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この感情が嫉妬より醜いものだと気づいたのはいつだったか。
少し高い場所から気づかれないよう、下にいる二人を眺めていた。
キリカとフリオニールの関係は進展するのが意外にも遅かった。友達以上恋人未満のような関係を続けている。
恋愛感情を抱いているのはフリオニールの方だ。顔を赤らめているからわかる。
どうして隣にあいつがいるんだ。そこは俺の場所だ。退いてくれ。
それとも二人が恋人関係になってしまえば、諦められるのだろうか。
いや、無理だ。
思いの外どろどろになった真っ黒い塊が胸の内で渦巻いているから。
その時はきっと、仲間を手にかけてしまう。
瓦礫に足を投げ出すように座り、頬杖をつく。
二人は笑いあっていた。また、胸の中がちくりと痛む。
「おやおや、旅芸人の方。随分とくらーい顔してらっしゃいますねえ。何を見て……ほほー、なるほど」
「何しに来たんだケフカ」
気配を消してやって来たのか、俺の背後をちょこまかと動きまわる。
芝居染みた言い回しが今は癪に障って仕方がない。
俺の肩に白い両手を乗せる。それを振り払うのも面倒でそのままにしていた。
「これは可哀想に…愛する人を奪われてしまったようだ。悔しいでしょうねえ、苦しいでしょう、憎いでしょう。貴方の内側から禍々しいオーラが滲み出ている」
「うるさい」
「自分に正直になったらどうです?本当はヤツを殺したくて仕方ない。八つ裂きにしてしまいたい。そう思っているはずでしょう。ひっひっひっ」
もううんざりだ。聞きたくもない。
心の隙間に入り込もうとしてくるケフカの言葉に耳を貸したくない。
この道化師は悪魔のように囁いてきた。
「まあ、秩序側に居てはそれも出来ないでしょう。仲間を裏切ることになる。ならば、貴方がこちら側へ来ればいい。そうすれば心置きなくヤツをぶち殺す事ができる。そして、彼女を取り戻す事ができる。一石二鳥ではないですか。ヒョヒョヒョ!」
肩に留まる目障りな手を振り払う。その場から俺は立ち去ろうとした。
いくら誘われようと、俺は。
「俺はそっち側に行くつもりはない。これ以上此処に居るならお前を八つ裂きにするぞ」
「おおっコワイコワイ」
ケフカを睨みつけると、奴は身軽にくるりと体を翻して消えた。
心の中を見透かされる程、俺の態度は表に出ているんだろうか。
頭を抱えたくなるこの問題をいつになれば解決できる。
自分の気持ちを殺し続けるのもそろそろ限界なんだ。
*
進軍中に出くわしたイミテーション三体。
それぞれの獲物を手に戦闘体勢へと移る。スコールの声と同時にそれぞれ散っていった。
スコールは左、ジタンは右。俺は中央のイミテーションに先手を打った。
一撃でやられるようなヤワな相手ではないようだ。イミテーションの攻撃を颯爽とかわし、相手の懐へ飛び込む。
低い唸り声を上げた相手の体が細かい光の粒になって消えていった。
二人も難なく敵を倒し、これで終了かと思いきや前方から別の来客が現れた。
「まだいたか。バッツ、あんたは後方を頼む、囲まれたら厄介だ。俺とジタンで前を守る」
「了解、班長」
「束になってかかってきたって、勝つのは俺たちだ!いくぜ、スコール」
前方へ駆けて行く二人を見送りつつ、俺は後方へ。
スコールの読みどおり、俺たちを囲もうとしていたようだ。イミテーションがさらに三体じりじりと迫っていた。
俺を狙いに来た二体を一気に仕留め、残りの一体に目を向ける。おかしい、相手の注意は完全に俺から外れている。
あの視線の先は、まずい。キリカだ。あいつ、武器を持たないキリカを狙っている。
急いで彼女の元へ走るも、既に追い詰めていたイミテーションは刀を振り下ろそうとしていた。頼む、間に合ってくれ。
金属同士のぶつかり合う音、細身の刀に込められた力は重い。
寸でのところで間に合ったがよりによってセフィロスのイミテーションだ。一筋縄じゃいかないことは分かっている。
けど、ここで引くワケにもいかない。数回斬り込めば勝てる相手だ。命中すればの話だけどな。
相手の重い攻撃を弾きながらキリカを庇う。こいつ、執拗にキリカを狙ってくる。
これじゃあ相手の気を逸らし、ここから離れさせることもできなさそうだ。
「……っ。キリカに手出したきゃ、まず俺を倒してからにしろよ」
刹那、セフィロスのイミテーションが薄ら笑いを浮かべた。背筋に悪寒が走る。
剣が受けていた重みを感じなくなった。やばい。一度刀を引いたイミテーションは真っ直ぐに突き刺してきた。
左肩にその刀が深く喰い込む。苦痛が口から漏れた。両足を踏ん張り、倒れることは回避したけど、これ貫通しているな。
どくどくと痛みが肩に集中し始める。彼女の悲鳴が聞こえた。
ただやられるわけじゃない。この絶好のチャンスを俺は逃さなかった。
「捕まえたぜ」
左肩に突き刺さっている刀の刀身を右手で掴む。力を入れると手の平から血が伝って流れ出した。
相手の動きさえ止めてしまえば、確実に仕留められる。俺は刀を引き抜いてすぐに魔法を相手に叩き込み、追撃をする。
「……消えろっ!」
空中に放り出された体は反り返っていた。そのまま光となって散っていく。
地面に足をつけた俺はそのまま膝をついた。剣を支えになんとか意識を保っていた。
予想以上に出血量が多くて、目眩さえする。傷口から流れ出た血で衣服が赤く染まっていく。
「バッツ…バッツ!大丈夫、早く手当てしなきゃ…!」
そう喚く彼女を制した。このぐらいの傷、致命傷じゃない。
弾んだ息で俺がそう言えば、キリカの瞳が潤んだ気がした。
「バッツ、お願いだから。手当てさせて…じゃないと、貴方死んでしまう」
「……これよりも、こっちの方が重症、だけどな」
皮肉交じりに掌を自分の胸に当て、血を拭った。
ふっと気を抜くと体を支えていた剣が空間に消える。地面に倒れ込む覚悟をしていたけど、俺の身体はキリカの腕に受け止められた。
そのまま縋るように彼女の背に腕を回す。肩に顔をうずめて、胸に溜め込んでいた息を吐き出す。
「……キリカは俺が死んだら、悲しい?」
「ばかっ。何言ってるのそんなの当たり前じゃない!私の前から居なくならないで、お願い……もう、二度と」
ぎゅっと抱き返されると傷口が痛む代わりにすっと胸のわだかまりが溶けていった。
捨てようにも捨てられない、この気持ちは。
「キリカ」
掠めるように唇を重ねて、意識はそこで途切れた。
血を流しすぎた、な。
*
声が聞こえた。話し声だ。くぐもっているせいで話の内容はわからない。
額に温かい手が触れた気がする。髪を撫でる手つきが気持ちいい。
その手に触れたくて、手を伸ばした。
「良かった。気がついた」
瞼が重い。押し上げるように開けた視界の先に安堵の笑みを浮かべるキリカが居た。俺の頭は彼女の膝に乗っていた。
俺の手を握り返してやんわり微笑む。
「気分はどう、どこか痛む所ない?」
「……傷が、消えてる…?」
左肩と右掌を負傷したはずだ。痛みどころか傷口も見当たらなかった。
掌を呆然と見つめていると可愛らしい笑い声が聞こえた。
「不思議そうね。私が白魔法で治した、って言ったら驚く?」
「……へ?」
前に「私の世界には魔法は存在してない」と言っていたはず。
その世界に住んでいたキリカが白魔法で傷を癒した。一体どういうことなんだ。
「セシルたちに習ったのよ。素質があるって言われたわ。…私も、いつまでも足手まといでいたくないから。それに」
最近の貴方は傷を作ってばかりだったから、余計に心配で。
その目は哀の色に染まっていた。無謀な戦い方が気づかないうちに悲しませていたんだとこの時知った。
癒された右手を伸ばして頬に触れる。まるで触れた指先から癒されているような気さえした。
「なんだかこうやって話すの久しぶりね」
「そうだな」
「…ごめんなさい。バッツのこと思い出せなくて。怒ってる、でしょ」
「もう怒ってない。こっちこそごめん。避けるような真似して」
また逢えてよかった。
その言葉に俺達は笑い合った。
この感情が嫉妬より醜いものだと気づいたのはいつだったか。
少し高い場所から気づかれないよう、下にいる二人を眺めていた。
キリカとフリオニールの関係は進展するのが意外にも遅かった。友達以上恋人未満のような関係を続けている。
恋愛感情を抱いているのはフリオニールの方だ。顔を赤らめているからわかる。
どうして隣にあいつがいるんだ。そこは俺の場所だ。退いてくれ。
それとも二人が恋人関係になってしまえば、諦められるのだろうか。
いや、無理だ。
思いの外どろどろになった真っ黒い塊が胸の内で渦巻いているから。
その時はきっと、仲間を手にかけてしまう。
瓦礫に足を投げ出すように座り、頬杖をつく。
二人は笑いあっていた。また、胸の中がちくりと痛む。
「おやおや、旅芸人の方。随分とくらーい顔してらっしゃいますねえ。何を見て……ほほー、なるほど」
「何しに来たんだケフカ」
気配を消してやって来たのか、俺の背後をちょこまかと動きまわる。
芝居染みた言い回しが今は癪に障って仕方がない。
俺の肩に白い両手を乗せる。それを振り払うのも面倒でそのままにしていた。
「これは可哀想に…愛する人を奪われてしまったようだ。悔しいでしょうねえ、苦しいでしょう、憎いでしょう。貴方の内側から禍々しいオーラが滲み出ている」
「うるさい」
「自分に正直になったらどうです?本当はヤツを殺したくて仕方ない。八つ裂きにしてしまいたい。そう思っているはずでしょう。ひっひっひっ」
もううんざりだ。聞きたくもない。
心の隙間に入り込もうとしてくるケフカの言葉に耳を貸したくない。
この道化師は悪魔のように囁いてきた。
「まあ、秩序側に居てはそれも出来ないでしょう。仲間を裏切ることになる。ならば、貴方がこちら側へ来ればいい。そうすれば心置きなくヤツをぶち殺す事ができる。そして、彼女を取り戻す事ができる。一石二鳥ではないですか。ヒョヒョヒョ!」
肩に留まる目障りな手を振り払う。その場から俺は立ち去ろうとした。
いくら誘われようと、俺は。
「俺はそっち側に行くつもりはない。これ以上此処に居るならお前を八つ裂きにするぞ」
「おおっコワイコワイ」
ケフカを睨みつけると、奴は身軽にくるりと体を翻して消えた。
心の中を見透かされる程、俺の態度は表に出ているんだろうか。
頭を抱えたくなるこの問題をいつになれば解決できる。
自分の気持ちを殺し続けるのもそろそろ限界なんだ。
*
進軍中に出くわしたイミテーション三体。
それぞれの獲物を手に戦闘体勢へと移る。スコールの声と同時にそれぞれ散っていった。
スコールは左、ジタンは右。俺は中央のイミテーションに先手を打った。
一撃でやられるようなヤワな相手ではないようだ。イミテーションの攻撃を颯爽とかわし、相手の懐へ飛び込む。
低い唸り声を上げた相手の体が細かい光の粒になって消えていった。
二人も難なく敵を倒し、これで終了かと思いきや前方から別の来客が現れた。
「まだいたか。バッツ、あんたは後方を頼む、囲まれたら厄介だ。俺とジタンで前を守る」
「了解、班長」
「束になってかかってきたって、勝つのは俺たちだ!いくぜ、スコール」
前方へ駆けて行く二人を見送りつつ、俺は後方へ。
スコールの読みどおり、俺たちを囲もうとしていたようだ。イミテーションがさらに三体じりじりと迫っていた。
俺を狙いに来た二体を一気に仕留め、残りの一体に目を向ける。おかしい、相手の注意は完全に俺から外れている。
あの視線の先は、まずい。キリカだ。あいつ、武器を持たないキリカを狙っている。
急いで彼女の元へ走るも、既に追い詰めていたイミテーションは刀を振り下ろそうとしていた。頼む、間に合ってくれ。
金属同士のぶつかり合う音、細身の刀に込められた力は重い。
寸でのところで間に合ったがよりによってセフィロスのイミテーションだ。一筋縄じゃいかないことは分かっている。
けど、ここで引くワケにもいかない。数回斬り込めば勝てる相手だ。命中すればの話だけどな。
相手の重い攻撃を弾きながらキリカを庇う。こいつ、執拗にキリカを狙ってくる。
これじゃあ相手の気を逸らし、ここから離れさせることもできなさそうだ。
「……っ。キリカに手出したきゃ、まず俺を倒してからにしろよ」
刹那、セフィロスのイミテーションが薄ら笑いを浮かべた。背筋に悪寒が走る。
剣が受けていた重みを感じなくなった。やばい。一度刀を引いたイミテーションは真っ直ぐに突き刺してきた。
左肩にその刀が深く喰い込む。苦痛が口から漏れた。両足を踏ん張り、倒れることは回避したけど、これ貫通しているな。
どくどくと痛みが肩に集中し始める。彼女の悲鳴が聞こえた。
ただやられるわけじゃない。この絶好のチャンスを俺は逃さなかった。
「捕まえたぜ」
左肩に突き刺さっている刀の刀身を右手で掴む。力を入れると手の平から血が伝って流れ出した。
相手の動きさえ止めてしまえば、確実に仕留められる。俺は刀を引き抜いてすぐに魔法を相手に叩き込み、追撃をする。
「……消えろっ!」
空中に放り出された体は反り返っていた。そのまま光となって散っていく。
地面に足をつけた俺はそのまま膝をついた。剣を支えになんとか意識を保っていた。
予想以上に出血量が多くて、目眩さえする。傷口から流れ出た血で衣服が赤く染まっていく。
「バッツ…バッツ!大丈夫、早く手当てしなきゃ…!」
そう喚く彼女を制した。このぐらいの傷、致命傷じゃない。
弾んだ息で俺がそう言えば、キリカの瞳が潤んだ気がした。
「バッツ、お願いだから。手当てさせて…じゃないと、貴方死んでしまう」
「……これよりも、こっちの方が重症、だけどな」
皮肉交じりに掌を自分の胸に当て、血を拭った。
ふっと気を抜くと体を支えていた剣が空間に消える。地面に倒れ込む覚悟をしていたけど、俺の身体はキリカの腕に受け止められた。
そのまま縋るように彼女の背に腕を回す。肩に顔をうずめて、胸に溜め込んでいた息を吐き出す。
「……キリカは俺が死んだら、悲しい?」
「ばかっ。何言ってるのそんなの当たり前じゃない!私の前から居なくならないで、お願い……もう、二度と」
ぎゅっと抱き返されると傷口が痛む代わりにすっと胸のわだかまりが溶けていった。
捨てようにも捨てられない、この気持ちは。
「キリカ」
掠めるように唇を重ねて、意識はそこで途切れた。
血を流しすぎた、な。
*
声が聞こえた。話し声だ。くぐもっているせいで話の内容はわからない。
額に温かい手が触れた気がする。髪を撫でる手つきが気持ちいい。
その手に触れたくて、手を伸ばした。
「良かった。気がついた」
瞼が重い。押し上げるように開けた視界の先に安堵の笑みを浮かべるキリカが居た。俺の頭は彼女の膝に乗っていた。
俺の手を握り返してやんわり微笑む。
「気分はどう、どこか痛む所ない?」
「……傷が、消えてる…?」
左肩と右掌を負傷したはずだ。痛みどころか傷口も見当たらなかった。
掌を呆然と見つめていると可愛らしい笑い声が聞こえた。
「不思議そうね。私が白魔法で治した、って言ったら驚く?」
「……へ?」
前に「私の世界には魔法は存在してない」と言っていたはず。
その世界に住んでいたキリカが白魔法で傷を癒した。一体どういうことなんだ。
「セシルたちに習ったのよ。素質があるって言われたわ。…私も、いつまでも足手まといでいたくないから。それに」
最近の貴方は傷を作ってばかりだったから、余計に心配で。
その目は哀の色に染まっていた。無謀な戦い方が気づかないうちに悲しませていたんだとこの時知った。
癒された右手を伸ばして頬に触れる。まるで触れた指先から癒されているような気さえした。
「なんだかこうやって話すの久しぶりね」
「そうだな」
「…ごめんなさい。バッツのこと思い出せなくて。怒ってる、でしょ」
「もう怒ってない。こっちこそごめん。避けるような真似して」
また逢えてよかった。
その言葉に俺達は笑い合った。