花と蝶

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《高1冬 合宿4日目》




「ねー、羽影ちゃんと花宮って本当にただの幼馴染みだと思う?」

「どうだろうな、両片想いに1票を投じる」

「俺はそれに自覚なしを追加する」

「は?羽影の片想いじゃなくて?」

「いやいや、花宮の片想いでしょ」


今、花宮の部屋から一番遠い原の部屋に4人で集まっている。くたびれてはいるが、疲れすぎて逆に寝付けないのだ。…瀬戸までもが。
それに伴って原が投下した話題がこれである。
ばれたら死ぬな。


「だって花宮は羽影ちゃん好きすぎでしょ、ご飯の度に正面座るじゃん?あの性格にして羽影ちゃんに仕事させようとすると不機嫌Maxとか」

羽影さんに筋トレの補助してもらおうといったら眉が酷いことになってたな」

「でも来たら来たで上機嫌だったよね。調子もよかったし」

「ザキのマネ片想い説は厳しくない?」


そう、俺から見ても花宮が好意を持っているように見える。


「でも花宮だぜ?計算済みな気がする」

「感情に関してはそこまで器用じゃないと思うな。だから自覚なしを推すんだけど」


瀬戸の意見にも賛同できる。
羽影さんの片想い、とはやはり言えないだろうな。


羽影さんも好きじゃなければ、幼馴染みだからといって急にマネを引き受けないだろうな」

「っていうか筋トレ手伝ってもらった時真っ赤だったしよ。第一あの性格を解ってて笑顔ってのは、あれだろ」

「えー、羽影ちゃんの意見は弱くない?」

「あの子、花宮のことはよく気づくよね。お代わりのタイミングとか、物を渡すタイミング」

「確かにな」


それ以前に、何故か絶対の信頼のような物を寄せているように見える。


「そうだったか?…って瀬戸、ここで寝るな、戻れよ!」

「もうザキの部屋と繋げて雑魚寝しようよ」


雑魚寝とか、小学校の臨海合宿以来だった。


















4日目の朝、既に花宮は羽影さんの目の前の席に上着をかけていて。
配膳を手伝っているようだった。
今朝は寒くて寝坊してしまったから、手伝ってもらった…らしい。

(新婚みたいな後ろ姿だな)

花宮の隣に席をとって眺めていれば、

「古橋も運べよ」

と、スープを渡された。
…今朝はパンか。

バターロール、スープ、目玉焼きとウィンナー。
それにコーヒーかオレンジジュース。


花宮は問答無用でコーヒーを渡されていて、他の全員は選択肢を与えられていた。



(……それだけ解っている、ということか)








午前の練習は再び彼女を助っ人に呼び、何だかんだと花宮と組ませた。


「腹筋のやり方変えるぞ、起き上がり切らなくていいから、その角度で1分」

「うわ、きつ」

「ちなみに交互に5セットな」

「…」


上機嫌で鬼畜とはどういうことだ。


「古橋、もう少し角度下、原は低すぎ」


同時にやってるはずなのに横から指示が飛んで来る。
花宮だから、で済んでしまうのが怖い。


『私もやるの?』

「7回はやばいだろ。2桁くらいいけよバァカ」


交代になってからは楽しそうだった。彼女、10秒ももたないのであるが、その様を見て笑ったり励ましたりしている。


(古橋、実はもう付き合ってるとかないよね?)

(ないだろう、羽影さんは本気で恥ずかしがってる)

(ってかなんで今は指示ないんだよ、馬鹿か)


「花宮、マネにかまけてんな馬鹿ってザキが」

「は!?」

羽影さんがいて嬉しいのはわかるが」

「古橋なんで地雷踏みにいった!?」




「…お前ら、減らず口が叩けるみたいだな」



腹筋にスポドリのペットボトルをのせられて2㎏の負荷が入った。
やばい。

それでも、


『花宮君をからかうなんて、みんな命知らずだね』


と彼女は笑っていた。

花宮は不機嫌Maxになっていたが、昼にうどんを食べたら大分落ち着いて。
午後が冒涜的な練習になることは免れた。


⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯




羽影ちゃん、夕飯なーに?」

『お鍋だよ。夕飯つくるの最後だから、食材できるだけ使いたくて』

「2種類つくったのか」

『そっちが豚キムチ、こっちが塩つくね。〆はラーメンかご飯』


そう、2種類あって。
どちらから食べてもよかったし、どちらかだけ食べてもよくて。彼女は聞きながらよそってくれたのだけど。


『花宮君は?』


と聞いた時には塩鍋へ手を伸ばしていて


「…つくね」


と答えた時にはよそり終えていた。

(新婚というか、熟年なのか?)

そんなことを思いながら鍋を食べた。
うまかった。









そして風呂上がり、

「最終日くらい遊ぼうよー、せっかくトランプもってきたんだし」

「まあ、明日は片付けくらいしかないからいいんじゃないか」

羽影もやろーぜ!」

『私もいいの?』

「うちらのマネだしね」

「花宮もね」

「…」


食堂はテーブルでやりにくかったし、瀬戸が途中で寝てもいいように瀬戸の部屋でトランプをすることになった。
そこそこに狭いので、瀬戸の荷物と小さな机は俺の部屋に追いやられた。


『トランプなんて久しぶりだなぁ』

「なにやる?ダウト?神経衰弱?ババ抜き?」

「神経衰弱とか花宮と瀬戸の独壇場じゃねぇか」

「じゃあ無難にババ抜きね。1抜けがビリに罰ゲーム指定できるってことで」

「マジか」

「罰ゲームかご褒美ないと盛り上がらないっしょ」


そうして始まったババ抜きだが、ババの位置がわからない。顔にでやすいザキのところにないのと、俺でないことしかわからない。


で、瀬戸からカードを引いた[#dn=1#]さんが目を泳がせた。


(彼女が引いたのか)


花宮はそれが解ったんだろう、彼女の戸惑う様子を楽しみながらカードを選んでいる。


「よっしゃ俺あがりー」


結局ババは動かず、原が上がった。
原の罰ゲームはえげつないからな、ビリは御免だ。

そこそこカードが減ってきて、ババが花宮に動いた。

(わざとか)

楽しそうにザキにカードを選ばせている。揃わなかったようだが、ババは花宮のままのようだ。


「…俺も上がりだ」

「あれ、じゃあ羽影さんがこれ引いて、俺も上がり」


俺の後に瀬戸が上がる。


『あ…、じゃあ』


羽影さんも一組揃い、残った1枚を花宮が引く。


「花宮珍しいね、最後まで残るの」

「ザキがあがれば花宮に罰ゲームできるじゃん、ザキがんば」


こういうのは大概フラグなんだ。
案の定ザキにババが移り、シャッフルの動きでカードを読んだ花宮が上がった。


「こういうのは楽しんだもん勝ちだろ?」

「花宮もえげつないな」

「ザキの罰ゲームはウルトラソ○ルのサビ熱唱で」



……罰ゲームにならなくて本当によかった。




.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯


「リベンジ!」


ババ抜き2回戦目、ザキが張り切ってカードを配る。

『あ…』

「え、そんなことあるんだ」


配られたカードが全てペアだったらしく、[#dn=1#]さんが何もしないうちにあがってしまった。


「ふはっ、運使いきったんじゃねぇのか?」

『そんな気がする…』

「まあ、ゆっくり罰ゲーム考えてろよ」


花宮は意地の悪い笑いを浮かべているが、彼女が罰ゲームを受けるわけではないのでどこか安心しているようだった。


「…」

「古橋ビリか」

「迂闊だった」


考えごとをしていたためか、久しぶりに手元にジョーカーが残っている。


羽影ちゃんの罰ゲーム楽しみなんですけど」

『えっと、罰ゲームになるか解らないんだけど…自己紹介して下さい』

「は…」

『や、名前とバスケ部なのはわかってるし、性格とかも解ってきたけど…みんなのことそんなに知らないなー、と』

「……」

「案外恥ずかしい罰ゲームなんじゃね、これ」

『趣味とか特技?あればお願いします』


存外恥ずかしいものだ。
羽影さんだけならともかく、他のメンバーもいるのだから殊更。


「…古橋康次郎、趣味はガーデニング、特技といえるかはわからないがパンをよく作るな」

『ガーデニングしてるの?よかったら今度お花見せてね!パンも焼けるなんて驚いたよ』

羽影さんは料理するんだろう?パンは作らないのか?」

『うん、作ったことないよ』

「ほう」

「え、待って誰か突っ込みを入れて。古橋、庭いじりとかすんの?」

「しちゃ悪いか」

「意外だから驚いてんだよ、バカなの?ババロアなの?」


弄られる側だと少々面倒だが、案外盛り上がった。
そこで原が乗っかり、次からの罰ゲームが自己紹介で固定に。


「また俺かよ!」

「ザキ弱ww趣味と特技どうぞww」

「山崎弘、趣味は格闘系のゲーム。特技は……早食い。あ、豚カツ旨いよな!」

「何気に豚カツ作れって催促してんの?」

「ちげーよ!」

『ふふ、確かに山崎君食べるの早かったよね。豚カツはまた考えとくよ』


再びザキがビリになって、次が原。


「あり?今度俺かぁ、んとね、趣味音楽で特技ドラムだよん。音楽系のゲームも好き、ボルトとかポップンとかなんでも」

「そういえば部室でもやってたな」

「こうみえて結構上位なんだよー」

『ドラムもできるんだ!カッコいい!』

「まあねー、もっと誉めていいよん」


緩い。こいつは罰ゲームになっていない気がする。


「でもやっぱ花宮と瀬戸にもさせたいよね、自己紹介」

「ジジ抜きならカード解らなくていけんじゃね?あれは運でしょ」

「既に1枚抜いた。何が足りないのかは俺もわからない」

「これは、難しいな」


それでやっと瀬戸が負けたのである。


「んー、暗記は趣味だし特技かな。因みにウクレレも弾けるよ」

「なんでウクレレ…ギターじゃないんだよ」

『ギターだったら原君とセッションできたのにね』

「暗記って花宮とどっちが上なの?」

「花宮じゃない?競うつもりはないけど」


そしてジジ抜き2戦目、ようやく羽影さんが負けた。





.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯



『自分で言い出したけど、やっぱり恥ずかしいね。…えっと、羽影雨月です。趣味も特技も料理、かな。特技っていっていいか解らないけど』

「十分特技だろう、合宿中の食事は全て美味しかった」

「そうだよ。あの花宮が文句言わず食べてたし」

「夏の合宿中は全然食わなかったもんな」

『そうなんだ、気に入ってもらえて何より』

「得意料理とかないの?特別メニューとか」

『うーん、結構なんでも作るからなぁ』

「高校生でそれは凄いんじゃない?」

『ふふ、ありがとう』


…これ、結局合宿中の羽影さんと変わらないんじゃないか。


「花宮1抜けでしょ、なんか質問追加してよ。羽影ちゃんが料理上手なのは皆わかってるってば」

「はぁ?趣味と特技で固定してんじゃねぇのかよ」

「そこは臨機応変に楽しむのが罰ゲーム。花宮も罰ゲーム考えんの好きじゃん、なんかないの」


原が深夜テンションで大分攻めている。
確かに、いつもの花宮なら原と同じくらいえげつない罰ゲームを出してくるのに、随分大人しいと思う。


「…、ねぇな」

「うわ、幼馴染みは旧知の仲で知らないことなんてないと」

「そうは言ってないだろ、なんだ急に」

「別に?罰ゲームっぽくも花宮らしくもないからさ。じゃ2上がりの俺からいい?」

『うん?答えられることなら』

「花宮とオサナなんでしょ?花宮との一番古い記憶と、印象を教えて」


おい、原。なんで今踏み込んだ。花宮の眉が酷いことになってるだろ。

だがまあ、気になるからそっと見守ろう。
瀬戸も山崎もそのつもりらしい。


『え…』

「それは羽影へじゃなくて俺への罰ゲームか?なぁ?」

「花宮全然負けないんだから、これくらいいいじゃん。それとも言われたくない秘密でもあんの?それはそれで聞きたいけど」


一番困っているのは羽影さんだろうに。
不憫だな。


「で、どうなの?」


瀬戸、それは助け船ではないな?興味本意だな?


『そうだなぁ…最初に会ったのは、っていうと結構前だからはっきりは覚えてないや。でも、頭がいいって思ったのは覚えてる』

「ふーん、本当に幼馴染みなんだね。なんか面白い話ある?」

『多分ないけど、これ以上は花宮君の罰ゲームで…かな?』


花宮を伺いながら逃げ道を探しているんだろう。
ちらりと隣の花宮を見遣る彼女。


「だな。まあ、さすがにビリにはならねぇが」

「…何がなんでも負けさせる」


実際ババ抜きには飽きがきていて、花宮を負かせるのは至難だと解り始めていたし、[#dn=1#]さんも花宮の自己紹介はいらないと思うのだが。
原とザキの負けず嫌いに火がついたらしい。

花宮対その他のポーカーが始まった。

先鋒ザキ、大敗。
中堅原、同じく。
副将瀬戸、惜敗。


「マジか…」

「古橋任せた」

「何故俺が大将なんだ」

「ポーカーフェイスだからだろ」


解せない。

が、これで負けたら罰ゲームがゲームで済まない気もする。
真面目にやらねば。


「…全額BET」

「…こちらも全額だ」


最終局面、同点になっていたのでどうせならと全額かけた。(もちろんゲーム用コインだが)


「え」

「この手札でか」

「ロイヤルストレートフラッシュで引き分けなんて、どうなってんの」

「ディーラーが羽影さんだからな、幸運なのかもしれん」


ロイヤルストレートフラッシュはポーカーで一番強い役であり、俺がダイヤで花宮がクローバーのスートで揃えてきた。
それは全額BETもするだろう。


「とりあえず負けた3人は罰ゲームな。羽影質問決めていいぞ、答えたくなさそうなやつで」

『それ、私にふるの…?じゃあ、好きなタイプとか?』

「すごく興味ないんだけど」

『誰も興味ないことを言わなきゃいけない罰ゲーム』

「ああ、そういうこと」


…彼女も花宮に似たところがあるのか。


「…明るいやつがいいよな、元気なやつ」

「んー、脚綺麗なコがいいよね。顔も大事だけど」

「頭がいい子かな。話が通じやすいから」


俺としても至極どうでもいい。


「引き分けだから、自己紹介なしだな」

「ちぇ、せめて趣味と特技くらい言えば?」

「あ?めんどくせぇ、そろそろ寝るぞ」


確かに、日付も変わっているし、瀬戸も寝ぼけてきた。
羽影さんはトランプをきちんと束ねて原に返している。

そして、立ち上がった花宮が目で彼女を促した…ように見えた。


『私も眠くなっちゃったから…またね』


と、花宮の後について部屋を出ていったのだ。












「…花宮、過保護じゃね?」

羽影ちゃんがビリにならないようにババ回してたもんね」

「自己紹介もさせたくなさそうだったな」

「でも、彼女も花宮との思い出とか話したくなさげだったね」

「なんていうかさ」



じれったいけど面白いよね。


ガムを膨らませながら笑った原に、他の3人も頷いたのだった。







Fin.
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