花と蝶
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《高2冬 花宮誕》
冬休み中、年明け最初の部活。ステージで練習を眺めながら物思いに耽っていた。
「あけおめ羽影ちゃん。新年早々悩み事?」
『明けましておめでとう、原君。…うん、まあちょっと』
そこへ、短い休憩に入った原君が話しかけてきた。
「解った。花宮の誕プレっしょ?」
『原君の推理力にはお見逸れいるよ』
「他に悩むことあったら花宮に相談してるでしょ。わかるって」
『…そうだけど…そういうもの?』
そして、悩みの種を暴いた上で、ガムを噛みながら質問を重ねる。
「今までなんかあげてたの?」
『うん。物を何かと、料理奮発するのはここ数回してるかな』
真君への誕生日プレゼントは、真君のお母さんと合同で用意しているものだ。
"いつも傍にいてあげられなくて、真の欲しいものが解らないの。だから雨月ちゃんが選んで、私がお金を払うのはどう?"
と、中学1年の時に話し合って。その時は小さな本棚をプレゼントした。
中2の時はブックカバーと栞。
中3の時はシャーペンとボールペンのセット。
去年は入りきらない本の為の収納ボックス。
大体読書関係のもので、ペンセットは高校にあがるから…とセレクトしたものだ。
「ん?もしかしてブックカバーって黒いやつ?」
『そう。濃い緑で文字が入ってるの』
「ああ、それ。そっか、あれプレゼントだったんだ」
「通りで大事にしてるわけだ」
横から山崎君が入ってきた。話が聞こえていたらしく、納得したように頷いている。
「そのカバーのかかってる本の近くでスポドリ溢したことがあってさ。ジャージなんかも近くにあったのに真っ先にその本を取り上げて拭き始めたんだよな」
「あったね。本を汚さない為のカバーなんだからジャージ先に取ればいいのに、って言った時にはジャージももう濡れてて。ご機嫌斜めだったよね」
そんな話をしてくれた。
家でブックカバーをしているところは見たことなかったけど、外で使っていてくれたらしい。
「因みにペンセットも黒いやつだよね?筆箱とは別にペンケースに入れて持ってるやつ」
『え、そうなの?確かに黒いやつで…ブックカバーと同じメーカーで買ったんだけど』
「それだよ。緑のロゴ入ってたし」
「普段使いしてても大切にしてんだな」
話を聞いていて、頬が緩んだ。
使ってくれているのも嬉しいし、大切にしてくれてるなんて思わなかった。
まあ、お母さんからってのもあるんだろうけど。
「何でも喜びそうじゃん。素直に言うかは別としても」
『何でも、ってのが思い付かないんだよね…読書用品は揃ったし、バスケ用品は私独断で選ぶ訳にいかないしさ』
「そもそもバッシュ貰って喜ぶ奴じゃないよな」
『そうだよねぇ…今欲しいものとかないのかな』
溜め息混じりに呟けば、真君がホイッスルを鳴らして休憩の終わりを告げる。
早く戻んねぇと、と去っていく山崎君と、それを追いかけようとゆっくり背を向けた原君が、再びこちらを振り返って。
「あ、花宮の欲しいものじゃないけど、好きなものなら、ほら」
羽影ちゃん。
と言って今度こそ去っていった。
(え…えぇ…)
そんなこと言われても…
__________________
悩み悩んで当日である。
結局、真君のお母さんと一緒に渡すのは、サイズ違いのブックカバーと保存用カバー。
(合同じゃなくて、私から…っていうのもあげたいんだけどな)
とりあえず部活を早上がりして、夕飯の準備にかかる。
手の込んだものを出したいけど、時間は有限だ。早く美味しいものをたくさん作らなければ。
でも、料理の方は着々と前から進めていて。
ソースが何種類かと、鶏ハム、ピクルスなんかは既にできている。今日は野菜や生物を準備しよう、と、台所を往復していれば。
「ただいま、雨月ちゃん!久しぶりだね」
真君のお母さんが帰ってきた。
『お帰りなさい!お休みとったんですか?』
「そうなの。今日の午後と明日の午前しか取れなかったけどね。来月からは月1くらいは帰ってこようと思って」
『そうなんですか』
真君のお母さんは、どんなに忙しくても真君を放り出したりしない。"男の子だから、しつこいと嫌われちゃうよね"と、一定の距離で彼を気にかけている。
「あ、それ今日の夕飯?私、ケーキ買ってきちゃったんだけど」
『ケーキは用意してないんで、助かります。あ…でも真君甘いのは…』
「苦手みたいだよね?一応小さいチョコケーキにしたんだ。あの子、苦いチョコ好きだったし」
『あ、それなら大丈夫だと思います。喜びますよ、きっと』
「だといいな。…で、雨月ちゃんが作ってるのは何?」
『トルティーヤです。手巻き祭にしようと思って』
冷蔵庫にケーキをしまいながら問いかけた真君のお母さんを振り返れば、とても驚いた顔をして、眩しいくらいの笑顔を見せた。
「トルティーヤって手作りできるんだ。すごいなぁ、真が羨ましい」
『おばさんも一緒に作りますか?』
「いいの?あ、でも簡単なのにして、葉っぱ千切るとかならできる」
『じゃあ…水菜とレタスお願いします』
二人で台所に並んで料理をした。最近の真君の話とか、時折私の事も聞いてくれる。
(お母さんと料理するって、こんな感じなんだろうな)
心が温まる反面、はたと気づいたこと。
『…おばさん、私、今日は料理作ったら帰ります』
「え?なんで?」
『だって…せっかく親子水入らずなのに』
二人で、過ごしたいんじゃないかって。
「何言ってるの、いつもご飯一緒に食べてるんでしょ?雨月ちゃんも家族よ」
一緒に真の誕生日、お祝いしてね?
でも、真君のお母さんはそういって優しく微笑んでくれた。
真君が私に優しくしてくれるのは、このお母さんあってこそなんだろう。そう痛感させられて。
『…おばさん』
「なぁに?」
『17年前の今日、真君を産んでくれて、ありがとうございます』
「…!」
そんな言葉を口にした。
真君が聞いていたら、寒気がするだの反吐が出るとか言われそうだけど。
「…どういたしまして、というのも変だけど…こんな素敵な幼馴染みがいるんだもの、いい時に産めたみたいね」
やっぱり微笑んでくれる真君のお母さんを見て。
思ったことは間違ってないと思った。
__________________
「…ただいま」
「『お帰り』!」
真君が帰ってきた。
玄関の靴の数で誰がいるか解ったのだろう、お母さんがいることには然程驚いていないようで。
「帰ってくるならそういえよ」
「今日はサプライズのつもりなんだから、いいじゃない」
「…」
『あ、大丈夫、食材は足りたから』
「そっか、作る量変わるよね。次からちゃんと連絡する」
そんな会話をしながら、食卓に目をやった真君が、目を丸くして。
感嘆とも呆れともつかない溜め息をもらした。
「…また盛大だな」
「雨月ちゃん凄いよね、トルティーヤの生地も手作りなんだよ!早く着替えてきて食べよう」
「はいはい」
真君が席について。
「おめでとう、こんなに大きくなって嬉しいわ。これ、雨月ちゃんと選んだの、受け取って」
『私からも、おめでとう』
「…ん」
プレゼントを渡してから、久しぶりに3人でのご飯が始まった。
おばさんはお酒もあって少しほろ酔いで上機嫌。
真君も、普段通り料理を食べ、ケーキも、取り分けた分は食べてくれた。
穏やかで、温かいこの時間が続くと思ってたのに。
話題を転がしたのは真君のお母さんだった。
「雨月ちゃん、もうこのままうちに嫁にきなよ」
「『!?』」
その発言に驚いたのは私だけではなく。真君は飲みかけた飲み物を噎せた。
「え…付き合ってはいるよね?私、雨月ちゃんなら大歓迎するから」
『おばさん、ちょっと、ちょっと待ってください』
「…話が飛び過ぎだ」
別に、どちらも付き合ったとかそんなこと言ってないけれど。
中学の時に私が食事の用意を買って出たこと、真君とご飯を食べたいと言ったこと、真君がそれをよしとしたこと。そんなことから、ずっと前から付き合ってると思っていたらしい。
「でも真、雨月ちゃんは優良物件よ?ちゃんと捕まえといてね」
だからって高校生に嫁にくるとか…むしろ高校生だから言えるのかもしれないけども。
「…!母さん、飲み過ぎだろ」
「そうかも、眠くなってきた」
「もう部屋いって寝ろよ」
「…片付け」
『私やるんで、休んでください』
「…あい」
いつもより度数の高い酒を飲んでいたらしい。
少しふらつきながらおばさんは部屋に戻っていった。
_________________
「…終わったか」
『うん。待っててくれたの?』
「まあな」
皿洗いを終えた私を、真君はリビングで待っていてくれた。
「…母さん、酒のんだら起きてこないから。来ても大丈夫だ」
『ありがとう。じゃあ、窓からいくね』
おばさんの嫁云々の話はなかったことにした。酔っていてつい言ってしまっただけだろうから。
そして、真君の部屋に入り、ベッドに並んで座った。
『ねぇ、プレゼント…喜んで貰えた?』
「悪くねぇよ。ハードカバーの本はカバーなかったからな」
『よかった。あ、あとね…私から、プレゼントしたくて。…受け取って貰えたらいいな、と思うんだけど』
考えに考えて。
喜んで貰えるかはともかく、あげたいものはあった。
「歯切れ悪いな。なに考えてる?」
しかし、口にだすとなったらたくさん勇気が必要だった。
深呼吸をして、真君の目を見る。
『…、私の、ファーストキス。プレゼントに、なりますか』
でも、言い切る頃には下を向いてしまった。
そのせいで真君の顔は見えない。
けど、息を詰めて。
更に息を呑んだのは解った。
私は、言ったものの次の行動が解らず、自分の手を握りしめていれば。
するりと横から手が伸びてきて。頬に触れる指が、真君と向かい合わさせる。
「ふはっ、貰ってやるよ。まあ、貰うまでもなく奪うつもりだったけどな」
意地悪に吊り上がった口許と、優しげに細められた目で彼は笑っていた。
頬と顎を撫でる手とは反対の手が後頭部に回されて。
ゆっくり近づく彼の顔に、思わず目を閉じる。
そして、一瞬唇に吐息を感じ、それに身構えるまもなく唇に温もりが触れた。
『…っ』
「………いつまで目ぇ瞑ってんだよ。もう1回してほしいのか?」
『う…』
恥ずかしかった…
心臓が今も壊れそうなくらいバクバクしてる。
でも。
『…真君の誕生日だから。真君の欲しい分だけ、あげる』
「…はっ、それは失礼したな。だが、やっぱ性に合わねぇわ」
"奪わせろ"
『んっ!』
「ファーストキスだけじゃ済まなくなったな?数えてられるとは思わねぇが」
『っふ…いいよ、真君以外と…する気ないから』
「ったり前だろ。させるかよ」
唇が離れる度に"もっと"という気持ちが湧いてきてしまって。
本当に、何度唇が重なったかなんて数えられなかった。
それが延々と続き、緊張の糸が切れた私に睡魔が襲ってきた。
『ま…こ君』
「…眠いか」
『うん…少し。だから寝る前に、もう1回。…お誕生日おめでとう…生まれてきてくれて、ありがとう』
「……」
そこで、私は眠りに落ちてしまった。
だから、知らない。
真君が真っ赤になって暫く硬直していたことも。
寄りかかった私を抱き寄せて寝かせてくれたことも。
「…ありがとう」と小さく溢したことも。
Fin
冬休み中、年明け最初の部活。ステージで練習を眺めながら物思いに耽っていた。
「あけおめ羽影ちゃん。新年早々悩み事?」
『明けましておめでとう、原君。…うん、まあちょっと』
そこへ、短い休憩に入った原君が話しかけてきた。
「解った。花宮の誕プレっしょ?」
『原君の推理力にはお見逸れいるよ』
「他に悩むことあったら花宮に相談してるでしょ。わかるって」
『…そうだけど…そういうもの?』
そして、悩みの種を暴いた上で、ガムを噛みながら質問を重ねる。
「今までなんかあげてたの?」
『うん。物を何かと、料理奮発するのはここ数回してるかな』
真君への誕生日プレゼントは、真君のお母さんと合同で用意しているものだ。
"いつも傍にいてあげられなくて、真の欲しいものが解らないの。だから雨月ちゃんが選んで、私がお金を払うのはどう?"
と、中学1年の時に話し合って。その時は小さな本棚をプレゼントした。
中2の時はブックカバーと栞。
中3の時はシャーペンとボールペンのセット。
去年は入りきらない本の為の収納ボックス。
大体読書関係のもので、ペンセットは高校にあがるから…とセレクトしたものだ。
「ん?もしかしてブックカバーって黒いやつ?」
『そう。濃い緑で文字が入ってるの』
「ああ、それ。そっか、あれプレゼントだったんだ」
「通りで大事にしてるわけだ」
横から山崎君が入ってきた。話が聞こえていたらしく、納得したように頷いている。
「そのカバーのかかってる本の近くでスポドリ溢したことがあってさ。ジャージなんかも近くにあったのに真っ先にその本を取り上げて拭き始めたんだよな」
「あったね。本を汚さない為のカバーなんだからジャージ先に取ればいいのに、って言った時にはジャージももう濡れてて。ご機嫌斜めだったよね」
そんな話をしてくれた。
家でブックカバーをしているところは見たことなかったけど、外で使っていてくれたらしい。
「因みにペンセットも黒いやつだよね?筆箱とは別にペンケースに入れて持ってるやつ」
『え、そうなの?確かに黒いやつで…ブックカバーと同じメーカーで買ったんだけど』
「それだよ。緑のロゴ入ってたし」
「普段使いしてても大切にしてんだな」
話を聞いていて、頬が緩んだ。
使ってくれているのも嬉しいし、大切にしてくれてるなんて思わなかった。
まあ、お母さんからってのもあるんだろうけど。
「何でも喜びそうじゃん。素直に言うかは別としても」
『何でも、ってのが思い付かないんだよね…読書用品は揃ったし、バスケ用品は私独断で選ぶ訳にいかないしさ』
「そもそもバッシュ貰って喜ぶ奴じゃないよな」
『そうだよねぇ…今欲しいものとかないのかな』
溜め息混じりに呟けば、真君がホイッスルを鳴らして休憩の終わりを告げる。
早く戻んねぇと、と去っていく山崎君と、それを追いかけようとゆっくり背を向けた原君が、再びこちらを振り返って。
「あ、花宮の欲しいものじゃないけど、好きなものなら、ほら」
羽影ちゃん。
と言って今度こそ去っていった。
(え…えぇ…)
そんなこと言われても…
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悩み悩んで当日である。
結局、真君のお母さんと一緒に渡すのは、サイズ違いのブックカバーと保存用カバー。
(合同じゃなくて、私から…っていうのもあげたいんだけどな)
とりあえず部活を早上がりして、夕飯の準備にかかる。
手の込んだものを出したいけど、時間は有限だ。早く美味しいものをたくさん作らなければ。
でも、料理の方は着々と前から進めていて。
ソースが何種類かと、鶏ハム、ピクルスなんかは既にできている。今日は野菜や生物を準備しよう、と、台所を往復していれば。
「ただいま、雨月ちゃん!久しぶりだね」
真君のお母さんが帰ってきた。
『お帰りなさい!お休みとったんですか?』
「そうなの。今日の午後と明日の午前しか取れなかったけどね。来月からは月1くらいは帰ってこようと思って」
『そうなんですか』
真君のお母さんは、どんなに忙しくても真君を放り出したりしない。"男の子だから、しつこいと嫌われちゃうよね"と、一定の距離で彼を気にかけている。
「あ、それ今日の夕飯?私、ケーキ買ってきちゃったんだけど」
『ケーキは用意してないんで、助かります。あ…でも真君甘いのは…』
「苦手みたいだよね?一応小さいチョコケーキにしたんだ。あの子、苦いチョコ好きだったし」
『あ、それなら大丈夫だと思います。喜びますよ、きっと』
「だといいな。…で、雨月ちゃんが作ってるのは何?」
『トルティーヤです。手巻き祭にしようと思って』
冷蔵庫にケーキをしまいながら問いかけた真君のお母さんを振り返れば、とても驚いた顔をして、眩しいくらいの笑顔を見せた。
「トルティーヤって手作りできるんだ。すごいなぁ、真が羨ましい」
『おばさんも一緒に作りますか?』
「いいの?あ、でも簡単なのにして、葉っぱ千切るとかならできる」
『じゃあ…水菜とレタスお願いします』
二人で台所に並んで料理をした。最近の真君の話とか、時折私の事も聞いてくれる。
(お母さんと料理するって、こんな感じなんだろうな)
心が温まる反面、はたと気づいたこと。
『…おばさん、私、今日は料理作ったら帰ります』
「え?なんで?」
『だって…せっかく親子水入らずなのに』
二人で、過ごしたいんじゃないかって。
「何言ってるの、いつもご飯一緒に食べてるんでしょ?雨月ちゃんも家族よ」
一緒に真の誕生日、お祝いしてね?
でも、真君のお母さんはそういって優しく微笑んでくれた。
真君が私に優しくしてくれるのは、このお母さんあってこそなんだろう。そう痛感させられて。
『…おばさん』
「なぁに?」
『17年前の今日、真君を産んでくれて、ありがとうございます』
「…!」
そんな言葉を口にした。
真君が聞いていたら、寒気がするだの反吐が出るとか言われそうだけど。
「…どういたしまして、というのも変だけど…こんな素敵な幼馴染みがいるんだもの、いい時に産めたみたいね」
やっぱり微笑んでくれる真君のお母さんを見て。
思ったことは間違ってないと思った。
__________________
「…ただいま」
「『お帰り』!」
真君が帰ってきた。
玄関の靴の数で誰がいるか解ったのだろう、お母さんがいることには然程驚いていないようで。
「帰ってくるならそういえよ」
「今日はサプライズのつもりなんだから、いいじゃない」
「…」
『あ、大丈夫、食材は足りたから』
「そっか、作る量変わるよね。次からちゃんと連絡する」
そんな会話をしながら、食卓に目をやった真君が、目を丸くして。
感嘆とも呆れともつかない溜め息をもらした。
「…また盛大だな」
「雨月ちゃん凄いよね、トルティーヤの生地も手作りなんだよ!早く着替えてきて食べよう」
「はいはい」
真君が席について。
「おめでとう、こんなに大きくなって嬉しいわ。これ、雨月ちゃんと選んだの、受け取って」
『私からも、おめでとう』
「…ん」
プレゼントを渡してから、久しぶりに3人でのご飯が始まった。
おばさんはお酒もあって少しほろ酔いで上機嫌。
真君も、普段通り料理を食べ、ケーキも、取り分けた分は食べてくれた。
穏やかで、温かいこの時間が続くと思ってたのに。
話題を転がしたのは真君のお母さんだった。
「雨月ちゃん、もうこのままうちに嫁にきなよ」
「『!?』」
その発言に驚いたのは私だけではなく。真君は飲みかけた飲み物を噎せた。
「え…付き合ってはいるよね?私、雨月ちゃんなら大歓迎するから」
『おばさん、ちょっと、ちょっと待ってください』
「…話が飛び過ぎだ」
別に、どちらも付き合ったとかそんなこと言ってないけれど。
中学の時に私が食事の用意を買って出たこと、真君とご飯を食べたいと言ったこと、真君がそれをよしとしたこと。そんなことから、ずっと前から付き合ってると思っていたらしい。
「でも真、雨月ちゃんは優良物件よ?ちゃんと捕まえといてね」
だからって高校生に嫁にくるとか…むしろ高校生だから言えるのかもしれないけども。
「…!母さん、飲み過ぎだろ」
「そうかも、眠くなってきた」
「もう部屋いって寝ろよ」
「…片付け」
『私やるんで、休んでください』
「…あい」
いつもより度数の高い酒を飲んでいたらしい。
少しふらつきながらおばさんは部屋に戻っていった。
_________________
「…終わったか」
『うん。待っててくれたの?』
「まあな」
皿洗いを終えた私を、真君はリビングで待っていてくれた。
「…母さん、酒のんだら起きてこないから。来ても大丈夫だ」
『ありがとう。じゃあ、窓からいくね』
おばさんの嫁云々の話はなかったことにした。酔っていてつい言ってしまっただけだろうから。
そして、真君の部屋に入り、ベッドに並んで座った。
『ねぇ、プレゼント…喜んで貰えた?』
「悪くねぇよ。ハードカバーの本はカバーなかったからな」
『よかった。あ、あとね…私から、プレゼントしたくて。…受け取って貰えたらいいな、と思うんだけど』
考えに考えて。
喜んで貰えるかはともかく、あげたいものはあった。
「歯切れ悪いな。なに考えてる?」
しかし、口にだすとなったらたくさん勇気が必要だった。
深呼吸をして、真君の目を見る。
『…、私の、ファーストキス。プレゼントに、なりますか』
でも、言い切る頃には下を向いてしまった。
そのせいで真君の顔は見えない。
けど、息を詰めて。
更に息を呑んだのは解った。
私は、言ったものの次の行動が解らず、自分の手を握りしめていれば。
するりと横から手が伸びてきて。頬に触れる指が、真君と向かい合わさせる。
「ふはっ、貰ってやるよ。まあ、貰うまでもなく奪うつもりだったけどな」
意地悪に吊り上がった口許と、優しげに細められた目で彼は笑っていた。
頬と顎を撫でる手とは反対の手が後頭部に回されて。
ゆっくり近づく彼の顔に、思わず目を閉じる。
そして、一瞬唇に吐息を感じ、それに身構えるまもなく唇に温もりが触れた。
『…っ』
「………いつまで目ぇ瞑ってんだよ。もう1回してほしいのか?」
『う…』
恥ずかしかった…
心臓が今も壊れそうなくらいバクバクしてる。
でも。
『…真君の誕生日だから。真君の欲しい分だけ、あげる』
「…はっ、それは失礼したな。だが、やっぱ性に合わねぇわ」
"奪わせろ"
『んっ!』
「ファーストキスだけじゃ済まなくなったな?数えてられるとは思わねぇが」
『っふ…いいよ、真君以外と…する気ないから』
「ったり前だろ。させるかよ」
唇が離れる度に"もっと"という気持ちが湧いてきてしまって。
本当に、何度唇が重なったかなんて数えられなかった。
それが延々と続き、緊張の糸が切れた私に睡魔が襲ってきた。
『ま…こ君』
「…眠いか」
『うん…少し。だから寝る前に、もう1回。…お誕生日おめでとう…生まれてきてくれて、ありがとう』
「……」
そこで、私は眠りに落ちてしまった。
だから、知らない。
真君が真っ赤になって暫く硬直していたことも。
寄りかかった私を抱き寄せて寝かせてくれたことも。
「…ありがとう」と小さく溢したことも。
Fin