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憧れの夢をみた
「天気良好、適度な木陰。風はハネッコがそよそよ飛ぶ程度。……うっし、この辺で休憩するか!」
オレは草むらを見渡した。野生のポケモンたちがそこらで群れてるけど、好戦的なヤツらじゃない。ハネッコやヤヤコマがオレの顔をじーっと見てくるぐらいだ。ここならマフィティフも日向ぼっこするのに問題なさそうだ。
バックパックを肩から下ろし、ピクニック用の折り畳みテーブルを設置。その上にこの間新調したばかりのテーブルクロスをパッと広げる。そこに麻カゴとカラトリーをセッティングすれば、ゴキゲンなピクニックの始まりだ。
「いい天気だな」
「わふ」
「暫く天気も変わらなさそうだし、ゆっくり休んでいこうな」
マフィティフの大きな尻尾がぱたっと揺れる。
「サンドウィッチもオマエの好きな具材をたっくさん挟んでやるから」
今度は二度、ゆっくりと尻尾を振った。オレは目を細め、大きな頭を優しく撫でる。
食事だけでは補いきれない栄養素がある。骨の形成に必要な栄養素もその一つだ。日光を身体に浴びないと作られないって話。家庭科の時間にそう教わった。食いモンも大事だけど、肌から吸収することも同じぐらい大事だって。
だからこうしてのんびりできそうな場所を選んで、天気が良い日にピクニックでマフィティフをボールから出してやってる。外部からの刺激──つまり、野生のポケモンからの奇襲や体力の消耗──とか色々考えたらモンスターボールの中が一番安心安全だ。でも、そういう話を聞いたら適度に外で過ごした方がいいと思った。スパイスの力で少しずつ良くなっていってるし、相乗効果ってヤツの期待をしている。
◇
サンドウィッチを腹いっぱい食べたオレたちはのんびりと過ごしていた。
マフィティフと一緒になって草むらに寝転がり、青空を見上げる。
草木が風に揺れる音。そよそよとハネッコ達の声もどこからか聞こえてくる。穏やかな日だ。俺は目を閉じて耳を澄ませた。
ハネー
アイツらは人懐っこくて、目が合うとぴょんぴょん跳ねながら近づいてくるんだ。カワイイよな。
ハネー、ハネー
結構近くまで来てんな。俺の頭上方向から声が聞こえてくる。アイツらはやんちゃじゃないからケンカは売ってこないだろうけど、もしかしたら他のポケモンが向かってくるかもしれない。念の為、周囲を警戒しといた方がいいな。
と、思って目を開けたその瞬間だった。
「ぽぽーっ!」
ハネッコとは違う鳴き声が聞こえた。見上げていた空に黒くて丸い穴がぽっかりと空いた、と思いきやそれは何かの影で、オレの顔面目掛けて落下してきた。しかも結構な落下速度でだ。
「ぶっ」
反射神経どこの話じゃない。一瞬の出来事だったから、避けるモーションに移るも何もなかった。
幸いにも落ちてきたそれは柔らかいソフトボールぐらいの硬さだったから、オレの顔で一度大きくバウンド。それが明らかな意思を持ってこっちに飛んできた。
「ぽぽー! ぽぽっ」
キレイな黄緑色の丸っこい体、頭に大きな黄色い花を咲かせたポケモン。ポポッコがオレの眼前にふよふよと浮かぶ。つぶらな瞳でニコニコと笑っている。敵意は全く無いにしてもだな。
「開幕ずつきかましてくるとは悪い子ちゃんだな!」
「ぽぽ~」
オレが文句をつけてもどこ吹く風。それどころか丸っこい体全体で擦り寄ってきた。人懐っこすぎるポポッコだ。
「……おいおい、人懐っこすぎるポポッコだな。野生のポケモンにしては……あれ? オマエ、その耳」
黄緑色の丸くてふっくらした耳。左耳が少し欠けている部分があることに気がついた。齧られたような痕。この特徴を持つポポッコにオレは憶えがある。
「ペパーくん!」
名前を呼ばれたオレがそっちに振り向くより先に、このポポッコが声の主の方へふわーっと飛んでいった。
アカデミーの制服を着た生徒がこっちに走ってくる。オレは慌てて飛び起きた。
「先輩! ってことは、そのポポッコはやっぱり」
ポポッコがくるくるとその人の周りを飛び始める。実にゴキゲンちゃんな様子で。
この人はアカデミーの生徒で、オレより一つ上の学年のキリカ先輩。先輩と初めて会ったのは一年ちょっと前ぐらい。放課後に家庭科室の調理器具を借りて、試作品を作ってる時だった。
「ぽぽー!」
「怪我しなかった?」
「全然問題ないちゃんだぜ。先輩のハネッコ、進化したんだな」
「うん。宝探しが始まってすぐに。今も良い天気だから日光浴させながら歩いてたんだけど、ペパーくんの姿を見つけた途端にとびはねていっちゃって」
「人懐っこさはハネッコの頃から変わらないな」
「ぽぽー。ぽぽー♪」
ゴキゲンな返事をしたポポッコが今度はオレの周りをくるくると飛び始めた。時々小さなジャンプもしながら。そんな様子を見守る先輩の眼差しがすげぇ優しい。ハネッコの時から大事にしてきたもんな。
ポポッコの耳にある傷痕。少し前に先輩からその話を聞かせてもらったことがある。
二年くらい前だって言ってたな。入り江を散策中、デルビルに囲まれて身動きが取れなくなっていたハネッコを見つけたと先輩が話してくれた。多勢に無勢の状況で、その時に頭の葉っぱを齧られてしまったらしい。
「ペパーくんはここでピクニック?」
「ああ。この辺なら襲ってくるようなポケモンもいねぇし、のんびりできそうだし。……良かったら、先輩たちも」
「そうね。少し休ませてもらおうかな。ハネはすっかり期待してるみたいだし」
ハネと名付けられたポポッコがオレの懐にぽすっと飛びこんできた。両手で抱えてやると、つぶらな瞳でじっとこっちを見つめてくる。攻撃力下がるどころかメロメロになっちまうくらいカワイイちゃんだなまったく。
「……まったく、そんなにオレの作ったサンドウィッチが大好きちゃんか」
「ぽぽーっ!」
「よーし。そんじゃ、腕によりをかけて美味いサンドウィッチ作ってやるからな。いい子ちゃんで待ってろよー。先輩はハネたちと一緒に待っててくれよ」
「私も手伝うよ」
「先輩にはマフィティフのこと頼みたいんだ」
そう言ってオレは隣で伏せている相棒に目を向けた。腹いっぱいでうとうとしてるのか、背中が静かに上下している。
マフィティフは先輩のこと知ってるし、慣れてる。手放しで任せられる相手だ。大怪我したってことも少しだけ話していた。
「うん。わかった。じゃあ、この子たちも一緒に。みんな、出てきて!」
モンスターボールが二つ、青空に放たれた。そこから飛び出してきたレントラーとヒノヤコマ。レントラーはくるりと宙返りを決めて、先輩の横にすたっと着地。
「よう、リク。絶好調ちゃんだな」
オレがそう笑いかければ、四つ足を揃えて座るレントラーが返事をする。相変わらず先輩のレントラーは毛並みがツヤツヤでさらさらだ。
頭上を大きく旋回していたヒノヤコマが先輩の腕にちょんっと止まった。片翼を広げ、黒い嘴で器用に羽繕いをする。
「先輩のポケモンはみんな元気いっぱいだな」
「ヒヨッ、ヒヨヨッ」
キレイな鳴き声を聞かせてくれたヒノヤコマは小さな首を左右に傾ける。マフィティフの姿に気づくと、翼を広げてそこ目掛けて飛んでいった。ごく短い距離を滑空したヒノヤコマはマフィティフのすぐ側に降り立ち、体をぴたりと寄せて膝を折った。それに続いてレントラーもとことこと歩いていって、反対側に体を伏せて寄り添ってくれる。先輩のポケモンたちに挟まれたその光景がなんか、微笑ましくって。思わず笑みが溢れる。
「マフィティフ、モテモテちゃんだな。……オマエらも、ありがとな」
ふぁさっ。マフィティフの大きな尻尾が揺れた。
「うっし。オマエらの分もとびきり美味いサンドウィッチ作ってご馳走してやるからな!」
手首に掛けていたヘアゴムで髪を再度括りつけ、ワイシャツの袖を捲り上げる。気合バッチリだ。ペパー特製サンドウィッチ、乞うご期待だ。
※
風にマフィティフの毛並みが靡く。風が少し強くなってきた。いつもなら体が冷えないようにモンスターボールに戻すところだけど、今はヒノヤコマとレントラーに挟まれてるから暖をそこから分けてもらえてる。オレや先輩が頼んだワケでもなく、いつからかああやって寄り添ってくれるようになった。マフィティフが調子崩してるってこと、アイツらもわかってるんだろう。だから、少しでも不安が和らぐようにって。あの二匹も先輩に似て優しい性格なんだ。オレはその優しさに甘えさせてもらってる。少しでも早く、少しでも良く。マフィティフの怪我が治ってほしいから。
「ハネ、お腹いっぱいで眠くなったみたい」
さっきまで元気よくそこらを飛び回っていたポポッコ。野生のハネッコたちと跳ねて遊んでもいた。それが今じゃ先輩の膝の上に抱っこされて目を瞑っている。コイツの無邪気さにはどれだけイタズラされても怒る気になれないのが不思議だ。
「すっかりおネムちゃんだな。ハネッコの頃から全然変わってないな。サンドウィッチ盗み食いしようと企むとこも」
忘れもしない一年ばかり前のこと。家庭科室で試作のサンドウィッチを丸々一つ、ハネッコに盗み食いされちまった。まあ、コイツのおかげで先輩と縁が出来たようなもんだから、感謝もしてる。
先輩がくすりと笑みを零した。
「この子、ペパーくんの作るサンドウィッチに目がないみたいで。あの時はごめんね」
「あ、いや……全然ってか、むしろ良かったっていうか……」
「え?」
「な、なんでもない。そーだ、先輩は課外授業の調子は?」
「うーん」
ポポッコの左耳を優しく撫でながら先輩は唸った。ふっくらとした耳がパタパタと揺れる。ふっと先輩の視線が下がった。
「あちこち回っているけど、一人だとなんだか、ね。……物足りないっていうのかな」
それなら。一緒に、いや俺が探してる伝説のスパイスを探すの手伝ってくれませんか。そう、言えたら良かったんだけどな。なんかそんな軽々しく誘えるような雰囲気じゃなかったんだ。先輩の表情がどこか物悲しげだったから。
パッと明るい笑顔に変わった先輩の顔がオレの方に向く。さっきのが気の所為かと思わせるぐらいに、いつもの穏やかな表情で。
「ペパーくんは伝説のスパイスを探してるんだよね」
「あ、ああ」
「アオイちゃんも手伝ってくれてるんだっけ。順調?」
「今二つ目まで見つけたんだ」
「もう二つも見つけたの? すごいね、二人とも」
「アオイから聞いたかもしんねぇけどさ、アイツすげーバトル強いんだ。オレの出る幕がないくらいに」
そう、転入生としてパルデアに来たアオイはポケモンバトルが強い。才能があるっていうんだろうな。おかげでヌシを撃退するまで五分とかかってない。見つける方が時間かかったぐらいだ。
その類稀なる才能に目をつけた生徒会長と最近はつるんでる。
先輩がうんうんとオレの話に相槌を打ってくれた。
「アオイちゃんからこの前聞いたよ。こーんな大きいガケガニと戦ったって。あと、ペパーくんの作ったサンドウィッチはほっぺが落ちそうなくらい美味しかったって」
「こんなの食べたことない! ペパー天才?! 食材が賛美歌を奏でてるよ!」ってベタベタに褒めてくれたっけ。スパイス探してくれたお礼にと思って振る舞ったつもりだったんだけど。
「一緒に行動してるわけじゃないんだね」
あの時のアオイがあんまり目を輝かせるもんだから、スピードスターでも出てきそうだった。そんな話をしていた折だった。先輩が少し不思議そうにそう訊ねてきた。
「あ、えっと……その方が効率良いというか、バッタリ偶然ヌシと出くわした! トラブルに巻き込まれた! ……みたいな時にすぐ対処できるのかなって。仲間と協力して解決できるし」
「そりゃ、一緒にいた方がそうだよな。でも、アイツもなんだかんだで忙しいみたいで。生徒会長にチャンピオン目指そうとか言われてるとかで、今はナッペ山のジムに向かってるってさっき連絡が来てたぜ。あと、これは課外授業に出る直前に耳にした話だけど、スター団の作戦がどうとか……」
不意にくすりとおかしそうに先輩が笑った。
「あちこち引っ張りだこ。流石、主人公」
「主人公?」
ゆっくりと先輩が首を横に振る。
「なんでもない。……みんな、自分だけのストーリーを持ってる。その主人公なんだよ」
「なんか小説みたいな言い回しで、カッケェと思って。……うん、そうだよな。オレはマフィティフを元気にしてやる為に、オレ自身のストーリーを作っていくぜ!」
両手でガッツポーズを決める。そうだ。絶対にオレはマフィティフを治してやるんだ。
「残りのひでんスパイス、早く見つかるといいね」
「サンキュー。先輩も課外授業の宝探し見つかるといいな」
「ありがとう。……見つかるといいな。私の宝物、夢……私の夢、か」
ぽつりと呟いた先輩はそのまま上空を仰ぐ。その目には白い雲が映り込んでいた。
「私の夢はポケモンマスターになること。……なーんてね」
振り向いた先輩は茶目っ気たっぷりな感じで笑っていたけど、俺にはどこか物悲しい気がした。
「天気良好、適度な木陰。風はハネッコがそよそよ飛ぶ程度。……うっし、この辺で休憩するか!」
オレは草むらを見渡した。野生のポケモンたちがそこらで群れてるけど、好戦的なヤツらじゃない。ハネッコやヤヤコマがオレの顔をじーっと見てくるぐらいだ。ここならマフィティフも日向ぼっこするのに問題なさそうだ。
バックパックを肩から下ろし、ピクニック用の折り畳みテーブルを設置。その上にこの間新調したばかりのテーブルクロスをパッと広げる。そこに麻カゴとカラトリーをセッティングすれば、ゴキゲンなピクニックの始まりだ。
「いい天気だな」
「わふ」
「暫く天気も変わらなさそうだし、ゆっくり休んでいこうな」
マフィティフの大きな尻尾がぱたっと揺れる。
「サンドウィッチもオマエの好きな具材をたっくさん挟んでやるから」
今度は二度、ゆっくりと尻尾を振った。オレは目を細め、大きな頭を優しく撫でる。
食事だけでは補いきれない栄養素がある。骨の形成に必要な栄養素もその一つだ。日光を身体に浴びないと作られないって話。家庭科の時間にそう教わった。食いモンも大事だけど、肌から吸収することも同じぐらい大事だって。
だからこうしてのんびりできそうな場所を選んで、天気が良い日にピクニックでマフィティフをボールから出してやってる。外部からの刺激──つまり、野生のポケモンからの奇襲や体力の消耗──とか色々考えたらモンスターボールの中が一番安心安全だ。でも、そういう話を聞いたら適度に外で過ごした方がいいと思った。スパイスの力で少しずつ良くなっていってるし、相乗効果ってヤツの期待をしている。
◇
サンドウィッチを腹いっぱい食べたオレたちはのんびりと過ごしていた。
マフィティフと一緒になって草むらに寝転がり、青空を見上げる。
草木が風に揺れる音。そよそよとハネッコ達の声もどこからか聞こえてくる。穏やかな日だ。俺は目を閉じて耳を澄ませた。
ハネー
アイツらは人懐っこくて、目が合うとぴょんぴょん跳ねながら近づいてくるんだ。カワイイよな。
ハネー、ハネー
結構近くまで来てんな。俺の頭上方向から声が聞こえてくる。アイツらはやんちゃじゃないからケンカは売ってこないだろうけど、もしかしたら他のポケモンが向かってくるかもしれない。念の為、周囲を警戒しといた方がいいな。
と、思って目を開けたその瞬間だった。
「ぽぽーっ!」
ハネッコとは違う鳴き声が聞こえた。見上げていた空に黒くて丸い穴がぽっかりと空いた、と思いきやそれは何かの影で、オレの顔面目掛けて落下してきた。しかも結構な落下速度でだ。
「ぶっ」
反射神経どこの話じゃない。一瞬の出来事だったから、避けるモーションに移るも何もなかった。
幸いにも落ちてきたそれは柔らかいソフトボールぐらいの硬さだったから、オレの顔で一度大きくバウンド。それが明らかな意思を持ってこっちに飛んできた。
「ぽぽー! ぽぽっ」
キレイな黄緑色の丸っこい体、頭に大きな黄色い花を咲かせたポケモン。ポポッコがオレの眼前にふよふよと浮かぶ。つぶらな瞳でニコニコと笑っている。敵意は全く無いにしてもだな。
「開幕ずつきかましてくるとは悪い子ちゃんだな!」
「ぽぽ~」
オレが文句をつけてもどこ吹く風。それどころか丸っこい体全体で擦り寄ってきた。人懐っこすぎるポポッコだ。
「……おいおい、人懐っこすぎるポポッコだな。野生のポケモンにしては……あれ? オマエ、その耳」
黄緑色の丸くてふっくらした耳。左耳が少し欠けている部分があることに気がついた。齧られたような痕。この特徴を持つポポッコにオレは憶えがある。
「ペパーくん!」
名前を呼ばれたオレがそっちに振り向くより先に、このポポッコが声の主の方へふわーっと飛んでいった。
アカデミーの制服を着た生徒がこっちに走ってくる。オレは慌てて飛び起きた。
「先輩! ってことは、そのポポッコはやっぱり」
ポポッコがくるくるとその人の周りを飛び始める。実にゴキゲンちゃんな様子で。
この人はアカデミーの生徒で、オレより一つ上の学年のキリカ先輩。先輩と初めて会ったのは一年ちょっと前ぐらい。放課後に家庭科室の調理器具を借りて、試作品を作ってる時だった。
「ぽぽー!」
「怪我しなかった?」
「全然問題ないちゃんだぜ。先輩のハネッコ、進化したんだな」
「うん。宝探しが始まってすぐに。今も良い天気だから日光浴させながら歩いてたんだけど、ペパーくんの姿を見つけた途端にとびはねていっちゃって」
「人懐っこさはハネッコの頃から変わらないな」
「ぽぽー。ぽぽー♪」
ゴキゲンな返事をしたポポッコが今度はオレの周りをくるくると飛び始めた。時々小さなジャンプもしながら。そんな様子を見守る先輩の眼差しがすげぇ優しい。ハネッコの時から大事にしてきたもんな。
ポポッコの耳にある傷痕。少し前に先輩からその話を聞かせてもらったことがある。
二年くらい前だって言ってたな。入り江を散策中、デルビルに囲まれて身動きが取れなくなっていたハネッコを見つけたと先輩が話してくれた。多勢に無勢の状況で、その時に頭の葉っぱを齧られてしまったらしい。
「ペパーくんはここでピクニック?」
「ああ。この辺なら襲ってくるようなポケモンもいねぇし、のんびりできそうだし。……良かったら、先輩たちも」
「そうね。少し休ませてもらおうかな。ハネはすっかり期待してるみたいだし」
ハネと名付けられたポポッコがオレの懐にぽすっと飛びこんできた。両手で抱えてやると、つぶらな瞳でじっとこっちを見つめてくる。攻撃力下がるどころかメロメロになっちまうくらいカワイイちゃんだなまったく。
「……まったく、そんなにオレの作ったサンドウィッチが大好きちゃんか」
「ぽぽーっ!」
「よーし。そんじゃ、腕によりをかけて美味いサンドウィッチ作ってやるからな。いい子ちゃんで待ってろよー。先輩はハネたちと一緒に待っててくれよ」
「私も手伝うよ」
「先輩にはマフィティフのこと頼みたいんだ」
そう言ってオレは隣で伏せている相棒に目を向けた。腹いっぱいでうとうとしてるのか、背中が静かに上下している。
マフィティフは先輩のこと知ってるし、慣れてる。手放しで任せられる相手だ。大怪我したってことも少しだけ話していた。
「うん。わかった。じゃあ、この子たちも一緒に。みんな、出てきて!」
モンスターボールが二つ、青空に放たれた。そこから飛び出してきたレントラーとヒノヤコマ。レントラーはくるりと宙返りを決めて、先輩の横にすたっと着地。
「よう、リク。絶好調ちゃんだな」
オレがそう笑いかければ、四つ足を揃えて座るレントラーが返事をする。相変わらず先輩のレントラーは毛並みがツヤツヤでさらさらだ。
頭上を大きく旋回していたヒノヤコマが先輩の腕にちょんっと止まった。片翼を広げ、黒い嘴で器用に羽繕いをする。
「先輩のポケモンはみんな元気いっぱいだな」
「ヒヨッ、ヒヨヨッ」
キレイな鳴き声を聞かせてくれたヒノヤコマは小さな首を左右に傾ける。マフィティフの姿に気づくと、翼を広げてそこ目掛けて飛んでいった。ごく短い距離を滑空したヒノヤコマはマフィティフのすぐ側に降り立ち、体をぴたりと寄せて膝を折った。それに続いてレントラーもとことこと歩いていって、反対側に体を伏せて寄り添ってくれる。先輩のポケモンたちに挟まれたその光景がなんか、微笑ましくって。思わず笑みが溢れる。
「マフィティフ、モテモテちゃんだな。……オマエらも、ありがとな」
ふぁさっ。マフィティフの大きな尻尾が揺れた。
「うっし。オマエらの分もとびきり美味いサンドウィッチ作ってご馳走してやるからな!」
手首に掛けていたヘアゴムで髪を再度括りつけ、ワイシャツの袖を捲り上げる。気合バッチリだ。ペパー特製サンドウィッチ、乞うご期待だ。
※
風にマフィティフの毛並みが靡く。風が少し強くなってきた。いつもなら体が冷えないようにモンスターボールに戻すところだけど、今はヒノヤコマとレントラーに挟まれてるから暖をそこから分けてもらえてる。オレや先輩が頼んだワケでもなく、いつからかああやって寄り添ってくれるようになった。マフィティフが調子崩してるってこと、アイツらもわかってるんだろう。だから、少しでも不安が和らぐようにって。あの二匹も先輩に似て優しい性格なんだ。オレはその優しさに甘えさせてもらってる。少しでも早く、少しでも良く。マフィティフの怪我が治ってほしいから。
「ハネ、お腹いっぱいで眠くなったみたい」
さっきまで元気よくそこらを飛び回っていたポポッコ。野生のハネッコたちと跳ねて遊んでもいた。それが今じゃ先輩の膝の上に抱っこされて目を瞑っている。コイツの無邪気さにはどれだけイタズラされても怒る気になれないのが不思議だ。
「すっかりおネムちゃんだな。ハネッコの頃から全然変わってないな。サンドウィッチ盗み食いしようと企むとこも」
忘れもしない一年ばかり前のこと。家庭科室で試作のサンドウィッチを丸々一つ、ハネッコに盗み食いされちまった。まあ、コイツのおかげで先輩と縁が出来たようなもんだから、感謝もしてる。
先輩がくすりと笑みを零した。
「この子、ペパーくんの作るサンドウィッチに目がないみたいで。あの時はごめんね」
「あ、いや……全然ってか、むしろ良かったっていうか……」
「え?」
「な、なんでもない。そーだ、先輩は課外授業の調子は?」
「うーん」
ポポッコの左耳を優しく撫でながら先輩は唸った。ふっくらとした耳がパタパタと揺れる。ふっと先輩の視線が下がった。
「あちこち回っているけど、一人だとなんだか、ね。……物足りないっていうのかな」
それなら。一緒に、いや俺が探してる伝説のスパイスを探すの手伝ってくれませんか。そう、言えたら良かったんだけどな。なんかそんな軽々しく誘えるような雰囲気じゃなかったんだ。先輩の表情がどこか物悲しげだったから。
パッと明るい笑顔に変わった先輩の顔がオレの方に向く。さっきのが気の所為かと思わせるぐらいに、いつもの穏やかな表情で。
「ペパーくんは伝説のスパイスを探してるんだよね」
「あ、ああ」
「アオイちゃんも手伝ってくれてるんだっけ。順調?」
「今二つ目まで見つけたんだ」
「もう二つも見つけたの? すごいね、二人とも」
「アオイから聞いたかもしんねぇけどさ、アイツすげーバトル強いんだ。オレの出る幕がないくらいに」
そう、転入生としてパルデアに来たアオイはポケモンバトルが強い。才能があるっていうんだろうな。おかげでヌシを撃退するまで五分とかかってない。見つける方が時間かかったぐらいだ。
その類稀なる才能に目をつけた生徒会長と最近はつるんでる。
先輩がうんうんとオレの話に相槌を打ってくれた。
「アオイちゃんからこの前聞いたよ。こーんな大きいガケガニと戦ったって。あと、ペパーくんの作ったサンドウィッチはほっぺが落ちそうなくらい美味しかったって」
「こんなの食べたことない! ペパー天才?! 食材が賛美歌を奏でてるよ!」ってベタベタに褒めてくれたっけ。スパイス探してくれたお礼にと思って振る舞ったつもりだったんだけど。
「一緒に行動してるわけじゃないんだね」
あの時のアオイがあんまり目を輝かせるもんだから、スピードスターでも出てきそうだった。そんな話をしていた折だった。先輩が少し不思議そうにそう訊ねてきた。
「あ、えっと……その方が効率良いというか、バッタリ偶然ヌシと出くわした! トラブルに巻き込まれた! ……みたいな時にすぐ対処できるのかなって。仲間と協力して解決できるし」
「そりゃ、一緒にいた方がそうだよな。でも、アイツもなんだかんだで忙しいみたいで。生徒会長にチャンピオン目指そうとか言われてるとかで、今はナッペ山のジムに向かってるってさっき連絡が来てたぜ。あと、これは課外授業に出る直前に耳にした話だけど、スター団の作戦がどうとか……」
不意にくすりとおかしそうに先輩が笑った。
「あちこち引っ張りだこ。流石、主人公」
「主人公?」
ゆっくりと先輩が首を横に振る。
「なんでもない。……みんな、自分だけのストーリーを持ってる。その主人公なんだよ」
「なんか小説みたいな言い回しで、カッケェと思って。……うん、そうだよな。オレはマフィティフを元気にしてやる為に、オレ自身のストーリーを作っていくぜ!」
両手でガッツポーズを決める。そうだ。絶対にオレはマフィティフを治してやるんだ。
「残りのひでんスパイス、早く見つかるといいね」
「サンキュー。先輩も課外授業の宝探し見つかるといいな」
「ありがとう。……見つかるといいな。私の宝物、夢……私の夢、か」
ぽつりと呟いた先輩はそのまま上空を仰ぐ。その目には白い雲が映り込んでいた。
「私の夢はポケモンマスターになること。……なーんてね」
振り向いた先輩は茶目っ気たっぷりな感じで笑っていたけど、俺にはどこか物悲しい気がした。
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