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名前変換
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君の名前を呼ぶ-呼声-
「あてのない旅は得意とはいえ……どこ行こうか?」
薄い空色のマントを風に翻し、青年はぽつりと呟いた。今しがた別れた盗賊の少年と勝負の真っ最中ではあったが、目的の物が何処にあるのか全く見当はついていない。そもそも、探しているクリスタルの形状も知らない。青年の世界では掌に収まる欠片ほどの大きさではあったが、ここでもそうとは限らないだろう。
参ったな。青年は頭を掻きながらその場に立ち止まっていた。
風の赴くままに進もうかと決心したその時。
「来ないで!」
若い女性の叫び声が聞こえた。反響からして青年が居る場所からそう遠くない。
叫び声を聞いた青年は声の方向へ急いで駆けていった。
イミテーションに襲われているのかと思いきや、それ以上に厄介な存在が白魔導士のローブにフードで顔を覆っている女性を襲っていた。白魔法のリフレクで何とか持ちこたえているようだが、相手の攻撃は既に女性を追い詰めていた。
金色の髪に同色の鎧を着た目つきの悪い男。青年と敵対する勢力の者だった。地面に描かれた紋章が光輝き、発生した光弾が魔法のシールドに降り注いだ。それを防ぐのに手一杯で、男に絶好のチャンスを与えてしまった。杖を構え、女性に向かっていく。ここで叩き込まれては防ぎようがない。
青年は風を切って二人の間に割り込み、瞬時に生成した長剣で男の攻撃を受け止めた。
キンッ。
男は獲物を狩る事を邪魔されたのが相当気に喰わない様子だ。すっと目を細めて青年を睨み付けていた。お互いに力で押し合いをしていたのも束の間。先に引いたのは意外にも男の方であった。後方に飛び退いて、青年からの追撃を免れる。
「……ほう。騎士が現れたか。だが、所詮は虫けら同然」
「誰が虫けらだ!」
「ふ。せいぜい虫けら同士手を取り合うがいい」
戦いから手を引いた男が姿を一瞬にしてくらました。狙いはこの白魔導士ではないのか。随分とあっさり手を引いたものだ。それとも、青年の出現により分が悪いと冷静な判断をしたのか。青年は己の剣の生成を解き、腰を抜かしてへたり込む女性に手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
青年の手を掴んだ女性の体がぐっと引き起こされる。女性は土埃で汚れたローブを手で叩き落とした。青年は呆れに近い溜息を吐いた。良く言えば大胆、悪く言えば随分無謀な行動をこの女性はしていた。魔導士が発揮できる力は魔法。先ほどのように力で押し切られたらお終いだ。
「君、一人なのか。白魔導士が単独行動なんて危険……?」
そう言いかけて青年は口をつぐんだ。白いフードを取り払った女性の顔を見て固まる。青年の琥珀色の瞳に見つめられた女性はゆっくりと瞬きをした。瞳孔が僅かに見開く。
お互いに初対面のはずだった。それでも他人という感じがしない。青年は秩序の聖域で白魔導士の姿を見かけていなかった。だが、白魔法を使う時点で敵勢力とは考えにくい。現に、その勢力と衝突していたではないか。偶々、見かけていなかったのだろうか。それにしても、この心臓を鷲掴みにされたような感覚はなんなのか。
女性が顔を背けた時、耳元で小ぶりのイヤリングが揺れた。青いクリスタルに光が反射してきらりと輝く。それを見た青年の心臓が一段と跳ねた。
「あ、っと。……あの、さ。変な事聞くけど、俺達どっかで会ったこと」
「…ごめんなさい!先を急ぐので」
フードを深々と被り直した女性は青年の横をすり抜けていった。足早に去っていった女性に声をかける暇もない。届かなかった青年の手が宙をむなしく掴む。
見覚えのある顔だった。だが、どこでどう知り合ったのか思い出せない。あやふやになっていた記憶が更に混乱を招いている。一体、あの白魔導士は誰なのか。
青年は項垂れるように足元に目を落とした。そこに青いイヤリングが落ちていることに気が付く。さっきの女性が落としていったものだ。それを拾い上げて、掌に乗せた。その時だった。
キーンという酷い耳鳴りが聞こえてきた。頭の中にガンガンと響くそれに耐えられず、膝を折って両耳を手で覆う。それと同時に頭に流れ込んでくるモノ。まるで走馬灯のように次々と映像が通り過ぎていった。髪の長い女性。振り向いたその人は青年に向かって微笑んでいた。それだけではない。泣いたり、怒ったり、拗ねたり。ころころと変わる表情が懐かしい。
彼女の優しい声が聞こえた。
バッツ
呼ばれた声に体を起こした。不思議なことに耳鳴りはウソのように治まった。押し寄せていた映像の波も今は穏やかになった。だが、周囲を見渡しても居るのは青年のみ。空耳で片づけるには納得がいかない。それだけはっきりと声が届いていた。それが誰なのか、確か自分にとって大事な人だったということはわかる。しかし、名前が思い出せない。喉まで出かかっているというのに。
手の内にある小さなイヤリングの片割れ。これはあの時彼女にプレゼントしたもので、嬉しそうに顔を綻ばせていた。あの笑顔が好きだった。
「どうして忘れてたんだ。……ダメだろ、忘れたら」
イヤリングのある掌をそっと握りしめ、自分に言い聞かせるように青年は呟いた。
彼女がこの場を去ってからまだそれほど経っていない。追いかければまだ間に合う。
「これも返さないとな」
「あてのない旅は得意とはいえ……どこ行こうか?」
薄い空色のマントを風に翻し、青年はぽつりと呟いた。今しがた別れた盗賊の少年と勝負の真っ最中ではあったが、目的の物が何処にあるのか全く見当はついていない。そもそも、探しているクリスタルの形状も知らない。青年の世界では掌に収まる欠片ほどの大きさではあったが、ここでもそうとは限らないだろう。
参ったな。青年は頭を掻きながらその場に立ち止まっていた。
風の赴くままに進もうかと決心したその時。
「来ないで!」
若い女性の叫び声が聞こえた。反響からして青年が居る場所からそう遠くない。
叫び声を聞いた青年は声の方向へ急いで駆けていった。
イミテーションに襲われているのかと思いきや、それ以上に厄介な存在が白魔導士のローブにフードで顔を覆っている女性を襲っていた。白魔法のリフレクで何とか持ちこたえているようだが、相手の攻撃は既に女性を追い詰めていた。
金色の髪に同色の鎧を着た目つきの悪い男。青年と敵対する勢力の者だった。地面に描かれた紋章が光輝き、発生した光弾が魔法のシールドに降り注いだ。それを防ぐのに手一杯で、男に絶好のチャンスを与えてしまった。杖を構え、女性に向かっていく。ここで叩き込まれては防ぎようがない。
青年は風を切って二人の間に割り込み、瞬時に生成した長剣で男の攻撃を受け止めた。
キンッ。
男は獲物を狩る事を邪魔されたのが相当気に喰わない様子だ。すっと目を細めて青年を睨み付けていた。お互いに力で押し合いをしていたのも束の間。先に引いたのは意外にも男の方であった。後方に飛び退いて、青年からの追撃を免れる。
「……ほう。騎士が現れたか。だが、所詮は虫けら同然」
「誰が虫けらだ!」
「ふ。せいぜい虫けら同士手を取り合うがいい」
戦いから手を引いた男が姿を一瞬にしてくらました。狙いはこの白魔導士ではないのか。随分とあっさり手を引いたものだ。それとも、青年の出現により分が悪いと冷静な判断をしたのか。青年は己の剣の生成を解き、腰を抜かしてへたり込む女性に手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
青年の手を掴んだ女性の体がぐっと引き起こされる。女性は土埃で汚れたローブを手で叩き落とした。青年は呆れに近い溜息を吐いた。良く言えば大胆、悪く言えば随分無謀な行動をこの女性はしていた。魔導士が発揮できる力は魔法。先ほどのように力で押し切られたらお終いだ。
「君、一人なのか。白魔導士が単独行動なんて危険……?」
そう言いかけて青年は口をつぐんだ。白いフードを取り払った女性の顔を見て固まる。青年の琥珀色の瞳に見つめられた女性はゆっくりと瞬きをした。瞳孔が僅かに見開く。
お互いに初対面のはずだった。それでも他人という感じがしない。青年は秩序の聖域で白魔導士の姿を見かけていなかった。だが、白魔法を使う時点で敵勢力とは考えにくい。現に、その勢力と衝突していたではないか。偶々、見かけていなかったのだろうか。それにしても、この心臓を鷲掴みにされたような感覚はなんなのか。
女性が顔を背けた時、耳元で小ぶりのイヤリングが揺れた。青いクリスタルに光が反射してきらりと輝く。それを見た青年の心臓が一段と跳ねた。
「あ、っと。……あの、さ。変な事聞くけど、俺達どっかで会ったこと」
「…ごめんなさい!先を急ぐので」
フードを深々と被り直した女性は青年の横をすり抜けていった。足早に去っていった女性に声をかける暇もない。届かなかった青年の手が宙をむなしく掴む。
見覚えのある顔だった。だが、どこでどう知り合ったのか思い出せない。あやふやになっていた記憶が更に混乱を招いている。一体、あの白魔導士は誰なのか。
青年は項垂れるように足元に目を落とした。そこに青いイヤリングが落ちていることに気が付く。さっきの女性が落としていったものだ。それを拾い上げて、掌に乗せた。その時だった。
キーンという酷い耳鳴りが聞こえてきた。頭の中にガンガンと響くそれに耐えられず、膝を折って両耳を手で覆う。それと同時に頭に流れ込んでくるモノ。まるで走馬灯のように次々と映像が通り過ぎていった。髪の長い女性。振り向いたその人は青年に向かって微笑んでいた。それだけではない。泣いたり、怒ったり、拗ねたり。ころころと変わる表情が懐かしい。
彼女の優しい声が聞こえた。
バッツ
呼ばれた声に体を起こした。不思議なことに耳鳴りはウソのように治まった。押し寄せていた映像の波も今は穏やかになった。だが、周囲を見渡しても居るのは青年のみ。空耳で片づけるには納得がいかない。それだけはっきりと声が届いていた。それが誰なのか、確か自分にとって大事な人だったということはわかる。しかし、名前が思い出せない。喉まで出かかっているというのに。
手の内にある小さなイヤリングの片割れ。これはあの時彼女にプレゼントしたもので、嬉しそうに顔を綻ばせていた。あの笑顔が好きだった。
「どうして忘れてたんだ。……ダメだろ、忘れたら」
イヤリングのある掌をそっと握りしめ、自分に言い聞かせるように青年は呟いた。
彼女がこの場を去ってからまだそれほど経っていない。追いかければまだ間に合う。
「これも返さないとな」