語りきれない程愛しい花へ
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《大学生今吉と花宮》
最後はワシな、お察しの今吉サンやで。
花宮に彼女がいると知ったのは、高3の冬。
遠目に、クリスマスのイルミネーションを眺めるカップルに彼らがいるのを見つけたから。
アイツも人並みに青春してんねんなー、なんて微笑ましくも思い、意外とも思い、爆ぜろと思った。
それから1年と少し過ぎて改めて聞いてみれば、結婚しました。と。
この時点で嘘や思うやろ?
けど、本当に籍入れるどころか養子縁組までしてると聞けば、悪童のご執心具合が生半可なものじゃないと薄ら寒くすら感じた。
「………まあ、お互い様やんな」
そんな、嫁にベタ惚れな花宮の弁当を覗く。
今日は1日練習で、昼飯持参だった。他のメンバーはコンビニ弁当が目立ち、自炊組も握り飯だけとか、いかにも男らしいものだったのだけど。
「なにがですか」
訝しげにワシを睨む花宮の弁当は、パッと見て愛妻弁当だった。
五色の惣菜と三角の握り飯、季節の水菓子。
…これがなぁ、毎回やもんなぁ。
「いやぁ、花宮は花ちゃんにえらい愛されてる思ってな」
「…ええ、まあ」
さも当然のように弁当の咀嚼を続ける花宮は、体育館の床に座り、足の間に弁当を置いて壁に寄り掛かっている。
…こう、弁当を隠してるというか、守ってるみたいな。
「バスケん時だけ弁当なん?学校も?」
「…」
「…学校もて、それ毎日やろ?花ちゃん大変やあらへん?」
「俺、答えてないんだけど」
「沈黙は肯定や。すなわち、花ちゃんも好きで弁当つくってんのやな。凄いわぁ」
いくら料理が好きでも、毎食拘るなんて中々難しい。しかも、弁当はまた勝手が違うものだ。
いくらバスケが好きでも休息が必要なように、手を抜きたいときや休みたい時もあるだろう。
「なあ、一口く「あげません」…えー、ケチ」
「分けたくないから一人で食ってんのに、アンタが近付いてきたんだろ」
「やっぱりそんな理由かい」
予想していたけど、呆れて花宮の隣に座り込んだ。
自分はコンビニの菓子パンを齧りながら、また花宮の弁当を眺める。
卵焼きは焦げ目もつかんと柔らかそうで、金平ゴボウと焼き魚が入った和食。
彩りにインゲン豆とトマトが入っとる。
握り飯もひとつひとつ色が違って、青菜と、紫蘇と、白いのはなんやろ。中になんか入っとんのやろか。
「そこまで言われたら気になるやろ」
「ダメです」
「ほな感想だけ教えてな。その白い握り飯、何入っとんの?」
色的には緑と紫やったから、それ以外のなんかやと思うねんけど。
和食縛りやないんかな?さっぱりしたもんばっかやし、案外白のままツナマヨとか?
「…昆布」
「こ ん ぶ」
あかん。笑ってもうた。
昆布は想像してなかったわ。
「…何笑ってるんですか」
「いや、予想と違いすぎて」
「言っときますけど、昆布の佃煮も雨月の手作りですからね」
「え」
そこから手作りなん?と、一瞬挙動を止めれば、花宮は自慢気に笑った。
「ええ。大概のものは1から作ってくれますよ」
おにぎりの青菜も紫蘇も、雨月が作ったのだという。
「え。ええぇ…」
「カレーとかシチューも時間が許せば市販の素無しで作ってくれます。凄かったのは…なんだろ、パイ生地とかトルティーヤ?誕生日はやたら張り切ってくれるんで」
「…」
「それでいて美味しいんだから、まあ、出来合いの惣菜や弁当買うことはないですね。外食もあんまり」
「…どないやねん」
「だって、雨月の飯より旨いものなんてこの世にないですし」
あ、そこまで言う。
これは胃袋捕まれてるとか、ベタ惚れとかゾッコンの域ではない。
依存だと思う。
「……お前、花ちゃんおらんくなったら生きてけないんとちゃう?」
半分本気、半分冗談。
この、賢い悪童が自分の人生を他人に委ねているわけがないと踏んでの、一抹の不安を投げ掛けた。
「…雨月がいないなら、別に生きなくてもいいですし。問題ないです」
そしたら、恐ろしく真面目なトーンで恐ろしい返事があって。
「…」
コイツに妖怪とまで言わしめた、考えてることや動揺を感じとる特技は。
今や何も警告してこない。
本心。疑う余地がないのだ。
ワシが硬直した数秒後。
「…ふは。なんて言うわけねぇだろ」
バァカ。は、一応先輩相手として飲み込んだのだろう。
お決まりの台詞と、一拍の間を置いて花宮は笑った。
「アイツも俺無しで生きていけないんで、そんな心配は無用です」
それは綺麗に。
とても満足そうに。
腹立つ程幸せそうに笑って見せた。
「……なんでワシは花宮のノロケ聞いとんのやろ」
「知るかよ」
「こんな筈やなかったんや。もっとこう、花宮が恥ずかしがるというか、嫌がる思ってたんやけど」
「へぇ?今吉サンでも人の嫌がること見誤ることあるんですね」
「…はーなーみーやー?」
おお怖い。
なんて然して怖く無さそうに、わざとらしく身を竦める。
…えらい変わったなぁ。
花宮は、ワシのこと苦手やったはず。
関わらないように避けたり、会話を閉ざしたりしたのに。
雨月が間に入ってからは、臆さなくなった。
けどな?
「まあええわ。本当に嫌がらせしたかったら、花ちゃんにちょっかい出せばええてわかったし」
「おい」
「かわええからなぁ。それ抜きにしても構いとうなるやん?雨月ちゃん」
ワシをあんまり見くびらんといてや。
わざと下の名前を呼べば、さっきまでの余裕はどこへやら。
青筋たてて口許をひきつらせる。
そこへ。
『午後から練習参加します、おはようございます』
と、話題の雨月がすぐ脇の扉から入ってきて。
こちらに気付くと嬉しそうに近づいてくる。
多分、挨拶をしようと口を開きかけた雨月は。その言葉を紡ぐことなく花宮へと倒れ込んだ。
言わずもがな、花宮が彼女の手を引いたから。
『え?え?』
「雨月に手を出すなら、誰であっても容赦しませんよ、俺」
頭の上に疑問符を並べる雨月を抱き締めて、花宮はこちらを睨んだ。
「はは、さすが悪童やな」
「ふはっ…そんときは悪童なんて二つ名じゃ、生ぬるいって後悔するぜ?」
渦中の人物なのに何も解ってない雨月は、困ったように笑う。
『あの、なんか、真君がすみません』
「ええねん。ワシがちょっかいだしたんやし」
『いえ…そんな気はしましたけど…。真君も、私は靡いたりしないんだから、ムキにならないの』
メッ。
なんて、怒られてるんだか、なだめられてるんだか。
幸せそうなカップル…じゃなくて、夫婦の図を間近で見たワシは。
コイツも人並みに幸せ感じられんねんなー。なんて微笑ましくも思い、意外とも思い、爆ぜろと思った。
fin
最後はワシな、お察しの今吉サンやで。
花宮に彼女がいると知ったのは、高3の冬。
遠目に、クリスマスのイルミネーションを眺めるカップルに彼らがいるのを見つけたから。
アイツも人並みに青春してんねんなー、なんて微笑ましくも思い、意外とも思い、爆ぜろと思った。
それから1年と少し過ぎて改めて聞いてみれば、結婚しました。と。
この時点で嘘や思うやろ?
けど、本当に籍入れるどころか養子縁組までしてると聞けば、悪童のご執心具合が生半可なものじゃないと薄ら寒くすら感じた。
「………まあ、お互い様やんな」
そんな、嫁にベタ惚れな花宮の弁当を覗く。
今日は1日練習で、昼飯持参だった。他のメンバーはコンビニ弁当が目立ち、自炊組も握り飯だけとか、いかにも男らしいものだったのだけど。
「なにがですか」
訝しげにワシを睨む花宮の弁当は、パッと見て愛妻弁当だった。
五色の惣菜と三角の握り飯、季節の水菓子。
…これがなぁ、毎回やもんなぁ。
「いやぁ、花宮は花ちゃんにえらい愛されてる思ってな」
「…ええ、まあ」
さも当然のように弁当の咀嚼を続ける花宮は、体育館の床に座り、足の間に弁当を置いて壁に寄り掛かっている。
…こう、弁当を隠してるというか、守ってるみたいな。
「バスケん時だけ弁当なん?学校も?」
「…」
「…学校もて、それ毎日やろ?花ちゃん大変やあらへん?」
「俺、答えてないんだけど」
「沈黙は肯定や。すなわち、花ちゃんも好きで弁当つくってんのやな。凄いわぁ」
いくら料理が好きでも、毎食拘るなんて中々難しい。しかも、弁当はまた勝手が違うものだ。
いくらバスケが好きでも休息が必要なように、手を抜きたいときや休みたい時もあるだろう。
「なあ、一口く「あげません」…えー、ケチ」
「分けたくないから一人で食ってんのに、アンタが近付いてきたんだろ」
「やっぱりそんな理由かい」
予想していたけど、呆れて花宮の隣に座り込んだ。
自分はコンビニの菓子パンを齧りながら、また花宮の弁当を眺める。
卵焼きは焦げ目もつかんと柔らかそうで、金平ゴボウと焼き魚が入った和食。
彩りにインゲン豆とトマトが入っとる。
握り飯もひとつひとつ色が違って、青菜と、紫蘇と、白いのはなんやろ。中になんか入っとんのやろか。
「そこまで言われたら気になるやろ」
「ダメです」
「ほな感想だけ教えてな。その白い握り飯、何入っとんの?」
色的には緑と紫やったから、それ以外のなんかやと思うねんけど。
和食縛りやないんかな?さっぱりしたもんばっかやし、案外白のままツナマヨとか?
「…昆布」
「こ ん ぶ」
あかん。笑ってもうた。
昆布は想像してなかったわ。
「…何笑ってるんですか」
「いや、予想と違いすぎて」
「言っときますけど、昆布の佃煮も雨月の手作りですからね」
「え」
そこから手作りなん?と、一瞬挙動を止めれば、花宮は自慢気に笑った。
「ええ。大概のものは1から作ってくれますよ」
おにぎりの青菜も紫蘇も、雨月が作ったのだという。
「え。ええぇ…」
「カレーとかシチューも時間が許せば市販の素無しで作ってくれます。凄かったのは…なんだろ、パイ生地とかトルティーヤ?誕生日はやたら張り切ってくれるんで」
「…」
「それでいて美味しいんだから、まあ、出来合いの惣菜や弁当買うことはないですね。外食もあんまり」
「…どないやねん」
「だって、雨月の飯より旨いものなんてこの世にないですし」
あ、そこまで言う。
これは胃袋捕まれてるとか、ベタ惚れとかゾッコンの域ではない。
依存だと思う。
「……お前、花ちゃんおらんくなったら生きてけないんとちゃう?」
半分本気、半分冗談。
この、賢い悪童が自分の人生を他人に委ねているわけがないと踏んでの、一抹の不安を投げ掛けた。
「…雨月がいないなら、別に生きなくてもいいですし。問題ないです」
そしたら、恐ろしく真面目なトーンで恐ろしい返事があって。
「…」
コイツに妖怪とまで言わしめた、考えてることや動揺を感じとる特技は。
今や何も警告してこない。
本心。疑う余地がないのだ。
ワシが硬直した数秒後。
「…ふは。なんて言うわけねぇだろ」
バァカ。は、一応先輩相手として飲み込んだのだろう。
お決まりの台詞と、一拍の間を置いて花宮は笑った。
「アイツも俺無しで生きていけないんで、そんな心配は無用です」
それは綺麗に。
とても満足そうに。
腹立つ程幸せそうに笑って見せた。
「……なんでワシは花宮のノロケ聞いとんのやろ」
「知るかよ」
「こんな筈やなかったんや。もっとこう、花宮が恥ずかしがるというか、嫌がる思ってたんやけど」
「へぇ?今吉サンでも人の嫌がること見誤ることあるんですね」
「…はーなーみーやー?」
おお怖い。
なんて然して怖く無さそうに、わざとらしく身を竦める。
…えらい変わったなぁ。
花宮は、ワシのこと苦手やったはず。
関わらないように避けたり、会話を閉ざしたりしたのに。
雨月が間に入ってからは、臆さなくなった。
けどな?
「まあええわ。本当に嫌がらせしたかったら、花ちゃんにちょっかい出せばええてわかったし」
「おい」
「かわええからなぁ。それ抜きにしても構いとうなるやん?雨月ちゃん」
ワシをあんまり見くびらんといてや。
わざと下の名前を呼べば、さっきまでの余裕はどこへやら。
青筋たてて口許をひきつらせる。
そこへ。
『午後から練習参加します、おはようございます』
と、話題の雨月がすぐ脇の扉から入ってきて。
こちらに気付くと嬉しそうに近づいてくる。
多分、挨拶をしようと口を開きかけた雨月は。その言葉を紡ぐことなく花宮へと倒れ込んだ。
言わずもがな、花宮が彼女の手を引いたから。
『え?え?』
「雨月に手を出すなら、誰であっても容赦しませんよ、俺」
頭の上に疑問符を並べる雨月を抱き締めて、花宮はこちらを睨んだ。
「はは、さすが悪童やな」
「ふはっ…そんときは悪童なんて二つ名じゃ、生ぬるいって後悔するぜ?」
渦中の人物なのに何も解ってない雨月は、困ったように笑う。
『あの、なんか、真君がすみません』
「ええねん。ワシがちょっかいだしたんやし」
『いえ…そんな気はしましたけど…。真君も、私は靡いたりしないんだから、ムキにならないの』
メッ。
なんて、怒られてるんだか、なだめられてるんだか。
幸せそうなカップル…じゃなくて、夫婦の図を間近で見たワシは。
コイツも人並みに幸せ感じられんねんなー。なんて微笑ましくも思い、意外とも思い、爆ぜろと思った。
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