子守唄から鎮魂曲まで
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《マザーグース》:花宮
※ヒロイン視点
机に広がる答案用紙を見て、ため息が出そうになる。
今、久しぶりに真の部屋へ遊びに来て目に入ってしまったそれ。
16歳でこんなに頭がいいのなら、さぞ世の中はつまらないだろうな。
「…なに」
『ん?またテスト満点なんだなーって』
近所に住む、高校生の幼なじみを見てつくづく思う。
テストは満点、学業以外にも博識で、記憶力は抜群。
表向き性格もよく、彼を悪く言う者はいない。
……バスケ関係者の一部を除いて。
ちょっとやり過ぎな彼の楽しみは、決して誉められたものではなかった。
けれど。
彼が子供らしいと思える数少ない瞬間だった。
「とれて当然だろ、テスト範囲決まってんだから」
『真にとって当然でも、凄いと思うよ。私は、努力したってできないもの』
「馬鹿だもんな」
『真に比べればね。でも馬鹿なりにちゃんと大学卒業できるし、就職もできた』
子供らしい、なんて。
6つ年上で、大学卒業を控えた私だから言えるのかもしれない。
同じ舞台で戦う身だったら堪ったもんじゃなかっただろう。バスケにしろ、勉強にしろ。
「ふーん、就職決まったのか」
『うん。大手じゃないけど、福利厚生がちゃんとあるとこ。これを機に、一人暮らしもしてみようかと思って』
「大学は実家から通ってた癖にか?」
『経験する分にはいいかと思って。ちょっと憧れてたんだよね、自分だけのキッチンとかバスルーム。実家じゃ友達呼ぶのも躊躇するし』
6つ離れててもこうやって話せるのは、先に言った通り幼なじみだから。
近所に住んでいた私と専業主婦の母が、シングルマザーで頑張る真のお母さんから、真を預かっていたのがきっかけ。
私には兄がいるけれど、下はいなかったから弟が出来たみたいで嬉しかった。
「…」
『真もおいで。そんなに遠くないよ』
「なんでそうなんだよ」
『真が高校入ってから全然遊ばなくなっちゃったから。ほら、うちのお母さんとか兄さんがいるより、私だけの部屋の方が来やすいでしょ?』
「……」
『ちっちゃい時みたいに、一緒にご飯食べようよ』
「…ちゃんとしたもん作れんだろうな」
なんだかんだ言って、真も懐いてくれてると思う。
こうして、休みの日に会うくらいだし、私には悪態もつけばワガママも言う、″真"の姿を見せてくれたから。
『作れるよー。これでもお弁当は毎日作ってたんだからね!何がいい?練習しとくけど』
「期待してねぇから作れるもんでいいぞ、得意なやつ」
『酷いなー』
ひとしきり笑って、またテストの答案を見やる。
丁寧な字で書かれた「花宮真」の横は、どれもこれも赤ペンで100点の文字。
努力しなくてこれならば、努力したら随分遠いところへ行ってしまうんだろうな、この子は。
『真、100点のご褒美あげる』
「は?いらねぇよ」
『だって、こんなに凄いんだもん。お姉さんとしては、なんかしてあげたいじゃない』
「…お前のおかげじゃないし」
『知ってるよ。そうじゃなくてさ、……うーん、真がね、したいこと、欲しいものを言う口実になればそれでいいの。何かない?』
それこそ。小学生の頃は、『凄いね!』と頭を撫でていたけど。
中学生になった彼は「やめろ」とその手を払ってしまった。
彼を労う方法を、誉める術を失ってしまった私は。結局本人に聞くよりない。
……真みたいに頭もよくないし。何をしたらいいか見当もつかなかったのだ。
「…………何かって」
『何でもいいよ。どっか食べに行きたいとか、欲しい服があるとか、遊びに行きたいとか……誕生日も近いでしょ?我が儘言ってちょうだい』
「……」
『もう授業も残ってないから時間の融通は利くし、バイトもしたからお金も多少は平気だからさ』
考えているのか、視線を伏せて黙ってしまった真を覗きこむ。
今更だけど、カーペットに座り込んでいたって真のが大きい。
赤ちゃんだったのに、ちゃんと少年になって。大人になるまで、もう少しかもしれない。
「………」
『ん?もしかして言いづらいこと頼もうとしてる?』
尚も口を開かない彼に、違和感を覚えて。
『言ってごらん。嗤いもしないし呆れもしないよ』
久しぶりに、彼の頭を撫でた。
まだ16歳、子どもでいて欲しい。
賢いから、大人の嫌なところ、子どもの愚かなところ、沢山見えていると思うけれど。
イイコでいるの、疲れるでしょ。
馬鹿な私でもそれくらいは察せるよ。
「…」
『…?』
手、払わないのか。
なんて。そのまま頭を撫でる。
なら、そういうものが欲しいのかもしれない。
『真、頑張ったね』
ぎゅっと横から抱き締めてみても、腕は振り払われなくて。
小さな声で
「…頑張ってねぇよ」
って返ってきただけ。
『うんうん。頑張ってるよ。凄いね、偉いよ、真』
変わらず抱き締めれば、彼は私の腕をぎゅっと掴んで。僅かに引っ張る。
誘導されるまま彼の正面に来て。
再び真を抱き締めれば、彼も私に腕を回した。
「……なんでもいい?」
『いいよ』
「…………。新居の、合鍵」
それから、ぼそりと告げられた欲しいもの。
『わかった、用意する。……他は?』
「一つじゃないのか?」
『もしかして、ひとつだと思って悩んでた?』
「…」
ひとつ。だったら、真っ先に欲しいのは合鍵だったのか。…可愛いなぁ。
なんてにやければ、抗議するように背中に回された指に力を入れられた。
いたい、痛いよ。
『一つじゃなくていいよ。何がいい?』
背中をポンポン叩きながら、ごめんアピールをすれば。
食い込んだ指が離れて、するりと首の付け根を撫でていく。
「…………もう少し、このまま」
(もしかして、真が言いたかったの)
(甘えたい、だったのかな)
『………、好きなだけどうぞ』
子どもでいさせてあげたいと思ったのに
大人になる君を楽しみにしてる私を許して
fin
→6年後