番外編、SS詰め合わせなど
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大和撫子
「グレイは大和撫子を表す言葉って知ってる〜?」
「えっ……ええと、なんか、聞いたこと…あるような気も」
談話室の前を通り過ぎようとした時、中にビリーくんがいるのを偶然見つけたんだ。声を掛けようか悩んで右往左往している間に、ビリーくんと目が合ってしまった。いつもゴーグルに隠れているから、明確とは言えないけど。でも、笑顔をパッと浮かべていたから、それが僕に向けられたものだと思いたい。
そして僕に気づいてくれたのはいいんだけど、声を掛けられたと思ったらそのまま談話室に引きずり込まれてしまった。
ビリーくんはジェイさんとキースさんと話していたみたい。同じチームのジェイさんと気兼ねなく話せてるだけでも凄いと思うのに、別チームの人とも臆せず接している。本当に尊敬できる。
「でも、急にどうしたの…?」
「この間、イーストでマジック披露してる時に偶然大和撫子と遭遇しちゃって。その話をしてたんだヨ」
「へぇ…」
「しかし、イーストにはリトルトーキョーがある。日本人はかなり居住していると思うんだが……ビリーがそう話すということは、かなり印象的な人だったようだな」
「勿論印象的だったし、あの人にとっても特別な大和撫子だからネ」
僕はソファの隅で縮こまりながらビリーくんとジェイさんの話を聞いていた。特別なってどういうことだろう。そういえば、前にもビリーくんの口から大和撫子って単語を聞いた気がする。どこでだったかな。
「大和撫子を表す言葉っつーのは、あれだろ?立てば灼熱、座れば熱風、歩く姿は不死の火鳥」
向かいの席で背もたれに力なく寄りかかっているキースさん。その声は細くて揺れていて、安定していない。さっき、ジェイさんが「飲みすぎじゃないのか」と叱っていた。二日酔いで気分が優れないのかも。顔色も良くない気がする。
「ワォ……なんか、物凄く熱い大和撫子だネ」
「今のはうちの司令を表したものだな。それにしてもキースが紅蓮を褒めるなんて、珍しいな」
「褒めたように聞こえたかぁ?皮肉だよ皮肉。お前らも気をつけろよ〜。あいつはマジになったらマジでヤバい」
「俺っち、その時の話を詳しく聞きたいなぁ☆」
「勘弁してくれ〜」
司令と何かあったのかな。気になるけど、聞ける雰囲気じゃない。
キースさんは背もたれに頭をかくりと後ろの方へ倒していた。
意外な関係
「へい、ボス!情報を仕入れにキマシタ〜!」
「報告書を提出するならば、教えてやらんでもない」
「ワォ、さすが司令!そしてさすがボクちん。じゃじゃーん!ここになんと報告書がありマース」
今日のスケジュールは午前中にパトロール、午後はトレーニングと研修でもうクタクタ。この後は珍しくお仕事も依頼も来てないし、特ダネ仕入れるお時間にしちゃう。その為にもまずはボスからオッケーを貰わないとね。
オイラが提出した報告書を隅々までチェックして、軽く頷いてくれた。つまり、合格ってこと。報告書も慣れてきたし、再提出の頻度も減ったからね。
「よし、お疲れ様。それでは行くとするか」
「行くって、どこへ?」
椅子を引いたボスは両肩をボキボキと音を立てて鳴らした。いい音してるね。今日は一日中司令室で缶詰めだったのかな。元ヒーローだし、じっとしているのは性に合ってなさそうだけど。
「夕飯を食べに外へ。ビリーも腹が空いているだろう?好きな店に連れていこう」
「気前がいいボス、ボクちんだーいすき☆そうだなぁ…ボス御用達のお店に行ってみたいかも」
「行きつけの定食屋…いや、和食中心のレストランならば良い所を知っている。味は保証する」
「じゃあそこでお願いしマース!」
ボスが頻繁に行く場所ってことは、ボスのことを知ってる人にも会えるかも。良い情報が仕入れられそうだ。
期待に胸を膨らませて、鼻歌まじりにボスの後をついていく。上層階用のエレベーターに乗って、一番下のフロアに降りた。そこで、まさかのアッシュパイセンと遭遇。相変わらず機嫌が悪そうな顔してる。舌打ちも聞こえてきた。
「……なんだ、紅蓮か」
「オイラもいるんだけど」
「あぁ?こいつの方がデケェから目に入らなかったぜ」
「そんなにチビじゃないってば。ヒドイな~パイセン」
「アッシュは今から部屋に戻るところか」
「だったら何だって言うんだ。…ったく今日もつまんねぇ日だったぜ」
「刺激の無い一日だったか。…今からイーストのレストランへビリーと行くのだが、良ければ一緒にどうだ」
ボスからの意外なフレーズ。別にパイセンと一緒にってのが嫌なわけじゃないけど、この二人の掛け合いってあんまり見たことないから。びっくり。
「なんで俺がテメェらと」
さらに、いつもは誰に対しても突っぱねてるパイセンが真っ向から反発しない。嫌ならすぐにノーって答えるのに。しかも庶民が行くような場所だってのに。
「無理にとは言わん。プライベートの時間を邪魔する権利は私にはないからな」
「ちっ……ちょうど腹が減ってたんだよ。仕方ねぇから付き合ってやるが……しけた店じゃねぇだろうな」
「昔連れていった店だ。和食中心のレストランだが、ビーフやチキンなどのミート系料理も充実している。そういえば豚の角煮は絶品だったな」
「……そこなら悪くねぇな」
「では行こう。……ビリー、どうした?」
ボスとパイセンのやり取りがあまりにも意外過ぎて、フリーズ仕掛けた。アッシュパイセンは誰にでもケンカ売る人だし、ホント意外。このことだけでも特ダネだっていうのに、お食事中にもっといいネタ仕入れられそうだ。
「なんでもアリマセーン。ボクちんお腹ペコペコ~。ボス、早く連れてって~☆」
リングと猫ちゃんズ
「最近、運動不足だから…これ買ったんです」
「お、これって今流行りのヤツだよな。ゲーム機本体とソフト、一時期は入手が困難だって話も聞いてたし」
テレビの前には人気爆発中のゲーム機本体。そこに運動不足解消や体力増強にいいっていうゲームソフトを実際にレンがプレイしている。アドベンチャーモードっていうヤツもあるとか。レンの様子を見てたら、スクワット繰り返したり、走ったりと忙しい。駆け足している本人は顔色一つ変えずにやってるけどな。俺たちにとっては軽い運動程度だろう。
「私もようやく手にいれたんです」
「遊び方も感覚的でわかりやすそうだよなぁ。あの輪っかを押し込んだり、引っ張ったりするんだろ?」
「はい。ガストさんもよかったら後でやってみてください」
「楽しそうだし、そうさせてもらうよ」
「私は最初やった時、筋肉痛がひどくて…動けない日もありました。特に、プランクっていう体勢がきつくて」
「ああ…今レンがやってるポーズだよな」
レンは床に肘をついて、爪先を立てていた。一見腕立て伏せのような体勢に見えるが、支える部分が腕全体だから、体幹に効く筋トレの一つだ。
と、そこに子猫がとてとて近づいてきた。霧華ちゃんの家で飼われているハチワレ模様の猫だ。名前はポラリスって言ったか。その子猫がレンの周りをウロチョロしていたかと思うと、ひょいとレンの背中に飛び乗った。
「ぐっ……」
プランクの体勢を取っていたレンからうめき声が一瞬聞こえた。その体勢が揺らいだが、流石だレン。子猫一匹の体重が増えても耐えてるぜ。
「レンのトレーニングを手伝ってくれてる…のか?」
「私もたまに乗っかられます…レンくんすごい。私はすぐ床に突っ伏しちゃうのに……あっ、レグルス?!」
さらにそこへやってきた母猫が何の躊躇いもなくレンの背に飛び乗り、すっと背中に着地した。猫の体重二匹分が乗っかったレンの背中が一度がくりと下がる。さっきよりも辛そうなうめき声が漏れた。
「レン、大丈夫か!」
「この程度…」
「お前の背中で猫が寛いでるぞ。あっ、顔洗い始めた!」
「俺は…こんな所で負けるわけにはっ…!」
猫二匹を背中に乗せたまま、プランクを続けるレン。画面の敵と戦っているのか、それとも己の筋力と戦っているのか。「あと十回!」っていう音声がテレビ画面から聞こえてきた。
「あ、今度はポラリスが肩に移動し始めたぞ!」
「…ガスト。うるさい、実況するな…」
この様子が面白かったから動画に収めていたら後で物凄く怒られた上に、スマホ割られそうになった。
お土産
「なぁレン。俺、今度日本に行くことになってさ」
「……そんなに日本が好きなのか」
自室のクッションに埋もれながら旅行雑誌のページを捲る。これは日本の観光名所を特集したものだ。必ずこの名所に行けるわけじゃないが、写真や記事を見てるだけでもテンションが上がってくる。
桜の見頃を迎える頃には行けそうなんだよな。念願の桜吹雪が見られるかも。それも相まって機嫌が良い俺に対し、レンは半ば呆れているようだった。
「まぁ、好きっていうか……彼女の里帰りに付き合うっていうか」
「なんかムカつくな」
「な…なんでだよ。レンだって、霧華ちゃんといい感じだろ」
お互い惹かれてるのは目に見えて分かる。霧華ちゃんと話してる時のレンは棘が無くてツンツンしてないし、霧華ちゃんもレンのこと気にかけてるというか。奥ゆかしさのある恋心を抱いてるって感じがする。
「俺は別に……。で、ただの自慢か。彼女と日本に行くっていう」
「自慢ってワケじゃねぇけど…お土産買ってこようと思って。何か欲しいものがあればリクエスト受け付けるぜ」
「畳。一畳分」
「……畳抱えてだと流石に空港の税関に引っかかりそうな予感がする。って、一畳って相当なデカさだよな」
「赤べこ」
さっきから間髪入れずに答えてくれてはいるが、適当な返事にしか思えない。というか、適当だろうな。
「……アカベコってなんだ。どこ行けば買えるんだ」
「さぁな」
「特にリクエストないなら…こっちで良さそうなの考えて買ってくる。そうだなぁ…食品サンプルとか、諺や四字熟語がプリントされたTシャツとか…和柄の手ぬぐいとかもいいよな。普段使いできそうだ」
手元の雑誌に載っている『おススメの日本土産!』一覧から良さそうなのを挙げていく。番傘もカッコいい。折り紙とかも人気があるんだな。
「招き猫」
隣のスペースからレンの呟く声が聞こえた。身を乗り出すようにしてそっちに目を向けると、小説から顔を上げていたレンと目が一瞬だけ合う。その視線はすぐにバッと逸らされてしまった。今のは適当に答えたんじゃなくて、本当に欲しいものを言ってくれたんだな。
俯いて小説を読んでるふりのレンに俺は笑いかけた。
「招き猫って、あの片手あげてる猫の置物だよな。福を招くんだっけか。よし、それにするか。ハチワレの猫がいたらそれ選んでくる」
「……二つ」
「オーケー。霧華ちゃんの分だな?」
「…そんなこと言ってない」
弟分AとBの会話
「お、ガストさんだ。おーい……」
「ちょっと待て!」
「んぐっ?!」
少年は隣にいた仲間に突然口を手の平で覆われた。鼻は出ているので呼吸に難はないが、急にどうしたのか。
彼が呼び止めようとしたガスト・アドラーはその声に気づかなかったようだ。彼の隣には綺麗な女性が一緒に歩いている。
この光景を見た少年二人はその辺の物陰にサッと身を隠した。互いに頭を寄せ合い、今見た光景についてひそひそと話し始める。
「……ガストさんが女の人と歩いてる」
「ああ、しかも…腕を組んでるし、無茶苦茶いい笑顔」
「ってことは、ガストさんの…彼女!」
「違いないぜ。オレ、あの人と一緒にいるところ結構見かけるんだ」
「でも、ガストさんそのこと話してくれてないよな…。オレたちの相談には乗ってくれるけど、ガストさん自身のコイバナって聞いたことない」
「それは…あれだろ。ガストさんレベルの男になると、自慢しない。彼女できたぐらいで浮かれたりしねぇんだよ…スマートでクールだよな」
「ああ、やべぇな…かっけぇ。オレもそんな余裕のあるでかい男になりたい」
こうしてガスト・アドラー本人が知らないところでまた一つ、空駆けるビッグブラザーの株が一つ上がったのであった。
「グレイは大和撫子を表す言葉って知ってる〜?」
「えっ……ええと、なんか、聞いたこと…あるような気も」
談話室の前を通り過ぎようとした時、中にビリーくんがいるのを偶然見つけたんだ。声を掛けようか悩んで右往左往している間に、ビリーくんと目が合ってしまった。いつもゴーグルに隠れているから、明確とは言えないけど。でも、笑顔をパッと浮かべていたから、それが僕に向けられたものだと思いたい。
そして僕に気づいてくれたのはいいんだけど、声を掛けられたと思ったらそのまま談話室に引きずり込まれてしまった。
ビリーくんはジェイさんとキースさんと話していたみたい。同じチームのジェイさんと気兼ねなく話せてるだけでも凄いと思うのに、別チームの人とも臆せず接している。本当に尊敬できる。
「でも、急にどうしたの…?」
「この間、イーストでマジック披露してる時に偶然大和撫子と遭遇しちゃって。その話をしてたんだヨ」
「へぇ…」
「しかし、イーストにはリトルトーキョーがある。日本人はかなり居住していると思うんだが……ビリーがそう話すということは、かなり印象的な人だったようだな」
「勿論印象的だったし、あの人にとっても特別な大和撫子だからネ」
僕はソファの隅で縮こまりながらビリーくんとジェイさんの話を聞いていた。特別なってどういうことだろう。そういえば、前にもビリーくんの口から大和撫子って単語を聞いた気がする。どこでだったかな。
「大和撫子を表す言葉っつーのは、あれだろ?立てば灼熱、座れば熱風、歩く姿は不死の火鳥」
向かいの席で背もたれに力なく寄りかかっているキースさん。その声は細くて揺れていて、安定していない。さっき、ジェイさんが「飲みすぎじゃないのか」と叱っていた。二日酔いで気分が優れないのかも。顔色も良くない気がする。
「ワォ……なんか、物凄く熱い大和撫子だネ」
「今のはうちの司令を表したものだな。それにしてもキースが紅蓮を褒めるなんて、珍しいな」
「褒めたように聞こえたかぁ?皮肉だよ皮肉。お前らも気をつけろよ〜。あいつはマジになったらマジでヤバい」
「俺っち、その時の話を詳しく聞きたいなぁ☆」
「勘弁してくれ〜」
司令と何かあったのかな。気になるけど、聞ける雰囲気じゃない。
キースさんは背もたれに頭をかくりと後ろの方へ倒していた。
意外な関係
「へい、ボス!情報を仕入れにキマシタ〜!」
「報告書を提出するならば、教えてやらんでもない」
「ワォ、さすが司令!そしてさすがボクちん。じゃじゃーん!ここになんと報告書がありマース」
今日のスケジュールは午前中にパトロール、午後はトレーニングと研修でもうクタクタ。この後は珍しくお仕事も依頼も来てないし、特ダネ仕入れるお時間にしちゃう。その為にもまずはボスからオッケーを貰わないとね。
オイラが提出した報告書を隅々までチェックして、軽く頷いてくれた。つまり、合格ってこと。報告書も慣れてきたし、再提出の頻度も減ったからね。
「よし、お疲れ様。それでは行くとするか」
「行くって、どこへ?」
椅子を引いたボスは両肩をボキボキと音を立てて鳴らした。いい音してるね。今日は一日中司令室で缶詰めだったのかな。元ヒーローだし、じっとしているのは性に合ってなさそうだけど。
「夕飯を食べに外へ。ビリーも腹が空いているだろう?好きな店に連れていこう」
「気前がいいボス、ボクちんだーいすき☆そうだなぁ…ボス御用達のお店に行ってみたいかも」
「行きつけの定食屋…いや、和食中心のレストランならば良い所を知っている。味は保証する」
「じゃあそこでお願いしマース!」
ボスが頻繁に行く場所ってことは、ボスのことを知ってる人にも会えるかも。良い情報が仕入れられそうだ。
期待に胸を膨らませて、鼻歌まじりにボスの後をついていく。上層階用のエレベーターに乗って、一番下のフロアに降りた。そこで、まさかのアッシュパイセンと遭遇。相変わらず機嫌が悪そうな顔してる。舌打ちも聞こえてきた。
「……なんだ、紅蓮か」
「オイラもいるんだけど」
「あぁ?こいつの方がデケェから目に入らなかったぜ」
「そんなにチビじゃないってば。ヒドイな~パイセン」
「アッシュは今から部屋に戻るところか」
「だったら何だって言うんだ。…ったく今日もつまんねぇ日だったぜ」
「刺激の無い一日だったか。…今からイーストのレストランへビリーと行くのだが、良ければ一緒にどうだ」
ボスからの意外なフレーズ。別にパイセンと一緒にってのが嫌なわけじゃないけど、この二人の掛け合いってあんまり見たことないから。びっくり。
「なんで俺がテメェらと」
さらに、いつもは誰に対しても突っぱねてるパイセンが真っ向から反発しない。嫌ならすぐにノーって答えるのに。しかも庶民が行くような場所だってのに。
「無理にとは言わん。プライベートの時間を邪魔する権利は私にはないからな」
「ちっ……ちょうど腹が減ってたんだよ。仕方ねぇから付き合ってやるが……しけた店じゃねぇだろうな」
「昔連れていった店だ。和食中心のレストランだが、ビーフやチキンなどのミート系料理も充実している。そういえば豚の角煮は絶品だったな」
「……そこなら悪くねぇな」
「では行こう。……ビリー、どうした?」
ボスとパイセンのやり取りがあまりにも意外過ぎて、フリーズ仕掛けた。アッシュパイセンは誰にでもケンカ売る人だし、ホント意外。このことだけでも特ダネだっていうのに、お食事中にもっといいネタ仕入れられそうだ。
「なんでもアリマセーン。ボクちんお腹ペコペコ~。ボス、早く連れてって~☆」
リングと猫ちゃんズ
「最近、運動不足だから…これ買ったんです」
「お、これって今流行りのヤツだよな。ゲーム機本体とソフト、一時期は入手が困難だって話も聞いてたし」
テレビの前には人気爆発中のゲーム機本体。そこに運動不足解消や体力増強にいいっていうゲームソフトを実際にレンがプレイしている。アドベンチャーモードっていうヤツもあるとか。レンの様子を見てたら、スクワット繰り返したり、走ったりと忙しい。駆け足している本人は顔色一つ変えずにやってるけどな。俺たちにとっては軽い運動程度だろう。
「私もようやく手にいれたんです」
「遊び方も感覚的でわかりやすそうだよなぁ。あの輪っかを押し込んだり、引っ張ったりするんだろ?」
「はい。ガストさんもよかったら後でやってみてください」
「楽しそうだし、そうさせてもらうよ」
「私は最初やった時、筋肉痛がひどくて…動けない日もありました。特に、プランクっていう体勢がきつくて」
「ああ…今レンがやってるポーズだよな」
レンは床に肘をついて、爪先を立てていた。一見腕立て伏せのような体勢に見えるが、支える部分が腕全体だから、体幹に効く筋トレの一つだ。
と、そこに子猫がとてとて近づいてきた。霧華ちゃんの家で飼われているハチワレ模様の猫だ。名前はポラリスって言ったか。その子猫がレンの周りをウロチョロしていたかと思うと、ひょいとレンの背中に飛び乗った。
「ぐっ……」
プランクの体勢を取っていたレンからうめき声が一瞬聞こえた。その体勢が揺らいだが、流石だレン。子猫一匹の体重が増えても耐えてるぜ。
「レンのトレーニングを手伝ってくれてる…のか?」
「私もたまに乗っかられます…レンくんすごい。私はすぐ床に突っ伏しちゃうのに……あっ、レグルス?!」
さらにそこへやってきた母猫が何の躊躇いもなくレンの背に飛び乗り、すっと背中に着地した。猫の体重二匹分が乗っかったレンの背中が一度がくりと下がる。さっきよりも辛そうなうめき声が漏れた。
「レン、大丈夫か!」
「この程度…」
「お前の背中で猫が寛いでるぞ。あっ、顔洗い始めた!」
「俺は…こんな所で負けるわけにはっ…!」
猫二匹を背中に乗せたまま、プランクを続けるレン。画面の敵と戦っているのか、それとも己の筋力と戦っているのか。「あと十回!」っていう音声がテレビ画面から聞こえてきた。
「あ、今度はポラリスが肩に移動し始めたぞ!」
「…ガスト。うるさい、実況するな…」
この様子が面白かったから動画に収めていたら後で物凄く怒られた上に、スマホ割られそうになった。
お土産
「なぁレン。俺、今度日本に行くことになってさ」
「……そんなに日本が好きなのか」
自室のクッションに埋もれながら旅行雑誌のページを捲る。これは日本の観光名所を特集したものだ。必ずこの名所に行けるわけじゃないが、写真や記事を見てるだけでもテンションが上がってくる。
桜の見頃を迎える頃には行けそうなんだよな。念願の桜吹雪が見られるかも。それも相まって機嫌が良い俺に対し、レンは半ば呆れているようだった。
「まぁ、好きっていうか……彼女の里帰りに付き合うっていうか」
「なんかムカつくな」
「な…なんでだよ。レンだって、霧華ちゃんといい感じだろ」
お互い惹かれてるのは目に見えて分かる。霧華ちゃんと話してる時のレンは棘が無くてツンツンしてないし、霧華ちゃんもレンのこと気にかけてるというか。奥ゆかしさのある恋心を抱いてるって感じがする。
「俺は別に……。で、ただの自慢か。彼女と日本に行くっていう」
「自慢ってワケじゃねぇけど…お土産買ってこようと思って。何か欲しいものがあればリクエスト受け付けるぜ」
「畳。一畳分」
「……畳抱えてだと流石に空港の税関に引っかかりそうな予感がする。って、一畳って相当なデカさだよな」
「赤べこ」
さっきから間髪入れずに答えてくれてはいるが、適当な返事にしか思えない。というか、適当だろうな。
「……アカベコってなんだ。どこ行けば買えるんだ」
「さぁな」
「特にリクエストないなら…こっちで良さそうなの考えて買ってくる。そうだなぁ…食品サンプルとか、諺や四字熟語がプリントされたTシャツとか…和柄の手ぬぐいとかもいいよな。普段使いできそうだ」
手元の雑誌に載っている『おススメの日本土産!』一覧から良さそうなのを挙げていく。番傘もカッコいい。折り紙とかも人気があるんだな。
「招き猫」
隣のスペースからレンの呟く声が聞こえた。身を乗り出すようにしてそっちに目を向けると、小説から顔を上げていたレンと目が一瞬だけ合う。その視線はすぐにバッと逸らされてしまった。今のは適当に答えたんじゃなくて、本当に欲しいものを言ってくれたんだな。
俯いて小説を読んでるふりのレンに俺は笑いかけた。
「招き猫って、あの片手あげてる猫の置物だよな。福を招くんだっけか。よし、それにするか。ハチワレの猫がいたらそれ選んでくる」
「……二つ」
「オーケー。霧華ちゃんの分だな?」
「…そんなこと言ってない」
弟分AとBの会話
「お、ガストさんだ。おーい……」
「ちょっと待て!」
「んぐっ?!」
少年は隣にいた仲間に突然口を手の平で覆われた。鼻は出ているので呼吸に難はないが、急にどうしたのか。
彼が呼び止めようとしたガスト・アドラーはその声に気づかなかったようだ。彼の隣には綺麗な女性が一緒に歩いている。
この光景を見た少年二人はその辺の物陰にサッと身を隠した。互いに頭を寄せ合い、今見た光景についてひそひそと話し始める。
「……ガストさんが女の人と歩いてる」
「ああ、しかも…腕を組んでるし、無茶苦茶いい笑顔」
「ってことは、ガストさんの…彼女!」
「違いないぜ。オレ、あの人と一緒にいるところ結構見かけるんだ」
「でも、ガストさんそのこと話してくれてないよな…。オレたちの相談には乗ってくれるけど、ガストさん自身のコイバナって聞いたことない」
「それは…あれだろ。ガストさんレベルの男になると、自慢しない。彼女できたぐらいで浮かれたりしねぇんだよ…スマートでクールだよな」
「ああ、やべぇな…かっけぇ。オレもそんな余裕のあるでかい男になりたい」
こうしてガスト・アドラー本人が知らないところでまた一つ、空駆けるビッグブラザーの株が一つ上がったのであった。