花と蝶

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《高3冬 勉強会》




部活もない、勉強もない。
授業が演習だけになった今、雨月ですら余裕ができた。
休日なんてなおのこと。


「…バイトして、免許とるか」

『私もバイトしてみたい!免許も欲しい』

「お前は時間とれんのか?どっちか大学からに回してもいいんじゃね」

『うーん…バイト次第かな。そんな多くは入れないし、資金的にも』


そう言って、二人でバイトを始めた。
俺は、紙面データをエクセルやワード…デジタルデータに落とす仕事。
##NAME2##は、小中学生のWebテキストの採点。
どっちもデータの交換以外は自宅でもできるし、歩合制だから早く終わればそれだけ稼げて楽だった。


『ふぅ…終わったぁ』

「こっちも終わりだな。もう少し仕事貰うか…」

『んー、でもゆっくりする時間も欲しいから、今のままでいいよ。教習所の分は間に合ってるし』

「お前はな。俺は少しでも多く貯金しておきたい」

『…じゃあ私も増やす』

「いいんだよ。お前が飯作ってる間にする仕事が欲しいだけだ」

『…うん。無理しないでね』


思ったより稼げるこの仕事は、自動車免許の教習分の費用に十分で。
ただ、時期的に込み合っているから、貯めるだけ貯めて春から二人で通う話になった。


「…無理じゃねぇが…眼鏡」

『ああ、やっぱり欲しいよね』


話は変わってブルーライト遮光眼鏡。
こうも液晶を見ていると、さすがに疲れる。


「100均でも買えるらしいから、見に行ってくる。行くか?」

『行く!』


そんなわけで、100均で黒縁と赤縁の眼鏡を買ってきた。





『うわぁ…真君、さらにインテリジェンス!秘書とか専務とかしてそう…カッコいいなぁ』


それからというもの、眼鏡をする度に今の反応。

これが調理中だろうがお互い仕事中だろうが、チラチラ見ては感嘆の溜め息。

悪い気はしないんだが…返事に困る。


雨月、そろそろ見慣れろ。もう一月立つんだぞ…」

『見慣れたよ。でも、こう…眼鏡に慣れたら今度は外した時にまたカッコいいな…って。無限ループ?』

「疑問符で終わるな。本当、お前は俺のこと好きすぎて馬鹿」

『それは誉め言葉です』


ふふ、と楽しげに雨月が笑うものだから。
どうあっても俺が負けるのは決まっている。

まして。


『外で眼鏡かけないでね?その真君は、私だけの』


なんて文句まで言ってのけた。


「ふはっ!俺を縛るか?上等だ。そのかわり、##NAME2##も外で眼鏡は禁止」


我ながら、馬鹿っぽい約束だと思うが。


『約束よ?』


と、小指を差し出した彼女が可愛くて。
やっぱり俺が負けるのだ。



.



『ねえ、真君。勉強会本当にやってみない?』

「あ?あのメンツ全員で?」

『そう。たまには皆とも集まりたいな』

「…」

『だって、皆といる真君も楽しそうだから』


バイト用の、赤縁の安っちいブルーライト遮光眼鏡をかけた彼女が、こちらを伺っている。
彼女が眼鏡をかけると、元が優しげな顔だけに少し大人っぽく見えた。


『夜食とか作って…勉強も息抜きもできるように、ね?』


そう笑った顔が、俺が落ちるって解っているように見えるほど。


「…夜食って…泊まりで家に呼ぶ気か?」

『うん、私の家に。私の家にも、楽しい記憶をあげたいから』

「……lineしてみるから、待ってろ」


センター試験まで、あと1ヶ月。
返事は遅いだろうと括っていたのに、話はものの15分でついてしまった。


「…あいつら本当に勉強してんだろうな」

『してるんじゃ…ないかな?で、どう?』

「次の土曜。昼過ぎから日曜の昼まで。原とヤマはカリキュラム組んでやるつったら泣いて喜んだ」


喜んだ、かどうかは意訳が入ってるが。


『次の土曜ね。夕飯と、夜食と、朝飯。おやつ…は余裕があったらで…リクエストある?』

「受験だしな。カツとか?ヤマも食いたがってたし…でも人数的にきついか?」

『うーん…先に揚げた人の分が冷めちゃうからなぁ。……あ!』

「なんだ?」

『…私、その日は3つ口コンロとオーブンをフル活用します』

「…ああ。なるほどな。火傷すんなよ」

『うん。ありがと』


後は?
と、計画しながら土曜を待った。















「お邪魔しまっす!」

「女子の家、初めてなんだが…」

「瀬戸は勉強会に出る意味あ「指導要員」…解ってただけに腹立つな」

「入り口でつかえんな。とっとと入れ」


訪れた土曜日、ガヤガヤとメンバーは集まった。


『いらっしゃい!勉強はリビングのローテーブルでやるから、荷物はこの部屋の隅にお願いね』

「寝るのもこの部屋か?」

『うん。テーブル片付けて布団引くよ。あ、布団はあそこ』


彼女の両親の祖父母が、それぞれ自分達が泊まるための、客用布団を置いていったらしい。それが初めて役にたった。


「…?布団4組ってことは」

「俺と雨月は上で寝る」

「これは疑問を抱いたら負けなのか…」

「とりあえず勉強道具広げろ。指定した問題を2時間でやれ」

「量と難易度が横暴な件について」

「2時間で片付いたら雨月がブレイクタイム用の茶菓子出してくれる」

「…終わらさざるを得ない」

「いいか?じゃあ始めろ」










「……終わったか?」

「ギリギリ」

「見直したり確認する時間は無かったな」

「採点してやるから、その間は休憩。雨月、休憩だ」

『はいよー。皆、コーヒーでいい?』


テキストを片付けたローテーブルに、4つのコーヒーカップとミルクと砂糖。それから梨ゼリー。


「ゼリー凝ってんね」

「やっぱり手作りか?」

『うん』

「梨!」

「古橋のテンションが上がった…だと?」


ゼリーは、生の梨が入った寒天ゼリーに、コンポート入りジュレ。トッピングにもコンポートと生梨を使った梨尽くしだ。


『30分~1時間くらいかな?終わったら声かけるね』

「え、羽影も採点すんの?」

『そうだよ。というか、採点のメインは私で分析とか対策が真君。まあ、ゆっくり食べててね。コーヒーはドリッパーから好きに飲んでいいから。瀬戸君使い方解るよね?』

「大丈夫。こっちは気にしないで」


ここからひたすら採点と分析作業。
途中から瀬戸も手伝いに入って、1時間弱。


「…お前ら、受験勉強っつーのは苦手潰しをするか必要科目から武器教科を特化させるかするんだよ。好きな得意教科に時間割いてどうすんだバァカ!」

「えー、俺の古典は武器教科だよ」

「二次試験に古典ねぇうえにこれ以上特化しない科目に力を入れんな。漢文も古文も申し分ねぇよ。いい加減社会科目と向き合え」

「俺はそんなに片寄ってない筈だが」

「そうだな。全体的にあと少し詰め込めば十分だろう。が…英語はどうしてこうなった」

「真面目に意味がわからない」

「辞書を引け。紙辞書な。熟語が入ってなさすぎだろ、単語テストどうしてたんだよ」

「意訳」

「単語の意訳ってなんだよバァカ!それからヤマ!」

「な、なんだよ」

「お前が多分一番真面目に勉強してる。基礎とか型通りの応用は解けてるからな。ただ、演習に時間がかかりすぎだ。考えても解らない、思い付かないものは後で考えるようにしろ。効率が悪い」

「「「…」」」

「あ?」

「花宮先生がちょっとずつ誉めてくれてて僕たち嬉しいです」

「よし、これからマンツーマンだからな。歯ぁ食いしばれ」


軽くミーティングをして、今度は苦手潰しをする。…正直、今やるんじゃ遅い気もするが。
因みに瀬戸はもうすることがないから、ひたすら論文の題材を読んでいる。


『真君も、コーヒー置いとくね』

「ああ。お前も適度にやれよ」

『うん。暫くキッチンにいるから』


ダイニングテーブルは俺の席で。ローテーブルと行き来しながらの勉強会は続いていった。



.





「あー…終わった…」

「今日5時間だもんね。めっちゃした」

「午前中勉強しなかったのか」

「うん」

「よし、今日はトータル10時間になるまで寝させねぇから」

「はぁっ!?」


19時。再びローテーブルの上は片付けられた。


『はい、ご飯だよー。真君、食器手伝ってくれる』

「ああ」


運ばれてくるご飯、味噌汁、メインの豚カツと千切りキャベツ。


「豚カツ!覚えててくれたのか」

『うん。受験もあるし、丁度いいかなって』


本当、部活してないのによく入るな、という食べっぷり。


『足りない人は串揚げとご飯ならあるから、言ってね』

「「「「「いる」」」」」


それは、俺も例外ではない。










「よし、2時就寝を目標に5時間勉強な」

「マジか」

「とりあえず、もう1回問題渡すから、90分90分で解け。ノンストップ」

「またぁ?」

「終わり次第雨月の夜食」

「釣られるしかない。やるよ、もう」

「よし。じゃあ始め」


カリカリとペンの音が響き、キッチンからは片付けをする水音。
それを聞きながら、自分の勉強を始める。

暫くすると彼女が向かいに座り、家計簿をつけ始めた。勉強会のご飯代として、いくら貰うかの計算も込みらしい。
それもつけ終わると再びキッチンへ戻り、夜食の準備を始めた。


「…終わったか?」

「おう」

「感想は?」

「……楽勝?」

「だろーな」


昼間、難易度の高い筆記を短時間に大量に解いた。
その分、センターレベルのマークシートをそれなりの時間で解くのは、相対的に楽に感じるだろう。
そういう学習法だから。


『おまちかねの夜食と糖分補給ですよー』


そこへ、小鉢のうどんがやってきて。
食後にはモヒート風のミントドリンクが出てきた。


「これいいね、頭すっきりする」

『ミント水にライムとガムシロップ入れて作るの。結構美味しいよね』


このドリンクは雨月のオリジナル。でも、検索したらそこそこ出てきたから"皆考えることは一緒だね"なんて笑った。


「切り替わったか?後は今間違えたとこ自己採点して、解説が理解できたら寝ろ」

「え、10時間いかなくてもいいの?」

「朝勉に変えた。寝る直前の情報は頭に残りやすいから、出来たら寝ていい」


適当に流して寝やがったら朝5時に叩き起こそうと思っていたが、全員1時間以上解説を読んでいるし、思い思いにまとめ始めた。


「…切りがいいとこで終われ。雨月が心配してホットレモン出してきた」

「わあ、ありがとー」

「また羽影さんのはちみつレモンが食べれるとは」

『皆が頑張ってる時はこれかな、って』


多分。全員が中々寝ないのは、寂寥からだ。
部活が無くなって、昼しか会わなくなって。外で集まることもないし、打ち込むのは個々の世界。
進学したら、もっと会わないだろうから。
今、この瞬間が、終わることを愁いてるのだ。


「……お前らが受かったらOB戦でも組むか」

「マジ?いいな、それ」

「前期で受かれよ。後期じゃ時間無さすぎる」

「善処しよう」


……なんだかんだいってバスケが好きなとこはイイコチャンなんだな。


『私もマネやっていいの?』

「マネージャーは羽影さんしかいないだろ。セッティング頼んだ」

「頼むのは俺だろ」

「はいはい。監督のいうことはー?」


\\\\ゼッターイ////


「よし、寝ろ。永久に寝ろ」





こうして、ごちゃごちゃと勉強会は終わった。







『真君、さっきの話、本当?』

「まあな」

『えへへ、また、バスケしてる真君が見れる…。楽しみ』

「…そんなにか?」

『うん。いつもカッコいいけど、あの真君は特別なの。…キラキラしてて、楽しそうで…』


続きがあったのかなかったのか、彼女は眠ってしまったらしい。


(なんだよ、俺までイイコチャンか)


もう高校生も終わる頃。

やっと青春の片鱗を理解した。




Fin.







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