勝利へのキセキ
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《勝利へのキセキ》
それは冬。
ウィンターカップの予選が終わり、本選を控えた頃。
部活の練習帰り道、真君と歩いていた時だった。
「Ow!?」
私達の少し前を歩いていた金髪の女性が、曲がり角に突っ込んで来たバイクと接触して転んだ。
「Dammm!」
接触といっても、咄嗟に身を引けたらしく、大怪我では無さそう。
それを一瞥して確認すると、通りすぎるバイクを振り返った。
ナンバーとメーカーを記憶すると、背後からシャッター音。
『ナンバーとメーカーメモる?』
「でかした。タイトルにつけとけ」
真君からスマホを預かれば、彼は"大丈夫ですか?"とさっきの女性に声をかけた。
相変わらずの猫かぶり声に吹き出しそうになりつつ、タイトルを確定して保存する。
「大したことない。ちょっと擦りむいただけだ」
若干片言な女性はどうやら外国人らしい。
確かに脚を擦りむいているが、無理に立とうとして眉をひそめている。
『…でも熱持ってますし、捻挫もあるかもしれませんね。近くの病院まで案内しますよ』
「…この辺で整形外科か……少し距離がありますが、歩けますか?肩貸しますから」
「兄ちゃん達優しいなぁ!有り難く肩を借りさせてもらうよ。けど、近くに私の仕事場があるんだ。そこまででいいよ、医務室もあるし」
『その方がいいですかね。病院割と遠いし、道中休めるところもないので』
「いやぁ助かるよ、その角を右に曲がってくれ」
『あ、荷物持ちますよ。真君のも、ほら、』
「大丈夫か?」
『うん、平気』
真君が女性を肩に掛けて歩く横を、両手に荷物を持って並んだ。
この人、結構背が高い。真君が肩を貸しても引き摺られたりしてない。
それから、挑発的なまでのバストサイズ。……メロンでも入っているかのような丸みを、つい見つめてしまった。
「姉ちゃん、そんな睨まなくてもボーイフレンドはすぐに返すよ」
『!!ち、ちが、そんなつもりじゃ!』
「ふふふ、可愛いガールフレンドだなぁ、兄ちゃん?」
「ええ。自慢のloverですよ」
『whooop!』
なんか時折英語が入ってるけど、流石に私でも意味が解って恥ずかしい。
ただ、やっぱり。
(もうちょっと、大きくなんないかなぁ)
一応は女の子だし、ああいうナイスボディに憧れない訳じゃない。
「お、あの施設だ」
『わあ、広いですね!』
「まあなー。プレオープン中だが、かなりいいとこだと思うぞ」
女性が案内した建物は、施設といっても完全に何かの複合施設だ。
ホテルのような体育館のような、一体なんの施設なんだろうか。
「すみません、なんかアレックスが世話になったみたいで」
「いや、人として当然のことを…」
女性が施設の人と合流したのを、荷物を運びながら聞いていた。あの人、アレックスさんっていうのか。
あと、真君が人として当然のこととか言っちゃうんだ、なんて顔を上げてびっくりした。
「…てめぇは、誠凛の火神」
「な、花宮⁉」
どうやら誠凛バスケ部が揃っているらしい。
施設側が招待したらしく、秀徳・海常・桐皇までいるそうだ。
なんでもこの施設、コートはもちろん、ジムやプールなんかもあって、プレイヤーの意見を聞くためにやっているらしかった。
「俺達は通りかかっただけだ、呼ばれた訳じゃないし、帰る」
「まあ待てよ兄ちゃん。バスケするんだろ?使っていけって、私が施設に掛け合ってやる!」
「いや、でも」
「設備は使い放題だし、好きなときに好きなやつと3on3ができる。姉ちゃんも大歓迎だ。悪い話じゃないだろう?」
「3on3…」
「最終日には大会も用意されてるんだ!」
「それは、学校単位じゃなくても可能ですか?」
「お?それじゃあ?」
「ええ、せっかくなので」
どうやら、真君は提案に乗るらしい。
アレックスさんは喜んで本部に掛け合いに行こうとしている。
「先に医務室に行った方がいいですよ」
『私、付き添いますね』
「本当に優しいな!えーと?」
「花宮です。彼女は羽影』
「ハナミヤ、ハカゲ、存分に楽しんでってくれ!」
今にも駆け出さんとするアレックスさんに付き添って、私はその場を去った。
「なんのつもりだ」
「別に?ただ純粋にバスケを楽しもうと思っただけだぜ?……俺のバスケを、な」
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『良かったです。捻挫とかはしてないみたいで』
「ああ!もう歩くのもなんともないしな。助かったよ」
『とんでもないです。こちらこそ、施設にお邪魔させて頂けるなんて、ありがとうございます』
「いいっていいって!コーチやマネージャーも凄腕がいるから、ハカゲもマネジメントの勉強になると思う、遠慮なく使ってくれ」
アレックスさんは医務室から出ると、施設の人がいる事務室の方へ向かっていった。
「元気そうだな」
『真君!うん、大したことないって。あと、施設は好きに回っていいって』
「そうか。じゃあ端からだな。広くて見て回るだけで時間かかりそうだ」
『ね!』
とりあえずロビーに出れば真君がいて、二人で施設を回る。
トレーニングジムもコートも広いし、器具も沢山あった。
食堂やお風呂なんかも広いし、宿泊用の部屋も数があってホテル並み。
『はわぁ、これでプールもあるなんて…』
「随分金かかってるな」
『練習したくなる?』
「…させたくなる」
『流石監督』
ある程度一周して、プールの前まできた時だ。
アレックスさんが走り寄ってくる。
「とりあえず審議してくれるってさ!ん?プール使うのか?」
「いえ。水着も何も持って来なかったので」
「それなら施設にレンタルがあるから使っていいぞ!レディースもあるから、ハカゲも着替えよう!」
半ば強引に更衣室に連れ込まれて。
あとはあれよあれよという間に着替えさせられた。
「うん、姉ちゃんも中々似合ってるな!ハナミヤ、喜ぶんじゃないか?」
『…恥ずかしいです』
「自信持てって!可愛いから!」
プールサイドに引きずり出された私は、濃い緑のビキニ姿だった。
好きで着てるんじゃない、ユニフォームと同じ色だったから手に取ってみたらビキニで、サイズがぴったりだったのだ。
普通の競泳というかスク水着ようと思ってたのに…アレックスさんのメロンの横でビキニなんて…
「ハナミヤ!ガールフレンドが恥ずかしがってるんだ。なんか言ってくれ、可愛いだろう?」
勿論、男の真君の方が着替えが早い訳で。
ずい、と。彼の前に立たされてしまえばなす術もない。
『…変じゃ、ないかな?』
小さく問いかければ、真君の目は一瞬泳いで。
「………、上着…持ってくる」
それだけ言うと急いで更衣室に戻り、ジャージの長袖を持ってきた。
『真、君?』
「泳いでないときは着てろ、濡らしていいから」
『…』
「…チッ、可愛いどころじゃねーよ」
上着を掛けながら囁かれた言葉に、顔を上げれば。
照れくさそうに、"似合ってた"と言ってくれた。
「なんかいい雰囲気だな。私は向こうで泳いでくるよ」
「足は大丈夫ですか」
「ああ。そんな柔じゃないからな。そっちも、怪我に気をつけてな」
本当優しい奴だ!
上機嫌にプールに向かうアレックスさんを見送って、テキトーに泳ぐか…と話していると。
「あっ!テメエは!」
「ん?誠凛のルーキーコンビか」
火神君と黒子君の姿があった。
ここまであからさまに敵意を剥き出しにされると、流石に怖い。
すると、私が恐がってるのを察したのか、真君は私を背中に庇ってくれた。
ラフプレーがどうとか、大会に出してもらえるわけないとか、火神君に噛みつかれているが、真君は適当にあしらいながらかわしている。
「なんだ、珍しいメンツだな」
そこへ、青峰君も加わって。いよいよ圧迫感が凄い。
真君、普通に話せてるってことは、真君もやっぱり凄いんだよね。
「どうもこいつらは俺に大会に出て欲しくないみたいでよ、真面目にバスケするって言っても信じて貰えないみたいなんだ」
「真面目にだ?」
「なんだよ、お前も信じられないのか」
「別に信じるとかどーでもいいけど、テツを怒らせるのは止めた方がいいぜ?結果はアンタも知ってんだろ」
「チッ」
「それに、どう転んでも勝つのは俺だ」
「そうだな。大会に出ても構わねー。そんときは全力で倒すまでだ」
「…上等だ。全員まとめてぶっ壊してやる」
全体的に真君がアウェイな状況に、唇を噛み締めた。
なにか反論したいけど、私が出る幕じゃないのはよく解ってたから。
「………ん?そいつアンタんとこのマネージャーか?」
「…だったらなんだ」
そのままお開きになる流れだったのに、青峰君が私に気付いた。
「……C?」
『!?』
「顔は文句ねーけど、もう少しあった方がいいよな」
主に上半身を見詰める視線に、慌てて羽織っていただけのジャージの前を合わせる。
「……お前、五体満足で帰れると思うなよ」
「おいさっき真面目にバスケするって言ってたろ」
「バスケはな、それとは別問題だ」
「なんだよ、それアンタのなのか」
声のトーンが大分下がった真君に隠れながら、その腕を掴んだ。
「解ったなら二度とふざけたこと言うなよ………次は無い」
「はいはい、人様のものに手ぇ出すほど困ってねーよ」
青峰君が背中を向けたのを確認して、真君の背中から顔を出した。
バチっと、黒子君と目が合う。
「いくぞ」
それを遮るように真君に腕を掴み直されて。
彼らとは逆方向のプールに向かった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『………』
「………」
プールの一番端まで来て。
なんだか妙な沈黙のまま。
「…お前は泳ぐか?」
『んーん、今はいい。真君泳ぎ終わったら、あっちのプール一緒に行こ』
真君がそれを破ってくれて、私は緩く首を振る。
「…お前、泳げないのか?」
『…得意じゃない』
「ふはっ、じゃあ後で練習だな」
『わ、私はいいの!』
併設されてる流水プールを指せば、真君は意地悪に笑う。
泳ぐのが苦手なのは本当だけど、別に泳げなくてもいい。高3の体育は選択制で、水泳を選ばなくてもいいから。
「じゃあ、とりあえず200くらい泳いでくる」
『いってらっしゃい、私はここに座ってるね』
プールの縁に腰をおろして、足だけ水につけた。
真君もトプン、と水に入って泳ぎ始める。
その背中を見て、さっきのやり取りを思い出した。
(誠凛からみたら、確かに恨まれるだろうな)
真君がしてきたことは、お世辞にも許されることじゃない。
でも、ただですら拗れていた真君を突き動かしてしまったのは私の境遇だし、黙認してきたのも私だ。
自業自得だけど、それでも苦しかった。
それに、小馬鹿にされたような、見下されたような感じ。
真君だって、皆だって、彼らより1年長く生きてる分は、辛酸を舐めたり苦渋を味わってるのだ。
(何も知らないくせに)
私だって、誠凛の背景なんて知らないからお互い様だけど。
私を守ろうとしてくれた、あの背中を、好き勝手言われるのは悔しかった。
悶々としているうちに真君は1往復して、綺麗にターンすると再び進んで行く。
(…………青峰君の気持ちも解るかな)
異性の肌、というのは目を惹くものだろう。
私の場合は真君限定であるが、背中にしろ腕にしろ、ときめくものがあるのは同じだ。
まして、火神君と並んだだけで肌の白さが目についたのに。青峰君と並んだら、陶器のような白さは艷かしいとしか言えなくて。
(…この煩悩を捨てたい)
さっきから動機が激しくて仕方なかった。
「…雨月?」
『ゎ、もう、いいの?』
「いや、もう少し泳ごうと思ってたんだが、お前そこに座ってても暇だろうと思ってよ」
再び悶々としていれば、真君が下から覗き込んでいた。
濡れた髪も水が伝う首元も、なんだか見てはいけないものを見ているようで。
慌てて首を振った。
『ううん。見てるたけでも楽しいよ?気にしないで』
「へぇ…?……そんな目で見られてると、気にしないで、ってのが無理だけどな」
『っ!』
「ふはっ、ほら、向こうのプールで遊ぶんだろ?今なら誰もいないし、…俺にはその水着見せろよ」
私の目を、そんな目…というなら。
最後に真君が見せた目も同じ目だ。
熱っぽくて、深くて、鋭い視線。
『あっ、待って!』
水から上がって歩き出す真君を急いで追いかける。
レジャー施設なんて行ったことのなかった私は、流水プールでひたすら遊んで。
真君が苦笑いするくらい満喫した。
「…夏になったら、水着買いに行くか」
『気が早いよ』
「…、こんなに可愛いと思わなかったんだ」
プールから上がって、ジャージを私に羽織らせながら真君はポツリと呟いて。
真っ赤になった私が笑われたのは言うまでもない。
fin
《勝利へのキセキ》
それは冬。
ウィンターカップの予選が終わり、本選を控えた頃。
部活の練習帰り道、真君と歩いていた時だった。
「Ow!?」
私達の少し前を歩いていた金髪の女性が、曲がり角に突っ込んで来たバイクと接触して転んだ。
「Dammm!」
接触といっても、咄嗟に身を引けたらしく、大怪我では無さそう。
それを一瞥して確認すると、通りすぎるバイクを振り返った。
ナンバーとメーカーを記憶すると、背後からシャッター音。
『ナンバーとメーカーメモる?』
「でかした。タイトルにつけとけ」
真君からスマホを預かれば、彼は"大丈夫ですか?"とさっきの女性に声をかけた。
相変わらずの猫かぶり声に吹き出しそうになりつつ、タイトルを確定して保存する。
「大したことない。ちょっと擦りむいただけだ」
若干片言な女性はどうやら外国人らしい。
確かに脚を擦りむいているが、無理に立とうとして眉をひそめている。
『…でも熱持ってますし、捻挫もあるかもしれませんね。近くの病院まで案内しますよ』
「…この辺で整形外科か……少し距離がありますが、歩けますか?肩貸しますから」
「兄ちゃん達優しいなぁ!有り難く肩を借りさせてもらうよ。けど、近くに私の仕事場があるんだ。そこまででいいよ、医務室もあるし」
『その方がいいですかね。病院割と遠いし、道中休めるところもないので』
「いやぁ助かるよ、その角を右に曲がってくれ」
『あ、荷物持ちますよ。真君のも、ほら、』
「大丈夫か?」
『うん、平気』
真君が女性を肩に掛けて歩く横を、両手に荷物を持って並んだ。
この人、結構背が高い。真君が肩を貸しても引き摺られたりしてない。
それから、挑発的なまでのバストサイズ。……メロンでも入っているかのような丸みを、つい見つめてしまった。
「姉ちゃん、そんな睨まなくてもボーイフレンドはすぐに返すよ」
『!!ち、ちが、そんなつもりじゃ!』
「ふふふ、可愛いガールフレンドだなぁ、兄ちゃん?」
「ええ。自慢のloverですよ」
『whooop!』
なんか時折英語が入ってるけど、流石に私でも意味が解って恥ずかしい。
ただ、やっぱり。
(もうちょっと、大きくなんないかなぁ)
一応は女の子だし、ああいうナイスボディに憧れない訳じゃない。
「お、あの施設だ」
『わあ、広いですね!』
「まあなー。プレオープン中だが、かなりいいとこだと思うぞ」
女性が案内した建物は、施設といっても完全に何かの複合施設だ。
ホテルのような体育館のような、一体なんの施設なんだろうか。
「すみません、なんかアレックスが世話になったみたいで」
「いや、人として当然のことを…」
女性が施設の人と合流したのを、荷物を運びながら聞いていた。あの人、アレックスさんっていうのか。
あと、真君が人として当然のこととか言っちゃうんだ、なんて顔を上げてびっくりした。
「…てめぇは、誠凛の火神」
「な、花宮⁉」
どうやら誠凛バスケ部が揃っているらしい。
施設側が招待したらしく、秀徳・海常・桐皇までいるそうだ。
なんでもこの施設、コートはもちろん、ジムやプールなんかもあって、プレイヤーの意見を聞くためにやっているらしかった。
「俺達は通りかかっただけだ、呼ばれた訳じゃないし、帰る」
「まあ待てよ兄ちゃん。バスケするんだろ?使っていけって、私が施設に掛け合ってやる!」
「いや、でも」
「設備は使い放題だし、好きなときに好きなやつと3on3ができる。姉ちゃんも大歓迎だ。悪い話じゃないだろう?」
「3on3…」
「最終日には大会も用意されてるんだ!」
「それは、学校単位じゃなくても可能ですか?」
「お?それじゃあ?」
「ええ、せっかくなので」
どうやら、真君は提案に乗るらしい。
アレックスさんは喜んで本部に掛け合いに行こうとしている。
「先に医務室に行った方がいいですよ」
『私、付き添いますね』
「本当に優しいな!えーと?」
「花宮です。彼女は羽影』
「ハナミヤ、ハカゲ、存分に楽しんでってくれ!」
今にも駆け出さんとするアレックスさんに付き添って、私はその場を去った。
「なんのつもりだ」
「別に?ただ純粋にバスケを楽しもうと思っただけだぜ?……俺のバスケを、な」
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『良かったです。捻挫とかはしてないみたいで』
「ああ!もう歩くのもなんともないしな。助かったよ」
『とんでもないです。こちらこそ、施設にお邪魔させて頂けるなんて、ありがとうございます』
「いいっていいって!コーチやマネージャーも凄腕がいるから、ハカゲもマネジメントの勉強になると思う、遠慮なく使ってくれ」
アレックスさんは医務室から出ると、施設の人がいる事務室の方へ向かっていった。
「元気そうだな」
『真君!うん、大したことないって。あと、施設は好きに回っていいって』
「そうか。じゃあ端からだな。広くて見て回るだけで時間かかりそうだ」
『ね!』
とりあえずロビーに出れば真君がいて、二人で施設を回る。
トレーニングジムもコートも広いし、器具も沢山あった。
食堂やお風呂なんかも広いし、宿泊用の部屋も数があってホテル並み。
『はわぁ、これでプールもあるなんて…』
「随分金かかってるな」
『練習したくなる?』
「…させたくなる」
『流石監督』
ある程度一周して、プールの前まできた時だ。
アレックスさんが走り寄ってくる。
「とりあえず審議してくれるってさ!ん?プール使うのか?」
「いえ。水着も何も持って来なかったので」
「それなら施設にレンタルがあるから使っていいぞ!レディースもあるから、ハカゲも着替えよう!」
半ば強引に更衣室に連れ込まれて。
あとはあれよあれよという間に着替えさせられた。
「うん、姉ちゃんも中々似合ってるな!ハナミヤ、喜ぶんじゃないか?」
『…恥ずかしいです』
「自信持てって!可愛いから!」
プールサイドに引きずり出された私は、濃い緑のビキニ姿だった。
好きで着てるんじゃない、ユニフォームと同じ色だったから手に取ってみたらビキニで、サイズがぴったりだったのだ。
普通の競泳というかスク水着ようと思ってたのに…アレックスさんのメロンの横でビキニなんて…
「ハナミヤ!ガールフレンドが恥ずかしがってるんだ。なんか言ってくれ、可愛いだろう?」
勿論、男の真君の方が着替えが早い訳で。
ずい、と。彼の前に立たされてしまえばなす術もない。
『…変じゃ、ないかな?』
小さく問いかければ、真君の目は一瞬泳いで。
「………、上着…持ってくる」
それだけ言うと急いで更衣室に戻り、ジャージの長袖を持ってきた。
『真、君?』
「泳いでないときは着てろ、濡らしていいから」
『…』
「…チッ、可愛いどころじゃねーよ」
上着を掛けながら囁かれた言葉に、顔を上げれば。
照れくさそうに、"似合ってた"と言ってくれた。
「なんかいい雰囲気だな。私は向こうで泳いでくるよ」
「足は大丈夫ですか」
「ああ。そんな柔じゃないからな。そっちも、怪我に気をつけてな」
本当優しい奴だ!
上機嫌にプールに向かうアレックスさんを見送って、テキトーに泳ぐか…と話していると。
「あっ!テメエは!」
「ん?誠凛のルーキーコンビか」
火神君と黒子君の姿があった。
ここまであからさまに敵意を剥き出しにされると、流石に怖い。
すると、私が恐がってるのを察したのか、真君は私を背中に庇ってくれた。
ラフプレーがどうとか、大会に出してもらえるわけないとか、火神君に噛みつかれているが、真君は適当にあしらいながらかわしている。
「なんだ、珍しいメンツだな」
そこへ、青峰君も加わって。いよいよ圧迫感が凄い。
真君、普通に話せてるってことは、真君もやっぱり凄いんだよね。
「どうもこいつらは俺に大会に出て欲しくないみたいでよ、真面目にバスケするって言っても信じて貰えないみたいなんだ」
「真面目にだ?」
「なんだよ、お前も信じられないのか」
「別に信じるとかどーでもいいけど、テツを怒らせるのは止めた方がいいぜ?結果はアンタも知ってんだろ」
「チッ」
「それに、どう転んでも勝つのは俺だ」
「そうだな。大会に出ても構わねー。そんときは全力で倒すまでだ」
「…上等だ。全員まとめてぶっ壊してやる」
全体的に真君がアウェイな状況に、唇を噛み締めた。
なにか反論したいけど、私が出る幕じゃないのはよく解ってたから。
「………ん?そいつアンタんとこのマネージャーか?」
「…だったらなんだ」
そのままお開きになる流れだったのに、青峰君が私に気付いた。
「……C?」
『!?』
「顔は文句ねーけど、もう少しあった方がいいよな」
主に上半身を見詰める視線に、慌てて羽織っていただけのジャージの前を合わせる。
「……お前、五体満足で帰れると思うなよ」
「おいさっき真面目にバスケするって言ってたろ」
「バスケはな、それとは別問題だ」
「なんだよ、それアンタのなのか」
声のトーンが大分下がった真君に隠れながら、その腕を掴んだ。
「解ったなら二度とふざけたこと言うなよ………次は無い」
「はいはい、人様のものに手ぇ出すほど困ってねーよ」
青峰君が背中を向けたのを確認して、真君の背中から顔を出した。
バチっと、黒子君と目が合う。
「いくぞ」
それを遮るように真君に腕を掴み直されて。
彼らとは逆方向のプールに向かった。
.
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
『………』
「………」
プールの一番端まで来て。
なんだか妙な沈黙のまま。
「…お前は泳ぐか?」
『んーん、今はいい。真君泳ぎ終わったら、あっちのプール一緒に行こ』
真君がそれを破ってくれて、私は緩く首を振る。
「…お前、泳げないのか?」
『…得意じゃない』
「ふはっ、じゃあ後で練習だな」
『わ、私はいいの!』
併設されてる流水プールを指せば、真君は意地悪に笑う。
泳ぐのが苦手なのは本当だけど、別に泳げなくてもいい。高3の体育は選択制で、水泳を選ばなくてもいいから。
「じゃあ、とりあえず200くらい泳いでくる」
『いってらっしゃい、私はここに座ってるね』
プールの縁に腰をおろして、足だけ水につけた。
真君もトプン、と水に入って泳ぎ始める。
その背中を見て、さっきのやり取りを思い出した。
(誠凛からみたら、確かに恨まれるだろうな)
真君がしてきたことは、お世辞にも許されることじゃない。
でも、ただですら拗れていた真君を突き動かしてしまったのは私の境遇だし、黙認してきたのも私だ。
自業自得だけど、それでも苦しかった。
それに、小馬鹿にされたような、見下されたような感じ。
真君だって、皆だって、彼らより1年長く生きてる分は、辛酸を舐めたり苦渋を味わってるのだ。
(何も知らないくせに)
私だって、誠凛の背景なんて知らないからお互い様だけど。
私を守ろうとしてくれた、あの背中を、好き勝手言われるのは悔しかった。
悶々としているうちに真君は1往復して、綺麗にターンすると再び進んで行く。
(…………青峰君の気持ちも解るかな)
異性の肌、というのは目を惹くものだろう。
私の場合は真君限定であるが、背中にしろ腕にしろ、ときめくものがあるのは同じだ。
まして、火神君と並んだだけで肌の白さが目についたのに。青峰君と並んだら、陶器のような白さは艷かしいとしか言えなくて。
(…この煩悩を捨てたい)
さっきから動機が激しくて仕方なかった。
「…雨月?」
『ゎ、もう、いいの?』
「いや、もう少し泳ごうと思ってたんだが、お前そこに座ってても暇だろうと思ってよ」
再び悶々としていれば、真君が下から覗き込んでいた。
濡れた髪も水が伝う首元も、なんだか見てはいけないものを見ているようで。
慌てて首を振った。
『ううん。見てるたけでも楽しいよ?気にしないで』
「へぇ…?……そんな目で見られてると、気にしないで、ってのが無理だけどな」
『っ!』
「ふはっ、ほら、向こうのプールで遊ぶんだろ?今なら誰もいないし、…俺にはその水着見せろよ」
私の目を、そんな目…というなら。
最後に真君が見せた目も同じ目だ。
熱っぽくて、深くて、鋭い視線。
『あっ、待って!』
水から上がって歩き出す真君を急いで追いかける。
レジャー施設なんて行ったことのなかった私は、流水プールでひたすら遊んで。
真君が苦笑いするくらい満喫した。
「…夏になったら、水着買いに行くか」
『気が早いよ』
「…、こんなに可愛いと思わなかったんだ」
プールから上がって、ジャージを私に羽織らせながら真君はポツリと呟いて。
真っ赤になった私が笑われたのは言うまでもない。
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