花と蝶
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《高1冬 合宿準備》
その時は急に訪れた。
卒業式も終り、春休みまであと僅かという時だ。
「体育館が使えない?」
「…しかも5日間」
「来週末からっしょ?急じゃね」
「雨漏りと耐震性の都合で第2、第3体育館も合わせ工事するらしい」
そう、その言葉の通り。
春休み中の5日間、工事するから体育館で部活ができない。
1~2日ならまだオフと外周くらいでなんとかするが、5日は長い。
しかも、既に区の体育館は他校の試合や練習で殆ど空きなし。
練習方法に頭を抱えている最中だ。
「5日オフってことはないよねー」
「オフが明けたら練習2倍が5連チャンか練習5倍を1日でこなすか選ばせてやる」
「死ぬっつーの」
「5日間外周ってのもないよね」
「何周するつもりだ…」
ああでもないこうでもないと悩んでも中々答えが出ない。
いや、考えはあるのだがあまり実行したくない。
『皆そろって何話してるの?』
そこへ、氷の準備が終わった雨月が近付いてきて。他のメンバー全員が閃いたようだった。
「なあ」
「花宮、」
「合宿組まない?」
「…そうなると思った」
『え?え?』
状況を理解していない雨月に古橋が説明をしている。
合宿、という手段は思い付いていたが使いたくなかった。学校全体が練習場所に困っているし、区の体育館は使えないとなると…近場で合宿所を押さえるのは厳しいだろう。
しかも人数は僅か6人。対人練習にはならないし、メニューを考えるのも手間だ。
古橋が説明している間に色々と候補を考え、妥当だと思う方向が決まった。
「…合宿、施設を探してみてからメニューは考えるが」
「…」
「…え」
「嫌な予感」
「喜べお前ら」
体力・筋力強化合宿だ。
「うわぁ…」
「遺書書こう、そうしよう」
「この時期の合宿なんてただのフラグだったか」
各々の沈んだ反応を見た雨月は、
(古橋君ですらげんなりしている。…ように見える)
なんとなくその合宿の厳しさを悟った。
「施設は俺が後で調べるから、練習始めるぞ」
お前は自分の仕事終わったら帰れよ、と彼女に言って自分も練習に加わった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『…いいとこ空いてそう?』
「チッ。やっぱり近場は無理だな、来週とか急すぎんだよ」
パソコンの画面を睨むこと30分。一向に見つからない合宿施設に、思わず舌打ちをした。
『コーヒーどうぞ。遠出ってどのくらいまでできるの?』
「ん。うちの部はバスとかないからな…誰かの親の送迎ができるか、公共交通機関の範囲内」
『うーん…ちょっと遠いんだけど…』
ここは?
と、隣から覗き混んだ雨月がキーボードを叩く。
「青年の家?都外じゃねえか」
『そう。距離は確かにあるけど、宿泊料がすごく安いの。まあ…自炊しなきゃいけないし、掃除もしなきゃだからなんだけどね』
「で、設備は?」
『体育館とグランドはあるよ。マットとかコーンみたいな学校にあるのと同じようなものは揃ってる。夏ならプールも使えるよ、近所の人もくるけど』
「ふーん、詳しいな」
『おばあちゃんの家がこっちにあって、小さいとき遊びに行ったんだ』
懐かしいなぁ、と笑った彼女がこちらを向いた。
近い。
そりゃそうだ、パソコンなんて小さな画面を一緒に見ようとすれば、近いに決まっている。
肩が触れるか触れないかの距離に、彼女は座り込んだのだ。
『…真君?』
「…いいんじゃね?ここ。どうやっていくか考えねえと」
距離感が気にならないのか、彼女はそのままアクセスを覗いて料金を計算しながら自分のココアを啜っている。
(まあ、このくらいの距離で寝てるんだ。気にならねぇか)
ならば、と自分もさして気にせずスマホを開く。
『あー…やっぱりけっこうする。電車のが安いけど、乗り換え多いかも。最終的にはバスじゃないと近くまでいかないし』
「だろうな。メンバーにも伝えてる。送迎できそうな奴がいればそれに越したことはないし」
lineを流して反応を待っていると、松本からメールが入った。アイツだけガラケーで、lineではなくメールでやりとりをしてる。
『松本君なんだって?』
「合宿欠席だと」
『え』
アイツ、そこそこどの競技もできるから人数足りないとか、弱小チームの助っ人とかによく駆り出されているのだ。それが、例の5日のうちに3箇所から声がかかっているのだという。
…器用貧乏とは。
~line~
花<松本、合宿欠席
山<逃げたか
古<大方また助っ人だろ
原<俺も休んでいい?
花<松本はラグビーの助っ人が入っているから免除したが、合宿休むやつはその分の練習を別に加算するからな
山<…
古<…
原<…
山<よろこんで
古<参加させて
原<頂きます。
花<当たり前だ
瀬<兄貴がそっち方面から帰ってくるから、帰りは拾ってもいいと
山<瀬戸、起きてたのか
花<何人乗れる
瀬<運転士込み7人乗
原<松本ナイス
古<行きは俺の親が送っていけるようだ/7人乗り
山<松本の連続ファインプレーww
『「…」』
『お礼、しなきゃね』
「…松本、マジよくやった」
こうして合宿所についての問題は解決し、その日を終えた。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
後日、予想はしていた。
雨月はイイコチャンである、つまり、バカ真面目にやろうとすることもある、と。
「ねえ、これ羽影ちゃんだよね?」
「彼女しかいないだろ」
「真面目だな」
施設が決定した翌日、予約もしっかりとれた。
そして、注意事項や持ち物なんかを書いたプリントを用意して配布するところまでは俺の仕事。
顧問や監督がいない上に、親の協力を得る今回は必要な作業だった。
話題にあがったのは別のプリントで、放課後練習の後、ロッカーに張られていた。
定規を使って手書きで作られたそのプリントは、合宿中の食事に関するアンケートだった。
「そっか、合宿中のご飯はあの子が作るんだもんねー」
「アレルギーに普段食べる量…あとは好き嫌いか」
「朝ごはんがパン派かご飯派かも聞いてるな。律儀なことだ」
俺のところにも同じものが張ってある。
「はい、花宮。マネに渡しといて」
「あ?なんで…」
「クラス同じだろ?」
「じゃ俺のもー。今書くから待って」
「これも頼んでいいか」
「……」
結局、5枚まとめて持ち帰った。
どうせ家にいるし、学校で渡す方が面倒臭い。
というか、俺が仲介してるのがそもそも面倒臭い。
『おかえり!』
「おい、勝手なことすんな。全部預けられて面倒だっただろ」
『ご、ごめん』
玄関を開けてすぐのやりとりであったが、なんのことかわかったらしい彼女は、慌てて謝った。
『真君に言ったら反対されると思って。合宿中って環境が変わるから、ご飯は少しでも日常に近い方がいいかな…と』
「それ、俺の日常からは遠くなるんじゃねえの」
『二人じゃないこと以外は変わらないと思うよ。真君は私のレパートリー、全部食べたことあるもの。それに、そんなに全部の要望聞けないから、参考ってとこかな?』
もう夕飯できてるから食べてからにしよう?冷めちゃう。
そう言いながら彼女は台所へ向かい、俺は部屋着に着替えに行った。
「…いつもと味が違う」
『そうなの。買い物行ったら北海道フェスやってて、ザンギが美味しそうでやってみたんだ。黒胡椒がはいってるよ』
定番の鶏の唐揚げ。
衣を工夫したり、塩味にしたり、彼女は試行錯誤を絶やさない。
「今度、塩味で胡椒入れろよ」
『あ、そうだね。ちなみにこれ、何番目?』
「…3」
1番はにんにく醤油の定番のやつで片栗粉の衣。
2番が塩味で同じく片栗粉の衣。
あとは小麦粉の衣のやつとか、レモンとか青じそとかとにかく色々。
不味いものはひとつもなかったが、好みは歴然としてある。
『真君が好きじゃないものは出さないよ。真君が美味しくご飯を食べるために私は合宿に行くんだもん』
唐揚げについて回想をしていたら、彼女がそんなことをいった。
思わず唐揚げをつかみ損ねて、箸が宙を切る。
(何に、動揺してるんだ、俺は)
「…言ったな?楽しみにしててやるよ」
そう、
嫌いなものを出さない
じゃなくて
好きじゃないもの、だったこと。
ただ食べるために
ではなくて
美味しく、と足されていること。
そして、
部の為ではなく
彼の為に合宿に参加するということ。
それらが理由にあたるのだけど、花宮は気付かなかった。
(彼女が彼のために料理をするのが)
(日常だったから)
Fin.
その時は急に訪れた。
卒業式も終り、春休みまであと僅かという時だ。
「体育館が使えない?」
「…しかも5日間」
「来週末からっしょ?急じゃね」
「雨漏りと耐震性の都合で第2、第3体育館も合わせ工事するらしい」
そう、その言葉の通り。
春休み中の5日間、工事するから体育館で部活ができない。
1~2日ならまだオフと外周くらいでなんとかするが、5日は長い。
しかも、既に区の体育館は他校の試合や練習で殆ど空きなし。
練習方法に頭を抱えている最中だ。
「5日オフってことはないよねー」
「オフが明けたら練習2倍が5連チャンか練習5倍を1日でこなすか選ばせてやる」
「死ぬっつーの」
「5日間外周ってのもないよね」
「何周するつもりだ…」
ああでもないこうでもないと悩んでも中々答えが出ない。
いや、考えはあるのだがあまり実行したくない。
『皆そろって何話してるの?』
そこへ、氷の準備が終わった雨月が近付いてきて。他のメンバー全員が閃いたようだった。
「なあ」
「花宮、」
「合宿組まない?」
「…そうなると思った」
『え?え?』
状況を理解していない雨月に古橋が説明をしている。
合宿、という手段は思い付いていたが使いたくなかった。学校全体が練習場所に困っているし、区の体育館は使えないとなると…近場で合宿所を押さえるのは厳しいだろう。
しかも人数は僅か6人。対人練習にはならないし、メニューを考えるのも手間だ。
古橋が説明している間に色々と候補を考え、妥当だと思う方向が決まった。
「…合宿、施設を探してみてからメニューは考えるが」
「…」
「…え」
「嫌な予感」
「喜べお前ら」
体力・筋力強化合宿だ。
「うわぁ…」
「遺書書こう、そうしよう」
「この時期の合宿なんてただのフラグだったか」
各々の沈んだ反応を見た雨月は、
(古橋君ですらげんなりしている。…ように見える)
なんとなくその合宿の厳しさを悟った。
「施設は俺が後で調べるから、練習始めるぞ」
お前は自分の仕事終わったら帰れよ、と彼女に言って自分も練習に加わった。
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『…いいとこ空いてそう?』
「チッ。やっぱり近場は無理だな、来週とか急すぎんだよ」
パソコンの画面を睨むこと30分。一向に見つからない合宿施設に、思わず舌打ちをした。
『コーヒーどうぞ。遠出ってどのくらいまでできるの?』
「ん。うちの部はバスとかないからな…誰かの親の送迎ができるか、公共交通機関の範囲内」
『うーん…ちょっと遠いんだけど…』
ここは?
と、隣から覗き混んだ雨月がキーボードを叩く。
「青年の家?都外じゃねえか」
『そう。距離は確かにあるけど、宿泊料がすごく安いの。まあ…自炊しなきゃいけないし、掃除もしなきゃだからなんだけどね』
「で、設備は?」
『体育館とグランドはあるよ。マットとかコーンみたいな学校にあるのと同じようなものは揃ってる。夏ならプールも使えるよ、近所の人もくるけど』
「ふーん、詳しいな」
『おばあちゃんの家がこっちにあって、小さいとき遊びに行ったんだ』
懐かしいなぁ、と笑った彼女がこちらを向いた。
近い。
そりゃそうだ、パソコンなんて小さな画面を一緒に見ようとすれば、近いに決まっている。
肩が触れるか触れないかの距離に、彼女は座り込んだのだ。
『…真君?』
「…いいんじゃね?ここ。どうやっていくか考えねえと」
距離感が気にならないのか、彼女はそのままアクセスを覗いて料金を計算しながら自分のココアを啜っている。
(まあ、このくらいの距離で寝てるんだ。気にならねぇか)
ならば、と自分もさして気にせずスマホを開く。
『あー…やっぱりけっこうする。電車のが安いけど、乗り換え多いかも。最終的にはバスじゃないと近くまでいかないし』
「だろうな。メンバーにも伝えてる。送迎できそうな奴がいればそれに越したことはないし」
lineを流して反応を待っていると、松本からメールが入った。アイツだけガラケーで、lineではなくメールでやりとりをしてる。
『松本君なんだって?』
「合宿欠席だと」
『え』
アイツ、そこそこどの競技もできるから人数足りないとか、弱小チームの助っ人とかによく駆り出されているのだ。それが、例の5日のうちに3箇所から声がかかっているのだという。
…器用貧乏とは。
~line~
花<松本、合宿欠席
山<逃げたか
古<大方また助っ人だろ
原<俺も休んでいい?
花<松本はラグビーの助っ人が入っているから免除したが、合宿休むやつはその分の練習を別に加算するからな
山<…
古<…
原<…
山<よろこんで
古<参加させて
原<頂きます。
花<当たり前だ
瀬<兄貴がそっち方面から帰ってくるから、帰りは拾ってもいいと
山<瀬戸、起きてたのか
花<何人乗れる
瀬<運転士込み7人乗
原<松本ナイス
古<行きは俺の親が送っていけるようだ/7人乗り
山<松本の連続ファインプレーww
『「…」』
『お礼、しなきゃね』
「…松本、マジよくやった」
こうして合宿所についての問題は解決し、その日を終えた。
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⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
後日、予想はしていた。
雨月はイイコチャンである、つまり、バカ真面目にやろうとすることもある、と。
「ねえ、これ羽影ちゃんだよね?」
「彼女しかいないだろ」
「真面目だな」
施設が決定した翌日、予約もしっかりとれた。
そして、注意事項や持ち物なんかを書いたプリントを用意して配布するところまでは俺の仕事。
顧問や監督がいない上に、親の協力を得る今回は必要な作業だった。
話題にあがったのは別のプリントで、放課後練習の後、ロッカーに張られていた。
定規を使って手書きで作られたそのプリントは、合宿中の食事に関するアンケートだった。
「そっか、合宿中のご飯はあの子が作るんだもんねー」
「アレルギーに普段食べる量…あとは好き嫌いか」
「朝ごはんがパン派かご飯派かも聞いてるな。律儀なことだ」
俺のところにも同じものが張ってある。
「はい、花宮。マネに渡しといて」
「あ?なんで…」
「クラス同じだろ?」
「じゃ俺のもー。今書くから待って」
「これも頼んでいいか」
「……」
結局、5枚まとめて持ち帰った。
どうせ家にいるし、学校で渡す方が面倒臭い。
というか、俺が仲介してるのがそもそも面倒臭い。
『おかえり!』
「おい、勝手なことすんな。全部預けられて面倒だっただろ」
『ご、ごめん』
玄関を開けてすぐのやりとりであったが、なんのことかわかったらしい彼女は、慌てて謝った。
『真君に言ったら反対されると思って。合宿中って環境が変わるから、ご飯は少しでも日常に近い方がいいかな…と』
「それ、俺の日常からは遠くなるんじゃねえの」
『二人じゃないこと以外は変わらないと思うよ。真君は私のレパートリー、全部食べたことあるもの。それに、そんなに全部の要望聞けないから、参考ってとこかな?』
もう夕飯できてるから食べてからにしよう?冷めちゃう。
そう言いながら彼女は台所へ向かい、俺は部屋着に着替えに行った。
「…いつもと味が違う」
『そうなの。買い物行ったら北海道フェスやってて、ザンギが美味しそうでやってみたんだ。黒胡椒がはいってるよ』
定番の鶏の唐揚げ。
衣を工夫したり、塩味にしたり、彼女は試行錯誤を絶やさない。
「今度、塩味で胡椒入れろよ」
『あ、そうだね。ちなみにこれ、何番目?』
「…3」
1番はにんにく醤油の定番のやつで片栗粉の衣。
2番が塩味で同じく片栗粉の衣。
あとは小麦粉の衣のやつとか、レモンとか青じそとかとにかく色々。
不味いものはひとつもなかったが、好みは歴然としてある。
『真君が好きじゃないものは出さないよ。真君が美味しくご飯を食べるために私は合宿に行くんだもん』
唐揚げについて回想をしていたら、彼女がそんなことをいった。
思わず唐揚げをつかみ損ねて、箸が宙を切る。
(何に、動揺してるんだ、俺は)
「…言ったな?楽しみにしててやるよ」
そう、
嫌いなものを出さない
じゃなくて
好きじゃないもの、だったこと。
ただ食べるために
ではなくて
美味しく、と足されていること。
そして、
部の為ではなく
彼の為に合宿に参加するということ。
それらが理由にあたるのだけど、花宮は気付かなかった。
(彼女が彼のために料理をするのが)
(日常だったから)
Fin.