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君の名前を呼ぶ-鏡像-
手の内で輝く水晶体に青年は見惚れていた。仲間が持つ物とは形が少々違い、歪ではあるがこの形と大きさであるからこそ懐かしい感情を抱く。かつてこのクリスタルと共に世界を巡っていたような気さえする。
無機物であるはず水晶に優しい温かさをバッツは感じ取っていた。
「どうしたんだ。浮かない顔しちゃって」
「ジタン。……いや、別にそういう訳じゃないんだけどさ。なんか懐かしくなって。俺の世界にも四つのクリスタルが存在してたんだ」
「四つも?そいつはスゴイな」
「それぞれのクリスタルに風、水、火、土の力が宿ってるんだ。俺は風のクリスタル、探求の心を受け継いだ」
遠い昔を懐かしむように旅人であった青年は哀愁の色を浮かべる。こんな寂しげな様子、行動を共にしてきた中で見たことがなかった。だが、あえてそれには触れずにジタンは話を切り返した。
「そろそろスコールが戻ってくるんじゃないか」
「ああ。いい報告が聞けるといいな」
彼等の仲間の一人である少年がこの先の偵察に赴いていた。目的地に着くまで無駄な体力の消費は避けた方がいい。彼自らの提案だ。どうも運が悪いのか連戦続きなので、避けれる戦闘があるなら避けたいところだと二人も首を縦に振っていた。
そうして待つこと十数分。戻ってきたスコールの顔色からは相も変わらず状況は窺えない。常日頃無表情なのだ。
「お帰り。どうだった」
「言っておくが、あまり良い知らせじゃない」
「……だろうな。この辺り嫌な気が淀んでるし。抜けれそうな道は?」
ジタンが肩をすくめる傍らでスコールは地面に簡易的な地図を描き始めた。木の枝が描く近辺の道を二人が目で追っていく。
一通り描き終えたところでスコールが口を開いた。その説明は前述した通りで、バッツとジタンの眉が同時に顰められた。
「この先にイミテーションが三体。ここを通らない場合は余計な回り道をすることになる。人が通る様な道じゃない」
「それこそ体力が削られちまうな。相手は?」
「こちらに不足はないだろう。……それと、少し離れた先に妙な気配を感じた」
「妙な気配?」
バッツの問いにスコールが首を静かに縦に振る。そして、正体はわからないがと続けた。
「イミテーションの気配じゃない。恐らくは」
「カオス軍の誰か、ってことか。それはちょっとばかし避けたいな今の状況だと」
「だったら行く道は決まったな」
行く先に立ち塞がるイミテーションを倒して進むのみ。そう気合を入れ直したバッツに改めてスコールが声をかけた。しかし、伝えるべきか否か。そう迷っているような様子だ。
「どうしたんだ、スコール」
「バッツが前に話していた、白魔導士の件だ」
「何かわかったのか」
食い気味に一歩前へ。それが期待していた情報と違うと気づいたのは、重い溜息が聞こえてから。
「この先のイミテーションに白魔導士も居た」
「……イミテーションの方か」
「そういえば俺とスコールはその偽物と戦ったことはあるけど、バッツはまだなんだよな」
「単騎としては驚異じゃないが、補助に回られると厄介だ」
「了解。……どこに居るんだろうな」
青年が寂し気に呟いたその言葉は二人の耳に痛々しく届いた。
先日、バッツが出逢ったという女性の白魔導士。こちらの仲間内に居るという情報は確かだが、それ以来本人の姿を見ていない。その時はあまりに深刻そうに話していたので、一体誰なんだとジタンは彼に聞いたことがあった。バッツはその人の名前は思い出せないが、大事な人だと答えた。もう一度会えば全部思い出せる気がするとも言う。だが、その機会が一向に訪れる兆しがない。
いつか会えると励ましてきた二人だが、日に日に増していく胸騒ぎが彼らの頭を悩ませていた。
先を歩くバッツの後方に居たジタンは胸の蟠りを隣へと打ち明ける様に口を開いた。
「白魔導士が単独で行動してるなんて、普通考えられないよな」
「そうなのか」
「ああ。俺達と違って力じゃなく、自分の魔力で戦う。でも、黒魔導士ならともかく回復と補助メインじゃ勝ちは難しい。攻撃魔法もあるにはあるけどさ」
「詳しいんだな」
「俺の世界にも居るからな。……けどさ、なんか違和感あるんだよな。バッツの話聞いた時から」
「ああ。奇妙な話だ。会ったことが無い筈なのに、胸の奥が熱いんだ」
それが何かを訴えかけているような気がするとスコールは左胸に手を添えた。それを聞いたジタンの口元が緩む。どうやら自分だけが違和感を覚えていたわけじゃない。これが何なのか今はわからなくとも、いずれわかる。そんな気がしていた。
スコールの肩に腕を回し、逆の腕でバッツの肩を巻き込もうとしたが、敵の気配に歩みを止めることとなった。
「おいおい、マジかよ。向こうからお出迎えってか。人気者は辛いねえ」
「スコール。こいつらさっき言ってたやつか?」
「ああ。どうやらそのようだ」
前方の道を塞ぐ三体のイミテーション。前衛には大剣を担いだ兵士、もう一人は兜と鎧に身を包む戦士。そして後衛に白魔導士の姿。スコールの言った通り相手に不足はなさそうだ。
各々獲物を構える中、ジタンは手の内でダガーナイフをくるりと遊ばせる。
「さっさと片付けちまおうぜ」
「いい機会だし、俺が後衛を叩く。ジタン、どっちが先に倒すか勝負だ!」
「負けねえぜ!」
意気揚々と向かっていく二人をよそに癌ブレードを携えて佇むスコール。戦況を見極めていた彼は己に狙いを定めてきた兵士の攻撃を薙ぎ払った。直後、前衛二体を包む光のシールド。後衛に居た白魔導士が二体のイミテーションにプロテスをかけたようだ
ジタンとスコールが前衛の相手をしている隙にバッツが白魔道士の前へと距離を詰める。相手は攻撃に備えて杖で身構えた。
彼は剣を振るうと見せかけて、フェイントを仕掛ける。相手の出方を窺っていた。戦法を知っておけば後々楽になる。そう考えての行動だったが、それが仇になってしまったようだ。
白魔法の連続魔法。しかも至近距離から幾つもの光の球体がバッツに降り注いできた。寸での所で避けきるが、その間に防御魔法のシールドをかける余裕を与えてしまう。自分が早く倒さなければ後の二人にも負担がかかる。だが、白魔法の攻撃手段がホーリーだとわかっただけでも大きな収穫。
戦闘を長引かせるわけにもいかない。意を決したバッツは一気に相手の懐に攻め込んだ。
眼前で愛剣を振るおうとした。その瞬間、腕が鉛のように重くなった。腕だけではない、体全体の動きが鈍くなる。鈍足の魔法を掛けられたバッツの双眼に映ったのは詠唱を終えた白魔導士の姿。光のないその目と視線が合う。先日出逢った本物の白魔導士と表情が重なった。この状態で一瞬の迷いは命取り。次の行動に移せずにいるバッツに相手は容赦も情けもない。次の詠唱が終わるまでに判断を急がなければ。
白魔法のホーリーが発動するのと、バッツが防御の構えを取ったのはほぼ同時であった。
爆発音が空中に響き渡る。その音にジタンとスコールが振り向いた。濛々と煙立つフィールドに膝を折っているバッツと白魔導士のイミテーション。直撃は免れたが、ダメージはかなりのものだ。
長剣を地面に突き刺し、己の身体を支えているバッツに向けてスコールが叫んだ。
「バッツ!何をしている!」
よもやイミテーションに情でも沸いたのか。今の今まで、例え姿形が仲間と似ていても躊躇いなく戦ってきた彼が。万が一戦力を削がれているならば、早々に目前の決着をつけてアシストに向かわなければ。その思いでスコールは目の前のイミテーションに剣を振るった。
一方、仲間からの怒声を聞いたバッツは口元の血を手の甲で拭い払い「わかってる」と声を出さずに仲間へ返した。
スロウの効力は切れかけている。幸い、向こうはこちらの出方を窺っているのかその場に留まっていた。この効力が切れたと同時に踏み込んで相手を砕くしか術はなさそうだ。詠唱が終わるのが先か、攻撃を仕掛けるのが先か。一種の賭け事だなと思いながらバッツは体勢を整えた。
数分後、先に動いたのはバッツだった。地面を力強く蹴り、白魔導士の眼前まで踏み込んで上空へ高く跳ぶ。詠唱を始めようとした相手の動きが一度止まる。標的を失ったせいか、戸惑っている様子だった。
バッツは身を翻して相手の背後に回る。彼女が振り向くより先に渾身の一撃を叩き込んだ。硝子のようにイミテーションの体が砕け散る。キラキラとした細かい破片が宙に舞い、消えていく。
呼吸が荒く、肩も上下している。手が震えていた。体力の消耗が激しいせいだ。そうに違いない。バッツは目を瞑り、そう言い聞かせながら呼吸を整えていた。
ごめんなさい。
微かに聞こえた声にハッと目を開ける。振り向いた所でそこには誰の姿も無い。
だが、さっきのは決して空耳ではなかった。確かにこの耳に届いた声。
バッツは悪態をついた後に顔面を手の平で覆った。
手の内で輝く水晶体に青年は見惚れていた。仲間が持つ物とは形が少々違い、歪ではあるがこの形と大きさであるからこそ懐かしい感情を抱く。かつてこのクリスタルと共に世界を巡っていたような気さえする。
無機物であるはず水晶に優しい温かさをバッツは感じ取っていた。
「どうしたんだ。浮かない顔しちゃって」
「ジタン。……いや、別にそういう訳じゃないんだけどさ。なんか懐かしくなって。俺の世界にも四つのクリスタルが存在してたんだ」
「四つも?そいつはスゴイな」
「それぞれのクリスタルに風、水、火、土の力が宿ってるんだ。俺は風のクリスタル、探求の心を受け継いだ」
遠い昔を懐かしむように旅人であった青年は哀愁の色を浮かべる。こんな寂しげな様子、行動を共にしてきた中で見たことがなかった。だが、あえてそれには触れずにジタンは話を切り返した。
「そろそろスコールが戻ってくるんじゃないか」
「ああ。いい報告が聞けるといいな」
彼等の仲間の一人である少年がこの先の偵察に赴いていた。目的地に着くまで無駄な体力の消費は避けた方がいい。彼自らの提案だ。どうも運が悪いのか連戦続きなので、避けれる戦闘があるなら避けたいところだと二人も首を縦に振っていた。
そうして待つこと十数分。戻ってきたスコールの顔色からは相も変わらず状況は窺えない。常日頃無表情なのだ。
「お帰り。どうだった」
「言っておくが、あまり良い知らせじゃない」
「……だろうな。この辺り嫌な気が淀んでるし。抜けれそうな道は?」
ジタンが肩をすくめる傍らでスコールは地面に簡易的な地図を描き始めた。木の枝が描く近辺の道を二人が目で追っていく。
一通り描き終えたところでスコールが口を開いた。その説明は前述した通りで、バッツとジタンの眉が同時に顰められた。
「この先にイミテーションが三体。ここを通らない場合は余計な回り道をすることになる。人が通る様な道じゃない」
「それこそ体力が削られちまうな。相手は?」
「こちらに不足はないだろう。……それと、少し離れた先に妙な気配を感じた」
「妙な気配?」
バッツの問いにスコールが首を静かに縦に振る。そして、正体はわからないがと続けた。
「イミテーションの気配じゃない。恐らくは」
「カオス軍の誰か、ってことか。それはちょっとばかし避けたいな今の状況だと」
「だったら行く道は決まったな」
行く先に立ち塞がるイミテーションを倒して進むのみ。そう気合を入れ直したバッツに改めてスコールが声をかけた。しかし、伝えるべきか否か。そう迷っているような様子だ。
「どうしたんだ、スコール」
「バッツが前に話していた、白魔導士の件だ」
「何かわかったのか」
食い気味に一歩前へ。それが期待していた情報と違うと気づいたのは、重い溜息が聞こえてから。
「この先のイミテーションに白魔導士も居た」
「……イミテーションの方か」
「そういえば俺とスコールはその偽物と戦ったことはあるけど、バッツはまだなんだよな」
「単騎としては驚異じゃないが、補助に回られると厄介だ」
「了解。……どこに居るんだろうな」
青年が寂し気に呟いたその言葉は二人の耳に痛々しく届いた。
先日、バッツが出逢ったという女性の白魔導士。こちらの仲間内に居るという情報は確かだが、それ以来本人の姿を見ていない。その時はあまりに深刻そうに話していたので、一体誰なんだとジタンは彼に聞いたことがあった。バッツはその人の名前は思い出せないが、大事な人だと答えた。もう一度会えば全部思い出せる気がするとも言う。だが、その機会が一向に訪れる兆しがない。
いつか会えると励ましてきた二人だが、日に日に増していく胸騒ぎが彼らの頭を悩ませていた。
先を歩くバッツの後方に居たジタンは胸の蟠りを隣へと打ち明ける様に口を開いた。
「白魔導士が単独で行動してるなんて、普通考えられないよな」
「そうなのか」
「ああ。俺達と違って力じゃなく、自分の魔力で戦う。でも、黒魔導士ならともかく回復と補助メインじゃ勝ちは難しい。攻撃魔法もあるにはあるけどさ」
「詳しいんだな」
「俺の世界にも居るからな。……けどさ、なんか違和感あるんだよな。バッツの話聞いた時から」
「ああ。奇妙な話だ。会ったことが無い筈なのに、胸の奥が熱いんだ」
それが何かを訴えかけているような気がするとスコールは左胸に手を添えた。それを聞いたジタンの口元が緩む。どうやら自分だけが違和感を覚えていたわけじゃない。これが何なのか今はわからなくとも、いずれわかる。そんな気がしていた。
スコールの肩に腕を回し、逆の腕でバッツの肩を巻き込もうとしたが、敵の気配に歩みを止めることとなった。
「おいおい、マジかよ。向こうからお出迎えってか。人気者は辛いねえ」
「スコール。こいつらさっき言ってたやつか?」
「ああ。どうやらそのようだ」
前方の道を塞ぐ三体のイミテーション。前衛には大剣を担いだ兵士、もう一人は兜と鎧に身を包む戦士。そして後衛に白魔導士の姿。スコールの言った通り相手に不足はなさそうだ。
各々獲物を構える中、ジタンは手の内でダガーナイフをくるりと遊ばせる。
「さっさと片付けちまおうぜ」
「いい機会だし、俺が後衛を叩く。ジタン、どっちが先に倒すか勝負だ!」
「負けねえぜ!」
意気揚々と向かっていく二人をよそに癌ブレードを携えて佇むスコール。戦況を見極めていた彼は己に狙いを定めてきた兵士の攻撃を薙ぎ払った。直後、前衛二体を包む光のシールド。後衛に居た白魔導士が二体のイミテーションにプロテスをかけたようだ
ジタンとスコールが前衛の相手をしている隙にバッツが白魔道士の前へと距離を詰める。相手は攻撃に備えて杖で身構えた。
彼は剣を振るうと見せかけて、フェイントを仕掛ける。相手の出方を窺っていた。戦法を知っておけば後々楽になる。そう考えての行動だったが、それが仇になってしまったようだ。
白魔法の連続魔法。しかも至近距離から幾つもの光の球体がバッツに降り注いできた。寸での所で避けきるが、その間に防御魔法のシールドをかける余裕を与えてしまう。自分が早く倒さなければ後の二人にも負担がかかる。だが、白魔法の攻撃手段がホーリーだとわかっただけでも大きな収穫。
戦闘を長引かせるわけにもいかない。意を決したバッツは一気に相手の懐に攻め込んだ。
眼前で愛剣を振るおうとした。その瞬間、腕が鉛のように重くなった。腕だけではない、体全体の動きが鈍くなる。鈍足の魔法を掛けられたバッツの双眼に映ったのは詠唱を終えた白魔導士の姿。光のないその目と視線が合う。先日出逢った本物の白魔導士と表情が重なった。この状態で一瞬の迷いは命取り。次の行動に移せずにいるバッツに相手は容赦も情けもない。次の詠唱が終わるまでに判断を急がなければ。
白魔法のホーリーが発動するのと、バッツが防御の構えを取ったのはほぼ同時であった。
爆発音が空中に響き渡る。その音にジタンとスコールが振り向いた。濛々と煙立つフィールドに膝を折っているバッツと白魔導士のイミテーション。直撃は免れたが、ダメージはかなりのものだ。
長剣を地面に突き刺し、己の身体を支えているバッツに向けてスコールが叫んだ。
「バッツ!何をしている!」
よもやイミテーションに情でも沸いたのか。今の今まで、例え姿形が仲間と似ていても躊躇いなく戦ってきた彼が。万が一戦力を削がれているならば、早々に目前の決着をつけてアシストに向かわなければ。その思いでスコールは目の前のイミテーションに剣を振るった。
一方、仲間からの怒声を聞いたバッツは口元の血を手の甲で拭い払い「わかってる」と声を出さずに仲間へ返した。
スロウの効力は切れかけている。幸い、向こうはこちらの出方を窺っているのかその場に留まっていた。この効力が切れたと同時に踏み込んで相手を砕くしか術はなさそうだ。詠唱が終わるのが先か、攻撃を仕掛けるのが先か。一種の賭け事だなと思いながらバッツは体勢を整えた。
数分後、先に動いたのはバッツだった。地面を力強く蹴り、白魔導士の眼前まで踏み込んで上空へ高く跳ぶ。詠唱を始めようとした相手の動きが一度止まる。標的を失ったせいか、戸惑っている様子だった。
バッツは身を翻して相手の背後に回る。彼女が振り向くより先に渾身の一撃を叩き込んだ。硝子のようにイミテーションの体が砕け散る。キラキラとした細かい破片が宙に舞い、消えていく。
呼吸が荒く、肩も上下している。手が震えていた。体力の消耗が激しいせいだ。そうに違いない。バッツは目を瞑り、そう言い聞かせながら呼吸を整えていた。
ごめんなさい。
微かに聞こえた声にハッと目を開ける。振り向いた所でそこには誰の姿も無い。
だが、さっきのは決して空耳ではなかった。確かにこの耳に届いた声。
バッツは悪態をついた後に顔面を手の平で覆った。