花と蝶
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《高2冬 バレンタイン》
バレンタイン当日。
今年は休日だから、貰うこともないだろうと思っていた。
が。
「うわぁ。誰宛?」
「花宮、花宮、花宮、原、原、花宮、花宮、瀬戸、俺、花宮、原、花宮、山崎、花宮、花宮…」
「読まなくていい、気が滅入るだろ!」
部室前に置かれた紙袋。
どっさりと置かれたそれは、チョコの山だった。
「まるでお供え物だね」
「供えたって恩恵なんかねぇけどな」
大半が俺と、原。その他にもそこそこに。
「貰って悪い気はしなくない?」
「名前も顔も覚えてないような奴から貰ったもんなんか食えるかよ」
「違うでしょ、羽影ちゃんからじゃないものは食べれないんでしょ?」
「…」
「睨まないのー、事実なんだからさー」
茶化す原を睨んで見るも、飄々としている。
そこへ、備品チェックの済んだ雨月がやって来た。
『うわぁ、いっぱいもらったね』
「まあな。羽影さんからはないのか?」
『催促する人は初めて見たよ。はい、友チョコというか、お世話になってますチョコ』
「義理、って言わないのがいいよな」
『義理とはまた違うからね』
彼女は、昨日作っていたココア生地のカップケーキを配ってまわる。
いつも話している一軍から、普段関わらない二軍や後輩にまで。
『で、これが監督の分』
「てっきり花宮の分は特別かと思ったのに、普通」
『花宮君は甘いの苦手だからさ』
「…」
そう言って、俺が受け取ったのは他のやつらと変わらないカップケーキ。
わりとイベントに参加する彼女も、毎年バレンタインは乗り気でない。
理由は菓子作りが苦手だから。
それでも今年はなんとか作り上げたらしい。
「ほら、花宮が拗ねてるぞ」
「拗ねてねぇ」
「拗ねてるんじゃなくて妬いてるんだろ」
「妬いてもねぇよっ」
「あーもう、また花宮オコじゃん」
「羽影っ、ヘルプ!」
みんなも懲りないねぇ。
なんて彼女は笑っていて、成り行きを見ているつもりらしい。
「バレンタインだからな、練習3倍にしてやる」
「はっ!?それホワイトデーじゃ」
「ホワイトデーは3の3乗で27倍な」
「せめて3の3倍で9だとおもったんだが」
「それでも死ぬから!」
部員はやいのやいのと騒ぎだして。それに乗じて何気なく近づいてきた雨月が。
『真君の分は家に帰ってからあげるね』
と小声で呟いた。
「…そ」
『うん、だから練習増やさないで、早く帰ってきてよ』
「……」
結局、雨月に宥められてしまうあたり。
自分も随分甘いと思う。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『さて、これから作りますよ』
「…?それは夕飯の話か?」
『そう。夕飯であり、真君へのバレンタインでもあり』
「…」
一緒に帰宅して早々、怪訝な顔をした俺に。彼女は曖昧に笑った。
シャワーを浴びて出てくるころには大体の準備ができていて。
メインであろう肉には、見慣れないソースがかかっている。
『席についてていいよ、並べるだけだから』
キッチンから食器や飲み物を持って出てきた彼女に促されて椅子に座った。
諸々を運び終わった彼女も向かいに座って。
いただきます、といつも通り口ずさむ。
そして、先程の見慣れないソースを口にいれて気付いた。
「チョコ…?」
『正解。でも辛いんだよ、不思議でしょ?』
「確かに辛いな」
チョコの風味のある、辛味の効いたソース。
不思議な取り合わせだが、癖になる感じがする。
「…これ、悪魔のソースって言われてるやつだろ」
『よく知ってるね!私も最近知ったのに。お菓子以外、かつ甘くなくてチョコを渡す方法探してたら、見つけたんだ』
(ってことは、また無自覚か)
ちゃんと本命だよ?と笑ったのも困ったが、このソースの謳い文句を知っていた故に、緩む口許を押さえずにはいられなかった。
デビルズソース。
その名の通り、悪魔的な辛さと美味しさで食べた者の胃袋を掴むというもの。
(もう、とっくに捕まれてんだよ)
胃袋どころか、全部捕まれてるようなものだ。
顔に集まる熱を誤魔化す為に、料理を口に運ぶ。
でも、結局それは雨月が作ったものであって、目の前には本人がいて。
『受け取ってくれてよかった』
なんて微笑まれたら、誤魔化すだけ馬鹿らしくなった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
ごちそうさま、と食事を終えて。
極々よくある夜更けを迎える。
そして、いざ寝ようとしたところで、彼女の視線が机の上の紙袋に移された。
『真君、あれ、たべないの?』
「あ?食わねぇよ」
『…そっか』
入っているのはチョコ。
不味いと感じるのを解っていて食べる気にはならない、それら。
「なんでお前が悄気てんだ」
『私があげた側だったら哀しいなぁって。でも、食べないって解ってほっとしてる自分もいて、自己嫌悪?』
ほっとしてる、というのはどのような意味を持つのか。
考えるまでもなくて、おもわず笑った。
「食わねぇの解ってて嫉妬したわけ?」
『…だって、真君、人気あるから』
「それで?」
『う…私以外の料理を食べるの考えたら、なんか嫌で…本当は、受け取って欲しくも、ないけど…。私も、部員には配るし…』
言葉を探しながら話すから、ゆっくりではあった。
でも、言わんとすることは伝わってくる。
「ふはっ、独占欲がお前にもあったとはな」
『…嫌、だった?』
「別に?俺はお前の料理で十分だし、お前も俺の分だけ作りゃいいんだよ」
『じゃあ、部活の時はやっぱり妬いてたし拗ねてたの?』
「……悪いか」
『ふふ、別に?というか、嬉しい。本当はね、』
真君のカップケーキだけ、底の紙にハートマーク入ってたんだよ。
「…、他のやつらの見なきゃ気づかねぇだろ」
『だってみんなの前で渡すならそのくらいじゃないと恥ずかしいから。渡さないのも変だし』
「他のやつらにも渡さないっていう考えはねぇのかよ」
『うーん、やっぱりお世話になってますチョコは必要だと思うの。真君の部員だから』
はにかんだ口許を、シーツで隠しながら彼女は続けた。
『バスケって、興味とか好意とは関係無しに、人数が必要なゲームでしょ?今いる部員の皆は、真君についてきてくれる人達だから…お礼したかったの』
「…」
その内容が、あまりにも俺を中心に置いていて。
頭悪いにも程があると思った。
「普通、自分が世話になったかどうかで考るだろ」
『そう?そりゃ、皆には受け入れて貰って感謝してるけど…今の環境は真君あってこそじゃないかな』
「…お前の世界は本当に俺を中心に回ってるな」
『そうだね。仕方ないよ、だって』
大好きだもん。
「…はあ」
『ごめん、こういうの、重い?』
「……お前、ホワイトデー覚悟してろよ」
『え』
「そんだけ想われて告白されたら、応えてやんなきゃなあ?3倍なんてもんじゃねぇから」
言れて悪い気はしない。
でも
言われっぱなしは癪にさわる。
そう思って意図的に意地悪く笑った。そして、
「…とりあえず、今日は礼だけしてやるよ」
強く引き寄せ、腕に閉じ込める。
そして、身動ぎを感じる前に、額に口づけた。
sugary Saint Valentine's Day
『ま…こくん』
3倍返しにされたら、死んじゃうかも。
耳まで赤くして、俺にしがみつくように俯いた彼女を見たら。 本当にそうなる気がした。
Fin
バレンタイン当日。
今年は休日だから、貰うこともないだろうと思っていた。
が。
「うわぁ。誰宛?」
「花宮、花宮、花宮、原、原、花宮、花宮、瀬戸、俺、花宮、原、花宮、山崎、花宮、花宮…」
「読まなくていい、気が滅入るだろ!」
部室前に置かれた紙袋。
どっさりと置かれたそれは、チョコの山だった。
「まるでお供え物だね」
「供えたって恩恵なんかねぇけどな」
大半が俺と、原。その他にもそこそこに。
「貰って悪い気はしなくない?」
「名前も顔も覚えてないような奴から貰ったもんなんか食えるかよ」
「違うでしょ、羽影ちゃんからじゃないものは食べれないんでしょ?」
「…」
「睨まないのー、事実なんだからさー」
茶化す原を睨んで見るも、飄々としている。
そこへ、備品チェックの済んだ雨月がやって来た。
『うわぁ、いっぱいもらったね』
「まあな。羽影さんからはないのか?」
『催促する人は初めて見たよ。はい、友チョコというか、お世話になってますチョコ』
「義理、って言わないのがいいよな」
『義理とはまた違うからね』
彼女は、昨日作っていたココア生地のカップケーキを配ってまわる。
いつも話している一軍から、普段関わらない二軍や後輩にまで。
『で、これが監督の分』
「てっきり花宮の分は特別かと思ったのに、普通」
『花宮君は甘いの苦手だからさ』
「…」
そう言って、俺が受け取ったのは他のやつらと変わらないカップケーキ。
わりとイベントに参加する彼女も、毎年バレンタインは乗り気でない。
理由は菓子作りが苦手だから。
それでも今年はなんとか作り上げたらしい。
「ほら、花宮が拗ねてるぞ」
「拗ねてねぇ」
「拗ねてるんじゃなくて妬いてるんだろ」
「妬いてもねぇよっ」
「あーもう、また花宮オコじゃん」
「羽影っ、ヘルプ!」
みんなも懲りないねぇ。
なんて彼女は笑っていて、成り行きを見ているつもりらしい。
「バレンタインだからな、練習3倍にしてやる」
「はっ!?それホワイトデーじゃ」
「ホワイトデーは3の3乗で27倍な」
「せめて3の3倍で9だとおもったんだが」
「それでも死ぬから!」
部員はやいのやいのと騒ぎだして。それに乗じて何気なく近づいてきた雨月が。
『真君の分は家に帰ってからあげるね』
と小声で呟いた。
「…そ」
『うん、だから練習増やさないで、早く帰ってきてよ』
「……」
結局、雨月に宥められてしまうあたり。
自分も随分甘いと思う。
.
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『さて、これから作りますよ』
「…?それは夕飯の話か?」
『そう。夕飯であり、真君へのバレンタインでもあり』
「…」
一緒に帰宅して早々、怪訝な顔をした俺に。彼女は曖昧に笑った。
シャワーを浴びて出てくるころには大体の準備ができていて。
メインであろう肉には、見慣れないソースがかかっている。
『席についてていいよ、並べるだけだから』
キッチンから食器や飲み物を持って出てきた彼女に促されて椅子に座った。
諸々を運び終わった彼女も向かいに座って。
いただきます、といつも通り口ずさむ。
そして、先程の見慣れないソースを口にいれて気付いた。
「チョコ…?」
『正解。でも辛いんだよ、不思議でしょ?』
「確かに辛いな」
チョコの風味のある、辛味の効いたソース。
不思議な取り合わせだが、癖になる感じがする。
「…これ、悪魔のソースって言われてるやつだろ」
『よく知ってるね!私も最近知ったのに。お菓子以外、かつ甘くなくてチョコを渡す方法探してたら、見つけたんだ』
(ってことは、また無自覚か)
ちゃんと本命だよ?と笑ったのも困ったが、このソースの謳い文句を知っていた故に、緩む口許を押さえずにはいられなかった。
デビルズソース。
その名の通り、悪魔的な辛さと美味しさで食べた者の胃袋を掴むというもの。
(もう、とっくに捕まれてんだよ)
胃袋どころか、全部捕まれてるようなものだ。
顔に集まる熱を誤魔化す為に、料理を口に運ぶ。
でも、結局それは雨月が作ったものであって、目の前には本人がいて。
『受け取ってくれてよかった』
なんて微笑まれたら、誤魔化すだけ馬鹿らしくなった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
ごちそうさま、と食事を終えて。
極々よくある夜更けを迎える。
そして、いざ寝ようとしたところで、彼女の視線が机の上の紙袋に移された。
『真君、あれ、たべないの?』
「あ?食わねぇよ」
『…そっか』
入っているのはチョコ。
不味いと感じるのを解っていて食べる気にはならない、それら。
「なんでお前が悄気てんだ」
『私があげた側だったら哀しいなぁって。でも、食べないって解ってほっとしてる自分もいて、自己嫌悪?』
ほっとしてる、というのはどのような意味を持つのか。
考えるまでもなくて、おもわず笑った。
「食わねぇの解ってて嫉妬したわけ?」
『…だって、真君、人気あるから』
「それで?」
『う…私以外の料理を食べるの考えたら、なんか嫌で…本当は、受け取って欲しくも、ないけど…。私も、部員には配るし…』
言葉を探しながら話すから、ゆっくりではあった。
でも、言わんとすることは伝わってくる。
「ふはっ、独占欲がお前にもあったとはな」
『…嫌、だった?』
「別に?俺はお前の料理で十分だし、お前も俺の分だけ作りゃいいんだよ」
『じゃあ、部活の時はやっぱり妬いてたし拗ねてたの?』
「……悪いか」
『ふふ、別に?というか、嬉しい。本当はね、』
真君のカップケーキだけ、底の紙にハートマーク入ってたんだよ。
「…、他のやつらの見なきゃ気づかねぇだろ」
『だってみんなの前で渡すならそのくらいじゃないと恥ずかしいから。渡さないのも変だし』
「他のやつらにも渡さないっていう考えはねぇのかよ」
『うーん、やっぱりお世話になってますチョコは必要だと思うの。真君の部員だから』
はにかんだ口許を、シーツで隠しながら彼女は続けた。
『バスケって、興味とか好意とは関係無しに、人数が必要なゲームでしょ?今いる部員の皆は、真君についてきてくれる人達だから…お礼したかったの』
「…」
その内容が、あまりにも俺を中心に置いていて。
頭悪いにも程があると思った。
「普通、自分が世話になったかどうかで考るだろ」
『そう?そりゃ、皆には受け入れて貰って感謝してるけど…今の環境は真君あってこそじゃないかな』
「…お前の世界は本当に俺を中心に回ってるな」
『そうだね。仕方ないよ、だって』
大好きだもん。
「…はあ」
『ごめん、こういうの、重い?』
「……お前、ホワイトデー覚悟してろよ」
『え』
「そんだけ想われて告白されたら、応えてやんなきゃなあ?3倍なんてもんじゃねぇから」
言れて悪い気はしない。
でも
言われっぱなしは癪にさわる。
そう思って意図的に意地悪く笑った。そして、
「…とりあえず、今日は礼だけしてやるよ」
強く引き寄せ、腕に閉じ込める。
そして、身動ぎを感じる前に、額に口づけた。
sugary Saint Valentine's Day
『ま…こくん』
3倍返しにされたら、死んじゃうかも。
耳まで赤くして、俺にしがみつくように俯いた彼女を見たら。 本当にそうなる気がした。
Fin