青海波と花浅葱
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花宮side
今日も今日とて暑い。
連日真夏日やら猛暑日を記録する今夏、エアコンは贅沢品ではなく生命維持の必需品である。
けれど、効きすぎる冷房も体には毒で。
『…食欲、ない』
「同感」
外と内の温度差に、2人揃って夏バテになっていた。
今や自宅のエアコンは冷房ではなく送風に設定している。多少の汗は甘んじて、人工の冷たさを避けたい気持ちの方が勝っているのだ。
『でも、なんか食べなきゃ。…食べたいものある?』
「いや…食べたいっていう感情が湧かねぇ」
『重症』
フローリングに2人で横たわって苦笑する。
普段から朝飯を食べない俺達が、昼飯も蜜柑ゼリーで済ませてしまったくらいだ。
食べた方がいいのは解っている。
『熱い、あったかい、冷たい』
「…冷たい」
『あっさり、こってり、まろやか、爽やか』
「…さわやか」
『辛い、甘い、酸っぱい』
「………辛い」
『ラーメン、パスタ、そうめん、うどん、そば』
「うどん」
投げ掛けられる言葉から気になるものを選べば。
彼女は数秒の沈黙の後、
『豚しゃぶ冷うどん』
夕飯のメニューを提案する。
『喉越しのいい平打ち麺は冷水で〆て、汁は白だしと生姜。その上に豚しゃぶを乗せて、薬味は柚子胡椒と白ごま』
「…………うまそう」
『じゃあ決まり』
皿の上にイメージできた、その料理。
腹は減ってないが、食べたいと思えた。
「お前天才だよな。レシピだけで料理が目に浮かぶし、食欲が出る」
『天才も秀才も壊れたらガラクタなんでしょう?…ふふ、それだけ真君が私の料理を良く見て食べてくれたってこと』
「お前は……ガラクタにするには惜しい」
『なら、うんと大切にしてね?』
クスクスと笑いながら彼女は台所へ向かっていく。
その背中を、少し眺めてから追いかける。
「…」
『どうしたの?』
「…見てたい」
『ふふ、どうぞ』
カウンターキッチンの外側から、寄りかかるようにして台所を覗いた。
2つの鍋は水が張られ火にかけられている。
作業台には豚肉と冷凍うどん。更に白だし、おろし生姜、胡麻、ストックの刻みネギが陳列。
流しにはザルと氷の入ったボウルもスタンバイ。
「…」
こうやって、彼女が“食材”から“料理”にするのを眺めるのが好きだった。
グツグツと双方の鍋から水の沸く音がしてくれば、片方にはうどん、片方には豚肉が入れられる。
かと思えば、もう彼女は棚から皿を。…白地に藍色の青海波が描かれる深めのそれは、彼女のお気に入りだ。
そして、うどんの鍋を少し解した後、肉の鍋を一混ぜするやシンクのザルで湯ぎりをする。
うどんも湯ぎりして、こちらは氷の入ったボウルで〆た。
あとは、それらを皿に盛り付けて。
白だしを回し掛けて、生姜、ネギ、柚子胡椒を添えたら終わり。
「…早」
『だって1品だもの。きゅうり刻んだり、天ぷら揚げたりすればもっとかかるよ』
「…天ぷらは気分じゃねぇな」
『だと思った。さ、冷たいうちに』
テーブルの上に並ぶうどん、箸、冷たい麦茶。
椅子に座って箸を取れば、急に腹が減った。
「いただきます」
『いただきます』
あとは文字通り、箸が止まらない。
『…あっという間だったね、もうちょっと作れば良かったかな』
「いや、食べすぎても胃が疲れる。丁度いい加減だ」
『そう?あ、デザートは別腹だったりする?スイカ冷えてるよ』
「…食う」
食欲が無いとか、嘘みたいだった。
(……エアコン並み、それ以上に)
(彼女は俺の生命維持具だったりする)
fin
今日も今日とて暑い。
連日真夏日やら猛暑日を記録する今夏、エアコンは贅沢品ではなく生命維持の必需品である。
けれど、効きすぎる冷房も体には毒で。
『…食欲、ない』
「同感」
外と内の温度差に、2人揃って夏バテになっていた。
今や自宅のエアコンは冷房ではなく送風に設定している。多少の汗は甘んじて、人工の冷たさを避けたい気持ちの方が勝っているのだ。
『でも、なんか食べなきゃ。…食べたいものある?』
「いや…食べたいっていう感情が湧かねぇ」
『重症』
フローリングに2人で横たわって苦笑する。
普段から朝飯を食べない俺達が、昼飯も蜜柑ゼリーで済ませてしまったくらいだ。
食べた方がいいのは解っている。
『熱い、あったかい、冷たい』
「…冷たい」
『あっさり、こってり、まろやか、爽やか』
「…さわやか」
『辛い、甘い、酸っぱい』
「………辛い」
『ラーメン、パスタ、そうめん、うどん、そば』
「うどん」
投げ掛けられる言葉から気になるものを選べば。
彼女は数秒の沈黙の後、
『豚しゃぶ冷うどん』
夕飯のメニューを提案する。
『喉越しのいい平打ち麺は冷水で〆て、汁は白だしと生姜。その上に豚しゃぶを乗せて、薬味は柚子胡椒と白ごま』
「…………うまそう」
『じゃあ決まり』
皿の上にイメージできた、その料理。
腹は減ってないが、食べたいと思えた。
「お前天才だよな。レシピだけで料理が目に浮かぶし、食欲が出る」
『天才も秀才も壊れたらガラクタなんでしょう?…ふふ、それだけ真君が私の料理を良く見て食べてくれたってこと』
「お前は……ガラクタにするには惜しい」
『なら、うんと大切にしてね?』
クスクスと笑いながら彼女は台所へ向かっていく。
その背中を、少し眺めてから追いかける。
「…」
『どうしたの?』
「…見てたい」
『ふふ、どうぞ』
カウンターキッチンの外側から、寄りかかるようにして台所を覗いた。
2つの鍋は水が張られ火にかけられている。
作業台には豚肉と冷凍うどん。更に白だし、おろし生姜、胡麻、ストックの刻みネギが陳列。
流しにはザルと氷の入ったボウルもスタンバイ。
「…」
こうやって、彼女が“食材”から“料理”にするのを眺めるのが好きだった。
グツグツと双方の鍋から水の沸く音がしてくれば、片方にはうどん、片方には豚肉が入れられる。
かと思えば、もう彼女は棚から皿を。…白地に藍色の青海波が描かれる深めのそれは、彼女のお気に入りだ。
そして、うどんの鍋を少し解した後、肉の鍋を一混ぜするやシンクのザルで湯ぎりをする。
うどんも湯ぎりして、こちらは氷の入ったボウルで〆た。
あとは、それらを皿に盛り付けて。
白だしを回し掛けて、生姜、ネギ、柚子胡椒を添えたら終わり。
「…早」
『だって1品だもの。きゅうり刻んだり、天ぷら揚げたりすればもっとかかるよ』
「…天ぷらは気分じゃねぇな」
『だと思った。さ、冷たいうちに』
テーブルの上に並ぶうどん、箸、冷たい麦茶。
椅子に座って箸を取れば、急に腹が減った。
「いただきます」
『いただきます』
あとは文字通り、箸が止まらない。
『…あっという間だったね、もうちょっと作れば良かったかな』
「いや、食べすぎても胃が疲れる。丁度いい加減だ」
『そう?あ、デザートは別腹だったりする?スイカ冷えてるよ』
「…食う」
食欲が無いとか、嘘みたいだった。
(……エアコン並み、それ以上に)
(彼女は俺の生命維持具だったりする)
fin