が何か言う前に、徐に手を上げたかと思えば。それは、私の頭に置かれた。
ぎこちなく、けれど優しさのある速度で動く手のひらに。
撫でられているのだ、と、3拍くらい遅れて気づく。
「…十分頑張ってる…てか、頑張りすぎなんだよ」
続く言葉に再びフリーズすれば、やっぱりぎこちない動きで、でもたしかな強さで抱き締められた。
「……逃げて悪かった。いつも、お前がしてくれてたのにな」
耳元で、震える声を絞り出すように彼は囁いた。
『…違うよ、逃げたのは私。大人に成った君と比べられるのが、追い越されるのが、怖くてたまらなかった。ごめんね、真。君に謝らせちゃった』
私も負けず劣らず震えた声を絞り出す。
ああ、この腕を解くのは名残惜しい。
さっきまで全うに彼を送り出すことを考えていたのに。
『真の力だよ、リーダーおめでとう。頑張って、でも、無理しちゃ駄目よ』
これだけ伝えたら、笑顔で見送れって、思ってたのに。
『…っ』
顔を上げたら、泣いてしまう。
彼の背を抱き締め返せたら、どんなに
いいかと思ってしまう。
「…お前、俺のことなんだと思ってんの」
『なに、急に』
「合鍵まで渡した男に無抵抗で抱き締められて、なんでサヨナラみたいな空気してんだって言ってんだよ」
抱き締められる腕の力が強くなる。
私だって応えたい。
『…だって、鍵、置いてったから。もう、これっきりなんだと、思って』
「なら、今こうはならねぇだろ」
『じゃあ、なんで置いてったの』
泣きそうなのを必死に耐えて、彼の言葉を待てば、バツの悪そうな声がした。
「…動揺して忘れた。いつもみたいに、お前が撫でてくれると思ったから。なんか、知らない奴みたいで。でも、仕事の愚痴を一つも漏らさなかったお前が、俺に話してくれたんだと思ったら…初めて大人になれた気がした。お前も、こうされたかったんじゃないかって」
背中にまわる彼の手の片方が、私の頭を優しく撫でる。
「これっきりで終われねぇから戻ってきたんだろうが。なあ、」
柔らかい声に切実さが滲んで。
私は堪らず彼の背を抱き締め返した。
『…私もね、あのまま終われないと思って。帰ってきてくれてありがとう。さっきのやり直し、させて』
背伸びをして、彼の頭を撫でようと腕を伸ばせば。彼は察して屈んでくれる。
私は泣き顔を晒すことになったが、彼は嬉しそうに眼を細めるばかりで言及してこない。
と思ったら
「…言っとくけど、俺は“合鍵を渡されてる幼馴染み”で終わるつもりはないからな」
いつもみたいに笑って、目尻の涙に口付けらた。
→その6年後