名コナ
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Lost woman 08
私は本気で怒っています。
何故かわかりますね?そうです、貴女のことが心配だからです。それなのに私を頼ってくださらないとは…正直凹みました。それはもうかなりベコベコに。
心配しなくても、……私も貴女の存在を信じていますから。だから、もっと頼ってください。貴女の力になりますから。
あの時、物凄く怒られた。頬をぱしんと両手で挟むように叩かれて、でも不思議と痛くなくて。真っ黒い瞳が本当に優しげな表情をしていた。
どこにもない私の存在を認めてくれて、嬉しかった。年甲斐もなくボロボロ泣き出してしまって、狼狽えながらも頭をぽふぽふと撫でてくれた。
そんな、懐かしい夢を見た。
「昨夜は本当にありがとうございました。シャワーまでお借りした上に朝御飯まで……至れり尽くせりです」
本当にありがとうございます。と感謝の言葉を重ねる。シャワーを借りただけでも申し訳ないのに、戻ってきたらダイニングテーブルに朝御飯が用意されていた。
ミニトマトをアクセントにしたプチサラダ、スクランブルエッグとボイルしたウインナー、トーストに温かいコンソメスープ。独身男性が作る朝食内容と思えない。
「……安室さんは神に万物を与えられた人ですか。頭もルックスもいいし、スポーツも料理もできる」
対面にいる彼がトーストにバターを塗る手を止めた。意外な事でも言われたように、きょとんとあどけない表情を見せる。それからふっと柔らかく微笑んだ様が本当に彼の年齢を欺いていると思う。
「ありがとうございます。でも、僕にだって苦手なことの一つや二つありますよ」
「ナマコを素手で掴んで投げるとか?」
「やったことがないので何とも……あまり進んでやりたくもないですが。そういえば、霧華さんに僕がスポーツ得意だって話しましたっけ?」
「あれ、違うんですか。園子ちゃんがいつだったか安室さんテニスが超上手いってキャーキャー騒いでましたよ」
「ああ、そうだったんですか。よろしければ今度一緒に行きませんか?」
「スポーツは苦手なので遠慮させてもらいます。ラケットなんて握ったことないですし」
「基礎から教えますよ。こう見えても教えるの得意ですから」
考えておきます。と、この一連の流れまで無表情を努めた。園子ちゃんから聞いていない。いかにもそう話しそうな人を挙げて綻びを誤魔化した。誤魔化せれてればいいけど。
表面がカリッと焼けたきつね色のトーストの中はフワフワの食感。バターをつけなくても小麦の甘みがじわりと広がる。こうして誰かと朝食を取るのは久しい。そのせいか、いつもより美味しいと感じられた。
「バターをつけずにトーストを召し上がるなんて通ですね」
「素材の味がして美味しいですよ」
「もしかしてオーガニック系がお好きですか?」
「……まあ、そうですね」
「じゃあ美味しいお店探しておきますので」
「…気が向いたら行きます」
断固として拒否したいのは山々。けど、一宿一飯の恩義がある。最低限礼儀を払わなければ。妙な義理人情に縛られてしまうのが私の悪い癖だった。
「朝御飯を食べ終わったら買い物に行きましょう」
「買い物ですか?」
「はい。暫くの間はここに住んで貰いますので……日用品が必用ですよね?」
「は?」
フォークの狙いがウインナーから外れ、皿にカチリとぶつかった。
此処に住む、と言った。ちょっと待って。なんでそうなるの。確かに睡眠不足で倒れたから仕方なく昨日は泊めてもらったのであって。
「昨夜の依頼、僕が承ります。どういったストーカーなのか調査してみないと分かりませんし、クライアントを危険な目に遭わせる訳にもいきません。安全が確認できるまでは窮屈でしょうけど我慢してください」
「……相談はしましたけど、依頼した記憶はないんですが。安室さん大丈夫ですか?強引にクライアントの案件引き受けて報酬貰ってません?」
「聞き捨てならないですね。……僕は貴女が心配だから無理にでも引き留めているんです。少しは頼ってくれてもいいんじゃないですか」
声のトーンに明らかな変化を感じた。普段穏やかな話し方をする人が息を潜めた低い声色を出すと恐怖すら感じられる。
それに対して探しても探しても返す言葉が見つからなくて、俯いて顔を上げられないまま「すみません」としか結局言えなかった。
「顔を上げてもらえませんか。……こちらこそ昨日から怒ってばかりだ。でも、これだけは分かって頂きたいんです。…僕は貴女の力になりたい」
私の涙腺がまた緩んだ。
あの時の彼とあまりにも類似していたから。
私は本気で怒っています。
何故かわかりますね?そうです、貴女のことが心配だからです。それなのに私を頼ってくださらないとは…正直凹みました。それはもうかなりベコベコに。
心配しなくても、……私も貴女の存在を信じていますから。だから、もっと頼ってください。貴女の力になりますから。
あの時、物凄く怒られた。頬をぱしんと両手で挟むように叩かれて、でも不思議と痛くなくて。真っ黒い瞳が本当に優しげな表情をしていた。
どこにもない私の存在を認めてくれて、嬉しかった。年甲斐もなくボロボロ泣き出してしまって、狼狽えながらも頭をぽふぽふと撫でてくれた。
そんな、懐かしい夢を見た。
「昨夜は本当にありがとうございました。シャワーまでお借りした上に朝御飯まで……至れり尽くせりです」
本当にありがとうございます。と感謝の言葉を重ねる。シャワーを借りただけでも申し訳ないのに、戻ってきたらダイニングテーブルに朝御飯が用意されていた。
ミニトマトをアクセントにしたプチサラダ、スクランブルエッグとボイルしたウインナー、トーストに温かいコンソメスープ。独身男性が作る朝食内容と思えない。
「……安室さんは神に万物を与えられた人ですか。頭もルックスもいいし、スポーツも料理もできる」
対面にいる彼がトーストにバターを塗る手を止めた。意外な事でも言われたように、きょとんとあどけない表情を見せる。それからふっと柔らかく微笑んだ様が本当に彼の年齢を欺いていると思う。
「ありがとうございます。でも、僕にだって苦手なことの一つや二つありますよ」
「ナマコを素手で掴んで投げるとか?」
「やったことがないので何とも……あまり進んでやりたくもないですが。そういえば、霧華さんに僕がスポーツ得意だって話しましたっけ?」
「あれ、違うんですか。園子ちゃんがいつだったか安室さんテニスが超上手いってキャーキャー騒いでましたよ」
「ああ、そうだったんですか。よろしければ今度一緒に行きませんか?」
「スポーツは苦手なので遠慮させてもらいます。ラケットなんて握ったことないですし」
「基礎から教えますよ。こう見えても教えるの得意ですから」
考えておきます。と、この一連の流れまで無表情を努めた。園子ちゃんから聞いていない。いかにもそう話しそうな人を挙げて綻びを誤魔化した。誤魔化せれてればいいけど。
表面がカリッと焼けたきつね色のトーストの中はフワフワの食感。バターをつけなくても小麦の甘みがじわりと広がる。こうして誰かと朝食を取るのは久しい。そのせいか、いつもより美味しいと感じられた。
「バターをつけずにトーストを召し上がるなんて通ですね」
「素材の味がして美味しいですよ」
「もしかしてオーガニック系がお好きですか?」
「……まあ、そうですね」
「じゃあ美味しいお店探しておきますので」
「…気が向いたら行きます」
断固として拒否したいのは山々。けど、一宿一飯の恩義がある。最低限礼儀を払わなければ。妙な義理人情に縛られてしまうのが私の悪い癖だった。
「朝御飯を食べ終わったら買い物に行きましょう」
「買い物ですか?」
「はい。暫くの間はここに住んで貰いますので……日用品が必用ですよね?」
「は?」
フォークの狙いがウインナーから外れ、皿にカチリとぶつかった。
此処に住む、と言った。ちょっと待って。なんでそうなるの。確かに睡眠不足で倒れたから仕方なく昨日は泊めてもらったのであって。
「昨夜の依頼、僕が承ります。どういったストーカーなのか調査してみないと分かりませんし、クライアントを危険な目に遭わせる訳にもいきません。安全が確認できるまでは窮屈でしょうけど我慢してください」
「……相談はしましたけど、依頼した記憶はないんですが。安室さん大丈夫ですか?強引にクライアントの案件引き受けて報酬貰ってません?」
「聞き捨てならないですね。……僕は貴女が心配だから無理にでも引き留めているんです。少しは頼ってくれてもいいんじゃないですか」
声のトーンに明らかな変化を感じた。普段穏やかな話し方をする人が息を潜めた低い声色を出すと恐怖すら感じられる。
それに対して探しても探しても返す言葉が見つからなくて、俯いて顔を上げられないまま「すみません」としか結局言えなかった。
「顔を上げてもらえませんか。……こちらこそ昨日から怒ってばかりだ。でも、これだけは分かって頂きたいんです。…僕は貴女の力になりたい」
私の涙腺がまた緩んだ。
あの時の彼とあまりにも類似していたから。
