語りきれない程愛しい花へ
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《大学生日向と花宮の邂逅》
意外なところで意外な奴と出会うものだと思う。
例えば、本屋で花宮。
「あ」
「あ?」
思わず声を出してしまえば、そいつはニヤリと笑って。わざとらしい口調で続ける。
「やあ。こんなところで会うとはねぇ、メガネ君?」
「…なんだよ」
「おいおい、そっちからメンチ切ってきてそれはないだろ」
メガネ君なんて呼ばれた俺にも名前くらいある。日向順平。コイツに覚えて欲しいとは思わないが。
ちょっとした付き添いで珍しく本屋なんて来てみたらこれだよ。
ロクでもない奴に会ったもんだ。
「…ああ、水戸部が一緒なのか」
「(あ、花宮もいたんだね)」
俺の後ろに視線を移したソイツは、何でもない顔で水戸部と会話を続ける。
「新刊の予約受け取りにな」
「(そっか。さっき花ちゃんにも会って、本選ぶの手伝ってもらっちゃった。会計してるから、すぐ来るよ)」
「ん?会計付き添ってるってことは、そっちの連れまだいるのか」
「オイ待て。何で水戸部と話が通じてんだ!?」
確かに、strkyで花宮と一緒のチームになったとは聞いてたけど。
高校3年間一緒に過ごした俺ですら、会話にはならない。
身振り手振りで何となく、のレベル。
水戸部が困り顔してるからこれ以上は言わないが。
「日向ー、買えたわよー」
「ああ、カントク…じゃなくてリコ、良かったな」
「うん。偶然水戸部君のお友達にも勧めてもらって……え、花宮?」
『あ、真君。新刊買えた?』
「ああ。他のやつも予約してきた」
「「え?え?」」
俺とリコがひたすらクエスチョンマークを頭上に浮かべる中。
リコと一緒にやってきた女子は花宮に笑顔で近づいた。
『花宮雨月です。strkyでマネージャーしてます。えっと、元誠凛高校の日向君と相田さんだよね?』
「ああ。…って、花宮?」
「俺の自慢の嫁だが、何か?」
隣に並んで自己紹介したと思ったら。
花宮は女子の腕をぐっと引き寄せて、そう笑った。
本当、ムカつく顔。
「…用事も済んだし帰るぞ」
そのままスルスルと指を絡めて手を繋ぐ辺りもムカつく。
俺なんて未だに片思いだぞ。デートとすら呼べない、この買い物の付き添いも、水戸部を含めた3人で!
『あ、真君、もう少し時間いい?買った本のアドバイスをしたくて…』
「(カントクね、料理の練習したいからってレシピ本買ったんだ)」
元々、リコの料理を見かねた水戸部がレシピ本でも買ったらどうか。と勧めてくれたのが始まりで。
本来、俺は二人が良かったけど、料理に詳しい水戸部を交えてた。
そこへ、許すとか憎いとか、そういう次元じゃない奴が加わるなんて。
「…俺はいいけど?」
「順平、ちょっとだけ」
「…少しな」
けど。
リコが、それでもいいと思えてるなら、ごねるのは男らしくないと思って。
近くの公園でレシピを広げることになった。
「…」
「…」
ただ、なんでこんな殺伐とした組分けなんだ。
小さなテーブルと小さな椅子の輪、1つのテーブルに着けるのは3人まで。
リコと水戸部と雨月。
で、俺と花宮が同じテーブル。
別れて座りたいところだったが、生憎席がなかったのと、『真君、ここね』「(日向、そこにいて)」という台詞に逆らえなかったから。
「…ふーん、アイツ料理苦手なのか」
「…」
「まあ、レモン丸ごと浮いた蜂蜜レモンは同情したわ」
「…ああ、あれか」
思い返してつい返事をすれば、またニヤニヤとする。
「雨月は料理上手いから、多少は良くなると思うぜ?」
「…」
「面倒見もいいし、気立てもいい。教え方も上手いし」
「…」
「お人好しともいうけどな。そこも含めて可愛いし、優しいし」
「………ところで、なんで水戸部の言ってること分かるんだ?」
完全に無視するつもりだったのに。
寧ろ反応しないのを良いことにこれだけノロケられるんじゃ堪らない。
わざとやってんのか?コイツだって俺と話したいわけじゃないだろ。
…とは言っても聞いてられないから、違う話題をねじこんだけど。
「俺も最初はわからなかったが…なんで、っつわれても説明はできねぇな。聞こうとすると聞こえる、って感じだ」
「は?」
「不意に後ろから呼ばれてもわかんねぇけど、何か伝えたいんだろうな…って思って見てると聞こえる」
「……」
「なんだよ、お前らのが付き合い長いだろ」
「まあ…長い分、何となくわかっちまうから聞こえないのかもな」
「そういうもんか。不思議な奴だ」
頬杖ついて隣のテーブルを眺める花宮は、ふと思い出したように続ける。
「ああ、雨月は最初から聞き取れてたぜ」
「あの娘も不思議か?」
「雨月は…俺と真逆だな、色々と。お前らが俺を嫌う要素、アイツは何一つ持ってねぇよ」
「嫌われてる自覚あるんだな」
「まあ。この性格だ、好かれる経験のが少ないもんで」
自嘲気味に笑う癖に、細められる目は雨月を真っ直ぐ見つめていた。
「……あ。水戸部の声が聞こえるようになった時、聞きたいって凄く強く考えたんだ」
「…は?」
「雨月と水戸部の会話、聞き取れないと内緒話みたいでイヤだったんだよ。そう思ったら、解るようになった」
「…」
「メガネ君も、今、あっちが水戸部と内緒話で盛り上がってると思えば聞き取れるんじゃね?」
俺の感情を見透かしたように笑う様が、どうにもムカついてイラついた。
確かに、花宮は確かに口が回って、賢くて饒舌な奴だったとは思う。
「……男の嫉妬は醜いぞ」
「嫉妬は好意が先立つ感情だ。好きだって証明になるんなら、醜かろうがなんだろうが俺は構わねぇ」
ただ。
こんな風に、"好き"を語る奴だとは思ってなかった。
「…お前ってわかんねぇな。友情とか絆とかバカにして、努力や信頼を散々嫌ってきた癖に、恋愛は擁護するのか」
だから、一瞥した視線を外して皮肉を投げてやった。
つもりだったけど。
「ふはっ!」
聞いたらことのある特徴的な笑い声がして。
「勘違いすんなよ、別に恋だの愛だの語るつもりは無い。…雨月が例外で特別、そんだけだ」
ただ一言、ノロケられた。
思わず花宮に視線を戻せば、さっきまでと同じように雨月を真っ直ぐ見据えて。
いとおしげに笑っている。
「……」
「雨月、そろそろ終わるか?」
『今ちょうど』
「…じゃあ、帰るぞ」
『うん。相田さん、ファイト!』
「(カントク、頑張って!)」
「ありがと!今なら出来る気しかしないわ!」
雨月の手を繋いで背を向けていくソイツは、やっぱり嫌いなままだけれど。
そんな優しい顔が出来るのかと気づいてしまえば、俺の知ってる悪童はなんだったんだという気分だ。
(アイツも人間、ってことか)
「…花宮って変わったよな」
「(そうだね)」
「変わったんじゃなくて、私達がコート上の奴しか知らなかっただけかもね」
取り残された俺たちの視線は、しばらくその後ろ姿から逸らせなかった。
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意外なところで意外な奴と出会うものだと思う。
例えば、本屋で花宮。
「あ」
「あ?」
思わず声を出してしまえば、そいつはニヤリと笑って。わざとらしい口調で続ける。
「やあ。こんなところで会うとはねぇ、メガネ君?」
「…なんだよ」
「おいおい、そっちからメンチ切ってきてそれはないだろ」
メガネ君なんて呼ばれた俺にも名前くらいある。日向順平。コイツに覚えて欲しいとは思わないが。
ちょっとした付き添いで珍しく本屋なんて来てみたらこれだよ。
ロクでもない奴に会ったもんだ。
「…ああ、水戸部が一緒なのか」
「(あ、花宮もいたんだね)」
俺の後ろに視線を移したソイツは、何でもない顔で水戸部と会話を続ける。
「新刊の予約受け取りにな」
「(そっか。さっき花ちゃんにも会って、本選ぶの手伝ってもらっちゃった。会計してるから、すぐ来るよ)」
「ん?会計付き添ってるってことは、そっちの連れまだいるのか」
「オイ待て。何で水戸部と話が通じてんだ!?」
確かに、strkyで花宮と一緒のチームになったとは聞いてたけど。
高校3年間一緒に過ごした俺ですら、会話にはならない。
身振り手振りで何となく、のレベル。
水戸部が困り顔してるからこれ以上は言わないが。
「日向ー、買えたわよー」
「ああ、カントク…じゃなくてリコ、良かったな」
「うん。偶然水戸部君のお友達にも勧めてもらって……え、花宮?」
『あ、真君。新刊買えた?』
「ああ。他のやつも予約してきた」
「「え?え?」」
俺とリコがひたすらクエスチョンマークを頭上に浮かべる中。
リコと一緒にやってきた女子は花宮に笑顔で近づいた。
『花宮雨月です。strkyでマネージャーしてます。えっと、元誠凛高校の日向君と相田さんだよね?』
「ああ。…って、花宮?」
「俺の自慢の嫁だが、何か?」
隣に並んで自己紹介したと思ったら。
花宮は女子の腕をぐっと引き寄せて、そう笑った。
本当、ムカつく顔。
「…用事も済んだし帰るぞ」
そのままスルスルと指を絡めて手を繋ぐ辺りもムカつく。
俺なんて未だに片思いだぞ。デートとすら呼べない、この買い物の付き添いも、水戸部を含めた3人で!
『あ、真君、もう少し時間いい?買った本のアドバイスをしたくて…』
「(カントクね、料理の練習したいからってレシピ本買ったんだ)」
元々、リコの料理を見かねた水戸部がレシピ本でも買ったらどうか。と勧めてくれたのが始まりで。
本来、俺は二人が良かったけど、料理に詳しい水戸部を交えてた。
そこへ、許すとか憎いとか、そういう次元じゃない奴が加わるなんて。
「…俺はいいけど?」
「順平、ちょっとだけ」
「…少しな」
けど。
リコが、それでもいいと思えてるなら、ごねるのは男らしくないと思って。
近くの公園でレシピを広げることになった。
「…」
「…」
ただ、なんでこんな殺伐とした組分けなんだ。
小さなテーブルと小さな椅子の輪、1つのテーブルに着けるのは3人まで。
リコと水戸部と雨月。
で、俺と花宮が同じテーブル。
別れて座りたいところだったが、生憎席がなかったのと、『真君、ここね』「(日向、そこにいて)」という台詞に逆らえなかったから。
「…ふーん、アイツ料理苦手なのか」
「…」
「まあ、レモン丸ごと浮いた蜂蜜レモンは同情したわ」
「…ああ、あれか」
思い返してつい返事をすれば、またニヤニヤとする。
「雨月は料理上手いから、多少は良くなると思うぜ?」
「…」
「面倒見もいいし、気立てもいい。教え方も上手いし」
「…」
「お人好しともいうけどな。そこも含めて可愛いし、優しいし」
「………ところで、なんで水戸部の言ってること分かるんだ?」
完全に無視するつもりだったのに。
寧ろ反応しないのを良いことにこれだけノロケられるんじゃ堪らない。
わざとやってんのか?コイツだって俺と話したいわけじゃないだろ。
…とは言っても聞いてられないから、違う話題をねじこんだけど。
「俺も最初はわからなかったが…なんで、っつわれても説明はできねぇな。聞こうとすると聞こえる、って感じだ」
「は?」
「不意に後ろから呼ばれてもわかんねぇけど、何か伝えたいんだろうな…って思って見てると聞こえる」
「……」
「なんだよ、お前らのが付き合い長いだろ」
「まあ…長い分、何となくわかっちまうから聞こえないのかもな」
「そういうもんか。不思議な奴だ」
頬杖ついて隣のテーブルを眺める花宮は、ふと思い出したように続ける。
「ああ、雨月は最初から聞き取れてたぜ」
「あの娘も不思議か?」
「雨月は…俺と真逆だな、色々と。お前らが俺を嫌う要素、アイツは何一つ持ってねぇよ」
「嫌われてる自覚あるんだな」
「まあ。この性格だ、好かれる経験のが少ないもんで」
自嘲気味に笑う癖に、細められる目は雨月を真っ直ぐ見つめていた。
「……あ。水戸部の声が聞こえるようになった時、聞きたいって凄く強く考えたんだ」
「…は?」
「雨月と水戸部の会話、聞き取れないと内緒話みたいでイヤだったんだよ。そう思ったら、解るようになった」
「…」
「メガネ君も、今、あっちが水戸部と内緒話で盛り上がってると思えば聞き取れるんじゃね?」
俺の感情を見透かしたように笑う様が、どうにもムカついてイラついた。
確かに、花宮は確かに口が回って、賢くて饒舌な奴だったとは思う。
「……男の嫉妬は醜いぞ」
「嫉妬は好意が先立つ感情だ。好きだって証明になるんなら、醜かろうがなんだろうが俺は構わねぇ」
ただ。
こんな風に、"好き"を語る奴だとは思ってなかった。
「…お前ってわかんねぇな。友情とか絆とかバカにして、努力や信頼を散々嫌ってきた癖に、恋愛は擁護するのか」
だから、一瞥した視線を外して皮肉を投げてやった。
つもりだったけど。
「ふはっ!」
聞いたらことのある特徴的な笑い声がして。
「勘違いすんなよ、別に恋だの愛だの語るつもりは無い。…雨月が例外で特別、そんだけだ」
ただ一言、ノロケられた。
思わず花宮に視線を戻せば、さっきまでと同じように雨月を真っ直ぐ見据えて。
いとおしげに笑っている。
「……」
「雨月、そろそろ終わるか?」
『今ちょうど』
「…じゃあ、帰るぞ」
『うん。相田さん、ファイト!』
「(カントク、頑張って!)」
「ありがと!今なら出来る気しかしないわ!」
雨月の手を繋いで背を向けていくソイツは、やっぱり嫌いなままだけれど。
そんな優しい顔が出来るのかと気づいてしまえば、俺の知ってる悪童はなんだったんだという気分だ。
(アイツも人間、ってことか)
「…花宮って変わったよな」
「(そうだね)」
「変わったんじゃなくて、私達がコート上の奴しか知らなかっただけかもね」
取り残された俺たちの視線は、しばらくその後ろ姿から逸らせなかった。
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