封神演義(WJ)
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3.当たるも八卦当たらぬも八卦
はらり、はらりとファッション雑誌を捲っていた霧華の手がふと止まる。巻末に設けられた定番の占いコーナーに目を留めた。
来月初旬までの運勢が記されたページ。そこから自分の星座を探して五行程の文章を目で追っていく。その姿が太公望には熱心に見えたのか、何を読んでいるのかと霧華の手元を覗き込んだ。
「ほう、占いか。霧華は占いを信じる方か」
そう問いかけてきた太公望に首を捻ってみせる。良いことが書いてあれば信じ、そうでなければ見なかったことにする。今までも大概そうしてきたので、 今日の運勢が一位だったとしても気分が上向きになるだけであった。然り、この手の物にどっぷりとハマッた経験もない。
「良い時は気分が良いけれど、悪い時は見なかったことにしてすぐ忘れてしまうの。つまりはご都合主義、と言えるかもしれませんね」
「おぬしの考えは強ち間違ってはおらんよ。気の持ちようとも言うしのう。気持ちが上向きならば何事も快方へ、逆に暗い気持ちになっていればそれこそ全てが不幸に思えてくるというもの。…まあつまりわしが言いたいのは振り回されずに己が信ずる道を進むのが大事ということだ」
そこで太公望は自身の顎を指の腹で擦る。その所作は長い髭を蓄えた長寿の人がよくやって見せるもの。だが、この青年の顔付きは二十歳にも満たない若々しい見目。言動はこのようにして度々年の深さを感じられる。恐る恐る年齢を尋ねた時は思いの外軽い口調で「三千はとうに超えているのう」と笑っていた。
太公望が雲上の人だと聞かされたのは居候した直後ではなく、つい先日のこと。崇めべき存在だと思い知らされた霧華は軽々しい口を利いては失礼だろうと心に留めていた。
そんな緊張の糸に縛られている霧華をよそに、太公望はこう言った。
「よし、ではわしがおぬしを占ってしんぜよう」
「……占い、できるんですか」
「む、その目は信じておらんな?わしの占いは好評であったぞ、よく当たるとな」
それはそれで畏怖を感じた。この仙人いや本人は道士と言い直していたが、確かに当たりそうだと。
言い淀む霧華に太公望は微笑んでみせた。
「手相を見てやろうかの。手を出してごらん」
左掌を上に向けて遠慮がちに差し出す。その手を指先まで上に向けるように掴み、まじまじと手の皺を見つめる。真剣な表情、その視線がこちらに向いているわけでもないが、徐に緊張感が漂う。
自称占い師は溜息交じりにふうむと唸る。不意に上げられた顔は近く、澄んだ碧色の目に覗き込まれた。
「おぬし、生命線が長いのう」
「はい。よく言われます」
「……しかし、今まで大層苦労してきたようだ。よう頑張ってきた、エライエライ」
いいこ、いいこと霧華の頭を撫でるその表情は幼い孫を褒めるものと似ている。頭を撫でて褒められることなどずっと昔の記憶。それゆえに少し気恥ずかしい面が霧華にはあった。だが太公望が告げた事には近からず遠からず、思い当たる節はある。
「そんなおぬしに嬉しい報せが出ておる。身辺で良い出逢いの兆しがあると。久方ぶりに再会したその者とは気兼ねなく接することが吉のようだ」
「出逢い?」
これは吉報だとニコニコ笑う太公望に対し、霧華はうんと首を捻ってはみるが。先程とは違い、思い当たる節は全くなかった。それどころか出逢いはここ数年求めてもいない。
「思い当たる人がいないわ」
「まじかい」
「ええ。同窓会にもしばらく行っていないし」
どうやら嘘をついている様子はないと察した太公望は大げさに肩をがっくりと落とす。霧華はその意図が分からずに尋ねるも、じと目に睨まれてしまう。
「どうかしましたか?」
「霧華、おぬし鈍いと言われるであろう」
「え、そんなことまで手相に出るんですか。私が運動神経鈍いことも」
今度は盛大な溜息が太公望の口から漏れた。「こいつは難攻不落のようだのう」とぼやいた声は相手に届いてはいなかったよう。
はらり、はらりとファッション雑誌を捲っていた霧華の手がふと止まる。巻末に設けられた定番の占いコーナーに目を留めた。
来月初旬までの運勢が記されたページ。そこから自分の星座を探して五行程の文章を目で追っていく。その姿が太公望には熱心に見えたのか、何を読んでいるのかと霧華の手元を覗き込んだ。
「ほう、占いか。霧華は占いを信じる方か」
そう問いかけてきた太公望に首を捻ってみせる。良いことが書いてあれば信じ、そうでなければ見なかったことにする。今までも大概そうしてきたので、 今日の運勢が一位だったとしても気分が上向きになるだけであった。然り、この手の物にどっぷりとハマッた経験もない。
「良い時は気分が良いけれど、悪い時は見なかったことにしてすぐ忘れてしまうの。つまりはご都合主義、と言えるかもしれませんね」
「おぬしの考えは強ち間違ってはおらんよ。気の持ちようとも言うしのう。気持ちが上向きならば何事も快方へ、逆に暗い気持ちになっていればそれこそ全てが不幸に思えてくるというもの。…まあつまりわしが言いたいのは振り回されずに己が信ずる道を進むのが大事ということだ」
そこで太公望は自身の顎を指の腹で擦る。その所作は長い髭を蓄えた長寿の人がよくやって見せるもの。だが、この青年の顔付きは二十歳にも満たない若々しい見目。言動はこのようにして度々年の深さを感じられる。恐る恐る年齢を尋ねた時は思いの外軽い口調で「三千はとうに超えているのう」と笑っていた。
太公望が雲上の人だと聞かされたのは居候した直後ではなく、つい先日のこと。崇めべき存在だと思い知らされた霧華は軽々しい口を利いては失礼だろうと心に留めていた。
そんな緊張の糸に縛られている霧華をよそに、太公望はこう言った。
「よし、ではわしがおぬしを占ってしんぜよう」
「……占い、できるんですか」
「む、その目は信じておらんな?わしの占いは好評であったぞ、よく当たるとな」
それはそれで畏怖を感じた。この仙人いや本人は道士と言い直していたが、確かに当たりそうだと。
言い淀む霧華に太公望は微笑んでみせた。
「手相を見てやろうかの。手を出してごらん」
左掌を上に向けて遠慮がちに差し出す。その手を指先まで上に向けるように掴み、まじまじと手の皺を見つめる。真剣な表情、その視線がこちらに向いているわけでもないが、徐に緊張感が漂う。
自称占い師は溜息交じりにふうむと唸る。不意に上げられた顔は近く、澄んだ碧色の目に覗き込まれた。
「おぬし、生命線が長いのう」
「はい。よく言われます」
「……しかし、今まで大層苦労してきたようだ。よう頑張ってきた、エライエライ」
いいこ、いいこと霧華の頭を撫でるその表情は幼い孫を褒めるものと似ている。頭を撫でて褒められることなどずっと昔の記憶。それゆえに少し気恥ずかしい面が霧華にはあった。だが太公望が告げた事には近からず遠からず、思い当たる節はある。
「そんなおぬしに嬉しい報せが出ておる。身辺で良い出逢いの兆しがあると。久方ぶりに再会したその者とは気兼ねなく接することが吉のようだ」
「出逢い?」
これは吉報だとニコニコ笑う太公望に対し、霧華はうんと首を捻ってはみるが。先程とは違い、思い当たる節は全くなかった。それどころか出逢いはここ数年求めてもいない。
「思い当たる人がいないわ」
「まじかい」
「ええ。同窓会にもしばらく行っていないし」
どうやら嘘をついている様子はないと察した太公望は大げさに肩をがっくりと落とす。霧華はその意図が分からずに尋ねるも、じと目に睨まれてしまう。
「どうかしましたか?」
「霧華、おぬし鈍いと言われるであろう」
「え、そんなことまで手相に出るんですか。私が運動神経鈍いことも」
今度は盛大な溜息が太公望の口から漏れた。「こいつは難攻不落のようだのう」とぼやいた声は相手に届いてはいなかったよう。