短編①
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《とある夢》
※花宮が病んでる。
ヒロインも溺れてる。
微流血・他傷。
………………………
彼は、時々、酷く病む。
「なあ、折れよ、ほら」
私を馬乗りにさせて腕を引っ張り、私の手を、彼の首に宛がわす。
「力入れろよ、折れるどころか絞まりもしねぇ」
悪態を吐いてつり上がる唇とは裏腹に、すがるような目をするものだから。
それに負けて少しだけ指に力を入れた。
彼の頸動脈が触れる。
少し苦しいだろうけど、死にはしない。
その程度の圧力。
「折れ、って」
それ以上力を入れないと解ると、彼はヘッドボードに置いてあったナイフに手を伸ばした。
「なあ、憎めばその躊躇はなくなるだろ?」
彼の手に収まったナイフは、私の腕を突き刺した。
『……、足りない』
「は?」
『この程度で憎める程、私は君を軽んじてないの。その刃が私の目を抉ったって、君の首を折りたいなんて思わない』
腕から流れる血が、彼の首を濡らした。
それを薄めるように、私の目から零れる涙が重なる。
『君の脈に触れるだけでこんなに愛しいのに、どうやって憎めばいいの』
彼は目を見開いた。
それから少しだけ、困ったように笑う。
「バァカ」
『うん』
「本当に馬鹿」
『うん』
「俺なんかの…どこがいいんだよ」
『君だからいいの』
「…」
『どこって挙げることもできるけど、それだけが好きな理由じゃないし、それがなくなっても好きなままなら、それは答じゃないでしょ?』
突き刺す、には浅かったのか。彼の力が緩むとナイフは転がり落ちた。
蓋をなくした血がだらだらと流れて行く。
『真、愛してる』
「…」
『幸せになるのって難しいね』
隣に寝転んで、彼をぎゅっと抱き締めた。
お互いの服も、ベッドのシーツも、私の血で汚れたが気にしない。
『この世界は確かに生きにくいね。消えちゃえれば幸せになれるかもしれない。でも、君の声が聞きたい。君の顔が見たい。笑った顔も、泣いた顔も。君と手を繋いでいたいし、君にもっと触れていたい。だから、私は生きてるし、君に生きていて欲しいと思う』
彼は、届いた言葉を信じることができない。
それ故に、何度もこんなことを繰り返す。
「………………お前、心臓動いてるのな」
『そうだよ。君の為に動いてる。君を愛する為に動いてるから、まだ止められない』
彼は、私の胸元に埋まりながらぼそりと呟いて。
耳を体に押し付けるようにして、彼も私に腕を回した。
「………少しだけ、わかった気がする」
『ん…なにを?』
お前の心臓の音が
愛しいと思った。
「お前が、こういう気持ちなんじゃないかって」
「雨月がいる世界なら、まだ、生きててもいい」
『………うん。生きよう。私も、真と生きたい』
この、酷い世界で。
短くて醜い人生を。
少しでも永く、君と。
fin
※花宮が病んでる。
ヒロインも溺れてる。
微流血・他傷。
………………………
彼は、時々、酷く病む。
「なあ、折れよ、ほら」
私を馬乗りにさせて腕を引っ張り、私の手を、彼の首に宛がわす。
「力入れろよ、折れるどころか絞まりもしねぇ」
悪態を吐いてつり上がる唇とは裏腹に、すがるような目をするものだから。
それに負けて少しだけ指に力を入れた。
彼の頸動脈が触れる。
少し苦しいだろうけど、死にはしない。
その程度の圧力。
「折れ、って」
それ以上力を入れないと解ると、彼はヘッドボードに置いてあったナイフに手を伸ばした。
「なあ、憎めばその躊躇はなくなるだろ?」
彼の手に収まったナイフは、私の腕を突き刺した。
『……、足りない』
「は?」
『この程度で憎める程、私は君を軽んじてないの。その刃が私の目を抉ったって、君の首を折りたいなんて思わない』
腕から流れる血が、彼の首を濡らした。
それを薄めるように、私の目から零れる涙が重なる。
『君の脈に触れるだけでこんなに愛しいのに、どうやって憎めばいいの』
彼は目を見開いた。
それから少しだけ、困ったように笑う。
「バァカ」
『うん』
「本当に馬鹿」
『うん』
「俺なんかの…どこがいいんだよ」
『君だからいいの』
「…」
『どこって挙げることもできるけど、それだけが好きな理由じゃないし、それがなくなっても好きなままなら、それは答じゃないでしょ?』
突き刺す、には浅かったのか。彼の力が緩むとナイフは転がり落ちた。
蓋をなくした血がだらだらと流れて行く。
『真、愛してる』
「…」
『幸せになるのって難しいね』
隣に寝転んで、彼をぎゅっと抱き締めた。
お互いの服も、ベッドのシーツも、私の血で汚れたが気にしない。
『この世界は確かに生きにくいね。消えちゃえれば幸せになれるかもしれない。でも、君の声が聞きたい。君の顔が見たい。笑った顔も、泣いた顔も。君と手を繋いでいたいし、君にもっと触れていたい。だから、私は生きてるし、君に生きていて欲しいと思う』
彼は、届いた言葉を信じることができない。
それ故に、何度もこんなことを繰り返す。
「………………お前、心臓動いてるのな」
『そうだよ。君の為に動いてる。君を愛する為に動いてるから、まだ止められない』
彼は、私の胸元に埋まりながらぼそりと呟いて。
耳を体に押し付けるようにして、彼も私に腕を回した。
「………少しだけ、わかった気がする」
『ん…なにを?』
お前の心臓の音が
愛しいと思った。
「お前が、こういう気持ちなんじゃないかって」
「雨月がいる世界なら、まだ、生きててもいい」
『………うん。生きよう。私も、真と生きたい』
この、酷い世界で。
短くて醜い人生を。
少しでも永く、君と。
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