四季織々
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《秋 つやつや》花宮
暑がり花宮✕寒がりヒロイン
…ヒロイン視点…
たまたま点いていたテレビで、芋餅の作り方を紹介していた。「秋のお月見に合わせて、サツマイモでも作れます、芋名月だしちょうどいいですね」なんて文言で。
あれなら私にも作れそう、みたらしのタレも結構簡単そうだし。なんて思って、
『真君、あれ作ったら食べてくれる?』
と、隣で本を読んでいた彼に声をかけた。
視線をチラリと上げた彼は暫くそのまま芋餅の映像を見ていたけれど、私に視線をくれて
「…食べる。せっかくだ、満月の夜にしよう。ああ、ベランダで月見でもするか」
なんて、目を細めた。
思いもしないかった お月見デートを取り付けて、私も釣られて目を細める。
『いいね。せっかくついでに、夏に着損ねた浴衣も着ようかな。ベランダなら気兼ねしなくてもいいもんね』
浴衣は夏に着るもの。でも、残暑厳しく多様性を許す時世、家のベランダなら秋も半ばのお月見で浴衣を着ても、いいかなって。長襦袢とストールや膝掛けを使えば、寒がりの私でも過ごせるはず。
「ああ。なら、俺も着るか」
2回目の思いもしない返答に、私は彼に抱きついて『素敵。楽しみ』と、さらに笑みをこぼした。
***
そして満月の夜。
サツマイモの芋餅を月見団子に見立てて小さく真ん丸に作った私は、それにみたらしのタレをかけて。1人5個ずつ器に盛った。
ちなみに、真君は「月見酒」といって小瓶の日本酒を用意してくれた。小瓶には兎と紅葉と満月がプリントされてて、とても可愛い。言葉にはされなかったけど、彼の「こういうの好きだろ?」って得意気な微笑すらかっこよくて、好き。お酒の瓶も、私の好みのものを選んでくれた真君も、大好き。
『…っ』
そんな大好きな真君が、浴衣を着終えたらしい。キッチンから、ベランダのあるリビングに戻ったら、絵に描いたような美青年が佇んでいた。
彼の浴衣は濃い藍色の生地で、裾の方には薄墨で芒のシルエットが描かれている。
帯は薄く青のかかった白、月白で。
根付や帯留めなんかの飾り気は無いが、その分、彼の艶やかな黒髪や鈍く輝く深緑の瞳がとても映える。
そんなの見たら、見惚れすぎて声も出なかった。
「ん?ああ、お前ももう着てたのか。…似合ってるぞ」
その内に、私の視線に気づいた真君の方が声をかけてくれる。
そう、秋用に新調した浴衣。秋物の浴衣なんてのが売ってるあたり、ホントに良いご時世。
私の浴衣は桔梗色の生地に、飴色の線で兎が線画で描かれている。裾除けと偽襟にレースとフリルをあしらって、ちょっと今風のアレンジ。ストールは竜胆みたいな薄い青紫で、こっちには真君の帯と同じ月白色で流れる雲の刺繍が入ってる。頭に付けた黄色いトンボ玉の簪は、満月に見立てたやつ。
『真君も、似合ってる。…綺麗』
「それは月を観ながら言ってくれ」
部屋の明かりを消しながら、ベランダに出したベンチまで手を引いてくれる真君は低く笑った。
私は誘われるまま隣に座って、それぞれの端に芋餅を置く。
お猪口で小さく乾杯して、それも端へ置いた。
彼の喉をお酒が通って、こくりと動く。
それから、私が作った芋餅を食んで、飲み込む。
タレが唇についたのか、ぺろりと舌を出したとこまで凝視して。
ふと、"おいしそう"という言葉が頭を過った。
慌てて自分の分の餅を食べる。我ながらよくできた、おいしい。
でも、真君を見てて浮かんだ"おいしそう"という感情が、頭から消えていかない。紛らわすように自分の分の芋餅を平らげれば、「色気より食い気かよ」と真君は笑った。
そこで初めて見上げた満月は、本当に真ん丸で。
淡黄色の優しい光をまとっている。
その優しい光は、私たちに届くまでに夜の黒を帯びて、静かな青白い光になる。
隣の真君をちらりと見れば、色白の顔(かんばせ)に青みの影が落ちて、影を落とさせてる濡羽のような黒髪には青白い光の天使の輪ができていた。あでやかで、つややかなその髪を。頭の天辺から、毛先まで目線で追う。
前髪の先、彼の長い睫毛まで綺麗な影を落としていて目元が美しい。
後ろ髪の先は浴衣の襟、首筋にも青白い光が差して、陰影がくっきり浮かぶのが色っぽかった。
(月より美しいものが隣にあるのに)
(月が綺麗ですね、なんて台詞は合わない)
お猪口の日本酒を更にあおって、満月をぼうっと見上げた。
兎が餅をついてる…らしい。私には、兎もライオンも女性の横顔も見えない。
ただ、つやつやした、淡黄色や白銀の真ん丸い真珠みたい。
そうか、確かに綺麗だ。
『ああ、そういうふうには言えるかも』
お酒が頭に回っている。
唐突な私の台詞に、真君は視線をこちらに向けてくれた。
真君の、そういうとこ好き。
伝えたい、と思って言葉を紡いだときは、作業をしてても視線をこちらに向けてくれる。
私はその、綺麗な目を見つめ返す。
『シェイクスピアは、告白に"太陽と月を除けば、貴方が一番美しい"って言ったらしいよ』
「…ああ、絶対的な比喩の対象を省くことで、人間の頂点に据える…って手法だったか?」
文学にも明るい彼が、私の意図を汲もうと言葉を返してくれる。
声の形に沿って動く唇が、つややかで美しい。
『そうそう。それでいて、日本には夏目漱石がアイラブユーを"月が綺麗ですね"って訳した話が有名じゃない?』
「まあ、そうだな」
『だからね、私、いま思ったの。月くらい美しいものがあるから、隣の愛しい人が、月よりも美しいって比喩できるんだな、って』
私が言葉を閉じたら、真君、瞳まで真ん丸くして。彼の薄い色の虹彩に月光が差し込むの、本当に綺麗。
「……この酔っぱらい」
困ったような、照れたような。嫌そうにする割に、優しい声色。真君って、そういう人。
彼もお酒をあおって、唇を濡らす。
月明かりだけでも十分な色気を放つ、つやつやした唇から思わず目を逸らした。
逸らした先に、彼の首筋と鎖骨があって。もっと駄目だと思って更に下に目をやったら、下駄を履いた白い素足につややかな爪先。
どこを見ても、目の毒だ。いや、眼福ともいう。
「なあ、知ってるか。月は、太陽の光を映してるだけで、実際には光ってない」
彼の声に、顔をあげる。ああ、聞いたことある。だから、太陽と地球と月が一直線に重なると月蝕になるんでしょ。
「……俺の隣にもいるんだ。太陽に引けをとらないくらい、まっすぐに明るいやつが」
真君はそこまで言って。
ふい、と顔を反らすと「…酔った」と小さく呟いた。
私はそれが、さみしくて、愛しくて、彼の頬を両手で包む。
彼の頬の熱さに触れて、私の指先が冷えてたことに初めて気づいた。
それくらい、ずっと、
『…私は、ずっと真君に酔ってる』
寒がりなこと、忘れるくらい。
真君に見惚れてた。
『あなたは太陽がなくても、光を映さなくても、満ちてても、欠けてても、ずっと美しい。ずっとかっこよくて、ずっと優しくて…』
あれ、なにが言いたかったんだっけ
とっても大事なことだったのに
潤んだ彼の瞳と、艷やかな唇と、艶やかな髪の前で、語彙がとんでしまって
『…えっと、おいしそう』
よりによって、よりに酔って、この台詞
「ふ、ふはは…お前、色気より食い気とは言うが、まさか混同するとは」
真君は可笑しそうに笑って、私の頬を、私がしてるみたいに両手で包む。
「俺を食べるつもりなら、残さず食えよ」
彼はそんなことをいったけど、合わさった唇の熱から、食べられるのは私の方だと悟った。
(月が雲隠れしたのも気づかないまま)
(二人の夜は更けていく)
fin
暑がり花宮✕寒がりヒロイン
…ヒロイン視点…
たまたま点いていたテレビで、芋餅の作り方を紹介していた。「秋のお月見に合わせて、サツマイモでも作れます、芋名月だしちょうどいいですね」なんて文言で。
あれなら私にも作れそう、みたらしのタレも結構簡単そうだし。なんて思って、
『真君、あれ作ったら食べてくれる?』
と、隣で本を読んでいた彼に声をかけた。
視線をチラリと上げた彼は暫くそのまま芋餅の映像を見ていたけれど、私に視線をくれて
「…食べる。せっかくだ、満月の夜にしよう。ああ、ベランダで月見でもするか」
なんて、目を細めた。
思いもしないかった お月見デートを取り付けて、私も釣られて目を細める。
『いいね。せっかくついでに、夏に着損ねた浴衣も着ようかな。ベランダなら気兼ねしなくてもいいもんね』
浴衣は夏に着るもの。でも、残暑厳しく多様性を許す時世、家のベランダなら秋も半ばのお月見で浴衣を着ても、いいかなって。長襦袢とストールや膝掛けを使えば、寒がりの私でも過ごせるはず。
「ああ。なら、俺も着るか」
2回目の思いもしない返答に、私は彼に抱きついて『素敵。楽しみ』と、さらに笑みをこぼした。
***
そして満月の夜。
サツマイモの芋餅を月見団子に見立てて小さく真ん丸に作った私は、それにみたらしのタレをかけて。1人5個ずつ器に盛った。
ちなみに、真君は「月見酒」といって小瓶の日本酒を用意してくれた。小瓶には兎と紅葉と満月がプリントされてて、とても可愛い。言葉にはされなかったけど、彼の「こういうの好きだろ?」って得意気な微笑すらかっこよくて、好き。お酒の瓶も、私の好みのものを選んでくれた真君も、大好き。
『…っ』
そんな大好きな真君が、浴衣を着終えたらしい。キッチンから、ベランダのあるリビングに戻ったら、絵に描いたような美青年が佇んでいた。
彼の浴衣は濃い藍色の生地で、裾の方には薄墨で芒のシルエットが描かれている。
帯は薄く青のかかった白、月白で。
根付や帯留めなんかの飾り気は無いが、その分、彼の艶やかな黒髪や鈍く輝く深緑の瞳がとても映える。
そんなの見たら、見惚れすぎて声も出なかった。
「ん?ああ、お前ももう着てたのか。…似合ってるぞ」
その内に、私の視線に気づいた真君の方が声をかけてくれる。
そう、秋用に新調した浴衣。秋物の浴衣なんてのが売ってるあたり、ホントに良いご時世。
私の浴衣は桔梗色の生地に、飴色の線で兎が線画で描かれている。裾除けと偽襟にレースとフリルをあしらって、ちょっと今風のアレンジ。ストールは竜胆みたいな薄い青紫で、こっちには真君の帯と同じ月白色で流れる雲の刺繍が入ってる。頭に付けた黄色いトンボ玉の簪は、満月に見立てたやつ。
『真君も、似合ってる。…綺麗』
「それは月を観ながら言ってくれ」
部屋の明かりを消しながら、ベランダに出したベンチまで手を引いてくれる真君は低く笑った。
私は誘われるまま隣に座って、それぞれの端に芋餅を置く。
お猪口で小さく乾杯して、それも端へ置いた。
彼の喉をお酒が通って、こくりと動く。
それから、私が作った芋餅を食んで、飲み込む。
タレが唇についたのか、ぺろりと舌を出したとこまで凝視して。
ふと、"おいしそう"という言葉が頭を過った。
慌てて自分の分の餅を食べる。我ながらよくできた、おいしい。
でも、真君を見てて浮かんだ"おいしそう"という感情が、頭から消えていかない。紛らわすように自分の分の芋餅を平らげれば、「色気より食い気かよ」と真君は笑った。
そこで初めて見上げた満月は、本当に真ん丸で。
淡黄色の優しい光をまとっている。
その優しい光は、私たちに届くまでに夜の黒を帯びて、静かな青白い光になる。
隣の真君をちらりと見れば、色白の顔(かんばせ)に青みの影が落ちて、影を落とさせてる濡羽のような黒髪には青白い光の天使の輪ができていた。あでやかで、つややかなその髪を。頭の天辺から、毛先まで目線で追う。
前髪の先、彼の長い睫毛まで綺麗な影を落としていて目元が美しい。
後ろ髪の先は浴衣の襟、首筋にも青白い光が差して、陰影がくっきり浮かぶのが色っぽかった。
(月より美しいものが隣にあるのに)
(月が綺麗ですね、なんて台詞は合わない)
お猪口の日本酒を更にあおって、満月をぼうっと見上げた。
兎が餅をついてる…らしい。私には、兎もライオンも女性の横顔も見えない。
ただ、つやつやした、淡黄色や白銀の真ん丸い真珠みたい。
そうか、確かに綺麗だ。
『ああ、そういうふうには言えるかも』
お酒が頭に回っている。
唐突な私の台詞に、真君は視線をこちらに向けてくれた。
真君の、そういうとこ好き。
伝えたい、と思って言葉を紡いだときは、作業をしてても視線をこちらに向けてくれる。
私はその、綺麗な目を見つめ返す。
『シェイクスピアは、告白に"太陽と月を除けば、貴方が一番美しい"って言ったらしいよ』
「…ああ、絶対的な比喩の対象を省くことで、人間の頂点に据える…って手法だったか?」
文学にも明るい彼が、私の意図を汲もうと言葉を返してくれる。
声の形に沿って動く唇が、つややかで美しい。
『そうそう。それでいて、日本には夏目漱石がアイラブユーを"月が綺麗ですね"って訳した話が有名じゃない?』
「まあ、そうだな」
『だからね、私、いま思ったの。月くらい美しいものがあるから、隣の愛しい人が、月よりも美しいって比喩できるんだな、って』
私が言葉を閉じたら、真君、瞳まで真ん丸くして。彼の薄い色の虹彩に月光が差し込むの、本当に綺麗。
「……この酔っぱらい」
困ったような、照れたような。嫌そうにする割に、優しい声色。真君って、そういう人。
彼もお酒をあおって、唇を濡らす。
月明かりだけでも十分な色気を放つ、つやつやした唇から思わず目を逸らした。
逸らした先に、彼の首筋と鎖骨があって。もっと駄目だと思って更に下に目をやったら、下駄を履いた白い素足につややかな爪先。
どこを見ても、目の毒だ。いや、眼福ともいう。
「なあ、知ってるか。月は、太陽の光を映してるだけで、実際には光ってない」
彼の声に、顔をあげる。ああ、聞いたことある。だから、太陽と地球と月が一直線に重なると月蝕になるんでしょ。
「……俺の隣にもいるんだ。太陽に引けをとらないくらい、まっすぐに明るいやつが」
真君はそこまで言って。
ふい、と顔を反らすと「…酔った」と小さく呟いた。
私はそれが、さみしくて、愛しくて、彼の頬を両手で包む。
彼の頬の熱さに触れて、私の指先が冷えてたことに初めて気づいた。
それくらい、ずっと、
『…私は、ずっと真君に酔ってる』
寒がりなこと、忘れるくらい。
真君に見惚れてた。
『あなたは太陽がなくても、光を映さなくても、満ちてても、欠けてても、ずっと美しい。ずっとかっこよくて、ずっと優しくて…』
あれ、なにが言いたかったんだっけ
とっても大事なことだったのに
潤んだ彼の瞳と、艷やかな唇と、艶やかな髪の前で、語彙がとんでしまって
『…えっと、おいしそう』
よりによって、よりに酔って、この台詞
「ふ、ふはは…お前、色気より食い気とは言うが、まさか混同するとは」
真君は可笑しそうに笑って、私の頬を、私がしてるみたいに両手で包む。
「俺を食べるつもりなら、残さず食えよ」
彼はそんなことをいったけど、合わさった唇の熱から、食べられるのは私の方だと悟った。
(月が雲隠れしたのも気づかないまま)
(二人の夜は更けていく)
fin
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